バンドリを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
かくして、雨あがる!
歌を失った戸山香澄がいかにして傷を癒やし、己を取り戻していくかを丁寧に、コンパクトに追いかけ、きっちり場外まで運ぶホームラン級のエピソードでした。
周囲の人達の助けと香澄個人の奮起、両方に意味があって、強くて優しい話だった。
というわけで下がったところから復調していく今回、空模様は曇り時々雨、後晴れである。天候と心理がシンクロする印象主義演出は全力全開。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
前半はバンドから離れた部分の復調、後半はバンド内部での復活に切り分けて、戸山香澄の多面性を追いかけつつ、失われた歌が戻ってくるまでを描くお話。
一番身近にいてくれる妹、バンドを始める切っ掛けになった緑色の星、自分が引っ張り込んでバンドになった仲間。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
香澄にはいろんな距離感の仲間がいて、その意味はそれぞれ違う。場面と相手を取り替えながら、心の傷を開放していく今回の展開は、戸山香澄の複雑さを追いかけてもいる。
それはあくまで一人の女子高生というスケールからはみ出すことのない、ありふれた、だからこそ大事な旅路だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
足音高らかに、先頭に立って突っ走ってきた元気っ子が、気づけば足音を立てなくなってる。自分を見失っている。そういうことは時間と性別、創作と現実に関係なく、誰にでも起こる。
そこから抜け出すためには自分を見つけるしかないが、それは自分ひとりでは掴み取ることの出来ない細い糸だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
香澄は己を構成する様々な社会性を辿りながら、声が小さければ近寄ってくれる優しい人々の手を借りて、一歩ずつ己を修復していく。外界へ自己を投射することで成立する、傷だらけのプリズム
児童でもある女子高校生として、香澄にとって『家』は特別なシェルターだ。彼女の治癒はここから起こる。病院に連れて行ってくれて、ご飯も用意してくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
あっちゃんが目立つが、母親含めた『家』それ自体が、ありふれた傷を癒やすありふれた止まり木となる。その凡庸で圧倒的な尊さ。
ごくごく普通の仲良し姉妹らしく、時折反発して、しっかり自分を理解してくれている妹。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
共有した時間の分厚さからして、あっちゃんが一番最初に仕事をするのは当然といえる。火の消えたような姉の『らしくなさ』に戸惑いつつも、それでも香澄は香澄だと最初に気づいてくれる近しい人。
縁側という『家』と『外』との接点で交わされる会話は、夜中のはずなのに明るい。それは香澄が受け取った癒やしの強さ、引き寄せるべき未来の色だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
自分を見失っている今の自分を至近距離で受け止めてもらった結果、香澄は声が出るようになる。しかしそれはあくまで『家』の中のことである。
香澄は『家』だけで生きている完全な被保護者ではなく、思い立ったら即『外』に踏み出せる自由を持った、社会的存在でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
『家』と『外』は繋がっていて、同時に別のものでもある。『家』の中での治癒は絶対に必要なものだったが、バンドという『外部』で傷ついた喉は『外部』でも治されるべきだ
それは香澄が持っている誇るべき多様性に目を向けた展開で、凄く好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
等身大の女子高生ですら(だからこそ)、家や学校、ライブハウスという様々なステージに己を晒していて、それぞれに対応した多様な自己を持っている。そしてそれは個別の声を持ちつつ、連続性を持った戸山香澄にほかならない。
そういう切断と連続こそが、人間の不可思議な面白さの足場になる。いろいろあって、それぞれ大事で、だから面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
今週戸山香澄が辿る遍歴は、彼女自身の多様性を映すと同時に、『外』に開けていく青春期のあり方、そこから開けていく未来をも、幅広く祝福しているように思えた。
そういう意味で、『家』でも『バンド』でもない牛込ゆりとの対話が、復調の端緒になるのはとても面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
ロックンロールのこと、グリッターグリーンのボーカル・牛込ゆりなど何も知らなかったからこそ、香澄は真新しいものと出会い、星の鼓動を聞いて胸を躍らせた。遠いからこそ光る星がある。
『家』というシェルターに守られたあっちゃんとの近い間合いと同時に、バンドの仲間でもなく、しかし大事な『外部』であるゆりと話すことで快復の歯車が動き出す遠い距離を大事にしたのは、香澄が複数の社会性・関係性で構築されるホログラムであることを強調していて、とても良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
遠近両方から言葉を貰い、『バンド』から離れた戸山香澄の復調はなった。これを表現するのに、『ほっぺたへのキッス』を使うのは凄くチャーミングだったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
しかし『バンド』は『バンド』であり、切り離されているからこそ特別なものでもある。ポピパが新曲を歌うためには、別の禊が必要になる。
雨上がりの空は晴れていて、これから起こることが上手く行くと暗示している。背景は鉄棒も坂も右肩上がりに配置され、復活へのラインをひっそり描いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
そういうものに見守られつつ、香澄とポピパが己に向き合い、自分を取り戻す対話が始まる。
ここで有咲のキャラ性である『毒舌』が別の意味を持ってくるのは、すごく良いと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
泣き出した香澄の傷に、すぐさま寄り添ってくれる優しい沙綾&りみに対して、有咲はあくまで距離を保つ。『外部』であることを維持して、香澄が見えない香澄の良さを、じっくり観察し、飾らない言葉で伝えてくる。
それは有咲が優しくない、ということではない。優しくない女は、いなくなったボーカルを信じ、帰る場所を守るために代わりに先頭に立ったりはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
ただ、有咲はそういうやつで、それは香澄が自分を見つけ、声を取り戻す際に凄く有用だった、ということだ。
香澄の周辺視野の弱さが突進力となり、物語をここまで牽引してきたのはポピパメンバーが振り返ったとおりだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
それと同じように、キャンキャンうるさくて、ちょっと他人と距離を取る有咲の性質も、特別な意味を持って『外部』と接触し、何かを生み出せる。そういう奴らが集まってバンドになる。
楽器も違うし、個性も違うし、出来事に向かい合う立ち位置も違う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
だからこそバンドはバンドであり、自分が自分を見失ってしまった時は、『外部』から自分を見つけてくれもする。
違うということは悲しいことでもあるけど、可能性と救済でもあると、今回のエピソードは背伸びせず語って来た。
香澄のパンクスっぷりにかき回されて、このお話は進んできた。色々波もあったし、風もあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
それは高校生バンドに吹く小さな風で、しかしだからといって、嘘ではなかった。身勝手な歩き方に気づいた香澄が座礁し、色んな人の手で補修され、エンジンが掛かり直した流れは、コンパクトで誠実だ。
アイドル/音楽をアニメーションにする時、ドラマの強いうねりを生み出してくれる勝負論。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
それは全国大会であったり、仕事の成否であったり、社会的抑圧との戦いするのだが、バンドリアニメはあえてそれを外した。戦う必要、かつ必要がないゆるいセッティングを、ポピパに与えた。
そのことで失われたモノも沢山有るのだろうが、手に入られたオリジナリティは確かにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
そう確信できる、バカで不器用でありふれた、ただの高校一年生が突っ走って、壁にぶち当たって、励まされて、歌えるようになるまでのお話だった。その小ささが、僕は好きだし素晴らしいと思う。
魔法のない世界のスケール感、選び取ったテーマ、映像としての時間の使い方が巧く噛み合って、しみじみと実感を産んでくれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
香澄がこれまで与えてきたものがしっかり帰ることも含めて、非常にバンドリアニメらしい山場だったと思います。最高のタイトル詐欺でラストを〆るのも、小粋でいい。
かくして、雨は上がった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
迷い傷つくことで己を知り、足らないものを補い、これまで無意識に踏んでいた『外部』への視野を手に入れた香澄は、いい演奏をするだろう。
物語のメインエンジンが止まったことで、香澄がやっていた仕事を肩代わりしたポピパは、本当にバンドになるだろう。
残り一話か二話、どういう物語が展開されるかは判らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年4月8日
でも、いい話になるだろうなという確信がある。
自分ひとりだけが聞こえてきた星の鼓動は、香澄がブレーキをかけて立ち止まることで、バンドの仲間に共有された。それが形になるお話は、多分絶対に面白い。来週が楽しみだ。