薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
王冠簒奪を望む悪魔の同盟は、野望への道を謀略で舗装していく。
それに抗する勢力も、復讐と憎悪に溺れた悪徳者の群れ。
蛇の巣の中で、ケイツビーは己の忠世の在り処に悩む。
母達からの呪いの刃を逆手に握り、リチャードが玉座に指をかけた時、新たな悪魔が生まれるのだった。
そんな感じの大暴走野心と破滅の超特急、新たに善なるものが愛ゆえに膝を曲げる、薔薇王の葬列第16話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
リチャードの肉体に楔を打ち込んだバッキンガムの計略で、多数派工作が成り玉座は目前…と思いきや、その身体の秘密を悪魔の証と暴き立て、神の裁きを求める謀略が立ちはだかる。
賄賂、脅迫、己の身を差し出す調略に、流される血。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
王冠の向こうにあるはずの楽園は、極めて生臭い政治の現実に飲み込まれて、進めど進めど遠い。
それでも望むものを手にするためには、全てを打ち捨ててひた走るしか無い。
そう思い込んだリチャードは、内なる叫びを無視して突き進む。
これを代わりに聞いてあげれるのが、幼年期のあどけなさを識るケイツビーなわけだが、彼もまた愛と忠誠故に、主殺しの大罪に塗れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
バッキンガムが荒々しく踏みしだいた、リチャードの所有権。
その肉体を恣にし、魂を傷つけ、何を求めるかを勝手に定める”男”の権能。
褥でそれを見せつけられ、清廉の士にも赤黒い炎が燃えたか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
はたまた、守ろうと願った星が奈落に堕ちたのなら、その願いに引きずられて悪魔に続くものなのか。
どちらにしても、リチャードはまた一つ、己の外側にある歯止めと良心を失った。
あるのは血と性に彩られた、赤黒い紐帯である。
摂政の領分を越え国政に身を乗り出すリチャードは、マーガレットにとっては我が子の治世を乱す仇敵。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
修羅の顔で逆転の手を探る彼女は、胸元も顕にヘイスティングスに助けを求め、あるいはリチャードの実母たるセシリーに秘密の開示を願う。
野望に時代が動けば、かつての敵も味方となる。
この時敵も味方も、性的誘惑、あるいは”母性”なるものの暗き側面で繋がっていくのが、なかなかのおぞましさである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
バッキンガムが堰を破ったことで、リチャードは己の肉体を政治的駆け引きの駒とすることを、もはや躊躇わない。
それは有用な道具であり、魂の宿らぬ便利な肉なのだ。
一人の男として愛に駆られ、リチャードを犯した(エドワード四世的表現をするなら”狩った”)ヘイスティングスは、リチャードの中にあった性への憎悪、冷淡、失望を決定的にする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
それは真実の愛を育み、血を混ぜ合わせ絆を生む苗床などではなく、憎悪と陰謀の胎でしかない。
そう、リチャードは己の性を、それと強く結びついた身体を、そこに刻まれた魂を見限り、次々汚していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
母の否認から始まり、父の死によってヒビが入ったリチャードの自認は、バッキンガムが愛の名の下振り回した暴力により、決定的に壊れる。
これをギリギリ繋ぎ止めるのが、王冠への渇望である。
欲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
褥の技術として、上位存在である男が女に言わせることを狩りの誉れとする、願望の形をした屈服。
リチャードの口から漏れるそれは、悦楽を生むペニスではなく、空疎を埋める王冠に結実する。
させられている。
バッキンガムがリチャードに投影し、同じ夢と飢える簒奪の野望。
それは…例えばケイツビーがずっと見つめ続けてきた、幼くありきたりな自己実現と安楽の願いよりも強いものとして、リチャード自身と国を巻き込み、大きな渦を生む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
だがそれが数多の血と悲劇を生むから、真実だとは限らない。
魂の奥底で、本当に求めるものは何なのか。
それが見えているのなら、誰も迷わず国も乱れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
盛大な勘違いで踊る国家レベルの喜劇は、王簒奪の悲劇となり、裏切りと謀略を抱え込んで走る。
その巨大な車輪に、轢き潰される臣民こそいい面の皮だが…王様もまた、運命と業の奴隷でしかない。
ジャガーノートは止まらないのだ。
これに抗するべく生まれたエリザベス=セシリー=ヘイスティングス連合は、母だからこそ謀略に狂い、母だからこそ我が子の死を願う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
男にも女にも分けられぬ性の表れを、悪魔の兆しとしてしか受け入れられない、残酷な時代。
セシリーの非道は、むしろ時代のスタンダードなのかもしれない。
母達が張り巡らせた謀略は、口にだすことすら悍ましい(とされてしまい、実際作中でリチャードの性を明言する言葉は、ほとんど聞かれない)秘密を悪魔の証と暴き、権勢を握りつつある摂政への一撃と目論む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
母性という愛もまた、誰かの死を望む凶暴と、そのおぞましさを見ない盲目を生む。
エドワード四世の”真実の愛”が内乱を呼び込み、あるいはヘンリー六世の神への愛がリチャードの真実を決定的に拒絶させた事を思うと、人がこの世で抱く”愛”なるものは、全て悪しき結果に繋がるしか無いという絶望が、作品に色濃く滲む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
それでも人は、闇の中で愛を望んでしまう。
政局一転を狙った母達の謀略を、リチャードが”堕胎薬”を利することで逆に、悪魔の呪いと跳ね返す所が、また陰惨である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
リチャードの性がどのようなものであり、子を授かる…あるいは堕ろす機能が備わっているかは、明白ではないが。
少なくとも”ヨークの男”として国権を握る以上、女の顔は邪魔だ。
それなのに女の姿勢で体を差し出し、共犯…あるいは愛という名の屈従に閉じ込められていることだけが、リチャードに王冠への道を開いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
子を為す喜びから生まれつき遠ざけられ、しかし女の形だけは兼ね備えて、蔑まれ呪われ、あるいは踏みしだかれるリチャードの性。
そんな忌み子が堕胎役を身体に浴びる時、それは本来の仕事ではなく、腕萎えの呪いを演出するための小道具として機能する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
呪い返しは魔女の技。
そういう意味では、リチャードは見事に相手の謀略を逆手に取り、悪魔に呪われた被害者としての”女”を演じた。
それは堕胎役を必要としない、石女の顔だ
子を殺し、あるいは子のために殺す母達の謀略が、母に為れない/為らないがゆえに堕胎役の新たな使い道を導くリチャードに逆撃されるのも、壮烈な皮肉である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
子を殺せるのも、子を為せればこそ。
だがそんな可能性も、リチャードの前にはもう閉ざされているのだ。
あるいは古き良き騎士道的忠誠を、献身的に捧げてきたケイツビーこそが、リチャードを幸福なる女の安座へと担ぎ上げることが出来たのかもしれないが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
バッキンガムが代表する強大な政治的うねり…その中心たる”男”たる暴力性が、そんな安楽な道を閉ざしていく。
ケイツビーは現世の主と魂の主を秤にかけて、リチャードとともに地獄に落ちていくことを選ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
まだ何も始まっていない幼い頃、垣間見た美しい純朴はもはや決定的に砕かれ、時が戻ることはない。
従者風情の細腕が、巨大な車輪をせき止めることもかなわない。
ならばせめて、悪魔の傍に寄り添い、行き着く地獄の底までも、特等席で堕ち続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
この受け身の決断が、リチャードの命運を荒々しく踏み抜いたバッキンガムと同じ、凶暴な純愛から生まれている所が、まー救いようがない。
セックスしようがしなかろうが、愛も忠誠も歪み切るのだ。
手を引いても、後ろに付き従っても、どちらにしても奈落の底。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
”リチャード三世”を待ち受ける運命もここに極まった感じがあるが…さて。
変節漢ながら国を正しく案じてもいたヘイスティングスの首が落ち、その従者は悪魔二件を捧げた。
玉座を塞ぐ茨は、もはやない。
自身を危うくする謀略が実母から放たれ、死を望まれていた事実を前に、リチャードは何を思うのだろうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
あの森でヘンリーとともに…あるいはただ優しく抱かれたかった母の腕に『悪魔の子!』と名指しされ拒まれた時に死んだ魂は、もう何にも震えないのだろうか。
玉座簒奪へと加速していく物語は、そういう事も暴き立てそうである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
自分の体も心も大事にせず、野望の道具と使い倒すリチャードのやけっぱちは、やはり痛ましい。
しかしその冷淡から醒めた所で、傷ついた魂を抱く資格のあるものは、もはやいない。
死ぬか、共に悪徳に沈んだか、諦観の底か。
なかなかの地獄絵図であるけども、これも序の口、物語はまだまだ続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月2日
敵の謀略を跳ね除け、野望の頂に駆け上がっているのに、全くカタルシスがなく寒々しいのは、大変に良い感じだと思う。
このお話は、ピカレスク・ロマンではない。
では、どんな物語なのか。
いつもながら問いつつ、次回を待つ。