オッドタクシーを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月26日
小戸川が泳ぐ、大都会の底流。
そこには泥のように自意識がたまり、微かな傷から膿んでいく。
何者でもない子供から、何者にもなりえない大人に流れ着いて、唯一すがったのは電子の奇跡。
張り詰めたストレスがパチンと弾けて、奇縁が危険に発火する。
さぁ、ゲームの始まりだ
そんな感じの、小戸川が一切喋らない狂気の変拍子、オッドタクシー第4話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月26日
斉藤壮馬の一人舞台で、田中のありふれた惨めさ、凡庸な自意識の肥大がジリジリと積み重なっていく。
一個一個ボタンを外していくように、狂っていく運命と繋がっていく縁。
田中が革命し得なかった当たり前のみすぼらしさというのは、多分小戸川も同じ…つうか、親関係のトラウマは多分彼のほうが強烈だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月26日
しかし小戸川はシニカルな知性で奇妙な人生を乗りこなし、ラフな笑いとタフな爽やかさを見せてくれる。主役に相応しい、奇妙な分厚さがある。
”革命”を志した田中に、そういうものはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
在り来たりの挫折、在り来たりの失敗を心の底に溜め込んで、不満の出口を知らないまま不運が重なり、あるいは幸運に導かれて拳銃を手にタクシーを追う。
小戸川になれなかった、哀れな端役が今回の主役だ。
デ・ニーロ主演の名作映画に”タクシードライバー”というのがあって、おそらくこの作品が結構視界に入れてる作品だとも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
あのお話の主役はヴェトナム帰還兵であり、ある程度以上巨大な喪失があって、狂気に食われ街を駆け、拳銃を握る。
都市社会の軋みを駆ける深夜タクシーは、今作では主役の乗騎となり、後部座席の人生漫才の舞台ともなり、なかなか軽快で風通しのいい場所だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
しかし小戸川が自分の人生を駆けると、思わぬ場所で波が起こり、それはつまらない屈折を巻き込んで嵐になっていく。
”タクシードライバー”では加速する狂気の渦中にいた運転手は、この作品では車の外で鬱屈を募らせる田中が、決定的に壊れる引き金となり、狂気に付け狙われる被害者にもなっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
そこに、正当な理由はない。
グダグダと自分語りを重ねつつ、田中自身が言うように、悪いのは何よりも彼自身だ。
地下アイドルに入れあげるフリーター、バズを狙うカバ。恋を夢見るサルに、皮肉に溺れるオットセイ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
ここまでは笑って見れた現在の諸相が、今回は主役を変えて牙を向いてくる。
だが、狂気に落ちた田中がなんか特別だったのか、と問われればそんなことはない。
消しゴムと承認欲求を巡るイタい思い出も、それをボコボコに殴り飛ばす家族も、詐欺にあった心の傷ですら、ブクブクと肥満していく田中のありふれた経験と自意識を、当たり前に通り過ぎていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
自分をハメ、再びランキング一位に君臨する憎いアイツが、本当はどんな存在なのか確認すらできない凡庸さ
聞こえない声を聞き、見えないものを見つつも、完全に破綻するには至らず、狂気の種を湿った場所で温め続ける、ありふれた都市の爆弾。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
それが井戸川の大急ぎと、ドブが埋めた拳銃で導火線に日を付けられ、精神のバランスを一気に崩していく。
その壊れ方も、また凡庸だ。
マッチングアプリ、アイドル産業、ソーシャルプラットフォーム、ソーシャルゲーム。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
『貴方を満たしますよ』と擦り寄りながら、その実肥大した自意識にヤスリをかけ、人間性を追い詰めていく経済の機械は、当然田中(あるいは田中によく似た誰か)の救いになんてならない。
でも、それしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
前回酒屋でのたくった柿花の『夢見たいんだよッ!』という切実な叫びに似た乾燥と湿り気が、田中のジトツイた、笑えない語りにも満ちている。
ファンシーなキャラデザに似合わず…あるいはそれに包めばこそ描かれる、現代人の病理への鋭くエグい視線。
小戸川という、凡庸に見えて度胸もセンスもあり、自分を包囲するありふれた狂気を乗りこなしている男が主役から外れると、それが一気に圧力を増したように感じた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
急に別の話が始まった、というよりも、小戸川だからこそ耐えれたものに、特別になどなりえない田中が押しつぶされた感覚。
当たり前の挫折、当たり前のトラウマ、当たり前の狂気、当たり前の破綻。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
田中を包囲するものは凡庸な理不尽に満ちて、しかしドードーとインコの”まる”が死ぬことで、運命は繋がりだす。
狂うことで彼は異常な活力を得て、タクシーに追い散らされる脇役ではなくなっていく。
その歩みが小戸川の視界に入らない孤独なものと見えて、ホモサピエンスの柴崎と触れ合ってるのが、今後の救いになるのか、ならないのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
前回小戸川主役の物語では、一瞬のカットインでしかなった接触が、田中からドードーを奪い完全に狂わせたように。
噛み合わない会話と小さな優しさが、田中の物語を変える奇縁になってくれると良いな、と僕は思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
ラジオ越しに消費されるただの”声”だった柴崎が、小戸川の後部座席に座ってその悲喜が見えてきて、ここで孤独でありふれた狂気に唯一踏み込む人になる流れは、なんか凄く奥行きがある。
可愛い動物の外装で、すげー生臭い都市の悲哀をスケッチしていくこのお話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
第4話にして小戸川主観から外れた物語をやったことで、なんだかんだタフな状況を乗りこなしている小戸川からは見えない、黒い泥の深さが描かれた感じがある。
主客が逆転していく、目眩の面白さもあった。
ここまでは小戸川を中心軸に、登場人物それぞれの物語が個別に踊り、また繋がっていく面白さが描かれてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
田中のありふれて歪な視線を借りることで、小戸川も主役として特別に、物語が重なり合う不思議と不気味に切り離されているわけではなく、街の一住人でしかないと突き放していく。
物語はまた小戸川を軸に取り戻して、アイドルとロマンスにまつわるドタバタ劇とか、最終的には運だとしても手の届く範囲ではやり切りたいコメディアンの物語とかを、タクシーに乗って追いかけていくのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
その時、田中の狂気と拳銃がどういう乱入を仕掛けてくるのか。
新たなサスペンスが、物語にしっかり注ぎ込まれる回でもあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
小戸川の視線には田中は映ってなくて、だからこそ余りに不幸な接触が全てを狂わせていくのだが、その裏に流れている在り来たりな限界点を、僕らは今回見てしまった。
それは唐突に見えて、奇妙に繋がりあった人生のタピストリ。
それが動物園めいた戯画ではなく、ひどく生臭く重たい質感をもってることを、田中のありふれた逸脱はジクジク痛ましく届けてくれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月27日
小戸川のキャラに救われ誤魔化されているが、このお話がより濃く捉えてるのは多分、今回描かれた凡庸な狂気の影だろう。
次回も楽しみ。