星合の空を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
親の横槍で訪れた、一週間の休止期間。ラケットを握らなくても、心はコートに向いている。
次勝つために、やるべきことを。女装偵察作戦を通じて見える、それぞれの震えと願い。
普通であることって、一体なんだろうか。真摯な問いに、どう寄り添うべきなのだろうか。
そんな感じの、青春闘争最前線、星合の空第8話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
前回のヒキは月ノ瀬くんの家庭事情であり、冒頭一分半の窒息性がヤーバい事になっていた。
『あなたのため』を盾にして、子供を息苦しく追い込んでいく”母の愛”。多分どこにでもある当たり前の残酷だからこそ、胸に深く突き刺さる無理解だった。
背中に火傷の痕がなくても。クズが殴りつけて金を盗んでいかなくても。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
家庭という”マトモ”のなかにすれ違いの種は沢山あって、思春期はそれが擦れて、マッチ棒のように発火する。
そんな時代の前から、それを過ぎた後でも、人が人である以上軋轢は燃えるが、特に発火しやすい時代。
そこの只中にいる直央の息苦しさ、生き辛さは、ある種の”派手さ”がない分馴染みやすかったと思う。『あー、あるわー』的な。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
その身近さが、後に公開される飛鳥くんのクローゼットを覗き込む時、それを他人事ではなく身近な物語として受容できる、大事な足場になっている気がする。
一度も体験したはずがないのに、どこか馴染みがある。その続きを見てみたいと、当事者目線で思わせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
現実味を追求しつつ、美麗に仕上げた背景。凝った生活設定。鮮烈なテニス競技の身体描写。
作中のリアリティを上げるべく、色々工夫されている美術。それはクオリティを追求するだけでなく…
彼らが今いる場所が、僕らと地続きであり、そこで展開される群像がどこか、自分と似通った痛みを抱えていると想って欲しいからだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
自分が同じ気持ちになれなくても、それを想像してみることは出来る。
眞己が今回言ったことが、今、ここでこの作品を描く大きな理由なのだろう。
こういう筆致の一環として、各キャラクターの私室は非常に丁寧に構築される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
各家庭の経済状況。キャラクターの人格的発達段階。興味と現実。
そういうものをピン留する大事なキャンバスとして、”部屋”は大事だ。
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それぞれの色彩、それぞれの明暗で切り取られる部屋は心の反映であり、外形化された内面と言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
扶養されている子供にとって、それは自分ひとりで整えられるものではなく、かといって親から与えられただけのお仕着せでもない。
自分の手で飾り、自分の物を置く場所。世界と自己の交錯点。
そこに目を凝らすことで、キャラクターがどういう人間なのか、少しでも伝わるように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
彼らの私室は丁寧に、まるで実際に生きているような生々しさと、フィクションに必要な美麗な強度を両立して描かれている。
こういう部分を怠けないのが、このアニメの強いところだ。
樹の時もそうだったけど、月ノ瀬家の事情を部員が飲み込んでいて、子どもたちなりに仲間を守るシェルターを形成している描写が、妙に刺さった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
自力で完全には立てないけど、ただ流されるばかりじゃない。愚かなりに考え、無力なりに前に進むために、お互いをよく知って守り合う。
そういう共同体として”部”が機能していることが、『俺たち一緒にいたほうがいい』理由なのだろうなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
そこは楽園ではなくて、クレーム一個で黙らせてしまう脆い場所なのだけども。
当たり前に色々なものを抱え込んだ子どもたちにとって、自分を保つための大事な空気穴であり、城塞なのだ。
意識してんのかしてないのか解んないけど、月ノ瀬家の家庭事情、一週間の休止より未来が大事と、竹ノ内くんが前に出て話を変えるのが、強引な優しさで少し泣いてしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
お前がバカで、本当に良かったと思う…直央も家の話が続くの、マジキツいだろうし
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空気をいい方に変えるバカの独走を、部員もしっかり”見て”いるのがいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
他人に興味のないボンクラのようで、子供らは彼らを取り巻く小さな社会の変化、成員の活動にかなり敏感で、起こったことを見落とさないよう、センサーを尖らしている。
他人の情を見落とさない、優しい奴らだ。
そういう救いがあったとしても、”家”はあまりに大きく重たく、子供の背中にのしかかる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
直央を追い込む”母の愛”が、ロールキャベツを、グジグジの戦術ノートをキャンバスに、よく突き刺さる角度でぶっ放される。い、痛い…生々しく痛い…。
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前回のバーベキュー、あるいは眞己ハウスでの夕食会に比べて、あんまりにも美味しくなさそうだが、中学生たる直央はこれを食べるしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
”母”の形を整えて満足そうなママンが、直央の食べ方に一切気を払っていないのが、部活内の”見る”描写と対極的で辛い。自分のエゴに視界塞がれてんじゃないよ!
直央の支配描写は、凛太郎くんの養子問題と同じく乗り越えるための”タメ”なんだと思うが、いやー、キツい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
自分を支える『マトモ』のフレームで脳髄ガッチガッチに固まって、子供の痛みに目を向けれないママンのあり方が、全力で糾弾されるよりジワジワと刺さるなぁ…。
そんな息苦しい”今”を超えるためにも、次勝たなければいけない。超中学級のスーパーエースに勝つために、女装で偵察だ!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
いかにも漫画チックなノンキイベントだが、それが踏みつけにしかねないものに、青春戦線2020対応アニメはじっくり時間を使う。
眞己と二人きりで話すクローゼットの対話は、ともすればこのアニメで一番大事で、いいシーンだったかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
鏡に誰かを反射しながら、自分と世界を考える。名前のないXでは許されない性的アイデンティティを、分厚い本に照らす。
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翔さんがFtMであると言われて『へーそうなのー!』と、素のリアクションをしてしまったが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
その異質性で足を止めるのではなく、自分らしくあるために生まれついた当然の形(と、社会が定義し、ときに押し付け傷つけるもの)から変化した人のあり方に、静かに目を向け糧にしている眞己の態度が良かった
鏡の中であやふやな、飛鳥くんの自己像。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
それを探ることを許されている時代が”子供”なら、俺達はこの檻の中で、もう少し迷っていい。
自分自身が、『世界を諦めろ』という強い圧力にさらされているからこそ、ともすれば当たり前に蕩尽してしまいかねない『当たり前の青春』の価値に、眞己は自覚的だ
守られない子供も、自分が何者であるかという不安も、世界には確かにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
『マトモ』であることに素直に接続出来る人たちが、あっという間に作り上げてしまう全っき世界。でもその尺度から、みんなどこかはみ出してしまう。
生徒会長として、名家のボンボンとして君臨する絹代ちゃんですら。
規範として他者を縛り、自分を高い位置に安定させる『マトモ』さではなく、そこからはみ出した各々の在り方と、一つ一つ向き合えるような真正さを。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
モラトリアムに守られたガキだから掲げられる、青臭い理想かも知れない。
でも、個別の顔を見る優しさを失ったあと待ってるのは、クソオヤジの拳だ。
『マトモじゃない』となじられるものも、そこにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
『マトモ』の範疇からはみ出した(と、時に判断されるだろう)ショウさんが、自分を大事に守ってくれた。
眞己は自分の経験にしっかり目を凝らし、新しく出会ったものを追体験しないまま、共鳴と共感を差し出す。靭やかな少年だ…。
眞己は常時”正解”を掴む無双型の主人公なんだけども、残酷な世界と優しくない他人の被害者でもあって。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
弱さや痛みを思い知らされる立場だからこそ、外れもの達が集まる部活の中心に立ち、良い影響力を行使できる。
似たような傷を持つ仲間が孤立していないか、しっかり目を向けることが出来る。
そういう強さと弱さのバランス感覚が、眞己というキャラクター、彼を主役に据えた物語を支えているのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
『被虐待児である』という聖痕が、彼の成功を支えるって語り口になると最悪なんだが、眞己の視野の広さ、手を差し伸べる強さは”弱者”だけの特権ではないことは、ちゃんと書かれている。
部活のボンクラ共は、無神経なクソガキなりに優しくて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
新しい装いに身を包んだ二人を、御杖さんはピシンと手を払うし、柊真も体を張って嘘を付く。
弱い立場なり、気と体を使って繊細なものを守る描写が、今回特に多いのよね…。
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御杖さんが注意をひきつけている間に、偵察は成功裏に終わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
話がこじれて、手が出そうになった瞬間眞己がカバーにはいるのは、暴力が彼にとって切実なのだと思わされ、かなり痛い。
生け垣の隙間から未来の勝利を”見て”も、見落とせないものもあるのだ
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ボンクラ共も、生け垣の角から御杖さんの奮戦を”見て”いる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
真っ白な靴が踏みにじられ、汚されても。御杖さんは男子テニス部に勝ってほしかった。なんの役にも立たない、バカみたいなことに夢中になってる連中の役にタチたかったのだ。
その誠心を、バカ共が見落としてないのが俺は嬉しい。
御杖さんはずっと隠してきた思いを、スケッチブックに乗せて櫻井先生に見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
突っ張ってた自分を少し緩め、”大人”にこれからどうすればいいか尋ねる気持ちになったのは、彼が男子ソフテニ部の顧問だからだろう。
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御杖さんはずっと側で、悪態つきつつボンクラ共の闘争を見守ってきた。もう一度立ち上がったガキのために、色々頑張ってくれてる先生も見てきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
そういう人だから、凄くナイーブな本心を預けても、自分をちゃんと見てくれるという信頼が、御杖さんにはあったんだと思う。
スケッチブックの中身を見た時、ありえないほど号泣してしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
関係ねえ、興味ねぇ。
ニヒルな態度で自分を鎧っていた御杖さんが、”絵”という自分だけの領域に必死に刻んでいた、大事な夢。
生き生きとした線は、彼女が良く”見て”いることを示す。
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御杖さんは競技初心者の質問役としても、絵空事に自分のアイデンティティを預けるナードとしても、視聴者に近い立場にいるキャラだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
同時に、製作者に近い立場なのかもしれない。自分の本気を絵空事となじられたのは、赤根監督の実体験かもなー、とか邪推もする。
御杖さんの真摯な問いかけに、先生はどう答えたのだろうか。描かれるかも知れないし、想像に任されるかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
願わくば、子供の震えをしっかり見据えて、一足先に子供を終えた(ことになっている)存在として、優しく強い言葉を預けてあげて欲しいと思った。
そして眞己も、御杖さんの震えにしっかり目を凝らす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
『心が弱っている時は、腹いっぱい食おう!』
自分が編み出したサバイバルメソッドに、他人を巻き込んでいく眞己の優しさ。それを飛鳥くんも、柊真もしっかり”見る”。視線は広がり続ける。
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ここで終わってくれればホッコリいい話だが、青春戦線は常に、苛烈な課題を突きつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
暴かれたクローゼット。袋に隠したウィッグと服。
Xであり続ける自分を探す真っ最中を、母は許してくれない。
『いらない』って…そんな哀しい言葉言わんでくれよ…
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簡単に暴き立てて、個人の柔らかなアイデンティティを踏みつけにする事もあれば、必要な相手と必要な時にプライバシーを守って公開されることもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
性自認というナイーブな問題を、どう扱うべきか。
クローゼットの中身に、どう目を凝らすべきか(あるいは見ないべきか)
飛鳥くんが女装して、『本当の自分』を見つけて終了! とならなかったことに、僕は結構安堵している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
その悩みは新しい衝突を連れてきたから、両手を上げてOKって話でもないが、曖昧であやふやなXのまま自分を探す自由を、作中のキャラクターにこの話が許したことは、とても大きいと思う。
未だ自我が固まらない、柔らかな思春期。それをそのまま掘っておいてくれるほど、世界は優しくはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
『これが正しいの!』と”マトモ”を押し付け、当惑する子供の顔を見ない”母”たちの残酷。
否応なくそれに晒されつつ、それでも肩を寄せ合い、波風から仲間を守る子どもたちの震え。
そういうものが切り取られた、決戦前の群像でした。いやー…色んな事があったなぁ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
一つ言えるのは、『お前らマジで立派』。
一人ひとりが抱え込んだ弱さに目を向け守りつつ、クローゼットに隠しておきたいものを無理矢理に暴きはしない。
強さと優しさを”大人”の条件にするなら、もう合格よ…
しかしそういうものを魂の奥に秘めていても、大人は判ってくれないし、生きるのに十分なほど強くはなれないし、揺れるしこえーし痛いのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
そういう複雑さが共鳴しながら、思春期は疾走していく。残酷でありながら優しく、理不尽でありながら憧れと夢を宿す。そんな、現実という劇場。
そこで一体、どんな物語が展開するのか。波風はいよいよ高く、決戦は迫る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月29日
いいエピソードでした。今回投げかけられた、それぞれの問いと迷妄に何らか答えが出ると、とてもいいと思います。アイツラ必死に生きてるから、報いてやってくれ…。
そんな感じ。来週もマジで楽しみ。