やがて君になる を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
一つの物語が終わり、新しい幕が開く。出会いの季節が終わり、二人の関係も周囲を巻き込み、また変わっていく。
唐突に投げかけられた生徒会劇を巡る、小さな衝突。秘められた過去と、窓ごしのキス。観客席から恋を消費する少年の、冷たい瞳。
蝶々、蝶々、花から花へ。
そんな感じの、やが君第二章開始である。相変わらず水底の冷たさを宿して、侑の周辺を流れていく日常。清潔で、白けていて、渦を巻く常道は硝子の向こう側。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
しかし気づかぬうちに、少女の思いは己を動かし、客席から舞台へと立ち位置は変わっている。
境界線を超えて主体性を獲得する、無意識のうねり。そのど真ん中に侑がいること、遠かった星に近づいている(遠かった星が近づいてきている)ことを自覚させる仕事を、恋愛愉悦部・槇くんが指摘するまでのエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
マジでろくでもねーのしかいねぇなこの生徒会ッ!
物語は出だし、いつものように清潔な日常から始まる。白をベースに清潔な、当たり前の表側。世界が求める人格、円滑な嘘でみっしり詰まった、白々しい空間。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
しかし摩擦係数の少ない演技を皆が果たしているから、日常はスムーズに回転する。嘘だからと言って不必要でも、無価値でもない。
侑はそういう世界からはみ出すことを切望しつつ、どこか離人した自分を持て余している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
燈子は完璧を演じつつ、侑によって欲望を狂わされ、色彩の濃い世界を引き寄せていく。二人の世界は蝶々のダンスにも似て、複雑に踊る。
真っ白な世界が、感情のパレットに彩られる瞬間の唐突。
それは研ぎ澄まされたタイミングと色彩、レイアウトのコントロールによって成立する。パブリックな空間から、プライベートな時間へ。カチリとスイッチが切り替わる瞬間は、唐突で周到だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
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演技の白から情欲のオレンジへ。ライティングの変化は時間経過と同時に、そこを支配するルールの変化、カメラが切り取る対象の変化を示してもいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
近くて、体温があり、実感がこもる。特別で、個人的で、秘密の関係はいつでも、甘い腐敗臭を宿した、重たい夕日の中で描かれる。
優等生の仮面を脱ぎ捨てて、突如性欲魔人にジョブチェンジする燈子が面白いが、まぁ好きなものは好きだからしょうがない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
怒涛のように狂奔する欲望を浴びせられつつ、どこか冷感症的というか、一枚幕を隔てて自覚がない侑とのギャップが、性欲の熱量にひやり、冷静さを足す。
オレンジ色のプライベートは、常に白いパブリックと繋がっている。秘密で守ったふりをしても、槇くんという異物を学生カバンで排除したように見えても、透明な窓から常に観察されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
そういう危うさに、侑は気づかない。
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オレンジ色の情欲がオン/オフされる様子、そこから槇くんが閉め出されている様子を、カバンを用いた同ポジで示す演出は見事だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
槇くんは望んで、オレンジ色の世界から距離を離す。感情をかき回される恋の主体ではなく、それを遠くから消費する客体として、己を観客席に置く。
それは遠い恋の星に憧れつつ、そこに接近できない自分をうとみ、なお前に進めない(と思いこんでいる)侑と、よく似ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
しかし恋物語の主役として、侑は望むと望まざると渦の中心にいて、もう観客席に引っ込むことは出来ない。侑のセルフイメージとよく似た槇くんは、実は差異を顕にする鏡だ。
槇くんは侑と隣接しつつ、境界線を貼り続ける。安全圏、硝子の向こう側、観客席に足を置き続け、透明なガラス越しに世界を観察し続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
そういう筋金入りの客観主義者から見ると、侑は今まさに星の中にいる物語の主役だ。
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侑はもう、観客席に引っ込むことは出来ない。特別が遠い、恋が遠いと思いつつ、燈子の口づけは少女の心を確かに変え、燃え上がらせている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
主役と脇役、立ち位置は大きく異なる。槇くんの客観愉悦主義は、侑の冷たい自己認識を改め、観客席と舞台の境界線を引き直していく。
それが幸福なのか、それとも不幸なのか。恋の客体である自己認識から、愛の主体である事実を指摘され踏み出す時、歩みは影から日向だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
認識の変化は、白日へと侑を晒す。嘘の陰りから、白けた事実へ。隠してはおけないものを暴露する。
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一度、逃げていく槇くんを侑は追いかけ、二度目は足を止める。同じように、恋を客観していたはずの二人は、もう同じ安全圏にはいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
踏み込み、追いかけ、傷を負う特権は、槇くんではなく侑のものだ。だから、槇くんは白い光の中で動かず、侑は光と陰りの中を行ったり来たり、フラフラ彷徨う。
春の日差しにふさわしく、蝶と花が印象的に使われるエピソードだった。蜜に口づけする紋白蝶と、侑という花に誘われる燈子。フラフラと危うく飛ぶ二人の恋は、プシュケのフェティシズムに仮託されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
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二匹いる蝶のうち、一人は夢中で貪り、もう一人は花を前に立ち尽くす。オレンジ色の生徒会室の中で、情欲を前に恋人たちがどういう表情だったか。そこに込められているものは分かりやすい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
そして蝶は槇くんの横を抜けて、舞台に降り立つ
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槇くんの恋愛ステージの上で、蝶の羽は燈子のものだ。自由で、ひらひらと翻弄し、キラキラと踊る特権。それは侑にはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
いつか離人の殻を破って、自分こそが恋の主体だと認識を羽化させ、侑にも羽根が生えるのか。二人の蝶は、春の空を自由に踊るのか。
それはこの先、僕らが槇くんと一緒に観客席から見守る物語だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
自由奔放に見える蝶も、傷と秘密を隠している。それが顕になっていくサスペンスとスキャンダルもまた、このアニメの推進力だろう。
いろいろひっそりと、後の布石を打つ回でもあったな、今回。
同い年の古女房として、佐伯先輩は侑が知らない情報を共有している。燈子が侑にだけ見せるオレンジの真実とはまた別の、過去の伏せ札をのぞき見ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
それが佐伯先輩の恋を煽り、槇くんは秘密に踏み込んでいく。最高の劇を楽しむために。
地雷原でタップダンスする槇くんの危うさ、燈子を守ろうとする佐伯先輩の頑なさは、やっぱり境界線を描く筆で強調される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
垂直方向の戦として使われれるのが、”窓ガラス”なのは面白い。透明でありながら確かにそこに存在するもの。
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槇くんはそこを乗り越えて佐伯先輩の横に並び、不躾な勘ぐりを避けて、佐伯先輩は窓に正対する。それは秘密を覗き込み、自分と燈子の関係を客観する立ち位置だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
唐突に、二人の関係に割り込んできたニューカマーと、彼女のように情欲を掻き立てられない、花足りえない自分を見る場所でもある。
皆が白い客観とオレンジの主観の間を、フラフラと危うく飛びながら生きている。どこに自分の足場をおけばいいか、どの花に口づけすればいいかわからないまま、あるいは胸を突き動かす情欲こそが本物だと、あるいは客観の安全圏こそが真実だと、仮初の答えにしがみつく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
そこでヌラリと光る、感情の濃さ。嘘も真実も複雑に混じり合い、舞台と観客席の間にある確かな境界線が、ふらりとよろめく瞬間のめまい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
そういうあやふやで矛盾した真実を、とても大事に描こうとしているから。このアニメの筆は、複雑に揺れ動きながら青春を切り取れるのだろう。
熟練の恋愛観察者たる槇くんに、『お前、恋のど真ん中じゃん』と指摘された侑。それは星から遠い自認とはかけ離れていて、でも否定するには鋭すぎる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
燈子の口づけを断りきれない、自分の中の秘密。劇にこだわりすぎる、燈子の秘密。世界に堂々と自分たちを見せれない、私達の秘密。
紗のように折り重なる秘密と情欲の花の中を、町長たちが舞い踊る。そのフラフラとした飛行が、麗しく眩しい。人間で、青春だなぁという感じだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
目まぐるしく揺れ動く世界の中で、侑たちの恋は、自己認識はどこに飛んでいくのか。来週も楽しみですね。
追記 女が女に向ける欲望を、定形ではなくその物語、そのキャラクター独特のシェイプで、嘘も引っくるめてまるごと切り取る。そういう腰の入った描画力が乱発される所、イマージュの洪水で酩酊する体験が、僕は好きです。
やが君追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月27日
やっぱ燈子の性欲がむき出しで、ボーボー燃え盛って暴走している様子は最高である。そこには湿度と温度があり、野放図な自由があり、そこに溺れきれない冷たさが同居している。本当のことであり、演技でもある。歪で綺麗。
心理を現象に仮託し、情景と切り取る。表現力が強いアニメが好き
追記 槇くんという『動かない星』を置いておくことで、侑と燈子がどれだけ動いて変化しているか、その変化が相互にどういう影響を与えるかが観測しやすくなる。変わるものもいれば、変わらない(変われない)ものもあると見せることで、物語に奥行きが出る。異物とも言える男を描くことで生まれる、物語的配球術の妙味。
やが君追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月28日
観客席にとどまりたい槇くんを侑の相似と書いたけども、『私は好き。でもあなたは好きになっちゃだめ』と予防線を張る燈子とも似通っている。
この話は成長と安全圏、震えと変化を描くお話で、そのためのインクとして恋が使われている。だからキャラクターは基本、安全な檻を守る。
それを壊してでも星に近づきたいのか、はたまた冷たい孤独な宇宙の中で星を見守りたいのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月28日
選択も、そうさせる内面もそれぞれ異なっている。皆が投げ出された孤独で冷たい宇宙は、感情が踊る共通のカンバスだ。だからこそ、差異が描け、そのギャップで恋と青春が駆動していく。