やがて君になる を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
花は散って、若葉は芽吹く。
歌に綴られる恋の星を、自分のものと思えない高校一年生、小糸侑。少女はふとした偶然から、同じく恋に接近できない先輩、七海燈子に接近していく。
美しい世界で渦を巻く、美しい季節。そこで芽吹く感情は、残酷を孕んで瑞々しく踊る。
そんな感じの、青春ガールズラブ物語の王道、ついにアニメ化である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
TROIKAの釉薬をかけたような透明感ある色彩、木管が静かに作品を彩る大島ミチルの音楽。幻想と現実、過去と現在がシームレスに繋がっていく不可思議な演出。
作品を彩るクオリティの高さが、ナイーブでありふれた題材を際立たせる
お話の大筋だけ書き出すと、非常に素直かつ地味である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
アイデンティティが揺らいでいる少女たちが、触れ合い、惹かれ合い、傷つけあって、少しずつ羽毛を生え揃わせていく。
過去百億の物語が紡がれた、青春と成長のお話。魔法も怪物も出てこない、思春期というファンタジー。
そこに独自性を出していくのは、作品世界を切り取っていくカメラの解像度とアングルであり、揺れ動く感情をどれだけ細やかに描けるか、である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
話運び、演出の方向性、会話の距離感。アニメを構成する全てのものは、しっかりそこに注力されている。
幻想と現実が曖昧で、輝きに満ちた残酷な季節。
そこで震えるガラス細工のような感情が、どんな形で変形し、他者と噛み合うか。あるいはすれ違うか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
独特のテンポを持った映像の語り口は、侑と燈子の震えを丁寧に追いつつ、二人の間に生まれる火花、それを受け止める美しい世界を、慎重に切開していく。
映像演出としてみると、境界線を意図的に曖昧にしているのが目立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
例えば時間軸。例えば回想と現実。例えば心理と具象。線引をハッキリさせることで成立している世界は、侑たちが身を置く思春期の曖昧さを追いかけるように、境界線をスイスイと乗り越えながら描かれていく。
例えば、親友と話していて疎外感を感じるシーンは、前触れなく息苦しい水中に沈む。心象は具象と区別されることなく、シームレスに繋がって、即座に乾く。それくらい、侑はこころが大事な世界で生きている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
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例えば回想シーン。現在を描く筆からスーッと窓枠を共有して、夕日のオレンジから味気ない灰色へと、現在から過去へとスマートに繋がっていく。(ここら辺、動画特有の気持ちよさ、浮遊感があるので、テキストベースでまとめるの難しい)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
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自分の外側にある恋の歌を、そこに込められたキラキラを、自分のものに出来ると夢見て踊っていた心は、しかし男の子が眼の前に来て、それが現実となった瞬間に覚めていく。花は散り、若葉の季節になっても、侑の感情は居場所を見つけられない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
そこら辺の変化もまた、境界線を明瞭に区切ることなく、動きの中で描写される。一歩も動けない足のクローズアップが、花吹雪から素足の心象の暗闇、現実の上履きへと、清潔なフェティシズムを込めて揺れ動く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
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百合ジャンルのコードを的確に守って描かれた、青春の九相図のような美しい脚。恋に踏み出せると思っていた高鳴りが胸を傷つけて、誰かを好きになるという特権(サブタイトルを借りれば”星”)を掴めない当惑と惨めさが、侑を地面に釘付けにする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
そこで、その不自由さに女は星を見つける。
侑が冒頭、若葉越しに燈子を見つけたように。燈子もまた『私が好きになれて、私を好きにならない』女の子を見つけたことで、星を瞳の中に輝かせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
完璧で、落ち着いて、感情を処理しきれる、頼れる先輩。その瞳が、この瞬間初めて踊る。
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逆に言えばこの瞬間まで、冒頭木の葉越しに出会ってしまった侑の特別さほどには、当娘は侑を見ていなかった、ということでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
残酷に撫できりにされた告白男子のように、優しく丁重に距離を保ち、安全に処れる有象無象。そんな風に規定していた燈子は、己の欲望を反射する星に初めて目を向ける。
侑の邪魔をする若葉のように、二人の間にはズレが有る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
年齢のズレ、人格のズレ、存在のズレ。それがあればこそ人は恋に落ちるし、それが埋まらないからこそ痛みと寂しさを覚える。
そういう残酷でありふれた恋の実感とも、冒頭出会う。
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灰色のありふれた校舎に比べ、燈子がホームとする生徒会室は緑に溢れ、別天地のように美しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
そこは特別な時間、特別な感情が渦を巻く別天地であり…同時に灰色のありふれた青春と地続きでもある。そういうものと、侑は出会うのだ。
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格別に美しい緑と木漏れ日のなかで、侑はわかばの障壁を飛び越えて、ドキドキしながら(オトコノコから書物のような恋を渡されても、実感がなかった感覚!)燈子を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
しかし二人の間には、巨大で太い障壁がある。運命的な出会いの中に、融和と隔意がみっしりと予言されている。
ありふれた青春の物語を踊らせる舞台は、あくまで静かに、派手なイベントなく進んでいく。しかしそこは劇的に美しく、異界のように鮮明だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
その特別さが、侑が身を置く時代の特別さを支えているようで、見ていて豊かな気分になった。きれいなアニメを見てっと、やっぱいい気分になるぜぇ~。
侑は校舎から離れた生徒会室へと足繁く通い、中学時代の延長線上から高校時代へと踏み出していく。部活に入り、アイデンティティを手に入れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
灰色の世界の決められたレールから、静かに道を踏み外していく。
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携帯電話越しに顔すら見せない、ゴーストのような”男”。一ヶ月保留した答えを突きつける時、生身の身体を握りしめているのは”女”である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
侑が接続を切ったのは、ヘテロセクシュアルという自己定義なのか。”禁断の恋”へと、燈子を相手に踏み込んでいくのか。
原作を読んで先を知っている身としては、そういうわかり易すぎ古臭すぎる切断面を、この作品は拒絶する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
自分がどんな性自認を持つか。アセクシュアルやノンセクシュアル含めて、性的アイデンティティがいかなるものか、曖昧なスペクトラムの中を、今後侑は泳いでいくことになる。
それは明瞭に線を引かれた”恋愛”というパッケージとも、また異なり曖昧で複雑な色彩を宿している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
人が人を好きになるということは、どういうことなのか。けして理解できず、また理解もされない人間の断絶を埋めたいと、それでも願うもどかしさと、人はどう立ち会うのか。
そんな根源的なうねりの中で、(悲しいかな)現状そこまで理解を得ているとは言い難い同性愛の孤独も、一つの要素として大事に描かれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
だから侑は物語の冒頭に、ある種の”踏み絵”として男を捨てたわけではない。あくまで一つの感情、一つの関係のうねりの中で、一人の少年との通話を切ったのだ。
となれば、切断されたあとに残る繋がりが、無条件で唯一絶対の”星”になるわけがない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
繋がっているからこそ孤独で、触れているからこそ冷たい。恋の歌には乗っていない、そんな矛盾すらも、侑は今後、燈子の手を取る中で学ぶことになる。
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通話が終わり、燈子が侑を特別な存在と見初めた(そこに捕食者のギラツキがちゃんとあるのが、スリリングでいい)後の、複雑怪奇な手の芝居。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
感情と関係がしっかり宿った接続面、結び付けられたアンバランスを的確に描いてくる筆は、今後の描写に期待を持たせてくれた。コレなら、書ききれる気がする
電話越しの決別を、手をつないだ特別な場所から見守る(窃視し、略奪する)ポジションを小狡く維持しながら、燈子は体温を上げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
その瞬間の光の変化は、現実よりも遥かに劇的で、圧倒的な色彩だ。ほんと一瞬で、情景の陰影が濃くなる。
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運命と出会う。物語が動き出す。それはなにか明瞭な敷居があるものではなく、野獣の襲撃のように唐突に、鳥が飛び立つように獰猛に、境界線を一瞬で書き換える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
そんな烈火の青春が、よく演出された第一話だなぁ、と思った。緩やかなようでいて、鮮烈に激しい。百合である。
ゆったりと焦ることなく、しかし激烈で鋭い流れに押し流されて、女と女は出会い、男は切断された。二人の瞳には星が宿り、掴めないと諦めていた恋は動き出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
それは待望の瞬間だが、まだ侑は、恋の歌に隠された残酷を知らない。
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そういうロマンチシズムが、詩情豊かなイマーゴの嵐の中で瑞々しく踊った、良い出だしでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
燈子が”ヤバい”感じを、静かに静かに積み上げて発火させるのが、今後の展開に繋がりそうで最高です。寿さんはほんと、湿度を貯め込んだ(一見)完璧人間(だが蓋を開けたら感情ブラックホール)が上手い。
転がりだした二人の恋は、青春の坂道を登り星に近づき、あるいは下って地獄を巡る。その二歩目が、会長選挙の介添人である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
侑はそんな日々の中で、学生として少女として、何を手に入れ、喪っていくのか。美術が良いんで、静かな学園生活の描写も分厚く感じられる。
瞳に星を宿し合う二人の、重たく湿った視線。それだけでなく、少女を取り巻く世界の広さと美しさが作品にあるのが、青春物語としていいな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
恋を掴もうが掴まなかろうが、世界は美しく、青春は驚きに満ちている。侑が生徒会活動の中で、色々変化していく様子も、僕はとても楽しみだ。
そしてその変化が、燈子との特別な関係にヒビを入れ、傷を増やし、かさぶたを作っても行くだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
あるいは、新しい社会性との出会いの中心にこそ、次期生徒会長・七海燈子が配置されてもいる。居場所を見つけられなかった侑が、ようやく見つけたい場所。世界への出口。
そういう恋とか、性的アイデンティティともまた違う(と同時に、密接に近い)領域への興味と欲望が、細やかに切り取られているところも、このアニメのいいところだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
侑は素敵な恋に出会うだけでなく、楽しい学園生活、充実した先輩後輩関係、学校という社会の中での自己実現を求めている。
綺麗で百合百合した恋に飛び込むだけの、特化型アンドロイドではなく、一少女として。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
子供から大人へと換毛して、身の丈と心が伸び始めた揺らぎの中で、おずおずと手を伸ばす思春期存在として。
侑を優しく、冷静に、残酷に見据えている視線が最初からあるところが、僕は好きなのだ。
そしてそんな侑の、ガラス細工のような心を包み込む最大の星は、やはり今回であった燈子であり、歌には書いていなかった形の恋なのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月9日
若葉は芽吹いた。時は動き出した。
転がりだした物語が、この静かで豊かな筆でどう描かれていくのか。来週もとても楽しみです。良いアニメ化だなぁ…。