そして物語は終局に至って始まりに帰り、母なる暗黒から光の中へと生まれ出る。
フリップフラッパーズ、それぞれ最後の道を全力で走る第12話です。
ココナを胎内に縛り付けようとするミミと対峙し、これまで歩んできた『冒険』を振り返るように戦うパピカとヤヤカ。
彼女らを軸に、双子やフリップフラップの面々も、各々の決断を世界に刻み込む最終話一個前でした。
少女たちを安らかなる闇に縛り付けるのも母の願いなら、そこから無限の可能性に解き放っていくのも母という、つくづくフロイディアンの物語ですね。
というわけで、アクション多めで展開する今回のお話。
これまで辿ってきた『冒険』の旅路の意味を確認する意味でも、ちょっと懐かしい感覚を楽しむ上でも、ボスラッシュはなかなか面白い試練だと思います。
過去の『幻想』が再演されるのは、ピュアイリュージョンを支配しているミミは実は白詰草の世界以外のオリジナリティを持たず、他者の『幻想』を再利用しているだけだという確認にもなっているかな。
アスクレピオスに囚われ、パピカナとソルト以外に人生の潤いを持ち得なかったミミにとって、世知辛い『現実』を乗り越える『幻想』の足場はやっぱり、白詰草と湖だけなのですね。
今回のお話はピュアイリュージョンの支配者であり、へその緒を食いちぎって自立しようとするミミとの対決が主となっています。
ちょうどタイミングよく過去のキャラクターが出てきてくれることで、このお話が母や出産、女性器や産道のメタファーに満ち溢れてきたことは、容易に確認できます。
常に暗く狭いトンネルを抜けて、『幻想』に飛び出していく少女。
ウェルウィッチアの縦に避けた口に生えた牙は、もろにヴァギナ・デンタタであり、ココナを口の中に入れて離さない鬼子母神のアギトそのものです。
そういう物語が母との対決をクライマックスに持ってくるのは、まぁ必然というか自己実現型予言というか、撒き散らしてきたものを結晶化させた決戦といえるでしょう。
ミミは母なるものが持つ凶暴さや邪悪さを極端にドライブさせた存在なわけですが、そこに一縷の優しさがあることは否定できません。
親のいない子供として孤独に育ち、ヤヤカの嘘や、自分ではない誰かを求めるパピカに傷つけられたココナにとって、その優しさは甘い毒であり、安らかなゆりかごでもあった。
かつてパピカが捉えられていたらしい、植物の優しい牢獄に捕らえられているイメージは、娘をけして傷つけない柔らかな子宮そのものです。
危険なおもちゃを取り上げるように変身を解除したミミにとって、ピュアイリュージョンとは変化も危険もない安全な『幻想』であり、変化と可能性(それによって人は傷つくし、ココナは裏切りの痛みに切り刻まれた)に満ちた『現実』とは接点を持ちえない、閉鎖された胎盤なのでしょう。
しかし、子供は永遠に母の子宮でまどろんではいられない。
それは生まれ得ない子供の可能性を略奪するだけではなく、母体も危険に晒す危険な自家中毒だからです。
世界の摂理を体現するように、母のもう一つの側面を背負って、幻影のミミがココナに、そしてパピカに勇気を与える。
それはミミが新しく持ってきたものではなく、二人が心の奥底に抱いていた輝く願いを、母が思い出させてくれるという、優しい物語です。
産道を通ってたどり着いたピュアイリュージョンは、都合の良い『幻想』の装いを持ちつつも、血が流れ変化と恐れを加速させる、もう一つの『現実』でもあった。
象徴的出産を何度も繰り返してきた少女たちは、母の言葉に勇気づけられ、傷だらけの思春期をくぐり抜けてもう一度叫ぶ。
『フリップフラッピング!』と。
それは産声であり、『我此処に在り』という吠え声、存在宣言なのでしょう。
その時、二人の髪の色は相手の存在を反映して入り交じる色合いではなく、私が私として立ちうる生来の赤と青、そのものです。
そういう感じで、パピカとココナとミミは再び出会い、再び親子の神話を演じ直す。
かつて答えが出なかった『どっちを選ぶのか?』という選択を突きつけ、皆がそれに答え直す。
そう言いたい所なんですが、実は正解は完璧には選ばれきっていません。
世界の真実を体現する勇者として、パピカは『ココナと優しいミミ』だけではなく、『娘達を支配しようと荒ぶる、もう一人のミミ』も取り戻さなければいけない。
女の子たちは勇気を持って答えを選択し直すけども、グラサンかけて大人になったつもりのソルトは、未だ恋人と父親どちらを選ぶか答えを出せていない。
そして未だ何も選ばざるココナは、己の拳を以て選択の正しさを証明しなければいけない。
こういう状況でもう一話話数が残っているのは、なかなかありがたいことだと思います。
というか、じっくりと選択と戸惑いの物語を歩いていくために、こういう話数の使い方をした、という方が正しいか。
狂ってしまったように思えるソルトの父やもう一人のミミを、『どれも人間の一つの側面』なのだと指摘するミミの言葉に、僕は猛烈な説得力を感じています。
人間の深層心理を具体化し、そこに分け入って様々な魅力と向かい合ってきたこのアニメの『冒険』を否定しないためにも、やはりもう一人のミミもまた、その凶暴性だけではなく優しさを認め、報いてあげるべきキャラクターのように思えます。
2つに分裂してしまったとはいえ、子宮から生まれいづる娘を寿ぐミミだけではなく、暖かい寝床の中で娘を守ってあげようとするミミもまた、真実の『一つの側面』であり、これから決意を持って前に進んでいく少女たちには、その矛盾する合一を受け入れる度量の広さが必要なのではないか。
そのことが、『扉』を開けて現実を改変することで変質してしまった、いろは先輩への答えにもなる気がするのです。
残り一話でどこまで走りきれるかは難しいところですが、ここまで野心的な描写を積み上げてきたこのアニメが、最適解をさらに超えた見事な結論にたどり着いてほしいなぁと、願わずにはいられません。
皆が完璧な回答の周辺に接近し離脱する中で、ヤヤカは相変わらず真っ先に正解にたどり着いてしまう子であり、黄色と青が入り交じった緑に髪を染め、己の愛を高らかに吠えていました。
危なくて、嘘だらけで、柔肌を傷つける子宮の外の世界であればこそ、ミミとパピカとソルトに因縁を持たない『ぽっと出のぽっと野郎』であるヤヤカは、ココナと出会えた。
永遠に停滞した『幻想』ではなく、プラスにもマイナスにも揺れ動く『現実』を生きているからこそ、ヤヤカは過去の嘘を謝罪し、ココナとの関係をやり直すことが出来るでしょう。
ウィルウィッチアを復活返信補正でボッコボコにしたあとは、あんまりにも美味しいところがないヤヤカですが、彼女が果たした恩義を忘れたままのココナでも、この作品でもないと僕は信じています。
最終回の逆転ホームランが今から楽しみです。
つうか、報いんかったら心底から恨むぞ。
ヤヤカの真っ直ぐな生き様は意外なところで芽を出していて、双子もまた決断と変化を果たしていました。
ウィルウィチアにヤヤカが『うるせぇ』と反攻した後で、これまで双子を抑圧し支配してきたアスクレピオスに『うるせぇ……ヤヤカならそういう』と反逆する展開は、憎まれ口と暴力を突きつけつつも、居場所を同じくしてきた双子にヤヤカが強く影響を及ぼしてきたと、しっかり示してくれました。
道具として戦い続けるよりも、兄の治療を優先したあたりユユも蛇のへその緒を切り離しかけていたわけですが、『父』の強制力をはねのけたことでそれがより明瞭になった感じです。
ここら辺の『他人のケアーをする強さ』を重要視しているのは、さんざん反目していたパピカとヤヤカがついに『食料を分け合う』描写が、目ざとく入っているあたりからも感じ取れますね。
フリップフラップの楽しい面々も、それぞれの形で最終決戦に突入していました。
ブーちゃん最終形態に関しては『なんで"キン肉マンGO FIGHT!"やねん……あと"ポパイ・ザ・セーラーマン"……』と思わず突っ込んだけれども、敵を倒すのではなく道を開く類の活躍なのが、彼らしいなぁと思ったり。
自分の物語を軽く匂わせつつも、あくまで勇者たちが正解にたどり着く道を整備する役に徹してるヒダカは、見事な介添人ですね。
サユリさんの淡い恋心を背負えないソルトは、娘達に比べ圧倒的に情けない思春期ボーイのままですが、彼もまた正しい決断を経て、思春期に適切なサヨナラを言うことが出来るのか。
牢獄から解き放たれワリと勝ちムードの女の子たちに比べて、実はソルトのほうが逆転ホームランが必要な塩梅で、目が離せません。
まぁミミがかなりの理解を示してくれて、『どっちを選ぶのか?』という青春の問いに答えられなかった過去を許してくれているので、十分勝ち目はあると思うけども。
前回ミミと出会った時抱きしめるのではなく拳銃突きつけたあたり、とにかくソルトくんは『金の斧? 銀の斧?』式の『提示された答えではなく、自分の真実を選ぶ』決断を間違えるボーイだなぁ……女の子主役の話なんで、男の子の立場は弱いね、つくづく。
そんなわけで、皆が皆の勇気のカタチを示すラスト一個前でした。
母なる暗黒、その中に宿った脱出の光、答えの存在しない問いと変化、決断。
物語を貫通してきたテーマが小気味良いアクションとともにどっと押し寄せてきて、見ごたえのある展開でした。
メインキャラクターだけではなく、脇役たちの人生もしっかり描写し、己の人生を選択する瞬間をしっかり見せてくれるのも良かったです。
圧倒的なイマジネーションと、痛みを込めた成長と、混ざり合う『現実』と『幻想』
ドスゲェもので毎週楽しませてくれたこのアニメも、来週ついに最終回です。
間違いなく、素晴らしいものになるでしょう。
そのことを、ずっとこのアニメの『冒険』に振り回されながら楽しんできた僕は、確信しつつ期待しているのです。
とても楽しみです。