輪るピングドラムを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
多蕗の暴走から生還した陽毬は、退院を果たす。
そこに己の終わりを感じ取った少女は、静かに自我を胎動させる。
真砂子の乱入、甦る記憶。
透明な存在としてすり潰される直前で、私を選んでくれた人。
縁をつなぐ赤い糸は血か、愛か、はたまた…。
そんな感じの後藤圭二全開ッ! 家に帰っても安らぎ無し、ピングドラム第19話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
オデコと目が大きい、ギロリっとした描画が深海の生物のような異様な存在感を放つエピソードは、陽毬を軸に話が転がっていく。
ただ護られ、死にかけ、蘇る無力なヒロイン。
真砂子が日記を燃やすのではなく(≒眞悧の思惑を知らぬまま超越する)、高倉家に上がりこんで愛を取り戻そうと迫った結果、陽毬は急速に己を獲得していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
真実を暴くのは、自分を愛し守ってくれる兄ではなく、己を追い立て怒りを顕にした、知らない他者である。
家という褥は時に腐敗を呼び、分厚い殻は現実を遮断する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
冒頭、薄汚れたラーメン屋で演じられた家庭劇は即ち、冠葉が冥界(≒眞悧の領域)に足を突っ込んでいる証明でもあるが、そこで彼は失われた父母と再開し、その祈りを背負う。
死人の祈りとは、即ち呪いである。
いつか透明な破片が己を切り裂きかけたとき、身を挺して自分を守ってくれた人の言葉。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
何を犠牲にしてでも守るべき我が家、思い出の檻、腐敗の揺籃。
実はそれを、愛する弟が強く憎んでいることが今回、描画される。
兄弟が思い描く”家”は、実は大きく異なっている。おそらく、物語の最初から。
冠葉は父母の復活を願い、晶馬はそこからの開放を祈った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
血の縁が己を繋ぎ止めてくれるもやいとなるか、罪に縛り付ける鎖となるかは受け取り方次第で、それが決定的に二人を分かつ。
もしくは、最初から分かたれていたのだ。
陽毬の手を撮った運命が、冠葉ではなかった時から。
多蕗が去った氷の世界、あるいは陽毬の退院を寿ぐカラフルなブリコラージュ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
様々な人が”家”を求め、その獲得に失敗する。
破綻してなお、それが暖かな居場所なのだというフリをする。
死を前にした最後の温情は、けして変わることのない永遠を擬し、ゆりが広い家に込めた祈りはもはや、遠い。
偽物の家族として始まっても、本物になれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
婚礼、同情、あるいは共感。
恋や性や血以外に人を繋ぐものは沢山あって、そうして結びあえたものは果して、過酷な現実を超えて真実足りうるのか。
この問いかけは、様々な角度から作中のキャラクターを刺す。
当たり前のように家族/血縁に思えたものが、非常に複雑な分断と接続の只中にあって、何が真実か簡単には、判別し得ない状況。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
それが、多蕗がスイッチを押したクーデーター以来加速していく。
高倉三きょうだいは、望みも縁もバラバラで、それでも否定しようなく愛し合っていて…
しかし、それは永遠ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
カラフルなバラックが既に示していたように、それは間に合わせの継ぎ接ぎで、しかしどこかチャーミングな稚拙さがあり、血がにじむような必死の嘘で飾られていた。
部外者である真砂子は、そこがみすぼらしいあばら家であることを、明確に告げる。
王様は裸だ。
横暴な蹂躙者に思える真砂子が、実は最も強く真実を見据え、そこに嘘なく突き進んでいること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
TV放送時は未だ分かり得なかったことが、この再視聴では既に見えている。
彼女が陽毬に突きつけている理不尽は、その実全くゆるがせに出来ない真実そのもので、だからこそ青い球が当たらずとも、記憶は戻る
第9話で…あの時は司書の装いをまとっていた眞悧が夢の中、陽毬に投げかけ弾かれた問いかけ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
主治医の立場を手に入れ、直接運命には触れない冥界から生者を弄ぶ彼の言葉は、今回陽毬に深く刺さる。
キッチンに立つ苹果と晶馬を、ブラウン管の向こうのダブルHを、苦々しく見つめる自我。
死と罪を粛々と受け入れる意思なき(あるいは意思に満ち溢れた)聖女は、その輝く額にどす黒いものを隠した、当たり前の女の子である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
そんな事実が、真砂子の襲撃で暴かれていく。
家は壊れ、家族という嘘は暴かれ、真実は蘇る。
兄弟には出来なかったこと。
他人だからこそ、出来ること。
地下鉄の標語のように、嘘から出た真は世に満ち溢れている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
始まりが嘘ならば、それは最後まで嘘なのか。
祈りを込めて始まったものは、いつか真実へと移り変わるのか。
その問いかけは、非常に厳しく人間を試す。
ここで入ったスイッチは、情け容赦なく人命を貪る。色んな人が死んでいく。
それは再演であり、決着であり、始まりでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
運命の至るところからしか、ピングドラムの物語は始まっては行かないのだ。
何者にもなり得なかった子供たちを噛み砕く、透明な装置。
こどもブロイラーは多蕗-桃果の関係を、陽毬-晶馬によって再演する。
選ぶこと。救うこと。
それは否応なく、選ばれず歯車に巻き込まれ死んでいく子供たちと、選ぶべき現場に間に合わず運命に乗り遅れる者を生み出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
今まで血まみれの現場を全部兄貴任せに、決定的な決着に必ず遅れてきていた少年が、全ての資源においては解決の、決定的な当事者であったこと。
献身を、罪を、堕落を背負ってきょうだいを守ってきた王子様が、その実運命の果実を分け合った主役ではなかったこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
陽毬の覚醒は、これまで物語を支えてきた構造を反転させ、瓦解させ、再構築していく。
思い出すことは今を殺すことであり、永遠に続くと思われていたものが終わることだ。
高倉の家に集った全員が望んでいた、永遠に続く平穏。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
それは最初から嘘まみれであったし、色んな災厄が封じられたパンドラの箱で、ここで蓋が開くことで破滅は世界へ飛び出していく。
最後に残った希望が引き出されるためには、数多の犠牲が、戦争の吠え声が必要になる。
それは必然であり真実で、それと同じくらい、優しい嘘は…陽毬が望むまま、高倉家をヴィヴィッドな色彩で飾り立てた子供たちの祈りは、本当のことだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
でも、それも砕けていく。
どれだけ愛おしくても、だからこそ崩れ落ちていく。
その未来を、僕はもう知っている。
ここから始まる必然の崩壊を、放送当時僕は本当に悲しく見えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
真砂子が踏み込んで暴いた嘘が、僕もとても好きだったから。
その優しい時代が、彼らが望むまま永遠に続いて欲しいと、甘っちょろく思っていたから。
でもこのお話は世界の真実に、嘘をつかない。つかせない。
不安定な基底材で支えられていた構造は、当然破綻していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
その瓦礫の中にかすかに残ったものが、炎の中から蘇る。
選ばれ、運命の果実を共犯し、犠牲として取り残された生存者達が、蠍の炎で暖を取る。
それをἐλπίς…希望、あるいは予兆と呼ぶかどうかは、10年経っても答えの出ない問だ。
どっちにしたって、陽毬は濁った感情を抱きうる有色の主体として、己の過去を、家の下に埋まった真実を思い出した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
それが引き金を引いて、物語は更に加速していく。
レールを脱線すれば、待っているのは大惨事だ。
そう、全ては終わりに向かう途中。
次回も楽しみである。
…つれーわ、何度目でも。
追記 こっから物語のジェットコースターは結構急勾配で、その激しい斜度に登場人物も見てる僕もズタズタにされながら、冥府下りの旅を走り抜けていく。そのザラツイた痛みが、結構な迫真を伴って蘇ってきてて、好きなアニメってのは怖いもんだな、などとも思い知らされている。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
”夏芽”真砂子が高倉の家に乗り込み、陽毬と壮絶なHIDE and SEEKをする今回は、多蕗のテロルが収まって家に戻り、安定したレールに乗れると願った期待が、全力で壊される回でもある。
むしろ我が家に戻ったればこそ、全ては終わっていくのだ。
それでもあのとき、僕は優しい嘘を守って欲しかった。
カラフルなトタンで継ぎ接ぎされた子供たちのお城は、みすぼらしいあばら家などではなく、誰かを大事に思う心が形になった、無敵のお城なのだと言ってあげて欲しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
それは世間の風、誰かを透明にする冷たさの中で、何の価値ももたない(真砂子は社長として、そういう価値観を既に内包している)
それでも子供たちが必死に創り上げ、護り、差し出したものは、彼らの共同体の中では本当で、でも嘘として始まり嘘でしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
だから必然的に崩壊し、真砂子はその契機になったに過ぎない。
彼女の叫びもまた、一つの真摯な祈りだから。
真実の正当性を、しっかり宿しているから。
お城は壊れていく。
それが物語的にも論理的にも必然の決着なのだと、10年前の僕は確かに理解していたし、しかしそれでも、甘やかな殻の中で微睡んでいたかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年11月17日
嘘から真を出すためには、殻を割る以外に方法はない。
それを知っていたのは、ここから走り出すあの子達の方だったのだろう。