憂国のモリアーティを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
シャーロック・ホームズに迫る、罪の蜘蛛の巣。十重二十重に張り巡らされた謎を、諮問探偵は鋭い叡智で突破していく。
その先に待つ、最大の罠。
名探偵は果たして、探求者としての資質を闇に示せるのか。
…あるいはそれこそが、血みどろ芝居の目的か。
そんな感じの、A Study in Consulting Detectiveである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
ホームズとワトソン最初の事件たる”緋色の研究”の変奏としても面白かったが、モリアーティ視線で原典を書き直していく『語り部としてのホームズ』を試験する構造が、とても興味深かった。
シャーロック・ホームズの物語はワトソンくんの手記という、虚実の境界を一つ曖昧にする仕掛けを背負って世に出ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
この作品は主役善悪を逆転させつつ、そんな原典の構図に『モリアーティの事件を解決し、世に問うホームズ』という機構を、さらに挟み込んだ。
”モリアーティ”の犯罪が個人的な憂国という、ひどく矛盾した信念に支えられている以上、それは常に社会変革を志す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
つまり自分の犯罪が世間にどう受け止められ、どう世間を変えるかが、犯罪そのものよりも重要になる。推理される真実よりも、広報される事実が大事、というか。
そんな彼らの広告塔は、自分たちとは真逆に清廉で、謎を好み、同様に賢いものがいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
悪魔の方程式を完成させる変数Xとして、ホームズが的確か、否か。
諮問探偵最初の事件は、最後の事件で出会うはずの黒幕が用意したテストであった。全ては、運命と謀略に仕組まれていたのだ。
こういう伝奇の構図がビビッと完成するのは、非常に面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
悪を誅するために悪を躊躇わない、人倫の踏破者を主役に据えた物語はどこに”正しさ”があるのか迷いがちになるが、そんな視聴者を支えるカウンター・ウェイトとしても、粗暴ながら人情家、信念に満ちたホームズ像はいい感じだ。
”モリアーティ”の兄弟は邪悪に魂を焼くことで繋がったが、ホームズとワトソン君は銃を向け合うことで信念を共有する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
どれだけ魂が欲しても、掴んではいけない罪はある。
そう”正しく”思える二人が、既にその一線を越えた主役たちにどう踊らされ、どう噛み付くか。
変数Xは読みきれない。だから面白い
よりにもよって史上最初にして最高の探偵を、自分たちの計画を世に告げるメッセンジャーとして選んだことが、”モリアーティ”の劇場にどう響くのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
善悪の岸で対峙する両雄が、堂々舞台に乗った感じもあり、大変盛り上がってきた。
やっぱ、キャラが立ったライバルは大事だなぁ…。
というわけで、当代のホームズは手癖も性格も悪い、というところから開始である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
原典からして、手柄と引き換えに謎を摂取する超変人であったし、常識にも規範にも縛られないからこそ”名探偵”なのだけど。
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馬車のわだち、託したメモ、盗み取った指輪。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
ミステリを構築するべく蒔いたタネを回収し、また新たに蒔く。
映像媒体…特にアニメで”ミステリ”やるのってかなり大変だと思っているのだけど、この事件の視聴者誘導は露骨すぎず隠しすぎず、とてもいい塩梅だと思う。
おとなしく獄になど囚われない、法と常識から解き放たれた快傑に、運命のパートナーはしっかり付き従う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
あって全然時間が立ってないのに、法秩序に余裕で背中を向けてホームズを助けるあたり、ワトソンくんはワトソンくんである。
信頼構築が速い…が、爽やかな出会いが印象的で、スッと飲めるね。
新聞広告を通じ、お互いに意図を引き合う情報戦。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
”モリアーティ”はホームズを広告塔に仕立て、名探偵は謎の奥で動くものを暴こうとする。
真犯人を引っ張り出そうと、”新聞”というメディアを通じて、餌を撒き散らす。
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そんなホームズの動きは、邸宅にどっしり構えるウィリアムの影とも言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
階級構造の転覆を狙うウィリアムと、邸宅からストリートに居を移し、ストリート・チルドレンを仲間に謎を追うホームズの在り方も、また対比的…であると同時に、妙に響き合う。
共に階級社会の歪さには気づいていて、下層民に対して偏見なく接している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
しかしホームズが追うのは謎であり、”モリアーティ”が求めるのは国だ。
『”可哀想な子供達”を助けよう』なんて考えていない身勝手な興味は、しかし目的のために手段を選ばない犯罪より、適切な救済かもしれない。
”モリアーティ”の犯罪劇場が、個人の生き死にや当事者の視線を越えた、高い目線からの”憂国”なのは気になっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
彼が下層民に犯罪を手渡す仕草には、同情はあるが平等はない気がする。ホームズとイレギュラーズの関係にある体温が、そこにはない。
”憂国”の大義とは、そういうものかもしれない。
その冷たい巨大さが、モリアーティに毒となるか、武器となるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
そこら辺も気にかかるところだが、まずは最初の事件を解決してからであろう。
指輪に刻まれている情報を、かなり的確に読む。やっぱこのワトソンくんは優秀だ。
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ホームズは得意のバリツで陰謀の影を追い詰め、反撃を食らって泥に塗れる。その地べたな感覚は、優雅なる”モリアーティ”にはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
乗っ取った邸宅から出ないまま、下層民のため(あるいは自分のため)世界を転覆させようとする犯罪相談役。
泥に塗れ、自分の興味を追う(と同時に正義を為す)諮問探偵
二人の在り方は、こういう部分でも対照的である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
正直体張ってるホームズの方が僕の好感度は高いけど、この体温をどこまで計算ずくで自分の”憂国”に乗せれるか、ウィリアムの手並みも楽しみである。
伝説の名探偵は謀略の傀儡か、はたまた計算を跳ね飛ばす暴れ馬か。興味深い視線が、作品に芯を生む。
かくして名探偵の超絶推理は全てを見通し、運命の馬車に二人は乗り込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
常人を飛び越えた思考力で裏を読み、情報を集め、状況を作る。名探偵の気持ちいい部分がギュッと詰まっていて、ケレンに満ちた良い見せ場だった。
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謎を掘り下げるためなら、殺人者の操る馬車にも乗る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
そんなホームズの姿勢は、”モリアーティ”の生み出す犯罪にあえて乗っかる今後にも重なって、ちょっと面白い。
その顔も名前も知らぬまま、正反対のスタイル、同等の知性で宿敵に挑む。危険な馬車に、あえて乗る。
その無謀と爽快が、がらっぱちなキャラ立てと上手く噛み合って、この”シャーロック・ホームズ”の事をかなり好きになってきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
後ろを顧みないスリル・ジャンキーな所が、話の流れに積極的に乗っかる勢いを上手く生んで、話を面白く転がしてくれる。
あんま、安楽椅子探偵じゃないよね。そこが良い。
現場に残されていた痕跡を見落とさず、独自の情報網を駆使して真相を探る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
それでも見えない謎は、直接問いかける。
銃口を乱し、計画を揺るがす人間の感情をわざわざ聞き出すのは、それが解かれざる謎だからか。
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はたまた、そこにこそ人が生み出す謎の要点があると、思っているからか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
伊達男は、簡単には信条を語らない。
ホームズが犯罪を追う時、何を大事にしているのか。
スリルと謎を相手に、危険なダンスを踊るそのステップを、支えるものがなにか。
彼は言葉にしない。だが、滲むものはある。ダンディだね
かくして”緋色の研究”の謎は暴かれ…事件は終わらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
ホームズにとってもウィリアムにとっても、事件の裏にあるもう一つの真実、もう一つの価値観にどう向き合うかが重要なのだ。
すなわち、命にどれだけの値段をつけるか。
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赤い瞳の鴉達が睨みつける中で、探偵は銃を握り、その助手も銃口を突きつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
謎を追いたい。知りたい。
ホームズをストリートにまで引きずり下ろした(だろう)信念が、人の命を奪うことはしかし、許さない。
ワトソンくんは相棒の暴挙を、自分も銃を取って止めようとする。
その真っ直ぐで正しいパートナーシップは、”モリアーティ”にはないものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
魂を焼く炎に輝きを見出し、共に突き進む。兄弟の絆、炎の刻印を共有し、同じ奈落を見つめる。
それが、この物語の主役たちが選んだスタイルだ。進むなら、とことん地獄まで。”正しさ”なんて知ったことか。
…あるいは、自分たちが握りしめた”悪”こそが国を正しい形に変えうる真実。それを真実にするために、犯罪劇場を演じよう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
どんなに意外でも、歪でも、そこにある真実をつまびらかにせんと突き進む探偵と、現実を信念で捻じ曲げる犯罪者。
ここにも、また対比がある。
疑念に満ちた緑の世界は、これまでは”モリアーティ”の誘導に従い、殺意の赤に染まり続けてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
しかしホームズ(とワトソンくん)はその誘惑を退け、堂々信念の銃弾を刻む。
俺は悪魔の誘惑には乗らない。そう、指を突きつける。
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ラストカットから判るように、決断を睨みつける鴉の赤い瞳は、そのままウィリアムの眼である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
飛び散った羽根はつまり、手が届かない場所から使い魔を駆使し、自分を値踏みする黒幕に名探偵が突きつけた挑戦状。
『お前らの企みも、この羽根のように舞い、散らす』という決意の現れだ。
石畳に刻まれた銃弾はすなわち”一線”であり、ホープが”モリアーティ”の操り人形でしかない状況にも、一撃を入れている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
手錠をかけつつも、『済まなかった』と言葉をかける。
復讐に身を投げるしかなかった苦しみを、名探偵は分かっている
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ウィリアムが『死んでもいい存在』と値札を付けた存在に、ホームズはただの推理装置ではなく、その生涯を終わらせる敵対者として、血潮の重さを知る理解者として向き合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
その対等な視線は、やはりウィリアムにはない。
ここで対置するべく、アニメは”遠さ”を強調して、彼を演出してきた…かな?
駒でありながら、自分の復讐を成し遂げてくれたウィリアムの存在を明かさず、自分の終わりを看取った探偵の望む結末も受け入れるホープの書き方も、筋が通ってて良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
名探偵と犯罪者。
宿敵と描かれるべき関係なんだが、妙に爽やかな絆を感じる。それがこのホームズの美徳かもしれない。
それが今後、長い付き合いになるだろう”モリアーティ”にも適応されるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
悪を弄ぶ者たちにも、真実に挑む者たちにも、平等に降り注ぐ光の中で、未来は不定形に揺らいでいる。
それを睨みつける、鴉の赤い視線。事件は、まだ続く。
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しかし今は、”緋色の研究”と名付けられる物語にすべてを委ねて、一旦の幕としよう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
ホームズを闇から睨みつける鴉で一旦ライトを落として、ワトソンくんが見据える光を強調して終わる運び、非常に鮮烈で良かった。
雰囲気とセンスがある情景を活かし、上手くメッセージをまとめてくれた。
というわけで、この作品が”ホームズ”をどう扱うか、良く見える前後編でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
ストリートの匂いが強く漂う人物造形、泥に塗れ犯罪の至近距離で真実を追う生き様。
独特でありながら爽やかな魅力があり、ライバルとしてもうひとりの主役として、背筋の伸びた自己紹介だったと思います。
人に寄り添い、真を追い、誠を貫く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
ホームズとワトソンくんの在り方は徹底的に”正しく”、だからこそ”モリアーティ”は己たちにかけているピースを名探偵に預ける。
揺るがない信念と、善なる資質。
それすらも計画に飲み込み、犯罪劇場は加速していく…のか?
名探偵の鋭い瞳は、悪魔の方程式をどれだけ見抜き、揺るがすのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
宿敵が登場したことで、悪がやりたい放題だった物語世界にカウンターウェイトが叩き込まれ、バランスが取れた感じもあります。
この安心感を逆用して、華麗なる犯罪を気持ちよく演出もできるしな…良い状況だ。
『”ワトソンが書いたホームズの推理”を利用する、モリアーティの犯罪』という、多重に捻れた情報戦がどうなるかも、非常に楽しみです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
発表から約150年、ミステリというジャンルも極限的に進化した状況で描かれる”ホームズ”。
このくらいメタ的な仕掛けがあったほうが、時代性がある気もするね。
かくして名探偵は事件の裏側にある謀略を宿敵と確信し、犯罪相談役の用意した緋色の試しを乗り越えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月8日
ホームズを窓口に、事件の衝撃を世に流さんとする”モリアーティ”の計算は、はたして上手くいくのか。
名探偵の信念は、悪魔の正義にどう利用され、どう乱すか。
次の事件が、とても楽しみです。