イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN:第1話『覚醒 Predestination』感想

 大人気タワーディフェンスゲームを、Yostar Picturesが遂にアニメ化……である。(なお当方、現役プレイヤー)
 ソシャゲアニメ特有の期待値の高さ、アニメに落とし込む際の難しさで見る前のハードルは上がっていたが、見事にクリアしその上を行く第1話だったと思う。
 作画や美術のクオリティ、世界設定に似合った色彩や演出のチョイス、ファン待望の『あのキャラが喋って動く!』喜びの与え方、導入に必要な情報の絞り込み。
 どれも焦ることなくどっしり構えて、しっかりしたものを一個ずつ手渡してくれる感じで、大変に良かった。

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第1話から引用

 物語はAパートは抑圧が効いた室内ステルスアクション、Bパートは戦力が整いオープンエアでのぶつかり合いと、ちょっとずつテイストを変えながら進んでいく。
 特殊部隊テイストが濃い静かな逃走劇から、人道のための反撃に転じ勝利をつかむ流れに、メリハリが効いていて静かながら見応えがあった。
 レユニオンで満ちた街、多勢に無勢のピンチに陥る度助っ人と合流し、危機を脱していく流れも、ロドスが何を武器に戦っているか分かりやすく伝えていて、大変良かった。
 ……声の付いたACEおじ、頼りがいありすぎたな……。


 アクションが静から動へ移り変わる歩みは、何の力も記憶もない主人公……ドクターが話の中心として、自力で立つまでの歩みとしっかりシンクロしている。
 ドクターは歩くこともままならず、記憶も失った無力な状態から自力で立ち、味方を勝利に導く”プレイヤー”として目覚める過程を、この第1話で通過していく。
 前半体だけが覚醒し魂が目覚めていない状態の痛ましさ(それを健気に見守るアーミヤの可憐さ)が強調されていることが、覚醒のカタルシスを強める構成だといえる。

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第1話から引用

 最初死んだ魚の色をしていたドクターの眼は、アーミヤの献身的な支えで決戦の場まで連れてこられ、戦術支援AI・PRTSにふれることで光を取り戻す。
 ドクターの指揮がなければ哀れな親子は助けられず、誰も死なずに難局を乗り越えていくのは不可能だ。
 主人公としての当事者性、卓越した戦術指揮という唯一性を、極限状態でのお荷物から華麗に強調する流れであるが、間に『スマホを触って、ログインをする』という過程を挟んでいるのが、なかなかに面白い。
 このアニメはスマホゲー原作であるから、ドクターの主人公性はすなわち”アークナイツ”を遊ぶプレイヤーと強く重なる。
 スマホを指でなぞり、液晶の中の戦場を鋭く差配して、仲間を勝利に導くゲーム外の動きは、アニメーション内部の”ドクター”と重なっていく。
 アニメからゲームへの導線を引く行為とも言えるし、ゲームで散々指示を出してきた既存プレイヤーに、『俺たちがアニメの中にいる!』という感覚を与える演出でもあろう。
 この第1話、携帯端末がアニメの内側、ゲームに続く外側へと、ユーザーを導く魔法のドアとして、上手く機能していたと思う。

 

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第1話から引用

 ドクターの当事者性と同時に、『アーミヤを物語の主柱として、この一話でガッツリ立てる!』という意識も大変に濃い。
 祈るように優しく、ドクターの血の気が失せた手を抱きしめるアーミヤ。
 目覚めたばかりで無力なドクターを、必死にかばうアーミヤ。
 現実の重苦しさに、思わず顔を歪めるアーミヤ。
 戦場において凛々しく、黒い稲妻を放つアーミヤ。
 『色んなアーミヤがどんどん出てくる!』とばかりに、アーミヤは多様な表情を見せる。
 『この子は凄腕の術師で組織の代表で可憐な乙女で、何より貴方のことが大好きなんです!』と絵で伝えてくる第1話になったのは、今後彼女が過酷な世界と対峙する物語が展開していくことを思うと、とても大事なことだろう。

 アニメの中でも画面の外でも、ワケの分かんねぇまま物語の真ん中に投げ込まれたドクター≒視聴者を、アーミヤは優しく導き、狂おしく慕う。
 説明をオリパシーとレユニオンに絞り、莫大な背景設定に初手から踏み込むよりも、まずドラマを回転させることを選んだ第1話は、ともすれば何がどうなっているのか解らないめまいを、見ているものに与えるだろう。
 豊かな表現力で描かれたアーミヤの純朴な信頼と思慕は、そんな混乱で思わずしがみついてしまう可憐を、確かに宿していた。

 『さっぱりワケが分からんが、とにかくこのアーミヤって子はしがみついて大丈夫そうだ』

 そう思えるキャラがいるのは、”第1話”においてなかなか大事なことだろう。

 

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第1話から引用


 テロ集団が虐殺を繰り広げる鉄火場に、自ら乗り込んでドクターを奪還する少女は、ただ可憐なだけではない。
 ロドス代表として感情を押し殺し、揺るがぬ顔を作ることの意味を良く知っているし、自分を愛し導いてくれた憧れの大人が、全てを失い赤子同然になってしまった状況にも即座に対応する。
 ドクターへの憧れを杖に、過酷な世界に立ち向かってきた少女にとってこの状況は相当ショックだったと思うが、アーミヤは一瞬の動揺を見せつつも、それを飲み下して硬く強い表情を編む。
 そういうことができる子であるし、しなければいけない立場と運命に投げ込まれてもいる。
 ここら辺の年不相応な強さが、一生ドクターに寄り添い支え、心配して導くヒロイン力と同居しているのは、とても良かった。
 ゲームだと鋼鉄のタフネスが印象的すぎて、『可憐極まる乙女なんだぞッ!』って事を忘れがちだからね……気合の入った芝居でもって、油断なくそういう所強調してくれたのは、大変良かった。

 

 かくして主人公とヒロインのキャラクター性、能力と性格をしっかり彫り込み、テラのザラついた空気をたっぷり吸い込める第1話となった。
 軸がしっかりしてれば説明や奥行きはおいおいついてくるものだと思うので、アーミヤとドクターを描くことに注力したスタートとなったのは、とても良いと思う。
 卓越した作戦指揮能力を目覚めさせたドクターだが、天災は迫り戦火は絶えない。
 絶命の死地に、出口はあるのか。絶望の大地に、希望はあるのか。
 次回も楽しみです。