Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
笑顔の奥で愛を貪り、我欲に踊る金鉱族の夭精・寶。
天界の住人らしからぬその生き様は、何処から来ているのか。
一族の宿命、愛という名の鎖、貪欲に溢れる命の糧。
綺麗事じゃ腹は膨れない。だが、心ならば…?
そんな感じの寶回、Fairy蘭丸第5話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
ここまでしれっとルール破りまくり、女喰いまくりの極悪っぷりを見せてきた彼が、唯一”大人”である理由が判るエピソードだった。
人として生きるためには、食べなければいけない。嘘で固め、正しさに背を向け、愛を裏切っても。
欲目と義務がないまぜになった、あまりに生臭い金鉱族の宿命。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
身を捧げてまで己を…金鉱族正統継承者である宿命を守ろうとした、母の愛なる鎖。
人当たりのいい笑顔で自分を守りつつ、非常に重たいものを抱えた男は、愛と金に縛られた女の魂を優しく抱く。
覆せぬ運命などないと、牛馬を放り投げ心を輝かせる。その強さはしかし、悪党に悪党を食わせることでしか正しさに繋がらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
一時繋げた縁は泡沫と消えて、今日も抱きしめた温もりの残滓が、優しい男に哀しく匂う。
どれだけ思いを繋げても、泡と消えるのならば、本気になんてならない。
『そういう生き方を、ずっと続けてきたのかなぁ…』と想像させられる、エロティックで純情で、生臭くも爽やかなエピソードだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
酸いも甘いも噛み分けつつ、『しょせん世の中こんなもん』と諦めきれない半煮えの感覚が、しっとり情を宿し良かった。
”昭和テイスト”が、ただの題目イジリになってない
というわけで、”F”の食事担当寶さん回はご飯のエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
己をやつれさせながらも子を養う猫に、寶さんは自分の過去を重ねる。
我欲、裏切り、腐敗、貧困。
解っちゃいたが、夭精界もけして楽園ではない。
(画像は"Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~"第5話より引用) pic.twitter.com/IWqdBikLR8
食わなければ生きていけないからこそ、地上に降りた夭精たちはカレーに飽きる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
最初は『人間は食わなきゃいけないからめんどくせーな』と言ってた彼らも、すっかり塵界の定めに、”もっと美味しいもの”を求める欲目に慣れてきている。
だからこそ、不意に訪れた『いつもと違うご飯』に喜ぶ。
男の園であり、正体を隠す夭精の根城でもある”F”に女が入り、食事を作る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
それはあくまで一瞬の夢であり、永遠に続くものではない。心を救えば記憶が消える、抱き合えない定めの人間に、夭精達の”母”は務まらない。
それでも、彼らはいつも同じ餌以上のものを求めた。
寶がカレーを作り続けるのは、自分が『食べたくても食べられない子』だったからであり、命の糧がどれだけ重いか、既に知っているからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
粗末な粥を子に伝えるために、母はやせ細って死んだ。抱きしめる手は、しかし無条件の愛を宿してはいない。
そこには一族復興の願い、”13号”である自分の子供が王となる夢が抱きしめられている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
無論、母は子を愛していた。そうでなければ、餓死するほどの衰弱には耐えられない。
だが、それは寶それ自体を無償で愛することを意味しない。
正統後継者であり、父の子である息子。
寶の存在それ自体に否応なく付随する、社会的立場と宿命をも、母は衰えた腕で抱きしめていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
それは愛であり、夢であり、尊いものだからこそ跳ね除けられない鋼の鎖だ。
寶はそこから流れ流れて、愛を貪りながらも何処か純朴に、女達の間を彷徨っている。
求めれば、限りはない。愛はなくとも、その結晶は生まれてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
”餓え”を魂に色濃く刻まれた寶が、純粋な蘭丸の問いかけに答える背景では、可愛いバックがスイーツを貪っている。
無邪気な動物ですら、足りるということを知らずに貪欲するのだ。いわんや、人間と夭精おや。
稀有なる男子を継ぐために、義務のように行われる生殖活動。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
愛を偽り金を引き出す、寶の”お仕事”とはまた違う後輩が、金鉱族のしきたりには刻まれている。
その結晶として生まれた自分は、本来和合し慈しみ合うべき女を、貪り食い尽くす”餌”としか見れない。
そう自嘲する寶に、蘭丸は(これまでと同じように)『本当にそうかな?』と問いかける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
愛は嘘、愛は欲。
そんな汚れこそが真実だとうそぶき、汚れてしまった自分を守っても、確かに愛が子を産み、育む事実がある。
自分たちがたどり着けないとしても、正しいことは世に確かにある。
蘭丸がこの”正論”を紡げるのは、彼が何も知らない子供だからだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
食、金、性という本能に強く結びついた、むき出しの”生”を生き延びてきた…”汚れた”寶には、そんなキレイな夢を見る権利はないのだろうか?
猫はなぜ、頭を撫でられて怒りの顔を見せたのだろうか?
子を守る母は、時に修羅となる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
猫の形相は自分を抱き、縛った母のもう一つの顔でもあろう。
同時に猫は、酸いも甘いも噛み分けた現実主義の仮面で、胸の奥に宿る輝きを誤魔化してる寶の鼓動を掌から感じて、嘘に怒ったのではないか。
僕は、そんな気がする。
寶さんは奇縁で触れ合った女に、己の影を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
弱った親を抱え、己を捧げる献身に惹かれるのは、無力なまま母を死なせてしまった過去への償いか。
弱い女に優しくすれば、強い自分を取り戻せるのか。
(画像は"Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~"第5話より引用) pic.twitter.com/0pHjoRwOdP
そんな冷えた視線も、この段階で寶の瞳には宿っている気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
彼は非常に頭のいい男で、銭と欲が渦巻く世界のルールも、それに流され抗えない自分も見えている。
それでも、諦めきれないからふらつく女を支えた。この時、ダンボール越しで生身を掴んでいないのが、寶らしいと思う。
女抱いてナンボ、よがらせ嘘ついてナンボ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
そういう汚れた生き方をしている彼が、自分の過去、失われた母の面影を抱きしめる時は直接身体を掴まない。
『抱いてください』の自棄っぱちを、『そういうんは、好きな人にとっておき』と、優しく跳ね返す。
溢れ出る性欲に、女を抱き潰す獣ではない。
むしろ己の強すぎる腕で、幽く咲く夢を抱き潰したくない願いが、彼が(顔と名前のある)女を扱う時には色濃く香る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
これは弱者に嘘を付き、銭の迷宮にハメる今回の加害者と、対照的なポイントである。
しょせん畜生界と世の中をすがめつつ、開き直って獣に落ちるか、人の矜持を残すか。
擦り切れた果てに、かすかに夢を残している寶に対し、青春ど真ん中のピュアボーイは直球勝負である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
焔くんさぁ…『俺は反対だ!』とか言ってた人だよ?
その、キミが理不尽な目に苦しむのが見てられなくて、思わず手を伸ばして守っちゃった女は。
これだから、焔くんは信頼できるね。
純情少年が我慢ならずに伸ばした手は、銭の鎖で縛り付ける悪党には通用しない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
大人はこういう時、モノをいうのがなにか知っている。
だから寶さんは、迷わずお金を差し出し、我利我利亡者を追い返す。そういう対処法を、生き延びる中身につけたのだろう。
その直線的な現実主義が、子供らに足りない部分を補いつつ、ひどく寂しくもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
叶うなら、母と一緒に腹いっぱい食べ、王子として玉座に座っていたかっただろう。愛すべき女を優しく抱きしめ、たった一人守りたかっただろう。
だが、現実はそう流れない。
女を貪り、毎日同じカレーで腹を満たす。
それしかないなら、それでいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
そういう諦観が寶のあり方には香っていて、しかし『誰かを愛し、守りたい』優しさも『より良く在りたい』という願いも消えずに輝いている。
一人大人びた彼の中にも、純情な少年はしっかり息をしている。だが、鎖で縛られてもいる。
女の涙を引き受けて、挑む男の土俵際。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
ピカソめいた心理空間で彼は、男の精力の象徴たる牛馬と向き合い、勝ち切る。
キュビズムに歪んだ男女の愛をこじ開け、力強い明王の形相を見せる。
(画像は"Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~"第5話より引用) pic.twitter.com/ZjfpnGtBeZ
あの牛馬が”ゲルニカ”であるなら、それは理不尽な爆撃に砕かれた犠牲の象徴でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
だからバラバラになって、『運命なんてこんなもんだ、食えないやつは食い物にされるんだ』と寶を砕きに降り注ぐ。
だが、寶はそれにひるまない。彼の胸には、輝くものが確かにあり、そこから力が湧いてくる。
それは自分の歪んだ鏡のような、異形の愛を跳ね除け、鍵穴の向こうに潜む欲の亡者を追い詰めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
『世の中、こんなもん』
口では言いつつ信じていない…信じたくないからこそ、寶は他の夭精とは異なり、追い詰められることなく”大人らしく”闘いきれるのではないか。
今回のモチーフとなったピカソは、七人の女と複雑な愛蔵を絡め、愛蔵渦巻く油地獄を展開したド屑でもあるわけだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
愛をひさぎ、嘘を売る寶が立ち向かうべき影として、非常に的確なモチーフであったと思う。
彼は鼻息荒い欲望に、歪んだ愛に、降り注ぐ理不尽に勝つ。
『諦めたくない、運命を変えていきたい』という強い思いを、既に言葉にしているからこそ、欲に満ちた地上に落とされても生き延びられた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
泥中から伸びる蓮のように、薄汚れて見えた”大人”の胸には、不朽の理想が輝いていた。
だが、それは諦めの奥に隠されてもいる。
心を繋ぎ救った女は、寶のことを忘れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
親子の窮地を助けたのも、蛇を喰う蛇の道の手管だ。
善人は救われ、しかし複雑怪奇な欲の絡み合いは解けず、人の業は世界を満たしている。
(画像は"Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~"第5話より引用) pic.twitter.com/URufKAalaC
寶は本物の”餓え”を知らないガキ共の文句を笑顔で受け流して、今日も女に嘘を付く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
そうしなければ、生きられないから。
自分が抱えた重い過去を、仲間に語ることは殆どない。
そこに、生存者としてのプライドと切実さが、かすかに滲む気もする。
俺はあくまで飄々と、現実を乗りこなし女を食い物にする強さがあるのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
そんなセルフイメージを守ることで、彼はあまりに残酷な宿命から自分を守り、立ち向かっている感じもある。
だが、蘭丸相手には過去も語る。そうさせる”何か”が、白紙の少年にはあるのだろう。
愛著さえ上げれば、十訓破りもお咎めなし。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
女王様相変わらずの現実主義が鈍く光りつつ、各キャラ個別回を終えて折り返しである。
だんだん影のヴェールが薄くなってきてるシリウスくんが、そろそろ本格参戦する頃合いかなぁ…彼が戦いを見守りながら言う言葉は、人間の真実を確かに射抜いている。
カレーに飽き、罪を抱えて闘う”人間”でしかない自分に向き合う深さは、夭精それぞれで異なっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
炎のヒロイズムに、戸惑いつつ進むもの。
規律の鎧で、自分を縛るもの。
無邪気なる悪の、意味をまだ知らぬもの。
擦り切れた理想を、それでも胸に輝かせるもの。
そして、白紙の純情を抱えるもの。
それぞれの人間性が五話で描かれ、一筋縄では行かない作品世界も解ってきました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
愛が鎖となり、凶器ともなるこの現世で、宿命を跳ね除ける強さはどこにあるのか。
何を救い、何が救いとなるのか。
『やっぱ真面目な話だなぁ…』などと思いつつ、次回も楽しみですね。
追記 綺麗は汚い、汚いは綺麗
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
恋をすればセックスもする。そうすれば子供も出来る。
甘っちょろい恋愛ファンタジーの奥にある、否定しようのない生の摂理に真っ向から向き合い、義務と愛の結晶として生まれた寶にドンファンやらせているのは、とても良い描き方だと思う。
愛は色んなものを生む。未来の可能性も、独占の刃も。
善なるものと悪なるものはピッタリと張り付いた双子で、どちらかだけを切り離すことは出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
母は寶を、間違いなく愛していた。父のことも。
だがその愛は鎖となり、個人を超えて種族の再興を望む空疎な重荷を、寶の心に背負わせてもいる。
愛されて生まれた王子のはずが、流れ流れて汚れた女衒。
あるべき自分と今ある自分のギャップが、寶のシニカルな態度の根っこにもあると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
その表れが『愛はなくとも子はできる』という、ひどく生臭く詩的なセリフなのだろう。
それは『愛あればこそ子ができて欲しい』という祈り、それが自分であって欲しいという願いと、多分同じなのだ。
そういう複雑で裏腹な、人生の諸相が色んな所に宿ること。寶というキャラクターを通じて、その視野に”性”をタブー視することなく入れていること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
それが、とても良いアニメだと思う。
我々は食べ、セックスをする存在なのだ。
その穢れた(とされる)身体性から始めなければ、理想なんて描けやしない
寶の擦り切れた”大人”としての姿…その奥に眠る少年の輝きは、凄く大きなものをこの作品に与えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月8日
一見対極に見える蘭丸の無邪気さと、通じるものを持っていると解ったのが、このエピソードのいいところだ。
皆どこかが似ていて、でも違う。だから物語になる。五人がいる意味が、ちゃんとあるわけ