薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
内乱はヨークの勝利と終わり、エドワードはイングラド王となった。
その支配を揺るがすヘンリーの存在を疎み、リチャードに委ねられた短剣は、愛と憎悪に震える。
ひび割れた魂の揺り籠を、その両腕に求めた日々が、今終わる。
リチャードは一人、あの森で死に…物語は続く。
そんな感じの第1部完ッ! 狂気と惨劇が彩る暗黒のジュブナイル、折返しの第12話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
まぁここに行き着くしかない結末であるが、ホントリチャード可哀想…。
魂が救われそうなフラグが立つ度に、凄惨に念入りに叩き潰されて年表通りに話が進んでいくの、史実のサディスティックを感じるネ。
”ヨークの男”を王とする悲願を盤石にするべく、リチャードには王命としてヘンリー暗殺指令が下される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
戦勝記念の宴はやはり茶番めいているが、そこで踊るのは政治劇であると同時に家族劇だ。
母セシリーが”我が家族”と定義するのはエドワードとジョージ、その配偶者のみで、リチャードは排除される。
男であり女でもある心身を、悪魔の呪いと責め続けたセシリーは、史書には敬虔な女性として記載されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
神の定めに忠実だからこそ、”不自然”な肉体を持って生まれた我が子が自分の胎からではなく、悪魔の謀略から這い出してきたのだと、思い定めてしまったのかもしれない。
この敬虔の鎖、寛容なき信仰の苛烈さ…更にいえばある種のセックスへの恐怖と憎悪はヘンリーとも共鳴する所で、暗殺に先駆け告げた”真実”が全てをぶち壊しにするのは、ここら辺の潔癖意識がトラウマとして炸裂した結果でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
性は義務であり、鎖であり、呪いであり、おぞましき肉の重荷。
リチャードは母に抱かれなかったことで心を歪めたが、ヘンリーは母に不適切な形で抱かれて何かが壊れた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
人間にとって適切な間合いで家族と、性と…人生において大きな質量を持った一大事と向き合えないと、そこには致命的な擦過傷が発生する。
成人して後は自己決定の権限がある程度あるわけだが、大人にすがるしかない幼年期に暴力的な性やら、猛烈な拒絶やらを叩きつけられると、回避のしようがない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
母の軛を外し、”男”になって死のうとしたエドワード王子も含め、皆愛なき幼年期に付けられた傷が腐敗し、ここまで至ってしまった感じもある
それでも、ヨークもランカスターも、剣も王冠もなく触れ合えたあの森はリチャードとヘンリーの救いであり、真実の願いを育む揺籃でもあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
その温もりに全てを捨てて生きる道をリチャードは見出していたが、父王との約束がそれを裏切る。
不倶戴天の仇とは寝れない。寝てはいけない。
男でも女でもない身体がリチャードにとって、(母の憎悪を苗床に)自由な精神を阻む呪いになってしまっているように、仇であり愛する存在でもあるヘンリーを前にして湧き上がる感情は、強く魂を縛る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
殺すべきか、愛するべきか。
迷える短剣は何処にもいかず、自分も相手も突き刺せない。
ここで運命を残酷な方向に推し進めるのが、名実ともに王となった兄エドワードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
彼は”家族”ではなく臣下として、ヘンリーを殺しアンを娶るよう命令を下す。
それが最も効率的に弟の心を壊し、運命を歪める一撃だと、想像すらしない。
能天気で、無責任な男だ。
”愛”なるもののおぞましさ、凶暴さを想像しないからこそ、エリザベスとの”愛”に無邪気に突っ走って、国を二つに割る戦乱を引き起こしもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
そういう致死性の無垢は、幼く在ることの特権を丁寧に作品から剥奪する。
思慮が浅く真実を見ようとしないことは、人と国を殺す毒だ。
では大人びて賢ければ正しくあれるかといえば、ようやく内乱が収まったのに謀略の種を蒔いている女達の姿が、それを否定する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
放埒な性、あるいは冷たく凍りついた婚礼。
大人の特権は、子供の愚鈍と同じくらい人を殺しうる、凶悪な武器である。
この出口のなさは男/女の区分にも言えて、過度に”ヨークの男”であろうとする(それ以外に、もはや己の魂を立てる手段がない)リチャードも、”女性的”とされる美質を狂気と惰弱に腐らせてしまったヘンリーも、共に幸福にはなれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
多分幸せは、ただその人らしく在ることでのみ成し遂げられる。
しかし男でも女でもない性をそのまま受け入れてくれる時代ではなく、寛容を取っ払った信仰は境界線上の心身を”悪魔の産物”と呪う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
本来命と魂に喜びを与えるべき性の交わりも、子供の心を傷つけたり、血脈を冷たく繋いだり、それに溺れて何も見えなくなる毒として、機能していく。
そんなどん詰まりの時代/立場/宿命から逃れる、自分が自分でいられる場所。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
リチャードはヘンリーの腕の中に、最後の希望を見出していた。
だから秘していた乳房を顕にし、境界線に引き裂かれた己を素裸に抱きしめてほしいと、短剣を置いて祈ったのだろう。
リチャードの精神を決定的に砕いた、父王とのクリスマスの口づけ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
今回描かれるヘンリーとのキスが、それと同じ悲しい美しさに満ちていたのが、なんともやるせない。
己が何者であるかを認め、教えて欲しい。
ただただそう希う心すら、茨の森に産み落とされた子供には許されていない。
自身の性を赤裸々に届けた告白を、受け止める強さはヘンリーにはなく、彼は錯乱の中でリチャードを拒絶する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
セシリーが事前に刺しておいた性嫌悪の毒が効いてたのもあるし、そもそも”現実”なるものを率直に受け止められる気質ならば、彼の足下でイングランドはここまで乱れていない。
幾度目か、その手を血に濡らして愛を殺したリチャードの心は、決定的に封じられてしまったように思える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
”褒美”として下賜されたアンとの婚礼につぶやく告白は、アンを通じて赤薔薇の棺を見ている。
世界すべてを殺しても、構わぬと思えるほどの愛。
それを捧げる”あなた”とは、誰なのか。
馬丁に貶められたアンが、もはや誰も疑うことのないイングランド王家となった”ヨークの男”に見初められ、宮廷に戻る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
一見シンデレラストーリーにも思える状況だが、そこに真実も愛もなく…あるいはあったとしても、それは悲しさで引き裂かれた残骸である。
エドワード王子の子を宿したアンを、己の妻と引き寄せるリチャードの瞳は、その頬を流れる涙を見てはいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
真実を預け、魂を共にする相手はあのクリスマスに、あるいはあの森の中で、既に死んだのだ。
ここから広がるのは欺瞞と謀略に満ちた、兄弟相喰む地獄絵図…
あるいは葬列で見送ったはずの”ランカスター”が蘇り、簒奪の玉座に剣を突きつける未来である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
疎むべきヘンリーの殺害にこそ真実の愛が刻まれ、喜ぶべきアンとの婚礼が欺瞞の始まりであるのは、この作品らしい転倒…あるいは、人間存在への洞察と思える。
愛なき言葉を、それでも縁としがみつかなければ己を支えられないアンも哀れであるし、兄王の”命令”を拒絶できないリチャードの流されっぷりも、また悲惨である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
この夫婦が仲睦まじく、待ち受ける嵐を共に超えていく姿はなかなか想像できないが…さて、どうなるか。
ヘンリーには見せた双丘を、心臓をえぐり出して誠の証にする求婚の仕草の中では、巧く覆ってる所が、残酷だなぁ、と感じた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
もはやその乳房を、己の真実を告げられる相手はリチャードにはいないのだろう。
それはあの森の中、孤独に死んだのだ。
かくして、悪名高き暴君が産声を上げる。
アンが『死んでしまった』と告げる、彼女が惹かれた優しきリチャード。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
その欠片を殺したのがアン自身であるし、丁寧に丁寧に、『真実のリチャード三世』なるものに近づいていく足場は、泥をかけられ打ち砕かれていく。
運命の引力が、素肌のリチャードを徹底的に許さないの酷いし凄いな…。
エドワード四世が夢見る、ヨーク兄弟の円満で幸福な統治。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
そこに食い込んだ女達の野心が、既に内乱の予感を連れてきている様子も描かれる中で、リチャードはウォリック伯の莫大な遺産、その半分を継承できる立場にのし上がった。
色んな人を傷つけた、家を繋ぐためだけの冷たき愛の交わり、性の交錯。
それはこの後も幾度か吹き上がり、人の心と運命をグチャメチャにかき回していくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
このセックスと家庭なるものへの畏敬と恐怖、制御困難な暴れ馬にそれでも特別な救いを求めてしまう感じは、”少女漫画”から半歩足を出した掲載誌の匂いを強く感じ、個人的に面白い。
陰鬱な雨が降り続く中、一つの幕を閉じた物語であるが、新章の幕が開いても…リチャードがボズワースの泥濘に倒れても、浮世の涙雨は止まないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
この暗く閉ざされ出口がなく、それでも救いを求めてしまうどうしようもない世界で、物語は続く。
リチャードは死んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年3月30日
ではその形骸たる黒衣の男は、愛憎渦を巻く世界でどう利用され、何を成し遂げ、何に傷つけられていくのか。
それを追うのが、第2クールの物語ともなろう。ぜってぇロクでもねぇ…(年表確認しつつ)
愛する伴侶を手に入れ、”ヨークの男”の遍歴は続く。
次回も楽しみですね。