イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

デリシャスパーティ♡プリキュア:第35話『ここねとお別れ!? いま、分け合いたい想い』感想

 出会いが生み出す奇跡を日常に交えて送る物語も、そろそろ幕引きが見えてきた、デパプリ第35話である。
 前回のゆいちゃんに引き続き、ここねちゃんのラスト個別回となった。
 分け合う喜び、友達とのかけがえない時間、家族の食卓、伝える思い。
 ここまでの物語でここねちゃんが掴み取ったものを全て活かして、大人びた彼女がこの一年でどんな成長を果たしたか、豊かに描くエピソードとなった。
 ボールドーナッツやオープンサンド……出てくる料理一つ一つに思い出が想起され、期せずして『食事はただの栄養補給ではなく、思い出と結びついた心の糧』という作品のメッセージを、視聴者が感じ取れるお話だったと思う。
 描かれるモノやヒト一つ一つに、『こういう事もあったなぁ……』『あの時はここねちゃん、こういう子だったなぁ……』としみじみ感慨が湧くのは、彼女の物語をまとめるエピソードの仕事をしっかり果たし、その豊かさをちゃんと膨らませてくれた作品への感謝を噛みしめる、良い契機だったと思う。

 

 ここねちゃんはたいへん賢く周囲を良くみて、事情を飲み込む”いい子”としてお話に立ち現れた。
 ゆいちゃんと出会って動き出した彼女の物語は、そんな”いい子”が抱え込んでいる悩みや願いを一つ一つ切り崩して、より善い場所を探していく話だったと思う。
 高嶺の花と飾られるのではなく、対等に笑いあえる友だちが欲しい。
 父母の温もりを強く求める子供な自分を、包んでくれる家が欲しい。
 そんな素直な気持ちを伝えるのを、幼いワガママと閉じ込めていた子が仲間に支えられ、願いを誰かと共有できる一歩一歩が、ここまで積み上がってきた。
 ある意味過剰に大人になりすぎたここねちゃんが、自分のの中にまだある(そしてこれから育っていっても、けして無くならないだろう)率直な”子供らしさ”と和解を果たし、周囲もそれを尊重できるようになる道を、彼女は進んできた。
 その一つの到達点となる今回、自分の素直な気持ちを分け合い、悩みや悲しみも共に分かち合える人が沢山できたのだと……青い色合いに象徴される理性だけでなく、色んな色が芙羽ここねにあっても良いのだと強く吠えたのは、お話が積み上がって初めて生まれる運命的必然を、しっかり捕まえた手応えがあった。

 土田SDの叙情的な演出、横幅広く話数をまたぐ選球眼が良く冴えて、ここねちゃんのキャラクターをしっかり掘り下げつつ、彼女が手に入れたもの、それ故生まれる悩みが分厚く描かれる回だった。
 高嶺の花と遠ざけられていた彼女がクラスメイトと仲良く話し、共にプリキュア頑張る親友と美味しいものを食べ、満ち足りた日常を手に入れた様子の後に挿入される、夕日の中孤独に立ちすくむ1カット。
 願いを現実に引き寄せた喜びと、穏やかな幸せが日常に満ちているからこそ、それが失われる辛さは深い。
 このエモーショナルな筆致は悩みのもう一極、愛すべき家族にも強く投げかけられていて、思いを分かち合って生き方を帰る前の冷たい食卓が印象的だったからこそ、今回家族三人で色んなことを話しながら、お互いの大切を理解し合いながら囲む夕食は、とても暖かく見える。
 そしてだからこそ、それを失いたくないここねちゃんの思いもずっしり伝わる。

 

 周囲を冷静に見渡せるここねちゃんの賢さと、そうして見えてくる他人の事情を蔑ろに出来ない優しさは、彼女を自縄自縛の檻に閉じ込める。
 他の誰でもない、ここねちゃんだけが持つ良さこそが二律背反の辛さを生み出すのだと、けして悩みを表に出さない……しかし悩んでいることが良く伝わる描き方で、親身に見えてくる。
 『どうにかしてくれやー!』という気持ちが全開になった時、轟さんの助け(これが届くのも、第15話での交流を土台に出来るおかげだろう)でたどり着いた美しい銀葉景色に、ここね最強強火勢が降り立つ。
 パムパム……ノータイムで『ここねと一緒にいます』を選べる、大事なお友達がふんわりと風にのって届けてくれた言葉は、ずっとこらていた感情を涙とともに表に出して、運命が袋小路を抜けていく決定打になる。
 妖精が持つファンシーな魅力を全開に、ありえんほど可愛らしくも頼もしく”答え”差し出してくれるパムパムの晴れ姿……まこと有り難い。
 パム公がここねちゃんホント大好きで、ずっと憧れ特別な存在として……それで終わらず、弱くて脆い当たり前の人間だからこそ隣りにいたいという気持ちを込めて、ここねちゃんを見つめ続けていたこと。
 それに報いる展開で、最高に良かった。
 やっぱこの話数でこの場面を預けるなら、パムパムしかねぇわけよ……。

 ここで涙の堰を切ってくれたからこそ、両親が思い出のボールドーナッツを呼び水に、何かと抱え込みがちだとようやく解った賢い娘の柔らかな気持ちを受け止めようと手を差し伸べた時、ここねちゃんは泣きじゃくる子どもに戻って(あるいは取り戻して)、思いを共有することが出来る。
 そうして自分の柔らかな部分を預けてくれることこそが、何よりも嬉しいと率直に告げられるようになった、芙羽家全体の成長も、強く滲むエピソードだった。
 俺は第23話で『大人だって、上手く”大人”や”家族”やりきれないことあるし、その上でより良く大人で家族になっていくことは絶対可能』って書いたの本当に好きなんだけども、あそこでたどり着いたゴールのその更に先、みんなで辛さや難しさを分け合えばこそ進める未来をちゃんと見せてくれた感じがして、今回のまとめ方ホント好きなんよな……。

 

 かくしてスパイシー抜きでのバトルとなるわけだが、変身後のプリキュアがなんかメチャクチャ可愛らしく描かれていて、その眩さがここねちゃんが手放したくなかったものをダイレクトに証明している感じもあった。
 こういう形で気合の入った作画を生かし、ドラマに宿った感情と決断を裏打ちしていくの、すごく好きな作り方だ。
 崩し顔なんかも活用しつつ、全体的にメチャクチャキラキラ溌剌とチャーミングで、『そらーこんな素敵なお友達と別れたくねぇし、概念ごと食にまつわる全てをぶっ飛ばす極悪人は許せねぇよな……』と、最高のエピソードに作画力が最後のひと押ししてくれる感じだったね。

 家族か、友達か。
 二者択一を越えて両方大事にしていく結論を、下支えしてくれる情報技術。
 『遠距離通話で海外でもOK!』っていう結論が、実はマイラ王女との対話でもって序盤に既に示されてるところとか、エモだけで押し込まない技量を感じれて良かった。
 過去エピ総動員の構成といい、エモーションとテクニックの両取りも、しっかり果たしたエピソードだった……ってところかな。
 降って湧いた転校ネタなんだが、既に顔見知りであるマイラ王女を生かし、彼女の成長も取り込む形でポジティブに唐突感少なく回せていたのも、とても良かったです。

 

 というわけで、大変素晴らしいここねちゃん・ファイナルでした。
 元々彼女の個別回は秀作揃いだったわけですが、そんな資産を最大限活かし、一年の物語を通じて芙羽ここねがどんな人になったのか、これからなっていくかを描ききってくれて、大変ありがたかったです。
 ここねちゃんの賢さと優しさが難しさに繋がっている様子と、友も家族も妖精も、そんな彼女が大好きで見守り、時に手を差し伸べていることがしっかり描かれて、感慨深かったです。
 お話が始まった時、彼女は今回描かれた充足と困難から遠い場所にいて、そこから秘めた願いや弱さを一歩ずつ顕にしながら、物語を進んできた。
 その成果として、見応えと納得のあるお話でした。

 次回は、らんらん決着の個別回となりそうですが、一体何を描くのか……。
 大変楽しみです。