ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
雪が、戦の足音を吸う。
虐殺の爪痕を埋めた十字架から、逃げ延びた一匹の兎。惨殺で買った平穏は、たった十日で無に帰する。
迫りくるトルケルの足音に、アシェラッドは謀略の刃を進める。冠に抱くにはあまりに弱い雛を、巣立たせるためには邪魔な、大きな背中へ…。
というわけでフラグ回収! さらばラグナルおじさん!! というエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
まぁ知ってたよ…登場したときからいい人過ぎて死ぬムード満点だったし、立ち位置的にも死なないと年表と矛盾起こすし、OPでスノーフレークになって消えてたし…だから余裕! 受け身もこの遠り!!(正面衝突)
いや…やっぱキツいっすわ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
『刺すには目を見させる』という鉄則(今考えた)の通り、不良少年の栄養バランスを考え、孤独な王子の父となり母となってくれたラグおじのかけがえなさを書いた上で、容赦なく奪う。
先週の村の虐殺と同じく、必死に生きるものをこそ中途で断つ、無惨の筆致が冴える。
アシェラッドのピカレスクも、トルケルの戦狂いも、生々しい犠牲の上、他人の人生の上に展開するバーレスクなのであり、一方的に肩入れして蕩尽することなど許さない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
自作にも視聴者にも厳しいスタンスが、今回も貫かれお腹痛い。でもぶっ刺されたラグおじのほうが、もっと痛いよなぁ…(過剰共感)
クヌート王子のキツい立ち位置が判明する今回、焦点の一つは実父たるスヴェン王にある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
我が子の消息を気にかけるには、あまりに退廃的、あまりに傷まみれの裸身。金髪奴隷の差し出す生肉は、兄弟合い喰む宮廷の常か。
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今回は(も)食事は大事な描写で、ラグおじの温かい食卓を強調するべく、”ヴァイキング”のメシは軒並み荒んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
本来食事をするべきではない場所で食べ、食卓に寝転がる。謀略と殺し合いの中でしか生きられない、野獣たちの給餌はいつでも荒っぽい。
スヴェン王の噛み砕く肉は、父に喜んでほしかったクヌートの真心。普通の家庭、普通の幸福を、人間を超越した立場に生まれついてしまった子供が望んだ結果だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
サトゥルヌスのように我が子を肉を喰み、王権にしがみつく老王の視線は、遠くマーシア伯領を睨みつける。
一方、イングランドに味方する風変わりな”ヴァイキング”は、戦争を終らせる雪を嘆き、ガツガツと町ごと喰らう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
いるだけで普通の生活を破綻させてしまう怪物だからこそ、百人力の戦働きが可能なのかも知れない。
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トルケルは副官としっかり向き合って、お互いの心魂をしっかり共有しているように見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
永遠の闘争に身を置けるのであれば、栄達などいらぬ。筋も道理もぶっ飛ばして、勝ち続けるために知恵も絞る。
粗暴で呑気なだけではない、真の”ヴァイキング”の牙が見える。
ウェールズへの忠誠を隠しているアシェラッドに対し、トルケルの行動理念は戦士団に嘘がない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
ヴァルキリーの導きに恥じぬ戦士として、よりよい戦働きをする。戦うからには勝ち、次の戦い、次の次の戦いのために団結していく。
そういう不和のなさが、トルケル戦士団の強さなのかもしれない。
終わらない戦争を求めるトルケルにとって、スヴェン王がブレトワルダ(アングロサクソン人筆頭の”覇王”みたいなもん。社会が公的にデーン人をイングランド王として認める、ということ)になってしまうと、お楽しみは終わりである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
デーン人に屈服したイングランドでは、”よりよい軍働き”もクソもない
そこでクヌート王子をかっさらって、状況をかき乱そうというのが、頭も切れる脳筋戦バカの狙いである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
余計な嘘が少ない分、迷いもなく動揺も薄い。なんかデカいことやるなら、アシェラッドよりこっちのほうがイケそうってのは、まぁ副官の見立通りだと思う。
あっち、組織にヒビ入りすぎだからな…。
指輪に魅入られ、悪魔に憧れた少女一人から、アシェラッドの野望は破綻していく。虐殺するにしても、キッチリ殺しきれない運の悪さ、ツメの悪さ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
配下が離反を言葉にしだし、さてはて本格的に軋みだした…というところか。
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彼女は自分の生存が、神をも恐れぬ”ヴァイキング”の尻に火を付けたことを、多分知らないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
流されるまま生き延び、家族の血を瞼に焼き付けたまま、スープを啜る。そういうつまらねぇ人間一人が、大望をぶち壊すこともまた、よくあるか。
無力なはずの女の口から、悪魔の死が飛び出す。皮肉だね
そんな無辜の犠牲に向かって、キリスト者達は雪の礼拝を果たす。屋根もなく、冷たい雪に囲まれた修道院。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
顔面ボッコボコの酒飲み坊主と、過保護なトンガリ頭と、臆病王子。奇妙な修道団を、”ヴァイキング”は遠巻きに見据える。
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十字架は信仰に輝き、不信に陰る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
最初に犠牲に祈り、次に”ヴァイキング”の罪深さに祈り、最後に己達の弱さを祈ったヴィリバルドは”父”への不信心を素直に口にしていく。
それは彼が敬虔だからこその、神の声を信じればこその告白であり、地上の沈黙に耐えられない聖者の嘆きだ。
あるいは耐えられないのは、暴力の嵐を前に何も出来なかった、自分の無力か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
どちらにしても、不在なる”父”(に反射する、己の敬虔と不信)を叫ぶ神父を、クヌート王子は大声で止める。
”父”への不信。それはあってはならぬこと。
その信念が、彼を支えている。
クヌート王子はスヴェン王という生身の父を、キリスト者としての”父”に重ねてみている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
”父”に祈り許しを請う生き様を貫けば、地上の愛も手に入る。そういう甘っちょろく、切実な信念がこの中断には宿っている。
”父”は沈黙し、子の死を望む。そんな事実は、子供が背負うには重すぎる。
ここら辺、見えない天国を(アルコールの力も借りつつ)求めるヴィリバルドと、あくまで自分周辺の現実で生きるクヌートとのすれ違いだな、とも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
信仰でぶっ飛んだ領域までイケるのは、限られた人間だけなのだ。トルケルにしても、ヴィリバルドにしても。
トルフィンも地上の天国を追い求め、それが奪われたから”ヴァイキング”になった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
デカい父の背中、暖かく満たされた日々。それをアシェラッドに切り裂かれて、遺品のナイフで人殺し。”父”なるものとの、複雑怪奇な因果。
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それを通じて、荒んだ”ヴァイキング”と臆病な王子は、一瞬呼応する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
誰もが”父”を求め、果たせない。
アシェラッドが己の故地と誇るウェールズが、母方の血であるのも皮肉だなぁ、こう考えると…。自分に半分流れる”父”たるデーンが、嫌いでしょうがないんだな…。
子供たちが無情な雪原で”父”を思う中、”ヴァイキング”達はのっぱらで小便して、地獄の足音を聴いていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
トルケルと副官の親密な距離に対し、やっぱりアシェラッドとビョルンの間には幽かな冷たさ、視線のズレがある…とおもうんだよなぁ…。
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無論、王子の側近を殺る大一番は、ちゃんと相談している。現実での立ち回りにおいて、ビョルンはキッチリ兵団の要だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
しかし遠い理想において、あるいは遥かな過去において、ビョルンはアシェラッドを知らない。いちばん大事なものを預けられていない。
それがどんな破綻をもたらすかは、遠いトルケルの足音が追いついてからだとは思う。存外近いかなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
追撃が追いつく前に、旗頭たる王子を”父”の背中から出し、政治が可能なところまで鍛え上げる。その殺意を、アシェラッドは冷たく視線に込める。
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一方、殺意の対象たるラグおじは、のんきにお料理である。王子も外套を外しプライベートモードだ。可愛い…。
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ラグネルはスヴェンにもとめて与えられない愛を返してくれる”善き父”であり、ご飯を作り体と心を温めてくれる”善き母”でもある。
普通の幸福を、普通に与えてくれる当たり前の善人。
それが、アシェラッドが見据え、クヌート自身も身を置く蛇たちの巣では悪徳になってしまう所が、なんとも哀しい。王たるべきものには、時に人の幸福は邪魔になるのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
だから殺す! 殺伐である。
みんなでキャベツと豆と兎のスープを食べて、ニコニコ平和に暮らしましたじゃダメ? ダメだよなぁ…。
擦れっ枯らしに堕ちちまったトルフィン坊やも、本質的には”こっち”の人間である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
マトモな食卓で、マトモな食事を食べてた幸福な過去を、クヌートとラグナル”親子”と共有して、明るい表情を見せる。
奪う。盗む。差し出されたものを踏みつける。
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そういうことが、生来苦手なのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
スヴェン王はクヌートが差し出した温かいタラ料理を、跳ね除けてダメにしてしまう。そういう当たり前の幸福は、玉座に座る存在には不要だと。
でも(少なくとも今の)クヌートは、そういう物が欲しいのだ。そして、ラグナルによって擬似的にそれは叶う。
トルフィンと一緒に、僕らも王子の食卓、当たり前の人間性を食べていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
それはとても暖かくて、当たり前に美味しくて…先週皆殺しにされた村に、トルフィンが飛び出した故郷に、たっぷり満ちていたものだ。
一瞬の灯火のように、腹に落ちる幸福感。それを踏みつけて、皆前へ進んでいる。
それでも美しい夢だとうそぶくか、現実見れねぇバカだと吐き捨てるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
この暖かな幸福の無力さは、すぐさま僕らに叩きつけられる。シチュー食ったところで解決しない、野望と野望のぶつかり合い。共存できない、愛と愛の共食いの餌食に、優しいラグナルおじさんは堕ちていく。
か、勘弁してくれ…。
怒りを釣り餌に引きずり出され、左脇腹(!)を突き刺されたラグナル。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
けして帰らぬ人を待つ”子”のために、強い瞳でアシェラッドを呼びつけ、真実を告げる。
王は子の死をこそ、望んでいる。お前の夢は叶わない。
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デンマーク王家に生まれついてしまった以上、クヌートがどんな人間でも(あるいは、どんな人間でなくても)、王冠はつきまとう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
権勢を狙って、揺れる蛇たちの巣。
その犠牲にならぬよう、たった一人体を張ってきた男が、アシェラッドには邪魔だ。
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戦に乗じて邪魔者を消して、自分の都合のいい絵を描こう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
”悪しき父”としての発想が、スヴェン王とアシェラッドで共通しているのが、なかなか邪悪で皮肉でいい。
ラグナルを消して、王子の独り立ちを促す。その計算は、他ならぬ死に体のラグナルによって否定されてしまう。
アシェラッドの逃避行(と、デーン人宮廷での出世、ウェールズ防衛)は、『スヴェン王が王子を大切にしている』という前提に基づいている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
しかし、真相は違った。
父は子の死を望む。デーンの子たるアシェラッドが、その実心底”ヴァイキング”を軽蔑しているように、建前と本音は常に食い違う。
ゴールと見立てていたゲインズバラに辿り着いても、願いはかなわない。ラグナルが告げた真実を前に、アシェラッドはあくまで軽く、悪態をつく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
踏み出したのは悪逆。所詮血塗られた道なら、息が止まるまで進むしかない。
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紫の不可思議な色彩に染まっていく雪原に、流れる犠牲の血。それを前に、アシェラッドは情を一切見せない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
その冷たさが、何を呼び込むのか。死にゆくラグナルは見届けることが出来ないし、どうせ見るならキレイな夢だ。
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人がみな、ありのまま幸せで居られる夢の場所。遥かなるヴィンランドを夢見ながら、夜の色に染まっっていく死人と世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
殺す側に立ったアシェラッドは、夢を見ない。砕けた夢の残骸を見下ろしながら、一歩、また一歩、引き返せない道へと踏み出していく。
その孤独、その猛悪。
夜闇と、燃える炎のような夕焼けが共存する景色を最後に、ラグナルは死んだ。クヌート王子に、もう隠れる背中はない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
その厳しさに、果たして王子は耐えられるのか。いやまぁ、年表は見事乗り越え、北海に冠する大皇帝という未来を指し示してるわけだが…無理じゃね?
今回はクヌートくんが”人間”であることを見せる回だったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
抽象的な全能の神より、生身の”父”を投影できる存在を求める。兎のスープで身を温め、幸福を他人に振る舞う。
あまりに普通で、巨大で空疎な玉座を背負うには”人間”過ぎる、一人の少年。
それが、いちばん大事なものをもぎ取られた痛み
それを理解ってもらうのが、今回のお話の狙いだったのかなぁ、などと思う。イヤ…あそこまで生活と幸福に密着した家族を失うのは、相当にキツいっしょ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
しかし化けてもらわんことには、アシェラッドの野望は叶わない。トルケルは来る、算段は狂う、部下との亀裂は広がるで、もう破滅しか見えねー!
ここで一発大逆転となるのか、はたまた野心は雪に埋もれていくのか。散々他人を踏みつけにしてきたツケを、”ヴァイキング”も払うときが近づいている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
そうなった時、復讐心だけで”人間”でしかない自分を誤魔化しているトルフィンは、一体どうなってしまうのか。こっちもヤバそうだなぁ…。
永遠の闘争を求める生粋の”ヴァイキング”は、緩みなく知恵をめぐらし、”勝つ”ために近づいてきている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
薄氷を血で塗り固め進んできたアシェラッドの足元は、ヒビと誤算まみれ、今にも砕けそうだ。
そしてクヌート王子を狙う、”父”の冷たい謀略。守ってくれる背中は、もう無い。
こうして考えると、アシェラッドはトルフィンとクヌート、両方の”父”を直接手にかけてるのだなぁ…しかしその存在が、少年たちの人格形成にあまりに大きい影響を及ぼす、と。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月21日
アシェラッドの厳しい鍛えは、後の大王をどう変えるか。来週も楽しみ。