イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第17話『雲中に鬼が舞う』感想

人間の顔をした功名餓鬼を鋼の太刀筋で切り捨てる新説時代劇、今週は迷いと空と。
前回の利敵行為を受けて剣之介の立場が微妙になる中、アメリカからはGAUS部品輸送用の飛行機が、宇宙からは青い敵機がそれぞれ迫るのであった……というお話し。
キャラが置かれた状況はあまり変化しませんでしたが、その確認をしっかりやって、新武装と鬼のおじさんからの助言を貰って次回に続く、ッて感じでしたね。

前半は剣之介の微妙な立場の描写と、ミラーサの醜い小芝居、それを見抜く曲者ヨルバの描写メイン。
現状の確認と新キャラの顔見世が軸になっていて、話はあまり進みませんでしたが、雪姫関係の悩みは剣之介最大の成長ポイントなので、じっくりやって行くということでしょう。
ミラーサの浅ッい嘘を一瞬で見抜き、仲間を保護する人格者……と見せかけて、エフィドルグらしいクズ力を随所に滲ませるヨルバも、なかなか油断のならんやつだ。
『ムエッタ救助』という大義に則った行動を取るので『なんだ、良い奴じゃん』と思わせておいて、『死んだら可愛がってやるよ……』だもんな。

剣之介が司令室を出た後、パイロットスーツでGAUS隊がミーティングをするシーンは、現在のモヤッとした状況をまとめる場面でした。
キャラクターの抱えた問題が巧く視覚化された面白いシーンだったわけですが、的確に問題を言語化していくチームメンバーも、問い詰められて答えに困る剣之介も、問題解決の糸口をすでに掴んでいる辺りがクロムクロ的だなぁと思ったり。
『俺たちはチームだ』と言い切るボーデンさんにしても、利敵行為の裏にある忠義に共感するセバスチャンにしても、剣之介の心境を的確にまとめ上げたシェンミィさんにしても、今のモヤモヤをどう抜けたら良いのか、完全に策なしというわけではないのですよね。

剣之介も自分の忠義に縛られ尽くすわけではなく、ソフィの『敵か、味方か』という問いかけを前に迷う程度には、GAUS隊に情がある。
しかし剣之介はまだ完全に『平和な現代』に足場を置いているわけではなく、胸を張って『俺たちはチームだ』と言い切れるほど絆を作ってはいないわけです。
なので、問題を言語化するのは剣之介が出て行ってからになるし、GAUS隊の立ち位置は各々バラバラで視線も通じていないという表現になる。
解決の足場はあるけれども、そこに体を預ける状況ができていないことを確認するシーンでしたね。

『敵か、味方か』に悩みつつ、胸を張って答えが出せない剣之介はとにかく逃げる。
司令からも逃げるしGAUS隊からも逃げるんですが、そこには常に由希奈がいます。
同じ釜の飯を食い、お互い心の柔らかい部分に踏み込みあったバディである以上、どれだけ他人から逃げても由希奈からは逃げきれないという感じでしょうか。
こういう描写があるから、ヒロインレース大本命の安定感が揺るがないわけですが、そんな由希奈も剣之介の悩みに踏み込むには至っていません。

由希奈は剣之介の助けを借りて自分と向かい合い、より安定して前向きな姿勢が取れるようになったわけですが、タイムトラベラーにしてロボ侍である剣之介には、色んなモノがくっついています。
フィドルグ由来の超技術とか、鷲羽家壊滅の真相とか、"藪の中"状態の事実認識とか、様々なものが絡みあって『敵か、味方か』どちらにも踏み出せない自縄自縛が生まれているわけです。
そこから踏み出すためにはそれら全てを整理し、かつ同じ飯を食い雪姫に似た『身内』である由希奈だけではなく、縁もゆかりもないけれど命がけで一緒に戦ってきた『他人』と『チーム』になる、新しい関係性構築も必要なんだろうなぁ。
そこら辺の問題点を確認しつつ、『今はまだその時ではないけれども、問題を解決する材料はちゃんと揃っているよ』と視聴者に見せるのが、今週Aパートの物語的仕事だったのかなと思いました。


そして後半は決戦、黒部ダム上空。
今回はとにかく空中戦の描写が良くて、『空を走る』という圧倒的なアドバンテージの見せ方、それをひっくり返す新武装の気持ちよさが詰まった、素晴らしいバトルでした。
青い空と渦を巻く積乱雲の対比はなかなか見栄えがしたし、背中の人と合体した後の高速すれちがいバトルも新鮮でナイスでした。
ダメージ表現として、ブルーバードの紫の羽根が画面に飛び散るのが、なかなか綺麗で素敵よね。
ここの所剣之介が迷う時間が続いているので、新しい出会いが新しい力と武器を連れて来て、分かりやすく状況が打開されたのも、カタルシスがあって良かった。

バトル自体も良かったんですが、その前段階の米軍輸送機防衛戦の見せ方も、非常に良かった。
手負いの輸送機を研究所に突っ込ませようというヨルバの策略、一般兵なりに精一杯期待を制御する米空軍、そして重力制御という悪魔の力を使いこなして人を助けるクロムクロ
戦いの前に人命救助のシーンを挟むことで、『剣之介は本当はどういう奴なのか』という、ドラマシーンでは答えが出なかった問いかけにアクションで応えることに成功しており、こちらでもモヤモヤを気持ち良く晴らしてくれていました。
姫絡みの迷いはあっても、剣之介は徹底的に『守るために戦う』からこそ侍なのであり、人助けのために奮戦するクロムクロの姿は、彼自身が見失っているあるべき自分の投影としてしっかり機能していた。
とにもかくにも場面が動くアクションシーンの中で、キャラクター表現を忘れず活劇に意味を持たし続ける演出が、僕は好きです。

翼と合体してからのやり取りは、このアニメには珍しく正統派熱血ロボットアニメっぽい見せ場でした。
『新しい力を手に入れて、状況が変化する』ことの演出として、『十文字槍』という新たな武器を握りしめるところとかも、分かりやすさ重視の正攻法な感じ。
ひねくれているとは言いませんが、台詞よりも画面の中で状況を説明することが多いこのアニメでは珍しい方法論なので、『見知った方向性の演出なのに新鮮』という、不思議な感覚を覚えました。
クロムクロに新たな力が満ちるのが判る』『空をとぶという新たな感覚』あたりの台詞は、やっぱナノマシンで脊髄を改造し機械と直結して操作する、グロングル特有の操作系が由来なのかねぇ。

『義によって助太刀に来た』鬼のおじさんですが、剣之介の現状認識に疑問を呈して一時お別れになりました。
剣之介が『信頼できない語り手』であるという情報は結構前から出ていて、情報を整理すると衝突する部分が何個かあるわけですが、鬼のおじさんがその謎を解していく鍵になるんだろうね。
思い返せば、家出した由希奈を保護し、父親へのわだかまりを解すきっかけを作ったのも鬼のおじさんだったので、主役二人両方のメンターにあたるのか。
剣之介の迷いが晴れる突破口になるのか、今後が楽しみです。


そんなわけで、どうにも足場の持って行き場所がない現状と、そこに秘められている変化の可能性を洗い出す回でした。
いろいろモヤッとする回なんですが、このアニメらしい細やかな希望の見せ方と、新たな力を直球勝負で見せる爽快感がいい仕事をして、あまり貯めこまずに次回に繋げられたと思います。
空中戦がメインになるとGAUSとの共同戦線が貼れなくなるので、鬼のおじさんとの合体ロボはピンポイントでの投入になるのかねぇ。

どうにも気分がまとまらない時は『衣食住』の方向から攻めるのがこのアニメであり、来週は『住』の一環たる風呂話のようです。
肌色回のように見えて画面にメッセージを埋め込むのが上手いアニメなので、なかなか油断のならん展開が来る気がするね。
悩める剣之介の決断がどこに転がっていくのか、来週も楽しみです。