イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

SPY×FAMILY:第14話『時限爆弾を解除せよ』感想

 ”SPY”要素が色濃く出た、外務大臣暗殺を巡る攻防の中編。
 遊園地借り切って<黄昏>の家族サービス支援してくれる面白団体だったWISEが、かなりガチな防諜機関として街の影を走り回る様子が、鮮烈に描かれる。
 同時並走で”読心”アーニャと”未来視”犬さんの異能コンビが、小さな身の丈に似合わぬ大冒険を繰り広げ、絶望の未来を書き換える闘いも進行していく。
 父と娘、それぞれの闘いは交わらずに触れ合い、お互いが自分なり必死に頑張るからこそ、お互いの未来が拓けていく展開。
 ”Fate/stay night [Unlimited Blade Works] ”の須藤監督コンテ、原田副監督演出と、かなりリッチな座組で作画もブン周り、見ごたえ十分となった。

 

 WISEサイドの闘いは暗闘の色が濃く、戦争を知らない子供たちの危険な遊戯に、人肉が焼ける匂いをナマで嗅いでる連中の秘めた怒りが、静かに燃える。
 イーデン校舞台の学園コメディとか、フォージャー家の温かな家族劇見てると忘れがちだが、このお話の背景は相当に暗くて重いし、だからこそロイドさんも己を捨てて、必死に駆けずり回っている。
 二度と地上の地獄を体験しないための東西冷戦綱渡りであり、その意志はロイドさんだけでなくWISE全体、冷静に見えるハンドラーにも強く宿っている。

 

画像は”SPY×FAMILY”第14話より引用

 学生テロリストが頭の中でこねくり回している、あまりに危険な正義の妄想。
 それが炸裂した後世界に満ちるものを、ハンドラーとロイドさんは思い知っている。
 廃墟に打ち込まれた窓枠の十字架と、そこから見える廃墟……べっとり張り付いた血。
 淡々と戦場の地獄を数え歌するハンドラーが何を体験し、何を見てきたかを上手く可視化して、なかなか良い演出である。
 ちょうど原作が第10巻で、ロイドさんのオリジンを見事に描く傑作エピソードを扱ったこともあって、冷静さを装いつつも熱い態度の中に何を秘めているか、面白い呼応が生まれるタイミングだったと言える。
 過去から裏打ちさせる形で、コメディ色が強くなりがちなお話に重さを取り戻し、主役が付いてる嘘が本来何のためか、思い出させる構造なのは面白い。

 

 全体主義国家の中で育まれた不満と、それを解消するための安易なテロルが一度破裂すれば、仮初めの平和は簡単に崩れ落ち、フォージャー家を繋げる嘘もかき消えてしまう。
 アーニャは未来視を共有することで、一時的に”ちち”と同じ立場に立ち、”はは”の静止を振り切って危険な戦いに挑む。(つーかヨルさん、蚊帳の外に置かれること多いなやっぱ……)
 アーニャは犬さんと心を通わせ、共に力を合わせることで子供には普通解決できないピンチを乗り越えていくが、テロリストは賢いシェパードのサインを見落として、自分の計画を台無しにする(≒フォージャー家の平和を守る)活躍を許してしまう。

画像は”SPY×FAMILY”第14話より引用

 WISEの戦いが火薬と血しぶきまみれの重苦しさで描かれる反動か、アーニャの小さな戦いは大変可愛らしく、微笑ましく描かれる。今回のアーニャちゃん、全体的に丸っこくて可愛いねぇ……。
 しかしその悩みは結構シリアスで、自分が異能者であるとバレたら捨てられてしまうという、嘘の家族ゆえの信頼のなさ(信頼したさ)、それと相反する”我が家”への愛着が濃く滲んでいる。
 これでアーニャが(犬に知性を与えたアップル計画と同じく)戦争の遺児で、ロイドさんが遠ざけ守りたい亡霊が彼女のオリジンにも伸びてたりすると、なかなか面白い因縁だと思うが、ここら辺は未だ不明である。
 まー彼女が孤児なのは未だ精算されない戦時体制の影響だと思うし、そういう意味では良き未来を掴む今回の戦いは、”ちち”が挑む戦争の悪魔祓いと根っこでつながっているわけだが。

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第14話より引用

 異様なクオリティで描かれるドアノブは、”ちち”の任務と娘の冒険が交錯する瞬間を、印象付けるための仕掛けか。いやー……ほんっとこういう、静物の仕上がりが凄まじいアニメなんだよなぁ……。
 このアニメの強い所をぶん回しつつ、犬と少女の連合軍は無事警告を届け、正体を知られぬまま”ちち”の命、国の未来を助ける金星を成し遂げる。
 この活躍は<星>なんかよりよっぽど大事な勲章だと思うが、アーニャの立場上告げることは出来ない秘密で、読心の異能故の孤独と合わせて、結構あの幼女はハードボイルド・ヒーローでもある。
 そんな苦労を分け合ってくれる、物言わぬ相棒との出会いを描く今回、犬さんは健気で優しく頼りになるやつだと上手く描けてて、大変いい感じだ。でけー犬が強くて優しいと……嬉しいッ!!
 騒動が解決した後、新たな家族としてフォージャー家に向かい入れられる瞬間が、今から楽しみである。

 

画像は”SPY×FAMILY”第14話より引用


 銃撃戦で砕かれる窓ガラス、路地裏に爆弾犬を誘い込む<黄昏>のステップなんかも凄まじく良くて、『スパイファミリーのアニメ食ってるなぁ……』って感じが強い。
 ここのクオリティが高いの、ロイドさんが身を置いてる国際諜報戦がどんだけシリアスでリアルか、肌で理解らせる意味合いが生まれてて、結構好きな質の使い方である。
 圧巻に利用されているだけの哀れな命を、果たしてスパイの銃弾は貫くのか。
 自分をお取りに主犯を釣りだした事件で、外相暗殺を巡る攻防はWISEの完勝でほぼ終わっているわけだが、大義のための犠牲を認めては<黄昏>の名が泣く。
 誰も傷つけず、おとぎ話のような完全な決着を実現してしまう凄腕は、自国民の犠牲も止むなしと諦めていたテロリストと、面白い対照をなしていると思う。
 優しき修羅の大活躍でもって、なんとか保たれている平和に戻った時、フォージャー家の”ちち”はどんな顔で、大騒動な休日に決着を付けるのか。
 ”SPY”な色の濃かった物語は、どう”FAMILY”に戻るのか。
 次回も楽しみである。