薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
薔薇戦争の勝者、エドワード四世はあっさりと薨去した。
権力の空白を占めるべく、胎動を始めたウッドヴィル家が迫る中、リチャードの秘密が暴かれる。
バッキンガムは共犯の証として、その肉を裂き魂を食む。
悪魔たちの盟約が、玉座へ長い指を伸ばしつつあった。
そんな感じの血塗られし王への物語、一つのクライマックスが近い第15話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
王の死に伴う権力の空白は、野心を吸い込み謀略が渦巻く。
ウッドヴィルは唯一残った”ヨークの男”であるリチャードを廃さんと画策するが、その手はバッキンガムに握られていた。
生殺与奪の権限は、キングメーカーに在り
それはリチャードも同じことで、摂政として若き王をもり立てようとする彼の本願は、沸騰した政局に押し流されていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
後ろ盾無くしては生き延びることも出来ない状況で、刃によって秘密は暴かれ、バッキンガムは悪魔の王配として、リチャードの性を奪う道を選ぶ。
あるいは、男に抱かれる存在として自分を差し出すことで、リチャードが安全と未来を買った形か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
どちらにしても、魂を殺して盟約は為され、ウッドヴィル家の権勢は瓦解していく。
幼き王の隣には摂政リチャードが座り、その身を使って復讐を演じたエリザベスは、表舞台から遠ざけられていく。
ここまで突き進んでしまえば、あとは幼年王を弑して、玉座を奪うのみである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
皆の知る悪逆の簒奪者、リチャード三世への道はかくして、陰謀と裏切り、欲望と愛で舗装されて整っていく。
悪魔と謗られる身体と魂を、誰にも抱かれることなく、リチャードは引き返せない道へと突き進んでいく。
権力のキャスティングボードを握っているのはバッキンガムであり、ウッドヴィルとヨーク、どちらが王朝を建てるか差配するのは、彼次第という状況である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
その上で、彼はリチャードと寝ることを選んだ。
秘密を暴き、その肉を裂く道を。
それが欲なのか愛なのか、判別は難しい。
野望の半身として誓いを立てたのならば、悪魔の身体も全て晒すのは当然で、秘すのならば裏切りだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
自分を軽く見たと、盟約の重たさ、思いの強さを疑う気持ちにもなろう。
今回の凌辱はその罰であり、ここまで色んな人が狂ってきたセックスにより、リチャードを上から支配する決断ともいえる。
ナイフで衣服を引き剥がし、組み伏せてねじ込むその行いには、凍りついた諦観と冷たき裏切りがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
男だ女だ、解りやすいラベルを貼らぬまま”ただのリチャード”として愛されたかった子供は、ここで決定的に受動的な性を共用され、伴侶の操り人形に貶されていく。
リチャードの心に一切寄り添わない暴の権化にようでいて、バッキンガムはその悪魔の身体を問題とせず、強く求める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
国よりも権力よりも、リチャードという存在に魅入られた彼は、出会ったあこがれを”女”と定めた。
それに対峙するべき自分は”男”だから、暴力でわり裂き、刻印と盟約で支配する。
そんな風に己を定義してしまった結果が、あの痛ましき”狩り”であり、幼き王子を弑した後に待っている運命でもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
オッドアイに両性具有。
この作品のリチャードは、二つに分かたれ。どちらも悪魔の証と罵られる形質を、その見に宿している。
ヘンリーもバッキンガムも、それを素直に抱かない。
白をイメージカラーとする羊飼いは、原罪無き森の中で性を越えた天使の領域にまでリチャードを引っ張り上げ…かけ、玉座の重さと運命の荒波に飲み込まれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
黒を象徴色とする悪魔の半身は、残酷な凌辱と支配を刻み込みながら、あるがままのリチャードを抱きしめ肯定する…
と、シンプルに割り切って良いものか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
ちんぽこ突っ込めば心が繋がるほど、性器は便利なコネクターではない。
リチャードの心はあの時森の中で死んだまま、バッキンガムの荒々しく率直なアプローチに揺れることなく、全てを諦観している。
彼とのセックスは、砕かれた心身を肯定する足場にはならない
むしろ女の姿勢で抱かれるほどに、リチャードはバッキンガムが求める己とのズレを感じ、それを押し付けるバッキンガムとの断絶を強くしていくのではないか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
王冠と国土に並べてよいほど、バッキンガムにとってリチャードの存在は魅力的なのだろう。
だから狂ったわけだが、狂ってるから思いは通じない
元々誰かを思う赤心が、とにかく巧くは行かないお話ではあるのだが、ここまでアンにもヘンリーにも触れられなかったリチャードの身体が踏みにじられる今回、二人の思いはとにかくすれ違う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
玉座を求める本心を暴かれたようでいて、それは言わされた建前に聞こえる。
セックスの狂熱で大脳新皮質を麻痺させ、獣の領域を活性化させて吐き出す本音ともまた違う、冷感的で屈辱的な、欲望の形。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
バッキンガムのアプローチには、『セックスさえすれば、そこに真実が宿るのだ』と言わんばかりの、純朴な性信仰が透けて見える気がする。
それが世界の正解ではないから、エドワード四世は”真実の愛”に狂って内乱を加速させ、ヘンリー六世は父として王としての責務を果たせぬまま、迷妄に果てたのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
愛を確かめるはずの儀式が、愛なき欲望すら置き去りにして、氷の刃として心を切り刻む残酷。
行為の結果として生まれる子供は傲慢に玉座に座り、出産は責務へ、家族であることは対立の苗床へと変わっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
”性”なるものがどう人間を不自由に捉え、傷つけ、不幸を拡大しているのかを、痛みと冷たさを込めて描いていくこのお話は、ピューリタン通り越してグノーシス主義の匂いすらある。
肉の身体を得て、地上に生まれ落ちたことが全て罪であり、罰なのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
幸福は必ず腐敗し、歓喜は必ず萎み、思いはすれ違って愛は形にならない。
その絶望に全てを諦めようとしても、希望は毒薬のように心に広がり、人は必ず何かを求めてしまう。
その欲が、また不幸と残酷を広げていく。
無力で無邪気な子供でしか無かったバッキンガムは、彼の楽園をリチャードに求め、だからこそ対等の制約を求めて秘密を暴き、”男”として組み敷いた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
そこにたどり着けば、全てが満たされるのだと、王の伴侶として性器をねじ込める特権を、一方的に支配し簒奪する愛を、答えと思い込む。
その対価として差し出される王冠を、欲しい欲しいとねだる彼の”女”が、真実どんな顔をしているか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
バッキンガムが見ることはない。
愚かしく、浅ましく、悲しいことである。
未来に待ち受ける決別を、王配気取りが消えた後の血みどろを、予感させ納得させる描写でもある。
リチャードによるバッキンガム殺しは、性と尊厳を略奪された復讐として、この作品において描かれるのだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
荒々しい獣欲の奥、微かに眩く輝いていた愛を、リチャードは顧みることなくキングメーカーを殺すのか?
『お前は俺の女だ』という、あまりにありふれて醜悪な押しつけへの叛逆として…
盟約を裏切り孤独に玉座に進む道しか、リチャードには残されていないのだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
疑問は多く浮かぶが、答えは未来の中にしか無い。
これまでそうだったように、愛を求め故に過つ愚かしき人間の一人として、バッキンガムもまたルビコンを渡った。
暴き、奪い、踏みにじる。
それこそが愛の行為であり、リチャードと自分をつなぐ紐帯なのだと選んでしまった時点で、彼に救いはないし、リチャードの救い手としての資格もない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
なにしろかの悪逆の簒奪者が”救われて”しまっては、話の筋立てが原案とも史実とも代わってしまうわけで、裏切りはこの話の基調音だ。
それにしたって、こんな形で秘密を暴かれ、身勝手に性的立場を決定され、王に祭り上げられながら良いように支配される屈辱は、与えなくてもいいだろう…とは思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
ずっとそうだけど、リチャードが可哀想である。
可哀想なまま子供も己の王配も殺し、玉座を奪って殺されて、話は進んでいく。
バッキンガムがリチャードの”初めて”となり、その支配権を完全に握った…”夫”となったと思い上がったツケは、後々払われていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
因果は応報する。
ウッドヴィルの繁栄を願ったエリザベスが、愛娘の浅はかな恋で足元を救われ、全てを奪われていくように。
ここでも、愛の毒がすべてを殺す。
ウッドヴィルを、リチャードにそうしたように狂おしいほど愛していれば、バッキンガムはあの一族をイングランド王家と定めただろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
だが、そうはならなかった。
彼が心に宿したたった一つの星は、あくまでリチャードなのだ。
そしてその純情は、今回決定的に間違えた。
この話は、いつもそうなる。
かくして謀反の疑いを逆手に握り、リチャードは幼きエドワード五世の摂政として、蛇の巣を生き延びた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
兄嫁の一族と共栄する未来はもはや砕かれ、玉座への欲望は血を潤滑油にして、奈落へと加速していく。
王冠を求める叫びも、しかし真実を取り逃がした軋みでしか無い。
本当のわたし。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
本当ののぞみ。
本当のねがい。
それを見落としたまま突き進んできた物語は、主人公に玉座への道を開きながら、深い深い霧を晴らすことはない。
褥に押し倒されても、玉座に座っても、死が間近に迫っても。
誰も真実、己が望むものをつかめない物語は続く。
なんとも陰惨で後ろ向きであるが、その粘ついた奔流の中で希望を求めてしまう人間の足掻きが、闇の中微かな光として眩しく、また悍ましい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
引き裂かれたわたしのまま、ただ愛されたかったリチャードの遍歴は、まだまだ続く。
その歩みは、屍と裏切り、愛と痛みで満ちている。まだまだ増えるぞぉ!
史実でも謎に満ちている、若き二人の王子の始末をこの伝奇作品がどう語るか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
楽しみ…というには陰惨に過ぎるが、しかしここまで見守ってしまった以上、見届けたい気持ちは強い。
父を殺され兄を殺し、仕えるべき王、護るべき幼子を殺して、その魂が行き着く先は。
次回も楽しみですね。
追記 『業の肯定』という視点で見ると、ある意味落語的なお話かもしれない。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
誰かのかいなに抱かれることで、己の不確かな輪郭を唯一確かめる。
性にはそういう仕事(あるいは希望)があると思うが、そういう満ち足りたセックスを全力で蹴飛ばし、粉砕し続ける作品である。
ここら辺の性嫌悪…つうか憎悪が、逆にあるべき性と愛の形を凶暴になぞってるのは、スゲェ好き。
そらー思い思われ、愛し愛されの結果として、ぴったり身体も心も密着するセックスのほうが良いに決まってんじゃん。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
でも、人間はそんなに巧く性を扱えない。
目の前にあるものを否定して、悪魔だなんだ歪な型にはめ込んだり、誰かを支配し傷つける武器にしたり、家の勤めを果たす仕事になったりする。
望んでいるものはシンプルで真っ直ぐなはずなのに、願えば願うほどにその形を取り逃す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
そんな人間の愚かさ、ままならなさを、リチャードを中心に苛烈に掘り下げ、性と暴力で刻んでいくお話は、容赦すれば緩む。緩めば壊れる。
だからこの痛ましさと切なさで良いのだ。嘘がないから辛いのだ。
追記 天使として生まれ落ちた存在だろうが、悪魔なのだと刻み込んで育てると、本物の悪魔になっちゃうよ……ていう話でもある。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
最初に殺した相手は覚えてるし、王たるべきものの資質をずっと理想的に考えてるリチャードと、徹底して現実主義で清廉な理念がないバッキンガムは、玉座を掴んでも安定した妥協点が見いだせるはずもない、真逆の存在で。
現実の泥を飲むか、抗うべくその渦中に囚われるか。
同じ穴のムジナに見えて完全に真逆なので、心も生き方もすれ違うのだが、だからこそバッキンガムは清廉なる悪魔に魅入られ、犯し、浸っていくのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月25日
その末路をこのお話がどう描くかは楽しみであるが、その過程と結末でまーたリチャードが傷つくからな、間違いなく…。