イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスター SideM:第7話『青春のリミット』感想

訳あって集まったアイドルたちの物語、今回は『訳』も『アイドル』も関係ェねぇ! 今青春のど真ん中な五人組、High×Jokerの個別回・前編。
青い輝きを求めてバンドに集った仲間たちのキラキラした仲良し加減と、その中で鈍く陰る距離感、混じり合って一つにはなりきれない違和感を、焦らず描く回となりました。
『男子高校生』の部分はこれ以上ないほど、ハッピーハードコアな幸福感を宿して押し込んでくる回でしたが、『アイドル』特有の悩みや光に触れていない今回は、露骨に出題編。
必ずやってくるだろう解答編への伏線として、主に四季と旬が作っている壁の高さをそれとなく捕まえてきたことが、ただ永遠(No Limit)に輝くのではない、期限(Limit)付きの未来を上手に照らしてきました。


他のユニットに比べ人数が多いHigh×Jokerは、ここまでの物語で細かく分散して描写を積んできました。
第4話のBeitの助っ人、あるいは第5話のランニングシーンとかで見えていた輪郭に、中身を付けていくのが今回の物語といえます。
ここまでの描写で僕が見たHigh×Jokerは、眼鏡の浮かれポンチ・四季が元気に騒いで他を引っ張り、高めの壁を作ったクールガイ・旬が最後についてくる、という感じ。
彼らの青春夏期講習に密着する今回を見てみると、その印象は間違っていないのですが、残りの三人にも個性があり、目立っていた二人にも当然、細やかな陰影がありました。

今回の物語は大きな問題も起きず、アニマス第1話やデレアニ第4話のようにハンディカムを携え、ありのままのHigh×Jokerを切り取っていきます。
このアニメは『アイドルマスターSideMのアニメ』であり、つまりは『アイドルのアニメ』である以上、キャラクターの問題を決定的に掘り下げ、解決させる場所はあくまで『ステージ』であって『学校』ではない、ということなのでしょう。
しかし、他のユニットのように『前歴』ではなく『現役』として学生をやってる彼らにとって、現実感の足場は『学校』にある。
それは、カラオケの機材越しに『アイドルである自分たち』を実感する距離の遠さからも、見て取ることが出来ます。

そんな彼らと向かい合う今回は、焦って事態を先にすすめるのではなく、彼らが今どのような関係にあって、どんな問題が埋まっているかをじっくり描写するエピソードとなりました。
基本仲良しで可愛く、アホバカ男子のキャピキャピ感全開。
青春の輝きと瑞々しさを全開で描きつつも、バンドの中にある亀裂や気後れも丁寧に切り取って、その陰りが逆に思春期のエネルギーを照らすという、良い陰影が生まれていました。

High×Jokerの五角形は、実は1+(2+2)=5という形になっています。
頑なに自分を守って心をなかなか開かない旬を、幼馴染の夏来がふんわりと支え、バカつながりで感動屋の隼人くんとダブりの春名が繋がり、春夏秋冬を名前に刻んだ彼らに時に過剰に近づき、時に一線を引いて見続けている四季がいる。
近すぎる距離感でガンガン前に突っ込んでくる四季は、一見バンドを引っ張っているように見えて、部室でもカラオケでも一人奥まった場所に座り、電車でも旬の家でも腰を落として寛いではいません。
一番無茶苦茶しそうな距離感を散々見せておいて、『夜のプールに忍び込む』という『特別』に戦かず飛び込んでいくのは、仲間が飛び込んだ後になります。
四人が一緒に受けている夏期講習を、『ドアの向こう』から『携帯電話のカメラ』越し、二重の距離を開けて見ている四季の孤独感は、真夏の青春を切り取る今回のエピソードに、長く影を伸ばしています。


冒頭、スリーピースだった旧High×Jokerの新入生歓迎ライブから、物語は始まります。
S.E.Mのステージにも涙を流していた隼人は感動屋さんで、下手に構えたところがない。
自分が感じた『青春したい』という思いをそのまま言葉にするけど、当然冷めた新入生たちは乗っかってこない。
この『熱くなるのは恥ずかしい』という皮膚感覚も、S.E.M回で見事に切り取られたものです。
常識や成長に邪魔されず、幼くすらある憧れや感動を素直に言葉にして、自分を前に進めていくってのは、目立たないけど立派な才能なんでしょうね。
隼人くんは多分、その力でみんなを繋ぎ止めて、バンドリーダーをやっている。

High×Jokerがアイドルになる前、五人が集まって『特別な存在』になる前から、彼らの音楽は観客の心を動かす輝きに満ちていました。
『青春』に憧れつつ、自分ではどう輝けば良いのか判らなかった四季は演奏に惹きつけられ、入部希望を出す。
ダブリ回避という生臭い目的を持ちつつ、『何か』を予感した春名もそこに加わる。
ここまでのエピソードではJupiterのライブが担当することが多かった、『特別な輝きへの誘蛾灯』を、軽音部の演奏は果たしているわけです。

五人になった後のバンド選手権が、プロデューサーがHigh×Jokerの可能性を見出す切っ掛けになっているのは、ファーストシーンの発展形としてなかなか面白いところです。
隼人、旬、夏来の二年生三人だけでも『何か』を感じさせていたけども、一年四季とダブリ春名を加え、五人になるとより光が強くなる。
バンドのパートが増え、音が分厚くなる過程と、人間集団としての引力が強くなる過程がシンクロしているのは『バンド』というユニットの特色を活かしていて、面白いですね。


High×Jokerが始まった瞬間を切り取って、現在進行系の青春が始まるわけですが、その殆どは四季がカメラマンとなり、High×Jokerを客観していく形で進みます。
先輩たちへの憧れで加入したHigh×Jokerですが、四季はその一員としての自分を信じきれず、『何にもないっす』と呟く。
旬のピアノ、隼人の作詞、あるいは春名のバイト。
みんなの『特別』を追いかける密着ドキュメンタリーを撮りつつ、四季は被写体としての自分をどこか遠い目で見放しているように感じます。
四人が夏期講習にかけていった後、でっかい青い空と白い雲(まさに青春ど真ん中の光景)に入り込めず、置いてけぼりにされる姿が、非常に印象的です。

四季はカメラという『客観』を構えているのに、過剰に被写体に近づき、ピントを間違えるシーンが多いです。
ツンツンしている旬が『近い!』と文句を言いまくるのが印象的ですが、他にも初対面入部希望でいきなり飴ちゃんしゃぶらせようとして隼人に引かれたり、学業ではなく仕事の現場に赴く春名についていこうとしたり、とにかく間合いがわからない感じです。
隼人の家に泊まりに行こうとしたり、連絡無しで家に押しかけたり、時間が推してるのに四季にピアノを弾かせようとしたり、そもそも走る必要が無いのに遅刻ダッシュしたりってのも、彼の空回り描写でしょう。
ここら辺『カラオケばっか行ってた』という中学時代が影響してそうですが、自分を過剰に後ろにおいて飛び込まない/飛び込めない遠景と、それでもようやく見つけた憧れに引き寄せられてぶつかる近景とが、バランスを見失っている感じです。
ただ、四季の危うい前のめり感はHigh×Jokerを先にすすめるエンジンの仕事もしっかり果たしていて、彼がいるからHigh×Jokerの青春が勢いを持っていることも、今回のカメラはちゃんと切り取る。
自分では特別な『何か』を掴むことも思いつくことも出来ないけど、だからこそ輝きに憧れを持って進もうと藻掻く四季の『特別さ』、それをメンバーがありがたく思っている空気は、今回巧く描けていたと思います。
彼自身がその事実に目を向け、自分を肯定できると良いのですが、それが完全になされるのは『学校』で展開する今回ではなく、『アイドル』を追う次のチャンスになりそうですね。
ここら辺の不安と可能性の『現在』を偽りなく切り取りつつ、『未来』につなげて物語の奥行きを出すのは、なかなかどっしりした運びだと思います。

四季のバランス喪失は大きな衝突にはならず、『四季はああいうキャラだから』くらいのムードで受け入れられているわけですが、『学校』というモラトリアムの中では見逃せても、『アイドル』という仕事の現場ではどうなるのか。
そういう危うさを決定的に表面化させないために、今回『アイドル』の現場は意識して省略されたのではないかと思えるくらい、四季の自己肯定感のなさ、それと裏腹に高まるHigh×Joker(四季除く)への憧れは、今回の明るく楽しい話の奥で、薄暗く蠢いていました。
僕はこういう、底抜けに明るい永遠を肯定しつつも、絶対に付きまとってしまう有限の陰りを添えてくる青春の描き方が大好きなので、凄く良いと思います。


もう一つ、青春の不安要素として描かれているのが旬で、過去へのわだかまりが強くあり、それを解消しきれていない印象を受けました。
夏来以外には敬語を使っていたり、他のメンバーが受け入れている四季の距離感を跳ね除けたり。
四季の一人相撲と同時に、旬の打ち解けなさもHigh×Jokerが真実『バンド(≒アイドル)』となるために、乗り越えるべき試練なのかな、って感じですね。
部室での打ち上げのシーンでも、一人だけドーナツを手元に取り、一人だけ背の低い飲み物を選んでいる彼は、頑なな異物なのでしょう。

『だから近い!』と四季にキレる、コメディっぽい形で中断されていましたが、彼は『かつて得意だった』ピアノを弾ききって、過去と和解するところまでは行かない。
一番近い位置にいる夏来ですら『久しぶりに聞いた』というピアノと、High×Jokerの一員として弾いているキーボードの間には、何らかの溝がある、ということなのでしょう。
自室での椅子の配置が、文字通り斜に構えて仲間と向き合っていないのは、とても象徴的ですね。
なおこのシーンでも、四季はやっぱり立ちっぱなしでカメラを構え、『青春の主体』として場に馴染むよりも、『遠くから憧れる異物』として立ち尽くすことを選んでいますね。

隼人がはじめたバンドに、旬と夏来は最初からいました。
何故ピアノを諦め、バンドをやっているか……事務所の大人たちがこれまで描写した『ワケアリの過去』は今回踏み込まれず、かといって完全に克服されるわけでもなく、危うい宙ぶらりんを多幸感でコーティングして進んでいきます。
『バンド』にも『アイドル』にも馴染みきっていない旬が、本当に自分の居場所として『キーボード』を選び取ることが、High×Jokerの今後には大事になるかな。


ハイテンションとローテンション、対照的なHigh×Jokerの問題児に対し、残り三人は穏やかで優しい良い子として描かれています。
特に隼人は真っ直ぐ夢に向かい、恐れなく踏み込んでいくバランスの良さ、始動因かつ引力源として、目立たないながらも存在感がありました。
冒頭、英語の先生が言葉にする『もし貴方に出会わなかったら、私はここにいないだろう』というさりげないテーマを成り立たせているのは、リーダーの密やかな熱量がメンバーに感染し、バンドを組ませ、あるいはプロデューサーに見初められたから。
そういう静かな炎が、燃え盛る青春の太陽になるのは、多分High×Jokerに走った亀裂が表面化するエピソードで、なんだろうなぁ。

夏来はとにかく旬の後ろをついて回る、大型犬みたいな穏やかさと可愛げが目立ってました。
熱いのダメなところも、なんか大型犬っぽい。
自主性が薄い子なのかなぁと思いきや、四季がカメラに捉えられていない(過剰な『客観』に支配されている)ことに一番に気付いたり、夜のプールにイノイチで飛び込んだり、存外鋭い対人センスと勇気を持っていることが示されています。
過去に縛られている感じの旬の手を引いて、バンドメンバーとの接触点を担当してあげている感じもあって、只の旬のおヒキ、というわけではなさそうです。

そして、ダブリインパクト春名。
基本ノリ良く、年齢差を感じさせないフランクさでHigh×Jokerに混ざっている彼ですが、要所要所で兄貴っぽいところを見せてくれます。
バイトでのキリッとした姿を見るだに、『アイドル』という仕事から遠くのモラトリアムに守られつつ、『学生』ではない世界でも自分を保てる強さがあるのかな。
夜のプールに飛び込む『特別』に尻込みする旬を、強引に引き込んで『同じ場所』に連れて行ったのは、年上の面目躍如って感じですね……基本バカなんだけどなぁ。


こんな感じの個性が渦を巻くHigh×Jokerが、未だ一体で無いことは、例によって『食事』を追いかけることで見えてきます。
旬と夏来を除いた三人は、皆勤賞なドーナツを与え/与えられることで繋がるのだけども、五人での打ち上げシーンは実際にドーナツをみんなで食べるシーンを、描写から外します。
旬だけがドーナッツを取り上げて、しかし彼も口に入れるシーンはない。
ここら辺、四季の過剰な前のめりを飲み込めていない隼人が、飴を舐めるシーンが無いのと共鳴しますね。
翼言うところの『運命共同体として、みんなを一つにまとめていく儀式』としての共食は、『学校』のHigh×Jokerを描く今回、チャンスは与えられても達成されない。
おそらくそれは、『アイドル』としてのHigh×Jokerを描く時、ひとつになる心と一緒に果たされる儀礼なのでしょう。

とは言うものの、溌溂と青春を謳歌し、時におバカに、時にアツく、お互いの心に触れ合い求め合うHigh×Jokerの『今』は、とても良いものです。
四季がひっそり抱え込んでいる『カメラ』を根本から解決は出来なくても、ちゃんとそれに気づいて、皆が皆を『見る/見守る』事ができるユニット。
その柔らかな優しさこそがHigh×Jokerの根本であり、優しいからこそ亀裂に勘付いていても、あえて踏み込んで傷を深めようとは思わない。
そういう甘やかで危うい特別な時間こそが、High×Jokerの強みなんでしょう。

今回切り取られた美しい時間は、とても価値のあるものです。
しかし、そこに避けようがない揺らぎと淀みがあって、五人の関係は真実公平なものでも、完成されてもいないことが示されました。
四季にしろ旬にしろ、彼らが作っている壁はあくまで自分製のもので、それを崩し、乗り越える準備がメンバーには出来ているということも。
亀裂が裂け目に変わり、いつか必ず大きな変化がやってくるけど、それは必ずHigh×Jokerらしく乗り越えることが出来て、そうした時、より善いバンドになれる。
プールの中で少年たちが交わした『永遠の約束』は、そういう未来を照らしているように見えました。
あの時、四季が『携帯電話≒カメラ』という客観を放棄し、青春の主体として同じ水に飛び込んでいたのは、儚い幻影なんかじゃないと思います。


というわけで、High×Joker五人組の結束と永遠、個性と瞬間を徹底的に切り取るエピソードでした。
男の子集団が一生キャイキャイしている幸福な感じが、エピソードの隅から隅までしっかり描かれていて、とてもハッピーになれるお話でしたね。
ここら辺は、学校を現実以上にキラキラした聖域に見せる、演出力・美術力に支えられていると思います。
ディテールを積み上げることでリアリズムを出してきた、ここまでのお仕事話と通じるところですね。

『アイドル』の物語であえて『アイドル』を描かなかった(あるいは『客観』の対象として描いた)今回は、『アイドル』のど真ん中に飛び込んでいくエピソードを前提に存在しています。
一応ユニット全員のお披露目をして、次は夏合宿。
アニマス第5話、あるいはデレアニ第12話でも使われた『あの場所』で、男たちはどんな絆を作り上げるのか。
そしてその先、優しく危うい青春集団が『アイドルのど真ん中』に飛び込むエピソードが、どのタイミングで、どのように描かれるのか。
SideMアニメ、真ん中を折り返してますます楽しみですね。