イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アキバ冥途戦争:第5話『赤に沈む!三十六歳生誕祭!』感想

 生命一つもかそけき灯、クラッカー代わりにチャカ鳴らして、今日が餓狼の誕生日。
 アキバ冥途戦争、風向きが血生臭く変わりそうな第5話である。

 

画像は”アキバ冥途戦争”第5話より引用

 ここまで勢いよく楽しく、超ロクでもない悪趣味をぶん回してきたお話だが、系列店にカチコミかけて皆殺し、売上金奪ってハピバ! なお話もまた、ダイナシ感満載に『なかったこと』になるのか、否か。
 今までとちょっと違う味わいが独自の読後感を残す中、むしろ線香花火めいた生き様の物語としては本格的にエンジン点火した感じもあり、こっからどう転がすかが大事な話だと感じた。
 今までの手触りからすれば、次回何事もなかったように新たなロクデナシ事例に突っ込んでいってもおかしくはないのだが、嵐子の誕生日を通じて確かな手触りで感じられた”とんとことん”の絆、それを呪われたからこそ放たれたゆめちの弾丸、現ナマの生々しい感触が、お話の行く先が切り替わってもおかしくない重たさを宿していた。

 いままで散々テキトーぶっこいてきた店長が、闇の中で頭を抱えるほどシリアスな状況を、ジーニャはメチャクチャさらっと報告し、仲間たちの乱痴気騒ぎの眩さに身を投げる。
 特別EDで迎える”誕生日”に漂っている風は、向こう見ずにバチきれたヤバい暴力主義者の明日なきそれであり、ヤクザな稼業に巻き込まれたトホホな一般人とは、やっぱり味が変わって見えた。
 今までの浮かれ騒ぎ全部が反転するような重苦しい予感をはらみつつ、しかし青春をかけるに値する温もりを確かにキャラが得ていく今回、この眩しさはろうそくが燃え尽きる前の最後の輝きか、どん底からのし上がっていく栄光の一回目か。
 実録ヤクザのド真ん中に踏み込むスイッチを押したのが、前回施されたハードコア洗脳教育だったとすると、やっぱ佐野さん優秀だったんじゃないかな……。

 

 

画像は”アキバ冥途戦争”第5話から引用

 今回店長は似合わねぇメイド服着て留守を守り、キツい財布から嵐子のためにバースデーケーキを買う。
 クズにはクズの絆があり、その暖かさを嵐子もなごみも感じていたから……それが二人だけのものではなかったから、ゆめちは薫子の呪いにバチ切れて銃弾を放つ。
 それはヤクザとしてはエース級の暴虐で、メンド……つうか人間としては多分失格の産声だ。
 こんだけロクでもない話でも、銭と暴力にまみれた世界に馴染みきらず、散々キメたギャンブラー顔にも膝カックンくらってた我らが”エース”が、己の意思を込めて人殺しになってしまう瞬間からはショックを受ける。
 一番メイドらしくなかったやつがメイドを頑張り、一番メイドっぽかった人がヤクザになっていく。
 この逆転が、なにか取り返しのつかないスイッチを押した感覚の裏にはある……かな?

 

 なんだかんだ悪趣味なバーレスクでゲラゲラ笑い、時折ドン引きしながら5話まで付き合って、僕は”とんとことん”のメンバーが好きになっている。
 寡黙で表情が変わらない嵐子がクッソ似合わねぇメイド服着て、ぶっ壊された夢の残骸に無様にしがみついてメイドやってる様子も、俺は好きだ。
 それを土足で踏みにじられて、”メイド”として泣き寝入りするのではなく”ヤクザ”になって意地を通す仲間たちの歩みは、しかし不器用にサプライズを仕掛け、仲間の誕生日を祝ってやりたかった、クズなりの人情に背いてはいないか。

 不条理な暴力に振り回される被害者から、それを銃弾に込めてぶっ放す側に”とんとことん”のボンクラ共は貸しを変えたわけだが、どんだけ悪趣味に萌えナイズされたとしても、人生の裏街道は欲望と血で満ちている。
 そこを泳いでいく器量が、愛すべきクズどもに果たしてあるのか。
 そこら辺が心配になるくらいには、このお話とそこで生きてる人たちを好きになってたんだな……という気付きがあった。
 いい傾向だと思う。

 こういう状況でもなごみは『巻き込まれた被害者』として、赤い理不尽を前にパニックに陥り、誰も殺さず綺麗なものを追う、特権的な立場にいる。
 彼女が……今回のゆめちのように銃を握って誰かに放った時、さらに後戻りできない一歩をお話は踏み出すのだろう。
 その瞬間がやってくるのか、来るとしていつになるのか。
 そんな、ヤクザ実録モノならではの心配をしなきゃいけない”誕生日”になったなぁ……。
 散々サイコ力発揮してた薫子への手向けに『お誕生日、おめでとう』と嵐子が告げるブラックユーモアは切れ味鋭いが、絆深き暴力集団”とんとことん”のバースデーとなった今回が、その墓碑銘の最初に刻まれるのは全然ありそうだ。

 まぁギャグ時空でなにかに特権的に守られて、悪趣味と理不尽のど真ん中に投げ込まれてもリセットされて無事帰還……つうままじゃ、緊張感は薄かっただろうしね。
 この決断が薫子の投げた呪いのように、終わりの始まりになるのか。
 お話全体のトーンの変遷に気をつけつつ、今後を見守りたい気持ちになる回でした。
 大変良かったです。次回も楽しみ!

 

 追記(つうかネタ)

画像は”アキバ冥途戦争”第5話から引用

 嵐子以外のメンバーが”殺人(muRdeR)”を行うエピソードなので、かなり脈絡を無視して赤い処刑場に可愛い羊さんを投げ込み、対話の多い絵面を愉快にかき回しつつ、”赤い羊(Red Ram)”をシュールに画面に置くの、エスプリ効きすぎたネタでちょっとむせた。
 こういうアタマの悪い頭の良さの使い方、俺は結構好き。