MARS REDを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
関東大震災から数日、秀太郎は煉獄を彷徨っていた。
崩壊した家屋、広がる吸血鬼禍、ワクチンに秘められた毒。
鬼を狩る鬼が廃墟を闊歩する中、何をするべきかの標も、宿るべき家もない。
そんな秀太郎を、千本鳥居が優しく誘うのだった…。
そんな感じの、来栖秀太郎の導きなき帝都神曲、MARSRED第8話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
大崩壊のカオスの中でも、人は必死に助け合って生きているが、狼牙棒で武装した鬼は廃墟を闊歩し、呪いは疫病のように広がっていく。
一人になることで、覚悟なき新兵は覚悟を固めていくことが出来るのか?
まだまだS級ヴァンパイアはヌルい感じだが、”零”の日傘、仲間の支えから強制的におっぽり出されることで、主人公の背中に一本芯が入ってきた感じもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
彷徨う秀太郎の視線を借りて、震災化の帝都をドッシリ追いかけるエピソードともなった。
タフなモガたらんと張り切る葵ちゃんが、健気で切ない。
地獄めいた状況の中でお上から配布される希望にすがれば、むしろそれこそが毒。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
画面の外側の状況と、フィクションの悪行が不思議なシンクロをして、金剛鉄兵許すまじの気持ちも強くなる。
いやー…ワクチン騙って鬼増やすって、マジ許されざるでしょ…。
中島中将が『小石川で増産』と言っていたので、ワクチンの製造場所は東京砲兵工廠。この震災のダメージにより小倉に機能移転し、後楽園球場になる場所だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
国家のお墨付きで、吸血鬼を増やす策が進行中、となる。冷や飯食いのキワモノ企画に縋るほど、帝国衛士は動揺しとる、ということだな…。
中島の狂気が民草を毒牙にかける中で、秀太郎はどうするべきなのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
お天道様の下は進めない、道を教えてくれる先輩はいない。
ないないづくしの果てに、なよっちい若造が己の意思で抜いた刃は、結局かつての同輩を斬ることはなかった。
彼の覚醒は、もう少し先なのだろう。
しかし世界も物語も彼自身も、秀太郎が戦士として目覚める瞬間を渇望しているということは、崩壊した東京を寄る辺なく彷徨う足取りから良く見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
S級に相応しい覚悟で背筋を伸ばした時、この煉獄を彷徨って見たものは、秀太郎を支える信念担ってくれると思う。
物語全体を見てもジワっと進める作りだが、ここで秀太郎を『頼りない新兵』から脱皮させず、まだ迷わせる筆は非常に、この作品らしいと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
その”タメ”が凄まじい威力を出すことは、前田さんを見てても判ることなので、信頼して祖の瞬間を待つ。
一生半端モンでも、ある意味救いな気はするが…。
というわけで、秀太郎はもはや残骸しか無い月島から離れ、煉獄と化した東京を彷徨う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
大破壊の只中でも人情はあり、秀太郎は差し出された飯を地蔵に差し出す。
施餓鬼の米すら食えない、吸血鬼の宿命は切ないが、腹は膨れずとも心は温かい。
(画像は"MARS RED"第8話より引用) pic.twitter.com/XmthjowrfB
地蔵は六道果てに迷う衆生に寄り添い、正しい悟りではなく無尽蔵の大慈悲で包む菩薩だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
少年から憲兵へ、そして辻の仏へと手渡されていく握り飯は、帝都の人民と吸血鬼が、まだ人である証明にも見える。
ボーイッシュな服装で、救護に取材に張り切る葵ちゃんも、またその一人だ。
過酷な運命にも涙を見せず、地面に足をつけて走る葵ちゃんは健気である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
しかし廃墟に一瞬見つめた、幼馴染の幻影があまりに切ない。
死人の身の上を晒すわけには行かないと、超高速能力で姿を消す秀太郎が漏らした『葵…』の一言も。
東京が大変なことになって、悲恋力上がってきたなこの二人…。
かつての川辺では、夫婦の逢瀬を演出した秀太郎の移動能力が、ここでは自分自身を幻影と隠す舞台装置になってしまっているのも、また悲しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
東京は砕け、山上さんは死んだ。
何もかもが変わってしまった東京で、それでも変わらないものを探して秀太郎は彷徨う。
己の居場所、誇りの源泉であるはずの軍人が、知らず配る吸血の毒。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
この混乱を奇貨とし、中島の狂気は帝都全体に感染しつつある。
治安維持・公衆衛生のためのシステムをハックして、狂った理念を実現に近づけてるところが悪質だよなぁ…。
(画像は"MARS RED"第8話より引用) pic.twitter.com/LRxc1TUK3G
特秘存在である第十六特務を名乗っても、一般の軍人には通じない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
敬礼は帰ってこないし、恭順か殲滅かのお題目を唱えても、国家の後押しで加速した怪物たちには届かない。
人として、陽の光の下で見ていた繁栄は夢と消え、吸血鬼は一人死体の山に身を置く。
変わり果ててしまった東京を描きながら、秀太郎の寄る辺なさを演出するシーンがとても良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
それはシベリアに赴く前、葵ちゃんと笑っていた時代の夢であり、もはや無いものだ。
軍籍に身を置きつつ、彼の魂はずっとそこにある。吸血鬼になっても、自分を人間だと思っている。
それは死んで蘇った後も確かにあって、彼はチェンバロを聞きながら山上さんの残滓を追う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
人と鬼を隔てる柱は分厚く、招かれざる秀太郎はその境界を超えることは出来ない。
しかし言葉を交わし、思い出をやり取りすることは可能だ。
秀太郎はまだ、彼が微笑みながら二度目の死を迎えたことを知らない
地揺らしに崩れつつも、まだ形を保つ家と心意気。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
そこにこそ、半端なS級の居場所がある。
正規の軍人にもなりきれず、狂気の権力装置に取り込まれることも出来ず、人として光の下を歩くことも出来ない。
強くて弱い、あまりに曖昧なる彷徨い人。
それがヴァンパイアだ。
山上さんの奥さんとの対話を経て、秀太郎の瞳が少し定まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
消えた幻影を追いかけるより、傷ついた現実を自分の足で歩こうという、決意が目に宿る。
そこを無言で、表情だけで見せるのも良い演出だった。
今回はとにかく秀太郎の話で、その変化や揺れが丁寧に切り取られていく。
彼がもともと身を置いていた場所は残骸と化し、今は悪鬼の寝床である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
かつて娘を捕らえていた月島牢獄に、今は父が居座る皮肉に当てられて、ルーファスは狂気を踊る。
横浜造反以来、最悪のクズとしていい感じに剥けてるところは高評価。早く死んでくれ!
(画像は"MARS RED"第8話より引用) pic.twitter.com/SMiwfrGKiY
若き血を戦場に流さないために生まれたはずの金剛鉄兵計画は、か弱き少女たちを怪物に変えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
中島の理想はとうに破綻しているのだが、魂を歪めた鬼が己の行状を素直に認めるわけもない。
東京は鬼に満ち、それを鬼が潰し、秀太郎は刃を抜かずに、ただただ共に彷徨う。
天満屋さんが少女吸血鬼に膝を曲げ、同じ視線で情を届けられるのに対し、秀太郎は彼女たちに恐れられ、突っ立ったまま見送る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
情で動く存在としても、剣を持つ存在としても、秀太郎は半端な存在だ。
…ここら辺、生前の居候って立場とも共鳴するところかな。ずっと、彼は半端なのだ。
東京アンダーグラウンドに潜む、許されざる者たちの集落。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
急にV:tMっぽい設定が開陳されてTRPGモノとしては大興奮であるが、そこももはや鬼の住処。
壁をぶち破ってパワードスーツ兵団が登場し、番頭さんは仕込みを抜く。に、煮えたーッ!!
(画像は"MARS RED"第8話より引用) pic.twitter.com/X0MkLRyixR
問うても言葉など帰らない暴力装置に、ついに秀太郎は剣を抜くわけだが、それは敵の肉をえぐらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
紫の暴走を好機と、背中を向けて逃げ出すことになる。
ここでも、秀太郎は半端である。S級の才覚を活かした超人剣術は、またお預けであるな。
しかし秀太郎がついに刃を鞘走らせ、何に対峙するべきか自分の意志で叫んだことは、かなり大きな変化だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
彼は自分の目で、この世の地獄を見た。
そこでもなお、必死に生きようとする人々の輝きを見た。
迷い、悩むからこそ、人であることにしがみつける。
それは中島が捨て去ってしまったものであり、この後大日本帝国が炉にくべていくものでもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
もはやこの身、忠にも愛にも動かざりけり。
人としての命を月島牢獄に置き去りにした前田さんも、東京駅の聖痕に弔花と階級章を置き去りに、復讐の鬼と成り果てるのか。
ラストカットは、非常に印象的で象徴的である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
秀太郎が今回迷いの中、かすかな決意を鞘走らせたのに対して、前田さんはもう道を定めている。
拾われた命を、盲目的な忠誠に燃やすという決断は、血染めの手紙と友の死、旧きものの血で砕かれた。
もう彼は、帝国陸軍大佐ではない。
その決意を置くのが、岬が燃え果てた彼の聖地であるというのが…まぁ、前田義信という男である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
寄る辺なき秀太郎が頼りにする隊長は、すでに道を定めた。
日の下をもはや歩めぬ鬼として、民草の血を啜る悪鬼を斬る。
その歩みに、”零”の仲間たちは集うのか。
道、未だ定かならざりし。
しかし確かに、煉獄で見据えたものはある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
そんな感じのエピソードでした。
鋼の外装に柔らかな情感を詰めた前田さんと、フラフラ迷い続ける秀太郎。
対照的な二人がいればこそ、この作品の陰影は深くなってんだなー、と感じる回だった。
前田さんの存在感に負けない主張を、秀太郎が出す回、というか
見せてくるものがどう効くのか、初見では分かりづらいが、しかし気づけばジワーッと、的確に染み込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
作品の手筋が、見ているうちに心に落ちていくのも面白いこの作品、まだまだ物語は続きます。
秀太郎の定まらぬ歩みが、揺るがぬ覚悟にたどり着く日は来るのか。次回も楽しみです。
しかし煉獄というのは、行方定かならぬ亡者が天国か地獄か、己の道を定めるためのモラトリアムの場でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月25日
だから、今回秀太郎が誰も斬れず、太陽と月の中間をふらつきながらも、確かに何かを見定める歩みを続けていたのは、大変正しい話運びだ。
ウェルギリウスがいないなら、フラつきもするさ…