ゾンビランドサガ リベンジを見る
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
御一新から十五年、佐賀は地図から消えていた。
不平士族の乱が潰され、しかしまだ動揺残る場所で出会った男と女。
少年はただ無邪気に、佐賀の再生を祈っていた。
少女は寄る辺もなく、異境で必死に生きていた。
風車が運命に回る時、物語が始まる。
そんな感じの超本格ローカル近代秘史、長い付き合いになりそうな第一幕目である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
フランシュシュのフの字もねぇ、ガチンコ過去編がドッシリと滑り出して、一期からお預けだったゆうぎり姐さんの過去がどっさりお題され、まこと嬉しい悲鳴である。
何しろ首切りゾンビという結末は見えている物語だから、凄惨で哀しい流れになるとは思うのだが、普段はトンチキ超絶テンション人間やってる宮野真守がまー純情少年を好演、なんか爽やかな心の交流が始まりそうな…しかし随所に暗い気配の匂うエピソードとなった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
時は明治15年、士族反乱の口火を切った江藤新平佐賀の乱から6年が流れた頃である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
懲罰行政で”佐賀”が地図から消えたのは、芳忠さんのナレーションのとおりであるが、まぁまだ洋装の珍しい、武士の時代の気配を残した時代である。
(画像は"ゾンビランドサガ リベンジ"第8話より引用) pic.twitter.com/qOver7gqA7
吉原郭も健在で、そこで旦那衆に肌触れることすらなく伝説になったのが、後のゾンビ5号。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
ありんす言葉は吉原でしか使わねーので実は気になってたが、明治政府のお大臣に身請けされて佐賀に流れてきたってんなら、納得の行く言葉遣いである。
当時の花魁は漢詩から三味線までなんでもござれの超才女。
政治パンフレットに朱を入れるのも、お弟子を取って芸事を教えるのもどんとこいである。暴力が強いかは、よく解んない…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
しかし十九の身空で未亡人、肥前の偉いさんに手を引かれ、さらば金屏風と旅立ったものの、寄る辺なき異国の風は冷たい。
そんな所から、物語は始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
元々情景とライティングが異常に良いアニメではあるが、今回は電灯とガラス窓がない時代特有の薄暗さ、オレンジの強い照明がマニアックに再現されて、凄まじくキレてた。
そう、日本家屋は窓も小さく、全体的に暗いのだ。
なので輝り返しがぬらりと映えるように、金屏風を闇にそびえさせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
エピソードの最初、姐さん旅立ちの場面からしてそういう”時代と灯り”を重厚に描く筆先で、こういう所の考証力がこの作品…つうかMAPPAは強いなー、と思う。”どろろ”とかでも、散々暴れたところだね。
さて佐賀再生を目指す、どっかで聞いた声してる少年はとても美しいものに出逢ってしまって、二人の運命が動き出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
美しい桜と、吹き付ける風。非常にロマンティックな道具立てだが、ゆうぎりはあくまで軽妙で気品高く、泥に塗れない。
(画像は"ゾンビランドサガ リベンジ"第8話より引用) pic.twitter.com/grEBkKERvv
喜一くんが木の陰に入るレイアウトも気になるが、唐突に二人の間に突っ込む人力車もスルリと交わして、汚れるのもいとわず手を差し伸べる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
あくまで飄々、気品と知性に満ち溢れ、しかし高慢に澄ました冷たさはない。
まさに一陣の風のような涼しさが、純情少年の心を射止める。
運命に流されて佐賀にたどり着いた、はるか高嶺の花。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
喜一くんが姐さんを見初める視線は、後の”アイドル”に焦がれるファンそのものであり、ここに未来への縁がかすかに香っている。
遠いからこそ、綺麗だからこそ、強く憧れる。ちと、前回の舞々を思い出す筆致。
夫と定めたあの人のいないこの国で、風は女の方にも吹いていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
独り見つめていた夕焼けに、縁の風車がからからと回り、想いが美しい景色の中を行き来する。
未だ自然の息吹が強く残る、明治の佐賀が麗しい。
(画像は"ゾンビランドサガ リベンジ"第8話より引用) pic.twitter.com/RYWkbhJsJD
まさかの未亡人属性付与にゆうぎり業界は大荒れだと思うが、その才を敬して遠ざけられ、同じ目線で話す人もいなかった姐さんは、ようやく対等に話しうる存在と出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
あまりに真っ直ぐに、見返りもなく”佐賀”の再生を目指す男。戦の炎で傷つけられ、なお未来を夢見る志。
それがゆうぎりの過去と未来に待ち受ける薄暗がりを、まっすぐに割っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
そんな清々しく微笑ましい出会いが、実りある実りに繋がらない事を知る身としては、”風車”という美しくも何処か寂しいフェティッシュが二人を彩るのは、とてもふさわしく感じる。
どう考えても徐福なジジイがロメロ連れて、『死人も蘇らせられる~!』とか戯言吹いてるのも、斬首の末路(だけ)を知る身としては笑えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
やっぱ不死人・徐福本人なんかなー…二期のクライマックスは蘇生術に深く切り込みそうなので、その下地作りもあるんだろうな、この佐賀事変。
さて身分の差、性格の差を超えた交流は出会いを促し、喜一の佐賀復活運動も形が整ってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
檄文が漢文に必要な調性と格調を手に入れてるのが、伝説の花魁の怪物的教養を思わせ面白い。
友の念願が叶いかけ、しかし伊東正次郎の視線は不穏に鋭い
(画像は"ゾンビランドサガ リベンジ"第8話より引用) pic.twitter.com/b18hfvs2dR
薄暗い台所で、ひたりと突きつけた一撃を止める有様に、のらりくらりのボンクラ味は薄い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
ひたむきに佐賀主権回復を望むその一文に、この男が見出しているものはなにか。
太平楽な雰囲気から、にじみ出る闇は何処から来るのか。
それは先のお話…なのだが。
なにしろ『ゆうぎり姐さんが首切られて死ぬ』つう結末は知っとるわけで、平穏で麗しい光のジワジワ、不穏さが漂ってくれないと逆に困る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
喜一とゆうぎりの交わりには、何か宜しくない横槍が付きこまれて、流血の悲劇に終わる予兆が、薄暗い景色の中にしっかり、織り込まれていく。
正爾郎が盃を受ける唇もどこか油断なく、才に優れたゆうぎりはそれに感づいている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
知らぬは若人ばかりなり、ってんで、微笑ましい酒宴のはずなのにひどく、陰りが濃い。
三味線と喜一の眠りを一つの境に、座敷の空気が明らかに違う。
(画像は"ゾンビランドサガ リベンジ"第8話より引用) pic.twitter.com/tsObpIj19v
行灯がもたらす光、酒と音曲を断る男の影。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
やがて待つ破滅を予兆するように、ゆうぎりは何かに勘付き、しかし奇跡のように穏やかな日々に微睡んでいく。
数奇な運命の果てにたどり着いたこの佐賀で、ようやく捕まえた朗らかな風を、多分大事にしたいのだと思う。
今回情景が非常に美麗、かつ劇的に描かれるので、そこに独り佇む姐さんの寂しさ、それを埋める喜一の純粋がよく映える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
それに対置するように、緩みのない視線を投げる男の謎と影も。
伊東正次郎、何を隠し、何を企むか?
(画像は"ゾンビランドサガ リベンジ"第8話より引用) pic.twitter.com/IuMp5OiJuT
それは姐さんの首の行方、喜一の夢の後先と合わせて、次回以降に語られる物語である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
士族反乱の再発を危惧する明治政府のエージェントか、あるいは逆に佐賀の乱再びと狙う残党か。
手渡した文を見ると、前者かなー、って感じではある。
武士の時代が終わっても、だからこそ揺らぐ日の元の形。
国を揺るがす火種となるなら、それも断つのが政の道か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
政府のお偉方に見初められたゆうぎりは、そういう影の複雑さも知っているから、喜一が身を置く濁りのない青空ではなく、何処か寂しい風が吹く夕景に身を置いているのか。
これも、まだ先の物語である。
フランシュシュに似た人たちを置き去りに、風車を回しながら運命が吹き付けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
ガチで他メンバーの出番ここだけってのが、ガッツリ歴史大河ドラマをやりきる気概を感じさせるが、さてはてどうなるか。
(画像は"ゾンビランドサガ リベンジ"第8話より引用) pic.twitter.com/KCgPPREcWU
とまれ、ゆうぎり姐さんもとても重く美しいものを墓場に置き去りに、今はゾンビやってることが判ってくるエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
何度もいうけど、風景の作り方、照らし方が大変に良くて、優雅な所作の奥にある寂しさと喜びが、凄く力強く伝わってきた。
明治15年という時代の空気も、濃く届く仕上がりだ。
歴史深い佐賀の地域史を彫り込み、今佐賀を再生させんとする巽と、かつて佐賀を取り戻そうとした喜一の不思議な重なり合いが、時を越えてよく響くエピソードでもあります。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
七年間の地図上の空白期、ローカルな復県運動史をここで活かすの、凄くこの作品らしいな、と思う。
喜一と触れ合うことで、佐賀はゆうぎり第二の故郷となりかけている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月28日
喜一もこの国が好きだから、名を取り戻したくてあがく。
眩しく輝く、今を生きる人達の想いはしかし、風車を虚しく揺らすだけなのか。
静かに長く伸びる影は、白い首筋をいつ切り裂くのか。
物語は続く。次回も楽しみですね。