薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
リチャード三世は、逆臣バッキンガム公の討滅を指示する。
決戦は幾度目か森の中、涙雨が冷たく降りしきる。
剣の火花が思いを照らし、それぞれ選ぶ道。
譲れぬ願いと業が、ここまでたどり着いてしまった生き様が、甘い夢を許してはくれなくとも…。
斯くしてさらば、愛しき人よ
そんな感じのバッキンガム公の末期、薔薇王の葬列第22話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
年表に刻まれた事実から、また二人の愛と命と魂の在り方からして、ここに行き着くしか無かった決着。
しかしそれは、もう一人のヘンリーを殺したあの森とは少し違う、深い悲しみと奇妙な決意に満ちた終わりとなった。
軟弱な優しさ故に国を乱した”羊飼い”に対し、バッキンガム公は苛烈に玉座を求め、リチャードの身体も望むまま蹂躙した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
その激しさは穏当な決着を求めず、愛の証として、あるいはもう一つの答えとして、戦を選ぶ。
王座獲得の立役者、リチャード三世第一の腹心だからこそ、一度抜いた剣は戻せない。
かくして虜囚と斬首の命運が選び取られ、リチャードは父に続いて、愛する人の首を見つめる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
あのときと同じくらいの衝撃がリチャードの魂を砕いていると思うが、幼い頃は敵のされるがままに父の首を切られたモノが、処刑の斧を自ら担いで別れを告げるのは…どちらが良い、というものでもないか。
バッキンガムとリチャードの関係、そのクライマックスとして重要な回でもあるが、どうあがいても悲劇で終わるしかない、英国随一の悪王の物語が決着する地均しとして、かなり大事なエピソードだったとも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
あれだけ求めた玉座、二人で掴んだ栄光。
それが何処から来て、何を与えてくれたか。
その答えにたどり着いてしまえば、もはやそれが奪われることに未練はない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
俯瞰で見ていた視聴者(つうか僕)が常時気にしつつ、作品内部で確言されることのなかった、借り物の野望。
亡霊に背中を押されてたどり着いた玉座が、持ち得た意味をバッキンガムは問う。
二人だからこそ掴めた栄光が見せてくれたものに、リチャードだけの納得があるのならば、それは亡霊の呪いではなく、一人の人間が生きた証ともなろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
そしてそれは、バッキンガムとの真実の愛をも、血に塗れつつ照らしている。
愛憎と美醜、願いと業が入り混じった絵の具で書かれた、ここまでの物語。
その全てに意味があったのだと、我らが主役が言葉に出来たのは、前にいたのが”ヘンリー”だったからだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
狂った道化芝居の舞台、それ自体には意味がなくとも。
そこに至るべく血と泥に塗れ、玉座に立ち見据えた光には、嘘偽りのない思いが宿っていた。
その実感は、僕の感慨とも強く重なる。
加えて己の手で愛を断ち切る決意を込め、地獄での逢瀬を約束してしまったのならば、最早地上の栄光に意味などなかろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
約束された別れと破滅が残酷に襲いかかろうとも、世間がその愛と死をどう処断しても、そこにはけして揺るがない真実があった。
奇想渦巻く歴史伝奇の、真骨頂と言える回だ。
指輪の演出は今回も冴え、地上の王権と姫たる思い、その重さを上手く語っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
”リチャード三世”として逆臣討伐を命じた時、バッキンガムが託した誓いの指輪は、隠れて見えない。
しかしケイツビーに揺れる思いを見せる時、血の赤は薬指に確かに宿る。
(画像は”薔薇王の葬列”第22話から引用) pic.twitter.com/BpMQGREG8Z
他でもないバッキンガムとともに掴んだからこそ、捨てられぬ王のもう一つの身体。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
社会的責務の重さはリチャードを押しつぶそうとするが、これを投げ捨てて”ただのリチャード”として生きることは出来ない。
それが第1クールでの、諦観による逃走とは大きく違うことを、リチャード自身が自覚している。
ただのリチャードとただのヘンリーとなり、全てを捨てて愛に生きる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
バッキンガムが己の命と立場、戦乱と兵士の命を盤上に乗せて掴みたかったものも、あの森と似通っていて、また違う。
性なき天使としてリチャードを求めた”羊飼い”が、けして与えられなかった傷と確信。
肉だけが生み出す、愛の痛み
野放図な欲望が吹き荒れた後、荒廃と不幸だけが残るわけではないのだと…兄王が軽薄に求め国を乱した”真実の愛”とはまた違うものが、二人の間には在ることを、血のように赤い指輪は良く教えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
そしてそれは、けして表には出せない秘密でもある。
王が、愛されるべき女で(も)ある事。
両性を具有する身体は、この時代の価値観では悪魔の証にしかなってくれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月14日
”ただのリチャード”そのものと言える体を、まるごと抱きしめ愛してくれた存在、その証を、祝福の中に生み出すことは叶わないのだ。
魔女に貰った堕胎薬は、かつてリチャードを玉座につける欺瞞の小道具として役立った。
しかし愛が断ち割られるこの時に、リチャードは母となりうる己の可能性を、その薬本来の仕事を果たさせることで、断ち切ってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
処刑人斧で己と半身を断ち切る今回、ひっそりともう一つの半身殺害事件が進行しているのは、とても悲しく、また如何ともし難い宿命でもあろう。
同時に玉座に駆け上がるまでの謀略においては、野心の薪として便利に使うしか無かった性とか愛とか人間とかそういうモノが、凄く残酷な形で本来の場所に立ち戻っている証でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
女で(も)あるからこそ、リチャードは子を孕み、それを殺せる。
王冠にも個人の魂にも、譲れぬ意味があるから…
秘密の恋人たちは、この決着にたどり着くしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
この物語がこういう場所に流れ着くのは、原案や史実が”そう”なっているからではなく、規格外の奇想と真摯な熱量で、自分が選び取った作品に嘘なく向き合い、語りきった結果であろう。
そういう納得を得られるのは、幸福である。
誰も見ていない森の中、王と腹心は剣を交える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
殺すか殺されるか、人間の始原がむき出しになる場所で、二人は剣を取り落とし、王冠を地面に置き去りにする。
そこに象徴される地上の権力は、雨ざらしでも最早どうでもいいのだ。
(画像は”薔薇王の葬列”第22話から引用) pic.twitter.com/edrjlz2Zb0
”ヘンリー”の愛しきかんばせに指を伸ばす時、赤と青の指輪は両方リチャードの手に収まっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
逃げるか、留まるか。
あまりに大きな決断を、虚栄の王冠を置き去りに果たした二人が別れる時、リチャードは王権を示す青の指輪を、恋人に手渡す。
それよりも、赤い至誠をこそ己の身にまといたい。
これがリチャードの決断であり、それをティレルに譲り渡すことが、バッキンガムの決断である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
王権が切り開くかもしれなかった命と未来は、最早どうでもいいことなのだ。
我が王、我が恋人が己の口づけをこそ、唯一の装身具として選んだ。
その事が、バッキンガムに終わりを選ばせる。
父王の愛が嘘ではなかったと、証明するかのように外道を駆け抜けたリチャード。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
バッキンガムに支えられ、あるいは深く傷つけられ奪われ、子を為せるほどに育ってしまった身心は、最早無力な子供ではない。
その証明は、玉座を簒奪し戴冠を果たした時に、共に成し遂げた…のかもしれない。
呪いは多く、実りは少ない野望の道であったが、確かに駆け抜けてみれば見えるものがあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
数多の犠牲を踏み台に登った高みから、ようやく見えた光。
そこには確かに、美しさも醜さも、過ちも愛も肯定できるような眩さがあった。
そう言える所にリチャードはたどり着き、バッキンガムは導いた。
ならば全てを擲ち、名もなき”ただの人”として生きていくことは、自分たちの物語への裏切りであろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
ここに背を向けれないから、リチャード三世とバッキンガム公は史実を捻じ曲げたハッピーエンドにはたどり着かない。
命とは肉体だけに宿るものではなく、その証は形あるものとは限らない。
あれだけ渇望した楽園の扉を、地面に打ち捨てて顧みない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
あるいは王権を示す青の指輪を、思いの証と預けて後悔しない。
そう思える相手と出会い、愛し、別れていく事を、涙に汚れつつ受け入れた今のリチャードには、ひどく歪でしかし嘘ではない充足がある気がする。
父の亡霊に囁かれるでも、借り物の野心に突き動かされるでもなく、リチャードはこの内乱への対処を決め、愛する人の首を落とした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
それはずっと人生に迷ってきた子供が、己の意志と責任において、あるいは王の責務、”ヨークの男”としての決断でもって、自分の人生を握り込んだ瞬間だったように思う。
バッキンガムを伴侶として、リチャードは長い呪いの日々を駆け抜けた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
その終わりが世間一般の幸福とも、当事者の幸せとも程遠い惨劇であったとしても、歩いてきた道と、辿り着いた終わりが無意味だとは思わない。
このように駆け抜け、ここにたどり着く。
それしか、二人にはなかったのだ。
はるか昔、あまりに美しい輝きで世界を庇った出会いと始まり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
行き着く先は処刑台、末期に望むのは、せめて一目…。
その祈りは、赤い指輪を示して叶えられる。
それさえあれば、悪鬼の如き覇道の歩みも、待ち受ける地獄も、楽園のように心地よい。
(画像は”薔薇王の葬列”第22話より引用) pic.twitter.com/xkZH0PBU1Z
世に満ちる万人の誰ひとり知らずとも、肌に食い込む誓いの指輪が、リチャードに愛した罪を、求めた罰を教えていくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
それを忘れぬためにこそ、フードを目深に被り王だと知られぬよう、己の腕で愛を殺しに来たのだ。
胎に宿ったもう一つの証は、魔女の薬で既に殺した。
父に愛され呪われた、リチャードの幼年期。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
2つの殺人で証明される、半身の重さ。
殺すことは永遠を誓うことであり、愛することは耐え難い痛みを伴う。
何もかもが真っ直ぐには流れていかない、楽園を遠く離れたこの荒野で、リチャードはまだ生き続ける。
半身を殺し、玉座の意味を噛み締め、それでもなお、リチャードは”リチャード三世”である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
その重さは投げ捨てようとしても消えないし、二人の生きざまが宿ればこそ、捨ててはいけないと決めた。
残る物語は、ある意味で”余生”でもあろう。
リチャードの長い遍歴は、ここで一つの決着を迎えたのだ。
その答えを出すのが、バッキンガム公で良かったな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
彼の叛乱は史実においても判然としない部分が大きく、ロンドン塔の二王子の末路と合わせて、薔薇戦争後期最大のミステリと言える。
そこに、こういう形でこのお話だけの答えを出してくれたのは、歴史伝奇として、リチャードの生き様として…
大変良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
愛すればこそ独占を求め、全てを切り裂いてでもその手に抱きたくなる、バッキンガムの業。
どれだけ悪徳にまみれようとも、どこか清廉に万人の幸福を求め、私人として生ききれないリチャードの業。
その2つがぶつかって生まれたうねりが、行き着く先もしっかり描かれた。
これまで描かれた、そう生きざるを得ず、その果てに死んでいく人たちの列に今回、バッキンガムが加わった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
咳き込むアンがそこに続いて、リチャードも話の幕が下りると同時に、半身の待つ地獄へと堕ちるだろう。
残された玉座は、雨ざらしの空しき劇場だ。
道化が好きに踊るがいい。
そんな気持ちになってるのも、あの腐れリッチモンドがシニカルに勝者となる結末を噛み砕き飲み込む下準備として、思いの外ありがたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
愛の眩さも、罪と血の泥も、共に進んだ道の先。
羨望した王冠の先に楽園などなかったが、確かにわたし達がそこにいた証は、2つの指輪とそれぞれの心に刻まれている
そう描けたのは、僕は凄く良いことだと思った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月15日
残りの話数でこの決着に、どんな筆を足していくのか。
愛をその手で殺したリチャードを、どんなふうに殺していくのか。
そこに怖さと楽しみを抱えつつ、『この作品を見続けて、良かったな』という実感が、確かにある。
次回も楽しみです。