薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
愛した羊飼いは、父を殺した仇。
”ヘンリー”を巡る因縁に弄ばれたリチャードは、死を望み叶わぬまま、血みどろの狂気へと落ちていく。
天下分け目のテュークスベリーで、アンは義母の願いを受け取り、影武者として死ぬ覚悟を決めた。
今因果の結び目が、刃によって一つ解ける…。
そんな感じで血まみれの牧草地に白薔薇が咲き誇る、薔薇王の葬列第11話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
史実通りにエドワード王子の首を収穫し、第二次内乱はヨークの勝利と終わった。
母として、女としての願いを受け取り、男のように馬に乗ったアンはその決意に反し、夫を守りきれない。
因果応報といえばその通りで、残酷に過ぎるといえばこれまたその通りの、まだまだ続く物語、一つの決着。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
アンとエドワード王子、あるいはリチャードの間にあった縁が、死と狂気を加速させる方向にしか転がっていかないのは、まことに陰惨である。
だが、まだまだ物語は続く。
”ヘンリー”を巡る真実はあまりに重たく、リチャードは死を望む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
彼の王佐たるバッキンガムは野望のため、ヨーク最強の駒をここで取り落とすわけにはいかない。
突き立てられた刃に写るのは、重たい家名と父の声。
愛しき者の無念を晴らすためにも、地獄で狂って生き続けなければいけない。
黒翼のリチャード父王が、リチャードにしか見えない狂気の産物であるか、その無念が超自然的に残留した亡霊であるかは、もはや問題ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
リチャードはその声に取り憑かれ、ジャンヌを切り捨てて”ヨーク”を選んだ。
身を引き裂くほどの苦しみも、それに比べれば鴻毛の如く…と、思うしかない。
父を殺されて以来…あるいは”ヨーク”に生まれついて以来、リチャードは家名の傀儡であり、傷つきやすい生身の自分を率直に受け入れることを許されない存在だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
政治的立場、血みどろの因縁が、リチャードの身体と精神を裏切って『立派な男』であることを強要している状況…とも言えるか。
その檻はバッキンガム公の刃に殺され、狂気の殺戮者として戦場に戻った後も、リチャードを封じ続けるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
あるいは後に定められた簒奪の未来も、家族殺しの汚名も、男らしさと権力と家名の檻が、リチャードに強いるものとして、描かれるかもしれない。
どちらにしても、一個人の願いや権利など顧みられない時代の渦中で、リチャードはただただ殺す存在…”男”の最悪の側面を引き受けることで、ズタズタの魂をなんとか駆動させていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
そうすることでしか生きていけないのは、既に幾度か描かれたところである。
他方ランカスター宮廷は、エドワード王子を逃し血を繋ぐ策略を…あるいは母の愛を、ひっそりと温める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
王としての、父としての、男としての責務を果たせなかったヘンリーの代理人として、雄々しく”男”を演じ続け、今回も朗々と演説をぶち上げる、鎧を着込んだマーガレット王妃。
アンに私情を見せてのクドキも、ある意味強要されある意味選び取った、狡猾なる”男らしさ”の発露かな、と思ったりもするが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
あるいはもはや、嘘も真も区別がつかない所へと(一足早く)追い込まれ、マーガレット自身何が本当の願いか、見えなくなっているのかもしれない。
同じ人間を愛し、夫婦としての愛は育めずとも、確かな友情で繋がりつつあった二人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
その奇妙な関係は、戦も政治も王冠も関係のない時代であれば、微笑ましいコメディでも演じていられたかもしれない。
しかしランカスターの王子であり、ウォリック伯の娘である二人が、戦と運命から逃れる道はない。
冷たい褥に傷つけられながら、それでもお互いを人間として尊重できた二人は、この戦いで決定的に引き裂かれていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
乗馬が得意な”女らしくない”アンが男を演じ、城の中で保護された早駆けではありえない剣を投げつけられ、男を演じる影武者として破綻するのは、あまりに陰惨だ。
リチャードが”ヨークの男”であり続けるために殺戮機会に狂ったように、アンも”女”の生ぬるい乗馬を(他でもないリチャード)に粉砕され、”男”の責務を果しきれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
護るべきだったエドワードは、ずっと心底で求めていた”男”として母の手を離れ、勇壮に死ぬべく剣に身を晒す。
過保護に我が子を守ろうとした、あまりにも”母”であったマーガレットの歪みが、最後の最後で王子を奪った…とも言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
自分が死んでも愛するものを守り切ることが”男らしい”のだとすれば、最愛の息子を目の前で惨殺され、なお死ねないマーガレットは、そうあることに失敗したのだ。
女として一個人として、愛した男に嫁ぎ幸せに暮らす夢は、政治のうねりの中で投げ捨てた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
王妃という立場に縛られ、”男”の責務を果たさぬ夫の代わりに鎧を着込み、軍を率いた。
男女入り交じる身体はなくとも、マーガレットもまた、リチャードと同じ檻に入り、同じ地獄を共有しているのかもしれない。
エドワード王子は妻を犠牲にし母の言いなりに、”女々しく”逃げることを望まず、戦場に戻って死ぬ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
王冠の先にある楽園、自分のあるがままを求めてくれる善き場所は、死を前にした喘ぎの中、儚い幻でしかない。
それはこの戦いの後も、王冠を求める者達にも同じだろう。
アンは”男”を演じきれず、義母から託され己で定めた使命を果たせなかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
その無念が、”ランカスターの女”として塗炭の苦しみが待つだろう未来で、どう彼女を蝕むのか。
そこも気になる…と言ってしまえば、ちと今感じている感情ともズレるけど。
史実とはいえ、過酷に過ぎるよなぁ…。
確固たる形があるように見えて、その実非常に不定形な”男/女”という概念。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
それは社会の基盤であると同時に、時に一個人の思惑を超えて押し付けられ、社会的責務…あるいは個人的信念として”らしく”演じようと願い、その代償に魂と肉体の血を求める。
母の支配から逃れた”男らしい男”へと飛翔し、血みどろに死んだエドワード王子。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
その処刑場で憎悪の鎧を剥がされ、”母”だからこその愛と苦しみを突き刺されたマーガレット。
”男”を演じ死にきろうと心に決め、何も守れぬまま捕らえられたアン。
”ヨークの男”であるために、殺戮の嵐となるリチャード。
天下分け目の決戦が終わり、誰もが檻の中。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
命を終えて舞台から降りるものも、未だ道化芝居を続けるものも、誰もが無惨で、何処までも罪と罰に塗れている。
父王が望んだ”ヨークの王家”が安泰となるはずの、長い戦いの終わり。
それは、新たな惨劇へのいざないでしかない。
そう思わされるのに十分な、なんとも血生臭く、重苦しく、そして少しだけ奇妙に爽やかなエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
この苦い爽快は、死にゆく王子が、死にゆくからこその軽やかさで、母の鎖を引きちぎって”男”になった…なろうと思い定めたからかなー、と思う。
ただ愛されたかった者たちが、王冠に迷い血に狂い、神無き地獄を歩いた足跡。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月22日
その一つが途絶えたが、残りの亡者はまだまだ進む。
ヨーク朝最大の懸念である、先王ヘンリー六世を、リチャードと彼の茨は如何に遇するのか。
次週も血みどろにずっしり重たそうで、とても楽しみです。