薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
三連の幻日を旗印に、父王の跡を継いだ長子エドワードはランカスターを破り、戴冠を果たす。
引き裂かれた心を埋め合わせるように、リチャードは戦場に紅く染まる。
忠臣が影より支える、栄光の未来。
それは婚礼を巡る嵐の予感に、儚く揺れていた。
そんな感じの薔薇戦争第一次内乱終結、波乱フラグはまだまだ山積みな、薔薇王の葬列第3話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
世界の光であった父王を失ったリチャードは、白バラの旗印を真紅に染め上げるほどの虐殺を果たし、兄王の即位に貢献する。
殺すことで満たされる快楽を、ここで学んでしまった形か。
殺戮の因果は復讐を呼び、後にイングランド史の国母となるエリザベス・ウッドヴィルが、毒を携えてエドワードの褥に潜り込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
彼女との婚礼は、フランス貴族との縁談を準備していたウォリック伯の面目を潰すこととなり、”伴侶”とすら呼んだ男との反目が、一時の休戦に芽生えていくだろう。
父が約束した、王冠の果ての楽園。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
それを乗せるべき頭は戦場に野ざらしとなり、リチャードの心に空いた穴は、ヨーク家が玉座に座っても満たされない。
むしろ盟友と、兄弟と相はむ修羅道の温床となり、地上の栄光は儚く移り変わっていく。
王とは、空を仰ぎ見る囚人の異名。
異国スコットランドに逃散した惨めな身の上を、『ようやく自由だ!』と吠えたヘンリー六世が、窓越しに見上げた鳥。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
狂人が寿ぐ自由を、同じく心のどこかで求めつつ、リチャードは魂を赤く冷たく幽閉したまま、宮廷謀略劇を演じていくことになる。
その果てに待つのは愛憎と裏切りの、複雑な絵巻だ。
お話はモーティマーズ・クロスの戦いにエドワードが勝利し、戦の趨勢を決める前半から始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
純朴なる青年は3つの太陽をヨーク三兄弟の似姿と見定め、勝利を約束する吉兆と味方を鼓舞する。
しかしそこにあるのは、あくまで幻の太陽でしかない。
弟の体の秘密、魂の荒廃を、兄は知らない。
モーティマーズ・クロスの戦いに幻日現象が起こったのは史実であるが、そこに儚い兄弟の絆、太陽のごとく国家に君臨する未来をエドワードが見るのは、前回髪の冠を茨に置き換えたのと同じく、この作品独特の変奏であり解釈…新たな表現だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
幻の太陽の光は、幻の影を生み出す。
後に骨肉の争いを演じることになるキングメーカー、ウォリック伯リチャード・ネヴィルは影に徹し王を支える信念を、今回言葉にする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
年表に刻まれた運命を読めば、それが儚い誓いでしかないことはよく分かる。
しかし戦いに挑むエドワードにとって、伴侶の誓いは本気も本気だ。
勝利と栄光を冠に抱き、この世の春を謳歌するエドワードは、父王の志を継いだ純朴な時代を忘れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
反面リチャードは父王の死に深く傷つけられ、そこで時計を止めたまま前に進むことが出来ない。
醜く必然的な変化と、冷たく…これまた必然的な停滞。
変わる地獄と、変われない地獄。
どちらも幻日に危うく照らされながら、戦場という舞台、宮廷というステージを踊っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
平和は悲劇の前触れでしかなく、愛と誓いは必ず裏切られる。
そんなシニカルでニヒルな視線が、ジャンヌ・ダルクの嘲笑に照らされて、なかなか元気だ。
既に死んでいる亡霊は、生者が思い悩む業には囚われない
悲惨すぎて喜劇にしか見えない現実をあざ笑い、未来に待ち受ける悲劇を嘲弄し、本当に欲しい物が何一つ分からない愚か者たちを、冥界から弄ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
暖かな温もり、栄光の高み。
そういうものを象徴するはずの”太陽”が、雲の向こうの幻でしか無い冷たい世界。
そこで勝利を掴んでも、楽園が待つはずもなし
そんな感じの、冷たい戦場描写である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
暴力とセックスに影絵的なフィルターをつけて、画面を止めて表現するこのお話の演出、僕は結構好きだ。
観客席からの視線に、物語を見る”額縁”が固定される演劇的表現を、アニメを”動かさない”ことで狙ってる感じがする。
それは作中人物の激動、感情の熱量から一定の距離を取り、俯瞰で運命の激動を見させる足場を、視聴者に提供もする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
多分このお話の主役は(シェークスピアの演劇が大概そうであるように)”運命”それ自体であり、恨み殺し愛する人間たちは、自分たちが哀れな役者でしか無いことを知らない。
そんな突き放した冷たさと、しんみりと心が赤く染まっていくリチャードの実感が同居しているのが、また面白い表現と言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
父王の首にキスして、完全に砕けた心を埋めるように、リチャードは殺戮に沈む。
その身はヨークの赤バラをまとっているが、たとえ白バラであったとしても、赤く染まっただろう
※訂正
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
×その身はヨークの赤バラをまとっているが
○その身はランカスターの赤バラをまとっているが
父は彼…であり彼女でもある存在に名前を与え、どう生きればいいのか光で導く存在だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
しかし我が世の光は砕け、リチャードから見える世界は混沌の暗闇に沈んでいる。
ジャンヌが茶化すように、真摯な愛も恋の戯れも、それを切り裂く助けにはならない。
エドワードとエリザベスの”狩り”(セックスの舞台として狩猟場を選ぶ所に、何かと強姦の暗喩に狩りを使う原案者へのリスペクトを感じたりするが)を目の当たりにして、リチャードは嘔吐する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
セックスは男でも女でもない自分が、蹂躙されかけた記憶を呼び覚ます。
悪魔か、人間か。男か、女か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
不安定に揺れていたリチャードの天秤を、望む方向に定めてくれるのは父王だけだったのだろうが、彼は死んだ。
その欠落を血で埋めるように、リチャードは殺しまくる。
その餌食になった男の復讐のために、エリザベスは王妃の地位を狙う。
愛を失って誰かを殺し、そのことがせっかく手に入れた王冠を揺るがしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
因果は数珠つなぎとなり、しかも歪に捻れていく。
愛から愛が繋がることはなく、暖かな光と見定めたものは醜く歪んでいく。
逆接のネゲントロピーが、リチャードを巡る物語を支配している。
これを反転しうるのは唯一つ愛なのだろうが、リチャードはその緒となる”性”をどう定め、どう受け取ればいいか、非常に不安定な状況にある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
『ヨーク家三男、王弟にしてグロスター公』という社会的立場が、”家”の重みが、リチャードに素裸の乳房を晒すことを許さない。
男ではなく、女でもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
悪魔の証と疎まれる己の身体を、男にもなれ、女にもなれる自在の証として(”現代的に”)肯定するには、リチャードが身を置く時代も、彼を取り巻く宮廷も、狭くて冷たすぎる。
何よりもリチャード自身が、自分自身がどんな存在であるかを定められない。
我が世の光としてそれを定めてくれただろう父は死んでしまい、リチャードは己が何者なのか知らない、未成熟な子供として世界に取り残される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
その先にあった戦場で、リチャードは殺戮をひとまずの慰みとして、空疎を血で埋めていく。
殺していれば、混沌に迷わずにすむ。
そういう学習をしてしまう。
それがこの後、陰惨極まる謀略と殺戮を、地上の王国を手に入れるための手段として選ぶ彼の、行動指針を定めてしまうのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
愛の行為であるはずのセックスは暴力的で汚らわしく、真実の自分を受け止めてくれるものは誰もいない。
父なき世界に、リチャードは孤独である。
未来に待つ骨肉の修羅道を知らず、ノンキに幻の太陽に願掛けしてた兄貴は、そんな不安定な弟をちゃんと見れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
復讐者の誘惑に溺れることが、足下の王国をどれだけ乱すか考えることもなく、牝鹿を組み敷く喜びに突き進んでいく。
餌食のはずの女こそが、深大な謀略を携えてるとも知らずに。
なにっしろ元ネタが超絶ネトネトの謀略裏切り愛憎祭りなので、人物もその感情も複雑に錯綜し、物語を見通すのは難しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
この混乱は多分、殺戮でも愛でも己を定められなくなってしまった、リチャードという迷子の気持ちと同じなのだと思う。
何も見えないまま、救いと思えるものを必死に引き寄せる。
可憐なるアン・ネヴィルと結ばれる運命も、リチャードの秘された身体…そこに宿るひび割れた心を思えば、簡単に”救い”にはならないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
組み伏す男であることの醜さ、浅ましさ。
押し倒されながら、謀略に嗤う女の強かさ。
イングランド王の貪婪は、愛の醜悪を照らす。
心弱きヘンリー六世と勇壮なるマーガレットの冷え切った関係も、男女が結ばれることが必ずしも、ハッピーエンドを連れてこないことを語っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
ましてやリチャードは、褥においてどのような存在として女と…あるいは男と向き合えばいいのか、自分を定められぬ立場である。
王家の栄光は血で贖われ、血で繋がっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
”性”を快楽の道具として、あるいは復讐の道具として軽んじることが、どれだけ国土と人心を傷つけていくか。
静かに燃え上がる内乱の予感は、つかの間の平和に茨が芽吹く未来を、確かに告げている。
まーこっから、更にメチャクチャだからな…。
父が殺されなければリチャードはジョン・グレイを殺さず、ジョン・グレイが死ななければエリザベスは誘惑による復讐に踏み込まず、エリザベスを王妃にしなければウォリック伯は王を支える影でいられて…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
平安とは程遠い場所に崩れていく運命は、過去と未来を繋いで紡がれていく。
そんな業のタピストリーが、どんなふうに編み上がるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
リチャードが性を嫌悪し、ひび割れた心を血で埋める道に進んだことで、物語はより残酷な色に染まっていくのでしょう。
玉座の栄光は幻の太陽でしかなく、では本当に欲しいものは何か。
国と友と己を食い破りながら、リチャードはそれを探す。
兄が王冠を手に入れて序章が終わったことで、むしろその歩みに無残な弾みがついた感じもあります。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
血の赤と雪の白、温もりと冷たさの意味を徹底的に突き詰めた先に、悲惨な結末が約束された物語は何を描くのか。
じっくり追いたい気持ちになってます。
過剰品質志向な昨今のアニメに珍しく、かなり淡白な表現を選び取っているこの作品。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
現実の戦場をスペクタクルで包むのではなく、あえて影絵や人形劇めいた抽象に落とし込むことで、そこに反射される世界の真実、それを受け取る人間の心に、徹底して焦点を合わせている印象です。
選び取った表現が描きたいものと噛み合っている力強さを、この段階で感じているわけですが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年1月29日
それが今度、さらなる激動へと突き進んでいく物語のなかでどんな熱を持つか。
世の無残を冷たいと感じる、リチャードの内心をどう焼き付けていくのか。
次回も楽しみです。