薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
旅芸人の死体が上がり、”新王悪魔なり”という噂が領国にざわめく。
リチャードは悪魔の宴席で、男女の境界を超え王冠を投げ捨て、身の奥に燃える熾火の意味を知った。
真の名を知られた悪魔は、もう死ぬしか無い。
バッキンガム公よ、我が罪よ。
払暁の時は遠く、しかし確かに…
そんな感じの玉座に付いても罪まみれ! 自由と混沌のカルナヴァーレ、薔薇王の葬列第18話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
そこに行き着けば全てが満たされるはずの、王冠の環の先。
リチャードの心身は独り寝に悶え、愛されぬ哀しみにアンもまた孤独な夜を過ごす。
悪徳と謀略の中、確かに燃えた微かな灯火。
それが国と魂を焼き尽くすほむらとなるか、荒野の一燈と心を暖めるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
先に待ち構える運命を思うと、なんとも残酷な一瞬の瞬きであった。
羊飼いのヘンリー、黒き悪魔のヘンリー…そして道化師のヘンリー。
リチャードの人生には、”ヘンリー”が付きまとう。
堕胎薬を身体に塗りたくり生まれた、リチャードの不都合な真実を隠し玉座に導く悪魔の腕。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
独り寝の苦しさにシーツを掴む時も、暗闇の中バッキンガムが縋るのも、あるいは悪魔の楽園で抱き合う時も、皆この手で何かが握られている。
(画像は”薔薇王の葬列”第18話から引用) pic.twitter.com/AOlaASog5J
しかし転倒に転倒を重ね、白バラの見守る美しい泉に身を浸しながら、たった1つの真実に身を委ねた時、悪魔の仮面も女の装いも剥ぎ取られ、真白き真実を掴むことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
虚と実、束縛と自由。
様々なものが入れ替わる中で、最後に掴むべきなのは何か。
映像の中でしっかり徹底されていて、大変印象的なエピソードだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
この白い手…服に覆われぬ裸身の真実を知らぬからこそ、アンは嫉妬…というにはあまりに切実で健気なものに強く焦がれて、苦しむことになる。
男も女も、王も敗者もない、野放図で自由な領域。
それはこの時代、規範を無効化した特別な祝祭…あるいは悪魔の楽園としてしか実体化しない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
男性であり、女性でもある己をあるがまま受け入れる自由(あるいは権利)は、ヨークの家名を背負うリチャードにはなく、神の名においてその権限を保証される王となってからは、尚更である。
ならば王も臣下もないオルギアを求めるのも、ある意味必然と言えるだろうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
エドワード王の”狩り”やら、宮廷の道化芝居やらで描かれた放埒と今回の仮装パーティーはよく似ているが、既存の秩序をひっくり返す破壊的異化作用は、因縁と身分に縛られた魂を、奇妙に自由にしていく。
アンに主君の真実を問われた時、『彼は貴方を愛しています』とは言えないケイツビーが、なんとも実直であるが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
アンは男女の境を転倒させる試みが、その肉体を求めないリチャードの真実を射抜き、解放していることに気づかない。
気づかぬからこそ、今のリチャードに必要な楽園を作れるのかもしれない
ルシフェルの堕天から、楽園の喪失へ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
ミルトンめいた狂騒を道化は嗤うが、あの祝祭が悪魔の楽園であるならば、そこから逃げ出すのは神に背いた罪人ではなく、むしろ真実の愛に目覚めた運命の二人。
退廃の宴にこそ愛の契機があり、しかしそれは薄暗い未来を照らして、全ての答えにはなり得ない。
待ち望んだ王権を手に入れても心は満たさえず、王も伯爵もいない薔薇の野原でこそ、霊の癒しが得られる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
国家第一の夫妻はすれ違ったまま引き裂かれ、女のなりをした王が悪魔を連れて、真実の伴侶として思いを重ね合う。
何もかもが捻れ果て、転倒しきって、一瞬たどり着いた平静な真実。
それが己を滅ぼす毒薬であることを、バッキンガムはよく理解している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
あくまで野心のため、肉欲のため。
汚れた欲望の道化として走り抜き、影として王を支配する立場の裏に、一体どんな思いがあるのか。
真実求めているものは、一体何なのか。
それを知りさえすれば話がいい所に落ち着きそうなのに、王配閣下はまるで滅びの予言のように、己の恋情を隠そうとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
まぁ実際そうなるわけで、その予感はつくづく正しい。
しかし虚偽が真実になるあべこべの宴の中では、血と謀略に隠そうとした純情もまた、その素顔を暴かれていく。
リチャードを飾った女の装いも、奔馬に心を揺らされ、せっかく手に入れた玉座から逃げるようにたどり着いた泉の水で、洗われ消えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
父が愛をこめて名を呼んだ時、リチャードは”ヨークの男”として王冠に呪われた。
ならばあの白薔薇の泉は、女としてのリチャードを目覚めさせる二度目の洗礼か。
何もかも、真実をさらけ出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
悪魔の契約に背いた代価として、暴力的に奪われ貫かれたリチャードの性。
それは『男に抱かれ、求められる女』としての実感をリチャードに与え、彼はバッキンガムの伴侶としての己に、魂の充足を見出す。
果たしてそれは、愛なのか。
それが破滅の呪文と知りつつ、バッキンガムは己の赤心を洗礼の泉に告げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
重なる唇は、水鏡に映されてさかしま。
許されるはずもない、王と佞臣の婚礼。
社会的立場としては”男と男”であり、心のあり方としては”男と女”であり、体と魂は”ヘンリーとリチャード”として繋がる、捻れて個別で自由な関係
悪魔の楽園たる王城を抜け出し、家族を置き去りにたどり着いた東屋で、何もかもから自由になったはずの二人は裸身を晒す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
しかしそこに反射するのは、かつて愛した男の影だ。
浄水に過去を清めたと思いこんでも、思い出は黒い犬のようにリチャードを追いかけ、良心の精算を求める。
兄ジョージを弑した”羊飼い”ティレルの、懐かしき声と緑の瞳。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
性別無き天使として、同じく名も家も王冠も投げ捨てて結ばれたかもしれない間柄は、血みどろの惨劇へと終わった。
その因果が、リチャードと二人目のヘンリーにどう追いすがるか。
漆黒の夜に赤く燃える熾火のように、二人の赤心がロマンティックなエピソードであるが、つくづく不吉な予感しかしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
バッキンガムが悪魔の扮装をした上で、己の真の名を告げたのがまー、いい暗喩であり予言だと思った。
人と世を超越的に操る存在は、それを知られればもう死ぬしか無いんだよなぁ…
一方仮面の道化はいい具合に狂って、猫耳かわいい王子にちょっかい出したり、未来の嫁さんに蹴っ飛ばされたりしてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
勝つも負けるも運次第、徹底的に軽薄に狂的に状況を揺るがし玉座に挑むリッチモンドは、誠実で純粋すぎるがゆえにここまで来てしまったリチャードと、面白い対比だ。
赤薔薇と白薔薇を合わせた紋章を抱き、120年余りの栄華を繋げる、勝者としての未来。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
それに浴するにはあんまりにも好きになれねぇキャラであるが、王城が悪魔の楽園であり、王冠が呪いの茨でしかないとするなら、そこに座るべきは最も軽薄な道化なのは、ある種の道理か。
打算と野望に満ち、王を表に立てて国を私する黒衣の悪魔。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
それに踊らされる、魂無き欲望の傀儡。
そんなふうに有り続けられたら、リチャード三世の治世もまた、安泰だったのかもしれない。
しかし滾る思いを裏切れぬまま、二人は白薔薇の清き流れに身を濯ぎ、己の真実を預け合う。
王に求められる道化芝居には、とても不向きな実直の輩。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月17日
その真心こそが毒薬と、口づけて飲み干した先に何があるのか。
物語は数多の愛と哀しみを飲み込みながら、まだ続く。
確実にろくなことにはならないが、しかし面白い。
次回も楽しみである。