スーパーカブを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
文化祭を颯爽と駆け抜けた小熊と礼子に、山梨の冬が迫る。
寒さに震える二人を温めたのは、椎が差し出すコーヒーだった。
奇妙な折衷様式のカフェが、二人に新たな喜びと安らぎを教える。
ひどく静かにカブの速度で、秋が深まっていくのだった。
そんな感じの自動二輪青春物語、アダージョな秋景色である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
普段からゆったりと、派手なイベント少なめで進んでいく物語であるのだが、今回は特に穏やかであった気がする。
カブにハンドルカバーを付け、新しく出来た友達の家でコーヒーのんだだけだからな…だが皆さんご承知のとおり、それが良い!
こんだけイベントが少ないのに時間を使うのは、立ったり座ったりする仕草の”間”を省略せず、実際に作画して作中のリアルを埋めていくからだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
確かにそこにいる小熊達が、椅子に腰掛けコーヒーを飲み干す時間が、ゆったりと切り取られてこちらに届く。
そのみっしりした感触が、実在感を生む。
この物語で描かれているのも、アニメーターが意図して生み出した、(実は)何でも思い通りになるの世界だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
だがだからこそ、極力フィクションの”垢”みたいのを削って、生ぽい感触でどう届けるか考えながら、作品をシェイプしているのだ、と感じる回だった。
嘘は嘘でも、極力硬質の嘘を。
そうやって嘘にヤスリをかけ、あるいは現実をフィクションで磨くことで生まれる物語を、ストンと手渡されて撫でる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
『これは小熊の物語であり、僕らの物語でもある』という幸福な錯覚を、視聴体験から引っ張り出す。
そういう事ができる作品は、やはり有り難い。
というわけで、学内秩序に背中を向けたパンクス二人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
冬の寒さとコーヒーのまずさに文句たれつつ、駐輪場のサンクチュアリで飯食ってたら、前回縁をつないでちびっ子が混ざってきたぞ!
椎ちゃんの微妙な部外者感が、なかなかにグッド。
(画像は"スーパーカブ"第8話より引用) pic.twitter.com/FVTjAYyXVX
カブに乗らない椎ちゃんが、薄暗い二人の距離感に混ざりきれない状況を描くことで、椎ちゃんの領域に二人が混じり、受け入れる様子が鮮明になる
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
あんま美味しくない自家製コーヒーをここで飲んでおくことで、恵庭家で差し出された特別な味わいも際立つ。
礼子ほど接点がない小熊が、むっつり見えない壁を作って距離を保っていたのに、タダ飯食えるとなった瞬間前のめりになる浅ましさが、大変よろしい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
ないないで重しをしていただけで、かなり欲望の動物だよな、このオカッパ…。買い物も好きだし。
小熊が椎を助けたのは、カブ乗りのプライドをくすぐられた結果かもしれないが、確かに縁は繋がる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
異国の情景を切り貼りしたような、奇妙だが面白い場所に足を運び、”家族”の触れ合いを遠目に見ながらコーヒーを流し込む。
(画像は"スーパーカブ"第8話より引用) pic.twitter.com/8FUL17FbVB
その一杯で明瞭に世界の色合いが変わり、小熊は金を払って飲むコーヒーへの認識を改める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
頼りなさ気に見えた空色の少女が、エプロンを着けると大きく見えたように、結構頑なな小熊の世界は意図しない出会い、思わぬ体験で色合いを変えていく。
蒔かれた種が慈雨に芽吹くように、体験が発芽する。
それは体験それ自体の特別さと同時に、小熊の柔らかな感性…その蘇生が影響していると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
種の例えでいうなら、体験が着地する”土”がよく耕されているのだ。
ないない少女の灰色の世界を耕した鍬が、世界最優のスーパーマシン、それが連れてきた出会いであるのは言うまでもない。
ここで小熊は”嗜好”と出会う。金を払って、疲れた身体になにか特別なものを入れる体験…特別でいても良い自分と出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
タッパー飯を流し込むばかりだった小熊は、自分がそれでいいと思っていたから、そういう暮らしをしていた。
しかし心の底で、それを壊したいと願ったから、いつもと違う道を通った
カブと出会い、礼子と出会い、思いの外欲深な自分を目覚めさせた小熊は色んなものを食う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
甲府の鶏めし弁当、礼子に作ったお好み焼き。
鎌倉グルメを諦められねぇからルールもぶち破った。
そしてここで、見返りを求めず施した行いの見返りとして、コーヒーを飲んで世界を色づけている。
そういう一個一個の体験が綾なして、小熊と小熊の世界は変わってきたし、変わっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
それは”家”というものに対する認識も、またそうなのではないか、と思う。
小熊も礼子も、姓を持たない少女だ。家に両親はいないし、今更求めることもない。
それは自分の掌には落ちてこない、遠い種子だ。
しかしホッコリとコーヒーで腹を温めながら、横目に見る奇妙で美しい家族のやり取りは、小熊に静かに染み込んでいって、何かを変えているのではないかと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
自分の世界にはないものだが、それは悪いものではない。
的確に現状と距離感を測りつつ、恵庭家の片隅に自分を置く。在り処を探る。
何かを持たないことが憐れなのではなく、満たされぬように見える場所に確かな手触りがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
そういう事を刻み続ける物語なのは、礼子と小熊の寒さ対策物語でも判る。
セリフを刈り込み、言葉少なく展開していく悪友達の時間。
(画像は"スーパーカブ"第8話より引用) pic.twitter.com/NlSQZ2f46d
それが、何かが欠落し何かが過剰な二人が一緒にいることが、すっかり当たり前になった時間を上手く届けてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
憎まれ口も叩きつつ、しかし相手の言うことには耳を傾け場所を譲って、『衝動買いも良いかもな…』『ハンカバ、マジ神のアイテムだな…』と、ジワジワ頑なさを緩めていく姿が良い。
オイル交換のときと同じく、小熊は世界をぼんやり見ているようで、兆しを見逃さない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
街を行くカブからヒントを貰って、防寒対策の切り札をサクッと注文し、『かっこ悪い!』とグズる礼子も納得させていく。
そこに、言葉はあまりいらない。
一緒にいて、一緒に進む中で、自然と見つけ、変わっていく
そのみっしりした充実と安心がよく描けているから、この地味なアニメを見ていて面白く感じるのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
言葉もいらないほどに、すっかり落ち着いた二人の間合いが、奇妙に嬉しい。
それはぎこちなく出会った二人がカブを通じ、繋がっていく様子を確かに見守ってきたからだ。
ハンドルカバーで武装して、小熊はBEURREに入り浸る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
椎が隠しておきたかった派手派手な母と出会い、ひと皿に三国が共存する奇妙なプレートを食べる。
何もかもチグハグで、しかし奇妙に調和し暖かい場所。新しく出会った/向かい入れられた、小熊の居場所。
(画像は"スーパーカブ"第8話より引用) pic.twitter.com/qBUjrN76t3
世界のスタンダードからはじき出され、また馴染めない少女にとっては、このくらいの奇妙さのほうが逆にハマるのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
奇妙な客として、しかし余所余所さしさなくもてなされながら、小熊と礼子は恵庭家を通じて”家”を見つめる。
それは、自分たちの掌にはない種だ。
でも、なかなか面白く美味しい味がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
それを持つことを妬む必要も、持たない自分を憐れむ必要もない。
たしかにそれはそこにあって、時折手を伸ばしてくれる。
跳ね除ける必要はない。自分には無縁なのだと、諦めることで魂を守る必要ももう無い。
”家”とのそういう距離を、恵庭家は差し出したし、小熊は受け入れたのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
すごく静かで穏やかな形で、小熊の(アニメでは語られないからこそむしろ)大きな欠落にひとしずく、何かが満たされ始めるエピソードでもあったか。
ここら辺は、”BEURRE”がどんだけ、カブ乗りのホームと描かれるか次第。
小熊がこの後どんな冬を超え、どんな高校三年生になっていくかは判らないが、今までもそうであったように当たり前の難しさがあり、当たり前の変化が待つのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
その時、あの団地や礼子のログハウス以外にも、足場があったほうが良いと、僕は思う。
当たり前に思われながら、その実奇跡でしかない”家”というもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
カブにまたがり自分の世界を作っていく小熊が、どんな状況にいても、血縁があろうとなかろうと、そこと無縁ではないのだと思えた方が、僕は良いなと思う。
その兆しを、今回の物語は与えたのではないか。
親なく、カブを頼みにただ独り走っていく小熊は尊く、頼もしい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
でも彼女はまだ子供で、その小さな魂を休める止り木や出会いは多いほうが良い。
『これが貴方の幸せでしょう?』と押し付けられるのは、小熊のプライドと生き様が許さないだろうけど。
『助けてくれて、ありがとう』と差し出される手…その先に広がっている風景を拒絶することなく、世界のあり方の一つだと受け入れる余裕を、小熊に持っていて欲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
そんな風に勝手に僕は願うから、ラストの秋景色はとても良かった。
(画像は"スーパーカブ"第8話より引用) pic.twitter.com/iM6e1MvYv8
小熊はむっつりとタダ飯食いつつ、椎の小ささと大きさを推し量り続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
自分の中にあった思い込みを、間近に触れ合った感触で壊して新たに作り直す作業を、怠けることはない。
灰色の世界を変えていく新たな出会いを、拗ねて跳ね除けることはしない。
その柔らかさが、世界の片隅で牙を研ぐパンクス気質が凶器にならず、グイグイと前に進む良き推進力として活かす秘訣なのかな、と思う回でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
アニメっぽい派手な表現はしないが、小熊は出会ったものは素直に受け入れ、そこから生まれる変化も寿ぐ。にへらと不敵に笑う。
その分かりにくいけど確かに在る想いの発芽を、毎回個別に磨いて切り取れているのが、この作品の良さなのかな、と感じました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
カブ、礼子、旅、反抗。
出会いは種と蒔かれて、小熊の静かに熱い魂を受け取って芽生え、また新しい出会いに繋がる。
因果の連鎖が、静謐ながら強靭な物語。
アメリカとドイツとイタリアとイギリスが、山梨で混ざりあった奇妙な”家”。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月27日
そこで差し出されたコーヒーは、小熊の世界にまた一つ色を足した。
深まっていく縁が、次の物語ではどんな花を咲かせるのか。次回も楽しみですね。