歌舞伎町シャーロックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
モリアーティの影を追い、奈落に落ちていくシャーロック・ホームズ。
ワトソンは彼の手を掴まんとひた走るが、ボンクラ助手じゃ手に負えない。
『あっしには関りのねぇ、終わった噺でござんす』
世間に吹く木枯らしに、皆が身を任せる。
でも…本当に終わったのか?
そんな感じの、歌舞伎町放浪記である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
名探偵も助手も、モリアーティの喪失に耐えきれず迷う。関わり合いはまっぴら御免と、賢しら顔で皆が背を向ける。
それでも、確かにあの物語は嘘ではないから。
失われていくものに、なにか手を差し伸べたい。
そういうワトソンくんの情が皆を繋ぎ、ホームズを奈落のこちら側に繋ぎ止める。探偵としての権能を回復させて、人殺しにはなれない自分を思い出させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
ヒビの入ったポットは、助手の肩から流れる血潮でなんとか補修された。
悲しみや喪失や裏切りと裏腹な、暖かな情を認めることで。
そんな感じの、長いリハビリである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
ワトソンくん(とアイリーン)の献身が、ホームズを呼び戻す描写が目立つけども。
その実、天性のサークルクラッシャーとして自分の居場所をぶっ壊し続けてきた、ワトソンくん自身も己の業を乗り越え、誰かを繋ぐ一歩へ踏み出す話であったと思う。
Web上のフィクションに逃げ込んでいたワトソンくんは、ようやく自分の思いに向き合い、ホームズに追いつく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
しかし壊れかけの探偵は素早く逃げ出して、消えたモリアーティの影を追う。
犯罪の奈落に身を投げる輩を、追いかける余力はない。
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諦めかけるアイリーンを、ワトソンくんは必死に繋ぎ止める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
生身の顔を向け、真っ直ぐな瞳で見据えるワトソンくんの描写は、これまでも、そしてこれからも積み重なっていくだろう。
愚直で真摯な存在感で、諦めずに追い続ける。それが彼のスタイルなのだ。
この真っ直ぐさはマイクロフトにも、長屋の連中にも投げかけられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
忘れたい。諦めたい。最初から、アイツラは怪物だったんだ。
そう思いたがる生存者たちに、憶えていること、諦めないことを押し付けてくる。ああ…この直球なウザさが環境壊してきたのね…。
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『お兄さんと呼ばれる筋合いはないッ!』と、求婚コントをマイクロフトと演じもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
”ピンク”のエプロンといい、おさんどんなお仕事といい、この作品のワトソンくんは無自覚なクィアとして描かれ続けてるよなぁ…パイプキャットの露骨に隠した、もう一つのゲイネス。
さておき、ジャックとモリアーティで痛い目見た長屋連中は、もうホームズにもモリアーティにも関わり合いたくない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
遠いイギリスから引用され、歌舞伎町の悲惨を浮き彫りにした事件。その想い出を遠ざけることで、浮世の忙しさに身を沈めて、全てを忘れて過ごしたい。
タイトルにある”歌舞伎町”と”シャーロック”が分断しかかる危機を、ずっと”マトモ”だったワトソンくんは諦めない。先週ちょっと揺らいだが、アイリーンと金子の親分が頑張ってくれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
過剰に正しく清潔であることは、つまり異常ということだ。ワトソンくんの煙たい真っ直ぐさは、今回も上手く描かれる
一方ホームズは薄暗い裏道…かつてモリアーティが迷い込み閉じ込められ、アレクが殺された狭い檻に迷い込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
そこは人間のどうしようもないカルマが吹き溜まる場所で、確かにモリアーティはそこにいた。囚われ、沈んでいった。
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だから再会を信じて、ホームズは裏路地に身を投げていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
しかしそこだけが、世界の全部じゃない。狭苦しい裏路地からも、青空は見える。
それは今回だけでなく、モリアーティが存命だったときも静かに切り取られた、世界の有り様だ。https://t.co/9U8zWSb8E8
殺人、狂気、裏切り。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
世界の薄暗い側面は、あまりに強烈にまぶたを焼く。
それだけが真実だと思いつめて、影に近寄るホームズの思いも。背中を向けて忘れようとする、長屋の面々の自衛も。
人の反応としては納得できるものだ。
しかしワトソンくんは、その両方を見た上で”正しい”事をいう。
笑顔も悲劇も、背中合わせにそこにあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
片方だけが真実なのでも、片方だけが嘘なのでもなく、血の通った情と信じたくない重たさを同居させて、あの人はそこにいた。
終わってしまった後でも、それを嘘にしたくないから。
なにか出来たのだという後悔から、目を背けたくもない。
そんな真正さは、世間ずれしたイーストの住人にはあまりに眩しい。目を眇めて、身を躱してやり過ごしたくなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
ここは泥まみれ、修羅の巷。正直者がバカを見て、良いことなんてなんにも無い。
それでも活きなきゃならないんだから、忘れるのが賢いのに…。
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メアリは真っ直ぐすぎるワトソンの生き方を、イーストの住人らしく斜に交わす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
かつて繰り返してきたように、自分を取り巻くサークルを壊しかけるワトソンくん。
『ビンビンになるやつ』を優しく差し出してくれるハドソン婦人は、ズレてるけど本当にいい人だ。ズレてるけど…。
思うにワトソンくんの働きかけは作中だけでなく、ショッキングな惨劇を体験した僕らにも投げかけられている気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
ノンキで楽しい、下世話な”歌舞伎町シャーロック”が好きな皆さん。
ジャックで血みどろ、モリアーティで凄惨、裏切られた気持ちもあるかもしれません。
でも薄暗い惨劇と背中合わせに、明るく楽しい笑いがあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
何もかも嘘ではなくて、たった一つの狭苦しい真実もなくて、色んな顔がごたまぜに入り交じる人生劇場が六ヶ月続いてきた。
だから、”歌舞伎町シャーロック”の全部を、もし良かったら憶えていて欲しい。
そういう、作品視聴の全体を肯定できるような足場を、ワトソンくんは今回必死に走って整えてくれてる感じがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
視聴者に寄り添った…というと綺麗過ぎる言い回しだけど、自分たちが作ったものがどういう感情を呼び覚まして、どうケアするべきか考えながら創作してる印象。
そういう視線は”癒やし”に甘えることなく、人生の無情が与える傷、喪失が生み出す奈落にもしっかり向く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
”隊長”を失ったイレギュラーズも、東西の境界線で嗤うホームズも、モリアーティを飲み込んだ滝壺に惹かれている。
そこにこそ、失われた真実があるのだ、と。
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モリアーティを喪失して以来、探偵としてのホームズはなまくらだ。発振器にも気づかないし、偽手紙にも簡単に騙される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
色んな意味で、ホームズは自分を見失っている。
その背中を必死に追うワトソンくんは、ウザいほどに眩しい。だから、長屋の連中も思わず、目を向けてしまう。
自分の足で現場に向かい、モリアーティの喪失を確認する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
そこには誰もいなくて、モリアーティは死んだ。幻影を振り払って現実を見るのは、しかし過去を消し去るのとイコールではない。
割れたポットをひた隠しに、仮面で覆った楽しい日常。
ああ、嘘さ。
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でも確かに、”それ”はあった。裏切られ、傷ついたとしても、殺人鬼は笑顔で生きていたし、死者は己の足で歩いていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
それを消し去ることは、やっぱり出来ないのだ。
だから、飲み込んだ上で前に。狭く暗い隘路を抜けて、光の在る方に。
メアリならずとも、ポジティブすぎてうぜぇ。そして正しい。
ホームズは釣り上げられて、かつてモリアーティが落ちたライヘンバッハへ足を踏み入れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
奇人、変人、人間未満。そうやって冷たく線引し、銃を突きつける諦めに、ホームズは銃を突きつける。人殺しに落ちることで、モリアーティを再獲得しようとする。
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その幻想を、まーた体を張ってぶち砕くのがワトソンくんの仕事である。ほんとに君は、よく刺されたり撃たれたりするね…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
同じ場所で、同じように体を張って繋ぎ止められなかった、もう一人の友だち。モリアーティの二の舞はゴメンだと、血で命の値段を教える。
君のポットは、まだ割れちゃいない。
それはアレクがジェームズに祈り、無惨に踏み散らされてしまった願いが叶う瞬間なのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
あるいは、獄中の親友のために”落語”という、自分のいちばん大事なものを預けたホームズ自身が、滝に落ちかけた自分を救う形か。
借りたものを返し、思いに応える。思いを伝える。
そういう人間性の欠片だって、やっぱりモリアーティにはあったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
ワトソンくんがホームズに向き合って、罵詈雑言に晒され血を流しながら必死に教えることで、変人探偵は滝壺から帰ってくる。
手渡されたのは、カタバミの葉。無残に散って、散りきってはいない。
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ここはキレーに誤読した所で、自分は見事にいびつなクローバーだと思ってました!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
ドヤ顔で誤読を垂れ流してた証拠もウェッブに残ってしまうので恥ずかしい限りだが、まぁこのいびつさもまたモリアーティの真実であったと…ダメかな?https://t.co/IA5A6JtuOH
野球の変化球撃つのと同じで、アニメ見るのも手元に来たときじゃ遅くて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
ある程度なれてくると、先の展開を予測し、シーンに刻まれた象徴を解きながら受け入れ体制を作っていくモノだと思います。少なくとも、自分はそうです。
しかし作者ならぬ見るだけの立場は、見落としも誤読も当然生み出す。
そしてカタバミの真実は、わざわざここで言及するってことは狙った罠でもあって。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
クローバーとしか見切れなかった自分の不鮮明は、逆に作品と仲良く付き合えた証拠なのかなぁ、などとも少しは思う。
まぁ恥ずかしいんだけどさ…なかなか難しいよね、決め打ちの先読みって。
とまれ、実兄を撃たせなかったこと、自分を撃たせてなお死ななかったことで、ワトソンくんはモリアーティの亡霊から、ホームズを取り戻す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
死人との三角関係は、こういう荒療治でもしないと抜けきらない、という話であろう。
『最後に愛は勝つ!』と言い切るには、モリアーティ側も”愛”だからなぁ…。
事件の裏には、血の通った人間がいる。己の不遜を、本気で怒ってくれる人がいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
その実感は、今回急に生まれたものではない。
ボンクラ助手と二人三脚、汗をかきかき走り抜けた中で、ホームズは変わった。それもまた、ワトソンくんの献身が取り戻させた、大事な荷物なのだ。
かくして一件落着! と思いきや、滝壺から湧き出る犯罪王の遺産。モリアーティが去ってなお続くミステリは、一体どんな真相を隠しているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
『それを探らなきゃ噺が納まらねぇ!』ってんで、探偵長屋の助けを借りて、ワトソンとホームズは歌舞伎町へ走る。
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ワトソンくんのウザい熱意が、過去を忘れ現実に醒めようとしてた長屋のバカを動かし、探偵達を送り出す流れは本当に良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
やっぱ”みんな”でなんかするシーンがぶっ刺さるのは、シッカリお話作ってきた証拠だよね…。
愚痴も持たれるし文句も言うが、いざとなったら確かな絆。探偵長屋此処にあり。
アイリーンが高性能ダッチワイフ背負って囮を務める姿が、異常に格好良く見えるのも。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
いつものペロリンスマイルがメアリに戻って、かつて刺したワトソンくんの傷を直してくれるのも。
トンチキなはずなのに、凄く分厚い感慨が仕草に宿って、『ああ、終わるんだなぁ…』と思ってしまった。一話早い!
過去話との呼応を、あんまベタつかずにサラッと描いて余韻を作る上品さが、この作品の強さ(の一つ)だったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
太くぶっ刺すところはシッカリ刺すんだけど、さり気なく魅せもする。そういう情報量のメリハリ、感慨の作り方が巧妙だったのは、とっても良いところだと思う。
死者の怨念に囚われ、現実の妄念に縛られ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
とかく生きにくいこの浮世は、まるで薄暗い回廊。しかしその先には、確かにかすかな明かりがある。
物語の行き着く先は、我らがホームタウン、歌舞伎町イースト。さて大トリのお話は、一体どうなることかしらん。
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そんな感じで、非常に爽やかに最終話へと繋がる、良い滑走路でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
キャラが迷ったり、戸惑ったりする歩みに歩調を合わせて、どっしり丁寧に物語を積んでくれるスタイルが、最後まで乱れず堅調。それが僕らの思いを背負って、作品に入れてくれる強さ。
このアニメの良い所が、よく出ました。
モリアーティが手招きする死の国へ、引きずられるホームズ。その手を必死に掴んでウザく引き寄せたワトソンくんが、見事に”勝つ”話でもありました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
そうすることで、彼はなかなか上手くいかなかった自分の過去にも”勝った”のだ。多分それは、忘れてしまうより立派で、豊かな決着なのだろう。
そうして足場を整えて、向かうはライヘンバッハの爆心地。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月21日
全てが虚無に飲まれたと、諦めたくなる作品の中心に、落語探偵はどんな”噺”を見出すのか。皮肉屋はどんな遺産を残しているのか。
泣いても笑っても、”歌舞伎町シャーロック”最後の幕。
一足早いが言っておく。いいアニメだった。ありがとう。