薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
名を捨て愛を抱く二人の夜を、緑色の目をした怪物が見つめる。
死を運ぶ無垢なる天使…暗殺者、ジェイムズ・ティレル。
道化師が不穏をばらまく宮廷にも影は忍び寄り、ひび割れた永遠を、更に揺さぶる。
咎人よ。
嘘よりも憎悪よりも、強き毒が在ることを識れ。
その名は…
そんな感じの楽園の短き永遠、破滅の足音がヒタヒタ忍び寄る薔薇王の葬列、第19話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
すべてを捨てて、二人目のヘンリーに魂を抱かれても、過去が追いつき運命が牙を立てる。
リチャードは約束された悲劇に向かって、揺らぐ心と暖かな愛を抱きしめて滑り落る。
その過程、その渦中の物語である。
真実の名を告げ、真実の愛に身も心も抱かれたはずの逢瀬。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
それはもう一人の”ヘンリー”との日々、リチャードの愛が生まれ殺した思い出と繋がっている。
あの時死んだはずの想いは確かに生きていて、野望と王冠に背き愛に生きることで、再び蘇る。
そんな奇跡は、幸福ではなく破滅と繋がっている。
それさえあれば、どんな重荷も捨てて真の自分でいられるような、甘き確信。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
これが裏切られ、裏切ったからこそリチャードは非情の悪魔となり、バッキンガムはその手を取った。
運命は幾度も繰り返す。
ならばこの愛も、現世の理に虚しく砕かれ、リチャードはもう一度死ぬのではないか。
そういう推測は、容易に成り立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
切り裂いたはずの茨は幾度も道を塞ぎ、秘密を抱えた逢瀬は不安定に揺らぐ。
無垢な瞳で愛の営みを見つめる暗殺者が、短剣を片手に迫る約束。
苦しそうなものは、救わなければいけない。
白紙の記憶の中、確信だけが血の色で燃える。
ティレルがヘンリー六世であるかはまだ定かではないが、仮にそうだとした場合、殺せぬからこそ国を揺らがし家族を壊し自身も殺された王が、すべてを失い無情の暗殺者になっている現状は、なんとも皮肉である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
道化が王となり、悪魔が天使の羽を隠すこの世界。
死こそが救いであり、殺戮こそが正義なのだという転倒を抱えて、ティレルは悍ましいほどに無垢である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
その透明はかつての”羊飼い”に良く似ていて、それが根源的に間違えきっているが故なのも、また同じだ。
生は罪悪であり、死はそこからの解放である。
行く所まで行ったグノーシスの発想だよなぁ…
リチャードを中心に渦巻く現世の泥を見れば、あらゆる輝きがくすみ、よどみ、願いはけして叶わない非情こそが、全てを支配してると考えたくもなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
ならば舞台から早々に降りることこそが正解で、死こそが救済…という考えにも、至るだろう。
しかし、ティレルはどう見ても狂っている。
つまり(これまで幾重にも影絵芝居に重ねられた、生臭く悲惨で因縁まみれの)死は救済などではなく、悲劇の温床であり望まれが離れもしない、宿命の忌み子だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
例えばエドワード四世の”真実の愛”が、彼の王国に悲劇しかもたらさなかったように。
母たちの妄執が、酸鼻を強めたように。
死も迷いに満ちた世界の正解になどはならず、しかしそれを切り捨てられないほどに、人間を取り巻く業は深い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
『これなら、この出口のないお話の救いになってくれるかも…』と、一瞬思える要素を丁寧に叩き潰しかかるのは、容赦がなくて大変に良い。
…く、苦しい…。(思わず漏れる悲鳴)
死と同じく愛も真実も絶望の処方箋にはなり得ず、知ればこそ語ればこそ、運命が狂っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
世に出てはいけない、王と宰相の真実。
信じ合えばこそ告げた、かつて失われた愛。
それは嫉妬に薪を焚べ、制御できない思いを加速させ、せっかくその手に掴んだ栄華と義務を、大きく揺るがしていく。
王冠に続く野望の道を塞ぐ、数多の茨。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
返り血にまみれてでも、それを切り裂く決意が、真実の愛を知ったバッキンガムとリチャードからは消えかけている。
簒奪者が覇気を失えば、あとは重ねてきた罪に押しつぶされるだけだ。
ある意味、正統な報いではある。
しかし己の身体を秘し、魂を押しつぶし、ただ愛に抱かれることを求め続けてきたリチャードの生き様を見てきた立場としては、”ヘンリー”の褥こそが楽園であって欲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
そう願っても、むしろその温もり故にアンとの不和は広がり、権力の足場は揺らいでいく。
可愛い可愛いエドワード王子を、血縁を越えた真実の愛子だと抱きしめるほどに、リチャードの権勢は揺らぐ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
父であること。
愛し、愛されること。
ずっと求めてきたことを果たそうとすると、ここにいたるまで積み重ねてきた死体が、強く足を掴む。
業とは、正しくそういうものである。
リチャード自身が父への愛に呪われ、父王が望んだ”ヨークの男”として己を立てるために、悪徳を重ねてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
ならば父としての愛が地上の真実などではなく、耐えられぬ悲劇につながっているのも、また道理である。
道理ではあるが…やりきれない。
自身の王位簒奪にあたって、不義の子として少年王を玉座から蹴り出した行いが、逆手に握られ王の心臓に迫る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
エドワード四世が”愛”で腐ったように、リチャードがあれほど焦がれようやく掴んだ父としての愛、性を満たされる愛こそが、その破滅の呼び水になっていく。
『ツケを払う時が来たんだよ』と、道化師は嗤う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
リッチモンドが平民を演じて、巧妙にばらまく噂話は、リチャードの治世を腐敗させていく。
しかしそれは、ただの根拠なき中傷ではない。
嘘も不実もたっぷり隠されていて、悪魔の所業は山ほど積み重ねてきた。
元々が、儚き幸せなのだ。
しかしそれでも、人は永遠を夢見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
血に汚れて資格など無かろうが幸せになろうとするし、万人に平等な裁きを逃れ愛と真実を守ろうとする。
その浅ましさと必死さが、ようやく主役に追いついた。
『ツケを払う時が来たんだよ』と、道化師は嗤うのだ。
この非対称な歪さは、映像としてはアシンメトリーな隻眼…あるいはオッドアイとして表現される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
oddは本来二つ揃いであるはずのものが、欠けて満たされぬ奇妙な状態を示す。
幸福を見つめる片目と、悲惨を睨むもう一つの目は、アンバランスな視界を生む。
(画像は”薔薇王の葬列”第19話から引用) pic.twitter.com/9idT5UO5KH
片手に刃を握りつつ、バッキンガムの苦しみを救いと手を差し伸べる暗殺者の歪みが、刀身に反射する
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
その緑色は、嫉妬の色を濃く宿す。
”お気をつけ下さい、将軍、嫉妬というものに。
それは緑色の目をした怪物で、ひとの心をなぶりものにして、餌食にするのです。”
シェイクスピア『オセロ』
冷酷非情なる権力の亡者として、様々な謀略で他社を嬲ってきた悪魔たちが、それでも求める真実と愛。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
それを見つめる時、身体は色の異なる瞳で世界を見て、それに触れる掌は天使と悪魔、両方の色を帯びる。
半身を得ても満たされない、oddでしかない我ら人間。
その業が道化の衣装を着て、噂と短剣を携えて、リチャードの宮廷に迫っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
二人の”ヘンリー”が交わした約束は、リチャード三世の玉座をどう揺るがすのか。
幼き王子を誘う声は、悲劇をどう加速させていくのか。
満たされぬ欠落を歪に塞ぎ、物語はまだまだ続く。
エドワード五世とその弟の始末という、薔薇戦争の大きなミステリに手が伸びてきて、歴史伝奇としても盛り上がる局面である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
しかし愛故に迷い、真実がなんの救いにもならないリチャードの現状を見ていると、あんま体温は上がらない。
沸点低く、地獄の薪で煮られ続けているような…。
皆愛を求めもがき抱き合っているのに、宿命の荒波は人間たちの震えなど意に介さず、全てを飲み込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
その公平さにいっそ清々しさなど覚えつつ、次回を楽しみに待つ。
『出口などない。来週も、地獄に付き合ってもらうぞ』と作品が正直に告げるのは、やっぱ心地よいね。
追記 ”その理由を述べれば、原始我々の性は一にして完全なものだったので、我々はこの完全なる一体たらんとする欲望を不断に有しているからだ。”プラトン『饗宴』
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
短剣を鏡にして、二人の”ヘンリー”が不在なるリチャードを間に挟んで、愛の鎖を語り合う。
嫉妬と不安が渦を巻くこの瞬間、完璧な野望の奴隷だったはずのバッキンガムの顔は歪み、隻眼の歪さを宿していく。
茨を切り裂き楽園にたどり着いても、過去は消えない。https://t.co/Dp58NR52GM
なればこそ願いに至る正しい道を歩むのが大事なのだが、リチャードはその始原からして間違えさせられてきたし、それを正す機会は軒並み潰されてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
リチャードを愛する二人の”ヘンリー”も、同じくその歪な道を共に進み、愛故に過ち真実故に苦しんでいく。
記憶、体面、栄達…冷酷無情な己。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
色んなものを失いながら、しかし二人の”ヘンリー”はその喪失と不完全故に、彼らが愛したリチャードに近づく。
今回隻眼の彼らが強調されるのは、悲劇と愛を共有して近づき、触れ合って傷つける定めを、巧く視覚化していた。
歪な傷だけが、我らを近しくするのだ。
oddという言い回しには、本来満たされるべき幸福なつがいが何処かにある…というロマンティシズムが宿る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
しかし生まれながら男女の性を両方宿し、左右の色が違ったリチャードにとって、悪魔となじられるoddこそが、けして離れない自然であり、己自身であった。
ならばリチャードを愛する者たちも、何かを失い、あるいは過剰な愛に毒されて歪になることで、その歪なる天性に近づいていくのが定めであろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年5月24日
それを照らすのは短剣の閃きであって、欠けた半身を満たす抱擁ではない。
あるいはそれこそが、最も大きな呪いか。
…やっぱグノーシス主義のアニメね。