ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
河の向こうは、妖精住まう故地。
霧に飲み込まれるようにウェールズに消えたアシェラッド軍は、複雑怪奇な現実の中にいた。
歴史、文化、人種。様々な要素を煮込んでかき混ぜた先にある、政治と戦争。
王器にあらずと見定められたクヌートは、ラグナルの背中に隠れるだけ…
そんな感じのカンブリア秋紀行ッ! 景色はキレイだが政治は地獄絵図!! な、ヴィンランド・サガ第12話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
血圧上がる超戦闘&超略奪もなく、湿気の多い自然の中をのたのた歩くアシェラッド隊。その静けさが、次第に緩みつつある規律、忍び寄る破滅の予感を強めて、なかなかに良い。
霧烟る岸の向こうは、デーンとイングランドの戦争とは違うルールで動く国、ウェールズである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
よそ者を容易には受け付けず、岩がちな風土に実りは少ない。雪と岩の違いはあれど、少しトルフィンの故地、アイスランドと風が似ているのが、なかなか面白い。
アシェラッドはデーン人相手の粗暴なニヒリズムを引っ込めて、渡し守にも非常に丁寧に接する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
その身を守り飾るローマの遺産を見て取って、渡し守は政治文書をしっかり受け取る。霧の向こうに渡るに相応しい、”身内”と認めたわけだ。
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しかしそこら辺の出生を、アシェラッドは”ヴァイキング”には顕にしない。ずーっと自分を見てくれてるビョルンにすら、腹の中は見せない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
それが”ヴァイキング”’(が体現する、刹那的な現世主義。肉と酒と女と金に溺れる幼児性)への軽蔑に由来するのか、別の理由があるのか。
どちらにしても、ウェールズに入ったアシェラッドはウェールズ人として振る舞い、”ヴァイキング”としての自分を拒絶しているように思える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
その隔意が部下に伝わり、隊の戦意は低下していく。
目の前の金と肉にしか興味がない凡俗には、戦略眼も民族アイデンティティも、遠い雲の上、か。
まぁあの蛮種に何言ったところで、事情がわかるわけではないのだが。そういう常人のアホさひっくるめて、上手くコントロールできない…100人程度すら掌握しきれないアシェラッドの限界点が、長期行軍でミリミリと表に出てくる回でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
ここら辺後に帝国を統べるクヌートと、面白い対比だなぁ…。
行軍シーンのダラダラとした重たさは、とても良い。略奪の対象だったイングランドの実りは、秋の風とともに遠くに行ってしまった。待ち構える残酷な冬を前に、ヴァイキングのテンションはだだ下がりに落ちていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
黄昏に、槍穂が虚しく空を突く。
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目隠しをされ、霧の中を彷徨う歩みはウェールズの将軍と出会うことで目鼻がつく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
霧の向こう、ブリタンニアの遺跡を受け継ぐアシェラッドの同胞…つまりは、”ヴァイキング”にとっての異邦人。
それが”援軍”である。
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霧の美術が最の高で、思わず涎がダラダラ出ちまっったけども、過去からそのまま滑り出したかのような赤いトガ、ローマ式の短剣と、ウェールズの異物感は凄い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
”ヴァイキング”にとっては異国であり、その船も竜頭のあるロングシップではないのだ。皆殺しの蛮人といえども、当然故郷は恋しい。
しかしアシェラッドにとってはこの風こそが故地らしく、彼は人格の表面にこびりついた”ヴァイキング”を削ぎ落として、知性と礼節を静かに滾らせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
その歩みは馬上の高い位置にあり、”ヴァイキング”と肩を並べることはない。ここら辺の静かな断絶の描写、後々マジひどいことになりそうで最高。
分断の予兆は他にもあり、アシェラッドはクヌートを、身を預けるには脆すぎる器と見切った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
自由に飛ぶ隼を、政治の現場で求めてしまう幼さ。王子たる立場でしか結べない安全保障を、代理人(”父”)に預けてしまう柔弱。
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確かに、人生賭けるには弱すぎるコマである。ラグネルおじさんが壁になることで、政治と立場の荒波から守られてる状態なんだが、アシェラッドはそれが気に食わぬようで…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
不吉な二羽のカラスは、一体何を見つめるのか。オーディンの使いとすれば、ウェールズ人には微笑まないよなぁ…。
良き”父”、守る”父”であるラグナルおじさんと、人生オールインしてクヌートには”男”になってもらわないと死ぬアシェラッドの利害(というか生き様)は、思い切り衝突しそうである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
トルフィンのみならず、クヌートにとっても厳しき”父”となるか、アシェラッド…。
惚れた男のように刃を収めて、背中と拳ですべてを守りきる生き方は、当然出来ない。出来ていたら、今ここに流れ着いてはいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
そこからどこかへ……岸の向こう、丘を超えた場所に進みたい視線を、アシェラッドも持っている。
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しかし丘の先に待っているのは自由なるヴィンランドなどでは当然なく、最も正しき”ヴァイキング”、のっぽのトルケルの苛烈な追跡だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
それから逃れ栄光を掴むべく、ウェールズという札を切った。それが鬼札足りうるかは、まだ解らない。
だが手札は弱い。抱えたキングがひどすぎる…。
今後アシェラッド父さんのスパルタ修行が、クヌートにも及ぶのだろうなぁと考えると、本当に可哀想である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
が、年表はあの白皙が、北はノルウェー・スタインヒェルから南はイングランド・エクセターまでを手中に収める未来を指し示している。
強制的に”父”の天幕から出されるんだろうなぁ…ヒドイ話だ
見えざる流れはもう一つあって、ヴァイキングの中にキリスト教の”愛”は静かに進行していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
現世の富ばかりを追い求め、殺し殺され、奪い奪わればかりする愚者達。アシェラッドが運命を預けない隔意に、スルリと忍び込む甘い毒
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斧を握らぬ静かな力が、世界を変えていく未来を僕らは知っているわけだが、変化の渦中にいる当人には当然見えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
酒飲み坊主の静かな説法は、”ヴァイキング”をどう変化させていくのか。ここも見どころの一つだろう。荒くれが全員坊主バカにするでなく、耳を寄せるやつもいる描写は良いなぁ…。
アシェラッドは当然、キリストの夢を見ない。栄光を預けるのはかの剣、王たるべきものが握りし栄光のコルブランドである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
『あ、アーサー王出たー!!』という感じで、非常に興奮した。
アシェラッドはセイバーのTS(暴論)。
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アヴァロンより帰り来る栄光の王をどれだけ信じても、政治は冷たいルールで回る。ウェールズ緒王国からすれば、100人程度のゴロン坊が持ってきたやばい火種は、確かにとっとと消すよなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
風に揺れる木の葉のように、アシェラッド隊の運命が揺らぐ
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ここで鏃と木の葉を繋いで、生粋のヴァイキングとして”船”に身を預けるトルケル隊の安定と、”馬”を射殺されて高い場所から墜ちるアシェラッドの不安定を対比するのはとても面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
ブリテンに身を預けても、一切揺るがないトルケルの生き様。悩むことなく”ヴァイキング”である。
その魂は部下にしっかり伝播し、どっしり構えて獲物を追い詰めている。死ぬことも、地上の栄光をつかめないことも畏れない。全てはヴァルハラで報われる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
他方、アシェラッドが見ている景色と配下の”ヴァイキング”の視点は違う。頭に据えたクヌートはひ弱で、異国は当然のように裏切る。
威勢よく飛び出した賭けが、その実相当ヤバい内実を丁寧に摘んでいくお話でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
こっから大逆転してアシェラッド立志伝で進むのか、破滅を前に人間の条件を問うていくのか。どっちでも面白いと思うけど、作品の舵取りとしてはサクセスより地獄方面よね…、
どちらにせよ、王子も蛮人もみな、アシェラッドという船に身を預けている。巨大な運命と政治のうねりに飲み込まれても、沈むのを座視するわけには行かない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
その荒波が”子”をどこに導いていくのか。父達の肖像は様々だ。
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無言のスヴェン王が何考えてるかは伏せ札だが、状況的には露骨に死んで欲しいオーラ出てて、まぁ彼も”悪しき父”なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
一方レイフおじさんは頭ハゲるほど走り回って、奪われたトルフィンを探していた。優しいおじさん…優しいおじさんが好き…。
”子”を死地に放り込むもの。その資質をにらみつけるもの。背中に隠すもの。必死に探すもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
様々な”父”の思いが、クヌートとアシェラッドを荒々しく試す。
出会ってしまった少年たちは何を交換し、何を奪い合うのか。運命のうねりは、まだその核心を見せない。
来週も楽しみです。
追記 見えてしまうことは時に、見えないよりも大きな絶望を才人に連れてくるのだ。
ヴィンランド追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
トールズには頭になるよう頼んだり、クヌートを王の器にしようとしたり。
アシェラッドはトップに足りる資質が自分にないことを、その賢い頭で見抜いちゃってるからこそ、ニヒリズムと羨望がなかなか抜けないんだろうなぁ、と思う。
時代を切り開き、求める世界を掴めるほどの圧倒的再起があれば、”ヴァイキング”なんぞやってない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
しかしそれがどうやっても自分には掴めないと見えてしまうからこそ、誰かの下に付く形で運命を切り開きたくなる。彼の鑑識眼は、クヌートだけに伸びるわけではないのだな。
時代の潮目も、政治の力学も、人の器量も見えてしまう眼の良さ。それに適度に追いつきつつ、決定的な変化を掴むには足らない腕力のなさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
トルフィン視線では悪辣無敵の”父”に見える男の、確かな欠乏をしっかり追ってるのは、作品の大きな魅力だと思う。彼の家族関係は気になるなぁ…。
そういう眼の良さが、盲目のまま人生を進む凡俗との隔意を生み、軍団の結束を緩めても行く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月29日
ビョルンはしっかりアシェラッドを見ているのに、その視線を真っ直ぐ受け止める足場もない。ここの一方通行の感情、下手すると作中で一番重くて熱くて好き。
マジでビョルン報われない片恋。酷い死に方しそう