イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アキバ冥途戦争:第1話『ブヒれ!今日からアキバの新人メイド!』感想

 時は1999年、秋葉原はヲタクの聖地、カオスのるつぼとして人々の欲望を集め、メイド喫茶は大隆盛。
 そこに降り立った夢見る17才・和平なごみは、華やかなメイド家業に隠された血みどろの現実を目の当たりにする……という第一話。
 今や漂白されたアキバにはない、古き善きオタク文化を半笑いでバカにしてくる……と思いきや、メイド喫茶お仕事モノの皮をかぶった実録ヤクザ奮戦記であり、作り手のやりたいことがよく伝わる第一話で大変良かった。

 1999年に設定されてるこのお話、”電車男”のドラマは2004年だし、世界初の常設メイドカフェ”Cure Maid Café”の開店は2001年だし、嵐子さんの冴えるガンカタと見事にクロスオーバーして演出されたヲタ芸も、(オタク界隈の中ですら)一般化するのは21世紀に入ってからだ。
 黎明期ですらないメイドカフェが、豚だの兎だの個別化しなきゃ生き残れない段階まで爛熟しているはずがないし、まだオタク街っていうより電気街の匂いを残した世紀末のアキバよりかなり未来の文化で、このお話は紡がれている。
 つまり1999年設定は、『メイド服を来た実質ヤクザは当然のことながらフィクションであり、現実の文化史、地域史とは関わりあいのないところで、話は転がっていきます』と告げる、ある種のサインだと思う。

 そらー現実に業態があって、そこに努めて稼業にしてる人たちがたくさんいる業界を、『ワシらロクでもない実録ヤクザやりたいんじゃ……チャカバリバリ弾いて、ピューピュー血吹き出させたいんじゃ!!』という企画の隠れ蓑、ヤクザ×オタク×メイドのイカれた取り合わせの1つとして使う以上、大嘘フィクションじゃなきゃ困る。
 『生っぽいコンカフェの事情とか知りてーやつは”私の百合はお仕事です!”とか、柴田勝家メイド喫茶エッセイとか見てろよ!』と、初手から突きつけてくる潔さは、むしろサッパリしてて気持ちがいい。
 実際、1999年のアキバオタク事情とか20数年後のソレと大きく異なっているし、ポップカルチャーのマニアより更にディープな各種オタクが本拠としていたあの時代のアキバを、リアルに掘り下げてもあんまウケないだろうなぁ(正確に言うと、ウケる形にするコストが凄く高い)……とは思うので、この”仮想1999年を舞台とした、ヤクザパンクとしてのメイド喫茶SF”という形式はなかなかいいと思う。

 というか1999年にあんなコッテコテの実録ヤクザも、ポップ・オタクなアキバと同じく”ない”わけで、メイド要素だけでなくヤクザ要素にも、ある種のファンタジーが強く混入しとる作りか。
 85年に親分ハジかれて、お勤めを終えて現場に戻ってきて35才……嵐子さんの時代遅れ感は、アラフォーメイドのうわキツ感で終わらず、時代に取り残された旧き任侠の血潮でもあるわけか。
 無骨で無言な嵐子さんが”時代遅れ”として描かれるなら、1999アキバは任侠の皮を引っ剥がしたリアルな欲望の街であり、そこら辺のタイムスリップ感も結構大事なアニメ……なのかな?

 

 タチが悪く面白いSFとして作品を認識したところで、本編はアキバ裏事情を知らねぇ純情夢見るアリスちゃんが、苦しい懐から”おひねり”放り出すために何も知らねぇまま鉄砲玉に仕立てられ、トウが立ちながらメイド喫茶稼業に戻ってきたバトルサイボーグが巻き起こす嵐を、ポカーンと眺めてひとまとめ……という感じ。
 『PAお仕事モノの新作はメイド喫茶かぁ~。”白い砂のアクアトープ”面白かったから期待だなぁ~』みたいな、キラキラ眼のアニメファンが初手でバイバイするように、いきなりメイド幹部がメイド鉄砲玉にハジかれるシーンから始めるのは、ある意味親切である。
 すっかりポップになったオタク文化のイメージを上手く引き受けて、『メイド喫茶ってこういう感じでしょ?』という濃い口な味付けで展開する、とんとことんの日常業務。
 その裏には小指の代わりにツインテを詰め、敵対店舗に殴り込みをかける地獄の暴力稼業が隠れている。
 夜のアキバを切り取るポップな色彩と、そこに飛び散る嘘くさい血しぶき、嵐子さんが撒き散らす軽快な殺戮は、キレが良くて悪趣味で大変良かった。
 

画像は”アキバ冥途戦争”第1話より引用

 冒頭、あんまりにもヤクザ映画な過去を描いたことで、視聴者には嵐子さんが復讐に囚われた典型的任侠であることが解っている。
 『アラフォーじゃ~ん』と煽られるのも気に留めず、寡黙な態度に圧倒的な実力を秘め、静かに炎を燃やす嵐子さんはヤクザサイドの主人公的存在だ。
 高倉健的うっそり男(女だけど)が問答無用にめっちゃ強いと、俺も問答無用に嬉しくなってしまうタチなので、荒事の見せ方と合わせて第一印象は大変に良い。
 今後も世紀末なアキバに、嵐を呼んでほしいものだ。

 一方なごみちゃんはメイドサイドの主人公で、PAのお仕事アニメ定期便に乗り損ない、おはなやおいちゃんや由乃やくくるとは違う修羅の世界へ、強制的に放り込まれることになる。
 彼女がピカピカな夢を抱けるくらい、この世界のメイド喫茶は表向きの華やかさを維持しているようで、鉄砲パンパンはあくまで裏稼業。
 媚と夢を売り独自の空気と文化を築いている業態を、どんくらいの手付きでちゃんと書いていくかは、ヤクザネタとのギャップを際立たせる意味でも大事だろう。
 そういう意味では、”とんとことん”に夢を抱いてなごみが降り立った時の筆使いが、大変良かった。
 アキバの雑居ビル、調子が良くないエレベーターを出て、ごてごて飾り立てられてはいるもののどこか退廃にくたびれた空気を感じながら、狭い廊下を歩くあの質感が、凄く丁寧に編まれていた。
 それはヤクザナイズされ、ポップ・オタクに漂白されていない生の1999年秋葉原イエサブのプレイスペースから降りて少ない飯屋を探してウロウロしていた”あの時の僕”が、確かに感じた空気を宿していた。
 時代考証的にも背景設定的にも大嘘つきつつ、こういう手触りがちゃんとしてて匂いがあることで、それを鏡にして描かれる悪趣味なバーレスク、可愛い外装で覆った実録ヤクザ味にも、一種の芯と実在感を受け取れる。
 ここを担保するのが、当たり前に大殺戮に呆然とし、当然に闘争を企てて果たせないなごみちゃんの、最初の仕事なんだと思う。
 ど新人であるが故可能な、白紙として作品の異様さ、面白さを際立たせる仕事。

 同僚も二重人格なエース、ギャル、パンダ、三下店長となかなか魅力的なのを揃えており、声優陣のチューンも良い。
 田中美波がブリブリした演技をしていると、今は亡きWUGのうんめーにゃちゃんを思い出して、体内をノスタルジー汁が駆け巡る。もう8年かぁ……。
 店長の態度を見るに新人の出入りが激しい職場っぽいので、なんとかサバイブしたセンパイの知恵を借りつつ、なごみちゃんの新人メイド/ヤクザ奮戦記もなかなか激しくなりそうだ。
 嵐子さんは……哀しき過去に磨かれたいぶし銀のバトルサイボーグなので、あんま心配ないかな。こっちは暴力関係ではなく、接客関係の課題をクリアしていく形になるのかしら?

 ともあれ、自分達がやりたいこと、そのために迷わず現実をネタ化するパワフルな姿勢、そのクセ妙にしっかりした取材と描画を、血しぶきとごたまぜにして叩きつけてくる、大変いい感じのロクでもなさでした。
 表アキバの生っぽい感じと、裏アキバの作り物っぽい色彩の対比がなかなか気持ちよく、ビジュアルの強さを的確にぶん回せていると思います。
 W主人公の役割分担、噛み合う凸凹感もよく出せていて、掴みは大変OK。
 こっからどういうろくでもなさと、ちょっとだけ苦い切なさを混ぜてメイドとヤクザを描いていくのか……次回も楽しみです!