薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
ジョージ説得の任を受け、再び敵地に潜入したリチャード。
傷を負い逃げ延びた先で出逢ったのは、公務に疲れ果て巡礼の旅に出ていたヘンリーだった。
深き森の中で、お互いの傷と幻を共有し合う二人。
心の奥底に突き刺さった痛みを語らう中で、触れ合う思いは祈りか…呪いか?
そんな感じの絡み合う因縁の渦、中世英国茨地獄の第8話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
リチャードとヘンリー、エドワード王子とアン。
交錯しつつも交わらない男女の思いは、内乱の炎に炙られて歪に…あるいは純粋に育つ。
戦乱期を扱う物語なので暴力はよく顔を出すが、同じくらい(暴力としての)セックスも大きい。
愛なき責務として褥を共にし、子を産ませて血を継ぐ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
おそらくマーガレット自身もそれが貴族のスタンダードだと教え込まれ、儀礼のように王の精を胎に受けてエドワード王子を産んだだろう、あけすけで冷たいセックス。
それを押し付けられても、”家”に取り込まれた子どもたちは跳ね除けられない。
人間が人間らしく、私が私らしく生きることなど許されない時代と状況で、王冠に絡め取られた子どもたちは皆、自分を押し殺している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
その圧殺は他者にも及び、リチャード恋しの思いで繋がれるはずの夫婦は、お互いどれだけ苦しいかでマウントを取り合う。
相手を受け入れ、優しく抱きとめる。
良き交合…セックスを通じた相互理解のために必要な前提を、アンもエドワード王子も教えられていないし、そんなものはこの冷たい世界に必要ないのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
しかしそれをリチャードに感じたからこそ、夫婦は同じ人を思い、決定的にすれ違う。
この冷たい接合が、どんな未来を呼び込むか。
それは未来の話として、エドワード王子の『リチャードは本当は男なのだ』という断定調が、僕には悲しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
リチャードの身体的性は、男/女というシンプルな分断の中間地点にあり、どちらかが”本当”と定めてしまえば、引き裂かれてしまうナイーブなもの。
実際実母に、ズタズタに裂かれてるわけで。
自身のセクシュアリティを敷衍する形で、自分が『神が許さない』恋の当事者≒アンのような敗者ではなく、”自然な”セックスを甘受できる勝者であると宣言するために、あの断言をしたのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
だがそこに、リチャード当人の意思、当惑、存在はない。
リチャードはリチャードであり、でしかない。
そんな個人的な需要を、人権意識の”じ”の字もねぇ時代は当然許さないし、貴種という立場ならなおさらだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
性と分かちがたく結びついた個人の魂を尊重などしてたら、愛なき婚礼も、他者を踏みにじる謀略も、血みどろの戦争も出来ない。
ヒューマニズムは、王たるべき者には枷なのだろう。
そんな世間の冷たさに疲れて、リチャードへの愛にぬくもりを求めたはずなのに、口から飛び出す刃はあまりに冷たい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
皆自分が何を求めているかも解らぬまま、渇望に突き動かされて、自分と誰かを傷つけている。
それは正されぬまま、国と歴史を巻き込み、奈落に落ちていく。
そしてそれは、死んだから終わる生ぬるいものでもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
リチャードが亡霊をよく見るのは、とても示唆的だな、と思う。
人が死んでも恨みは残り、遺恨は新たな戦乱の種となる。
冷たい生殖で宿った命は、新たな因縁の継承者として舞台に上がるだろう。
血が繋ぎ、血を求める長い鎖。
お互いを傷つけるだけの、エドワード王子とアンのセックスが彼らを…イングランド史をどう鞭打つか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
年表に既に刻まれた未来の裏に、擦過傷に満ちた柔らかな魂が確かにあって、間違えきってそれでも活きていた事実を、この新説史劇は腑分けしていく。
その艶めかしい感触が、僕は好きだ。
キングメーカーと驕ったウォリック伯は、薄弱なるヘンリー六世を巡礼に押し出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
国民の求める強き王にも、全てを捨てた羊飼いにもなりきれない半端な男は、流れ着いた運命の先でもう一度、彼の天使と出逢う。
リチャードとヘンリーは、共に悪魔を見る。
それがスピリチュアルな実存なのか、幼児体験に基づく幻影なのかは、重要ではなかろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
とにかく二人は同じ脅威をみて、同じ木のうろで眠り、傷に触れ合い心を明かす。
王であること、貴族であること。
社会的な地位を引っ剥がした、裸で弱い私達を共有していく。
近代的な個人主義的ヒューマニズムを持ち出せば、この素裸のふれあいこそが彼らの救済、物語的出口…となりそうだが、この時代とこの人々は、ただの人として生きることを生まれ落ちた瞬間から許されてなどいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
王は永遠に王であり、王位を望む叛逆者は生まれつき、大逆の星の下にある…と世は見る
即位式典に出されたツグミのパイは、ヘンリー六世の心を攻め立て、宮廷は鳥頭の怪物が蠢く異界に見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
ヘンリーとリチャードが(息子エドワードには得られない)繋がりを得るのが、ある種の狂気の共鳴なのは、個人的に興味深い。
それは隠蔽されるべき社会からの逸脱であり、心の中の一つの真実だ。
世界が実際にどうであり、社会がどのような形を求めるにせよ、今ここに在る私には鳥が見え、悪魔が見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
この個人的主観を表に出せば、ヘンリーもリチャードも狂的逸脱者として社会からはじき出され…あるいはヘンリーにとっては既に、その成因資格を、実質的に剥奪されてもいる。
弱かろうが狂っていようが、王冠が乗る場所さえあれば国は回る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
ウォリックが嘯く暴挙はある種の事実で、それがあまりに危ういからこそ、父王リチャードは玉座を求めたのだろう。
王位と否応なく繋がった、個人の脆すぎる心身。
個人的な問題が、社会全体に拡大されてしまう状況。
そこから逃げ出して、ヘンリー六世は王冠なき”ただのヘンリー”として、リチャードと出逢う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
幼き日、母のセックスに傷つけられた彼はリチャードの生身に触れ、血を拭い『綺麗だ』と告げる。
その天使としての肯定は、実母に悪魔と罵られ続けた欠落を、果たして埋めるのか。
セックスを忌避するリチャードにとって、両性を具有しそのどちらでもない身体は、天使の証明に写るかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
しかしリチャードの心は確かに高鳴り、恋に…あるいは愛に似た反応を示している。
セックスを超越した天使ではなく、身体と魂の奥に肉の疼きをたしかに宿した、一人間としての私。
それを受け止めてもらえる予感が、リチャードを複雑に揺らしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
それは天使扱いでは、けして満たされない渇望なのではないか。
同時にそれを満たすためには、男でも女でもあり、どちらでもなく、どちらでもありうる”本当”のリチャードを、自身もその恋人も、肯定する必要があるのではないか。
そんな事を考える、深い森の中のふれあいであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
『やっぱ人格形成期に、セックスっていう生の剥き出しを無調整で子供に突きつける行為、暴力以外の何物でもねぇな…』と思わされる、ヘンリーのトラウマ。
性への忌避、そこから生まれる幻が、羊飼いと迷い子を繋いでいる。
様々な体験に苛まれ、傷つきよろめいている血だらけの自分を認識し、肯定への一歩を進み出すためには、他者からの共感が必要である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
ヘンリーが血を拭って差し出したそれは、しかし何かがズレていて、リチャードが求めるものとは噛み合わない。
それが、後に待つ惨劇に繋がっていくのか。
この過酷な時代、人が権力の装置になるしか無い王宮という舞台で、それでも人は複雑に迷いながら、人であろうとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
性も愛も権力も暴力も、そんなシンプルで難しい願いとべったり結びついて、引き剥がすたびに血を流す。
ヘンリーが泉で拭った血は、過去のトラウマであり、殺戮の現在であり…
男性を自認し、”ヨークの男”として父の遺志を継ぐに相応しい存在であろうとするリチャードが、否定する月経の血なのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
男でも女でもない天使として、自分を求めるヘンリーの声に応えれば、二人は果たして救われるのか。
運命はその逸脱を許すのか。
許さない、と。年表は告げている。
冬の城での顛末を思えば、リチャードが狂いきった世界で微かに見出す救いが、無残に踏みにじられることは作品のルールかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
そうしないと、リチャードは一個人としての幸福を見つけ、悪王として定められたスクリプトに反してしまうからだ。
後のリチャード三世に、個人としての幸せは訪れない
それを知りつつ、とても苦しそうなリチャードにどうにか、安らぎがあると良いな、と思ったりもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
そういう個人的な感情を”悪役”に向けるのが、古典の再話たるこの物語が狙っているところでもあろうし。
暴力としてのセックスと権力の描き方がエグいので、自然同情もするよなぁ…。
そして暴力それ自体も、リチャードを歪め傷つけていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
”ヨークの男”として責務を果たそうとすれば、否応なく殺しの現場に立ち続けるしか無いの、メンタルヘルスとしては最悪の状況である。
『とっとと殺し止めなよ~』と無責任に思うが、それが出来ないから今までもこれからも大変なのだ。
子宮に回帰したようなうろの中での一時は、あくまで一瞬の幻。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
迷えるジョージを説得すれば潮目が変わり、内乱はヨーク優勢に傾いていくだろう。
それはつまり、旗印と掲げられた空疎な王の首が、切り落とされる未来を意味する。
父王の首を落とした戦争で、今度は魂の安らぎと見初めた男を殺す。
泉で清めた程度では、リチャードの総身を汚す血は、けして拭えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
屍山血河が待ち構える未来に向けて、震えながら歩を進めるリチャード達は、脆く弱い一人間として、それでも幸せになることを諦めきれない。
求めるは、優しき孤独。
それを叶えるのは、甘き死のみか。
物語は続く。次回も楽しみ。
しかし影絵調にクッションかけてすら、描かれる性はエグくてキツイんだから、”リアル”にやるとその暴力性が表に出すぎて、性がキャラに及ぼす影響とかが見えにくくなってたかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月28日
この作品が性と暴力を描くときの、ある種及び腰な上品さは、作品を適切に伝える妙手なのだと思う。