メイドインアビス 烈日の黄金郷を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
成れ果ての姫の肉片を抱え、レグは村に帰る。
鏖殺を意味する約束を果たすのか、異形の輝きを守るのか。
悩む暇もなく、暴走した防衛機構が命を脅かし、火葬砲が放たれる。
書き換わる法則、終わる母なる眠り。
復讐は鶏鳴のごとく、皆殺しの声を上げて…。
そんな感じの総決算前夜、烈日第9話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
ファプタの血は獣を狂わせ、イルミューイとその仔を貪って存立してきた村に、破滅へのカウントダウンが迫る。
加速していく状況の中で、何が正しいのも解らないままレグは決断を果たし、緑色の保護膜は破られる。
そこから始まるのは正義か、虐殺か。
そんな所まで運命が転がっていった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
ヴエコの回想を聞くとファプタの惨殺に肩入れしたくなるが、リコが異質にして公平なセンスで見抜いているように、村には村なりの平和と情念があり、ワズキャンの志は眠れる獣のように静かに、凶暴にのたくり続けている。
ここを故郷と定め、しかしまだ先へ。
探窟家は探窟家を知り、神がかりには神がかりの思考が解る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
一般的な倫理からぶっ飛んだところのあるリコが、凄惨なる建国神話を知ってなお村を肯定し、ワズキャンに己(あるいは黎明卿と)と同じ尽きぬ欲望を見て取るのが、なかなか面白い展開だった。
対峙する相手に反射する自分を、否応なく見る。
卓越した客観性がリコにはあって、しかし理性の怪物にはならず己の感情に従って吠え、泣きわめき、嘔吐とともに道を選ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
そんなあまりに人間らしい道に疲れ果てて、村になれ果てた元探窟家達は、捨て去った輝きを夢に見、未来へ進む子供たちに託す。
そんな、譲れぬものの交錯点が”ここ”である。
村の住人にとって”ここ”はどん詰りの終着点であり、リコ達にとってはあくまで経過地である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
ワズキャンの秘めたる欲望を見抜き、終わりに思える村から旅立つ未来を現実に近づけているのは、諦めてしまった停滞せし永遠ではない。
外から来て、外へ出ていく幼きマレビト。
それだけが、閉じた村に変化を生み出せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
それは夢を取り戻す明るい変化かもしれないし、正統と狂気の入り交じる復讐で、皆殺しにされる未来かもしれない。
光と闇はヴエコの語った建国の神話だけでなく、不定形の未来にも宿っている。
どちらが顔を出すかは、絡み合う決断の果てだ。
というわけで記憶喪失系流され主人公は、可愛いかわいい姫様とイチャコラしながら、運命の地を目指す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
レグとモチャモチャしてる時の甘えた瞳と、膜越しに仇を見る時の視線は、ファプタという存在の二面性…その同居を示す。
(画像は"メイドインアビス 烈日の黄金郷"第9話から引用) pic.twitter.com/V1v2pYeevx
ファプタは生誕からその尊厳を踏みにじられた、呪われた食材の血族であり、六層最高の価値をもつ貴種でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
王子様に甘える獣の姫であり、一族の無念を背負って憎悪をたぎらす復讐鬼でもある。
欲望の餌食であり、貴種流離譚の主役であり、始原への帰還者であり、終わりをもたらすものでもある。
一見ハードコアな展開へのサービスにも思えるファプタ可愛いシーンは、そんな彼女の複雑さ(それはファプタ個人で終わらず、村とその歴史に強く刻み込まれている)を教える、なかなか面白い演出だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
血塗られた因縁の最先端に立ちつつ、一個人としての意志と可愛さを溢れるほど抱える姫。
この複雑さを前に誰もが何かを決断しなければいけないし、そこに目が行き過ぎると、己を見つめる単眼を見落とす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
村に縛られ成れ果てる前、肌に宿った甘き思い出。
行き止まりに果ててなお胸を焼く思いは、早々簡単に言葉には出来ず、差し出せもしない。
ヴエコの視界はイルミューイの裔たるファプタが専有し、その横顔を昔の女が睨んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
因縁は絡み合いながらぶつかることなく転がり、決定機は人の思惑を超えて、唐突に降り注ぐことになる。
急転直下、問答無用。
(画像は"メイドインアビス 烈日の黄金郷"第9話から引用) pic.twitter.com/cA0XHInIOq
そんな運命の苛烈さを示すのに、村の自動防衛機構たるジェロイモーの襲撃は、良いキャンバスだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
自分の本質を解ってもらう喜びを、暴力が再起動するまでの時間稼ぎに使えるワズキャン。
狡猾に見えて、破滅が迫るスリル以上の喜びを、この状況に強く示してもいる。
ファプタの横長な瞳孔…非人間的な獣の視線は、彼女の殺意が本物であることを良く語っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
ワズキャンはせっかく作り上げた故郷が、この憎悪の刃で切り崩されようとしてる状況を、心待ちに楽しんでいる。
それはリコが見抜いた、死なずに蠢く外への意志を叶えてくれる、解放の一閃でもある。
ヴエコと繋がったイリュミューイが、村を統制し外からの危機を排除する”免疫”として選んだのは、ヴエコの心身を凌辱した男の名前だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
支配するもの、割り裂き押し付けるもの、悪しき父。
そんなイメージが、ジェロイモーを村…変質した己の防衛/抑圧/暴力機構として選ばせる。
ジェロイモーがけしかける、イリュミューイの仔の黒い亡霊。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
欲望と価値の精算を担当し、村のシステムを維持するインフラクチャだった”それら”は、ヴエコという母に名を呼ばれ優しく抱かれ、ジェロイモーによって暴力として行使され、村を守る。
イリュミューイの残滓が感じ取る、ヴエコの傷と欲望。
黒い淵に沈み、村の様子を無色な信号としてしか感覚できなかったヴエコは、誰よりも大事な相手が読み取った、己のトラウマと対峙することになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
肉体も心も無価値と弄ばれ、支配され、逃げ出してたどり着いたこのどん詰りで、なお追いついてくる父/男の残影。
おぞましく、力強い。
これに決着をつけるのはレグの決断であり、そこに閃くファプタの温もり、視線、約束である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
かつて確かに自分が差し出して掴み、今白紙の記憶に上書きされていく、確かな温もり。
頬を舐める舌の湿り気と、甘えまとわりついてくる囁きの甘さ。
そこから漏れる、獣の殺意。
それに導かれ、あるいは惑わされて、レグは火葬砲でジェロイモーを打ち、『入れば出れず、成れ果てて終わる』という村のルールを書き換える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
『死なない』というルールを書き換えたから、あの時ミーティを火葬できたんだなぁ…という納得もありつつ、その一撃は敵を討ち果たす物理では終わらない。
150年、ワズキャンの願望とイリュミューイの祈りを混ぜ合わせ、発酵させ続けた村の蓋は、火葬砲で弾き飛ばされてしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
外界への窓が開き、出ていく自由が与えられるこの行為は、母なる揺り籠に微睡んでいた村の住人を、運命に向かって出産する決定機だ。
もう、無自覚に貪ってはいられない。
村の歴史とおぞましき罪を、獣になることで忘却し、あるいは闇に隠蔽されて保護/拘禁されてきた、成れ果て村の子供達。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
彼らは知らぬまましがんでいた、母なる存在の乳房…罪なく殺された子供たちの遺骸の、長く重い精算を受けることになる。
アビスの呪いが流れ込み、復讐鬼が呪いを吐く。
リコが好きだといった、村の安寧と願いも全否定されるべき嘘ではなく、哀れに死んでいった子供たちも、無垢なる罪悪も悪辣な奸計も、確かにそこにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
善悪明暗が複雑に入り混じり、もはや取り繕った人間の価値観では切り分けられない、カオスなる倫理の原野。
それが、火葬砲の一撃で拓く。
見よ、麗しき獣の姫の帰還を。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
尽きることのない殺意に赤く輝きながら、ファプタを見つめる村人の視線には崇敬と我欲が、入り混じって光る。
姫様と崇め祈りながら、食材を見つめる涎が隠せず溢れている。
(画像は"メイドインアビス 烈日の黄金郷"第9話から引用) pic.twitter.com/WdqxgLNGoL
自動防衛機構にして凶猛なる父、ジェロイモーは姉妹の亡霊をけしかけ、ファプタを打ち倒そうとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
しかし末娘の祈りは黒い呪いから姉たちを解放し、貪るのではなく癒やす権能を発揮させて、真っ白に浄化していく。
ジェロイモーが支配してきた、ヴエコ/イルミューイ/仔の、絡み合う因縁。
ファプタがその機能をハッキングし、自動的な精算機構として便利に使われる同族を解放したことは、”父”に支配されてきた女たちの運命を、開放する狼煙でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
それは安らかな和解では終わらず、暴力的衝突で果たされていく。
何もかも、その存在も意志も許さぬという、鏖殺の自動機構。
末娘たるファプタ自身が、意志を失い誰かに便利に使われる母と姉たちの運命を、継承してここに立っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
母と姉は”生む/生まれる”ことを簒奪/蹂躙されて来たが、ファプタは”殺す”ことでその尊厳を取り戻し、あるいは果たすべき負債を精算する形に、反転してはいるが、自動は自動だ。
可愛らしい人の目と、殺意に満ちた獣の目。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
そのどちらもがファプタの真実だからこそ、鏖殺の緒をこじ開けたレグの決断は重たく、混沌として先を見通せない。
人が未来に向かって己を投げかけるという行為は、本来的に、本質的にそういうものなのだろう。
奈落の奥で、我々は運命の羊水を浮遊する。
どちらにしてもジェロイモーは倒れ、黒き亡霊は殺戮よりも早く祓われた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
ヴエコの中にあった影を読み取り、自分の腹の中で村を維持する一つの機構…虚空から生えてきた”三賢”として、母が選び生み出したものを、ファプタは克服したのだ。
もう姉たちが、村の都合で使われることはない。
それは喜ばしいことだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
あんなに悲しい、あってはいけないことの犠牲となったものが自由を得て、無意識から生えだした”父”の軛を引きちぎったのだから。
だがこの正義と歓喜の後に、何もかもを踏み潰す破滅が来る。
それは正統で、不当で、意志によって選ばれ、自動的に動く復讐劇。
生と死、束縛と解放、光と闇。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
全てが混沌と混じり合う中で、ナナチもまた甘い微睡みから目覚めて、何かを選ばなければいけない。
柔らかな暗闇の中、瞳を殺して夢を見てきた賢者も、運命の渦の中、否応なく目覚めていく。
(画像は"メイドインアビス 烈日の黄金郷"第9話から引用) pic.twitter.com/7d8hfHlfxF
ナナチが微睡みの中、村の記憶に触れて影響を受けるのが、タマウガチに襲われ昏倒していたリコが、ミーティの魂に触れていた場面とシンクロしていて好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
自分を失って漂っているように見えて、子供たちはたしかに世界の声を聞いている。
そこに確かにいた、誰かの魂の思い出を視ている。
その柔らかなヴィジョンが、過酷すぎる環境でたしかに何かを選び取る足場となり、果たした選択が未来のカタチを定めても行く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
甘く美しい、永遠に続くはずだった夢。
ナナチとベラフは同じ、イルミューイの薄暗い子宮の中にいた。
それはレグとファプタの一撃で、否応なく壊れていく。目覚めていく。
己の罪の重さを、決意が砕け散った残骸を見ていたくないと、甘く幼い肉を喫する器官に堕した、賢者の眼。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
それは希望に満ちて故郷を探していた神がかりの強い瞳と重なりながら、いつか来る…そして過去においてきた夢を見つめ直す。
そうしてしまえば、夢は醒める。
罪に押し潰されて、耐えられない。
だからベラフは蛇身に落ちて、瞳を塞ぎ己を捧げて夢を見てきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
だが、それは終わる。
その悪夢に巻き込まれて、失ったはずの安らぎに微睡んでいたナナチの時間も、激しく動き出す。
賢者も幼子も、事ここに至っては選ばなければいけない。
未来を、己を、欲望と価値を。
価値と精算を担保してきた村のシステムが、レグの決断とファプタの暴威、姉たちを開放する祈りによって破壊される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
そのことで、村に囚われていたもの達がシステムに押し付けられ、自動的に推移する価値ではなく、何を為すべきか個別に選ばざるをえない状況に投げ込まれていく。
色んなものを犠牲とし、閉じ込め、優しく残酷に微睡んできた欲望の揺り籠。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
一度飲み込めば出てこれない、出口なき子宮がこじ開けられたことで、成れ果て達は人の最も人たる所以…決断と責任の深淵へと立たされている。
背中を向け、逃げることは許されない。
運命は既に動き出している。
そんな状況でレグは選んでしまったし、ファプタは因縁と思いに押し流されるように、虐殺の舳先に立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
道化めいた剽軽を崩さないワズキャンも、血みどろの盲目に沈んでいたベラフも、甘い夢に微睡でいたナナチも。
みな、何かを選ぶだろう。
リコもヴエコもだ。
それは残酷にして壮麗なる人間讃歌であり、これを描くためにアビスという特殊な状況、成れ果て村の設定があるのだろうな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
人知を超えた過酷さと、驚異に満ちた冒険、そこで暴かれる譲れぬ欲望だけが顕にする、闇の中の光…あるいは光よりも眩しい闇。
人であるとは、どういうことか。
加速していく殺戮のクライマックスは、否応なく決断を迫り、そんな問い掛けを鋭く、強く、熱く描いていくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
大変楽しみである。
何しろ”メイドインアビス”なので、運命の決算書はそらー、溢れかえる真紅の血潮で描かれるだろう。
苛烈を極めた先でしか、描けぬものが確かにあるのだ。
しかし女性器顔面にはっつけ、デカすぎる棍棒抱えたジョロイモーのデザインは、村=イルミューイの深層心理、そこが受け取ったヴエコの始原を見事に反射してて、すげぇ良いなと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月2日
交わり、犯され、祈って望み、編まれる人間という織物の奥の奥には、ああいう醜悪が住むのだろう。美しい。