イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヤマノススメ Next Summit:第9話『渓流釣りって、人生?/ひなた一家と、いざ鎌倉!』感想

 梅花薫る初春、未だに風は冷たくとも季節の巡る気配あり。
 そんな頃合いのヤマノススメ、親子で進む二つの歩み……その爽やかなスケッチである。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第9話より引用

 今日も今日とて、絶景が旨いッ!
 秋から冬、春へと移っていく時間を丁寧に写し取ってきたNSの歩みが生きて、同じ山でも全く違う季節の肌触りを、濃厚に感じ取ることが出来る美術。
 各話ごとにキャラが違うってのはよくあるけど、背景に宿った光や空気、その質感が毎回異なっていて、それが様々な場所や体験を自分に引き受けてちょっとずつ成長していくドラマと重なっているという体験は、なかなか得難い。
 日と場所が変われば光の差し具合も変わり、となれば緑の色合い、世界のまばゆさ、見えてくるものも当然変わる。
 その違いを丹念に、執拗に重ねてきた筆は、やや緩んでは来たものの上着一枚脱ぐほどではない頃合いの空気を、生っぽく伝える。

 三期でさんざんに人間関係を揺らしたので、NSはそっちは安定させつつ季節と場所……それを共にする人を様々に取り替えて、綾錦のように折り重なっていく人生経験値を、間近に感じさせる造りな気がする。
 いい加減ジジイなもんで、アニメの中に圧縮され展開していく時の移ろい、変化していく空気と光を浴びるのが、何より贅沢と感じるので、大変ありがたい。
 旅情……ともまた違った、今まさに青春を歩いている少女たちが新たに出会う空間と時間の手触りを、一個一個手渡そうとするような野心が、数多の絶景を幾度も着替える描写から匂い立つ。
 エイトビットのクローゼットには、色んなドレスが用意されてるなぁ……。

  かたや有間渓谷、片や鎌倉からの相模灘と、同じ頃合いでも空気も光も異なる景色の肌触りを、良く感じることができる。
 水を間近においた渓流と、岩がちな鎌倉は気温も空気の香りも異なり、そんな差異を肌で感じとる豊かな経験を編んで、あおい達の人格は育まれていく。
 中学受験を控え、意識してそういう可能性をどしどし摂取し自分を豊かにしようと突き進むここな様には、あおいならずとも感服である。
 色んな経験をして、色んな自分と出会う。
 山登り以外にも色んな苦労と楽しみを、色んな人と積み上げていくNSの話作りは、そんなここなちゃんの決意を物語全体で肯定するようなお話だと思う。
 人格耕すことに貪欲だよな、ここなちゃん……体力あるし、将来大成するタイプだ。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第9話より引用

 というわけで、Aパートは飯能天使と行く渓流釣りである。
 ぷにっと丸く可愛いキャラの書き方もいいが、とにかく水の表現力が圧倒的で、飛沫が岩場に弾けて生まれるヒンヤリとした涼気……それが初春の風に現れて少し寒い様子が良く伝わる、圧巻の表現だった。
 魚の気持ちになる場面の水中カメラから見た水と、その上で雄大に流れ続ける瀧のアニメーションがしっかり書き分けられているの、同質と思いがちな”水”の多様性にしっかり目が向けられてて、とても良かった。
 常時流れ続ける流水の表現といい、野心を超えた執念のようなものが、NSの情景表現にはあるな……。

 お話しとしてはマッタリしたもんで、たまの休みを手に入れた親父が娘を誘って渓流に赴き、時間を共にする……という塩梅。
 Aパートはあおい父、Bパートはひなた母と、普段露出が少ない方の親と友達連れて時間を共有し、人生の1ページを朗らかに歩いて行く様子を重ねるような構成である。
 最初は興味なく、終わってもその醍醐味を腹に収めたとはいい難い渓流釣りであるが、釣るの釣れないの、楽しいの楽しくないのを外れたところにある大事なものを感じ取って、それを言葉にできるようになったひなたが描かれ、なかなかにコクがある。

 強烈なキャラしてるひなた母に比べ、あおいの親父さんは終始物静かで娘たちとも適度に距離を取って、あまり目立たない。
 しかし彼が連れてきてくれた美しい景色、そこで寒さに震えつつ始めた釣行がしみじみ教えるものは、何よりも貴重だ。
 その目立たぬありがたみをなんとなし、胸に納める余裕が今の雪村あおいにはあるという、少女成長の現状報告でもあろう。
 親父さんが人生の高みからそんなエッチラオッチラを見下ろしているわけではなく、久々に娘を誘う時彼なりに恥じらい、緊張している様子が丁寧に切り取られていたのも、年経たシャイボーイのたまらぬチャーミングで良かった。
 ぷにぷにした女キャラだけでなく、おじさんも(生き方と仕草が)可愛いのはいい萌えアニメね。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第9話より引用

 そしてBパートは春の鎌倉、覇府散歩である。
 ぶっちゃけ馴染み深い景色がNSの描画力でアニメになってる事自体が、脳髄を揺らすハードコアな体験すぎてメチャクチャビリビリキた。
 見たことある風景なんだがカメラと筆と撮影者が違いすぎて、全く異なる美しさで立ち上がってくるのは、現実の景色がよいアニメに切り取られた時特有のもので、なかなかに興奮する。
 鎌倉はアニメの題材に選ばれることも多いので、ここに馴染みが深いのはある意味ラッキーなんだろうな、俺。

 春爛漫というにはやや寒々しい北鎌倉駅前、枯れた下草が目立つ峠からの相模灘、絶妙な日差しが照らす材木座
 やや肌寒い季節の風がむしろ心地よい、鎌倉散歩……というにはややハードコアな道のり。
 山を切り開いて生まれた天然の軍事都市の、ガニッと硬質な肌触りも岩肌から良く伝わり、紀行文としても優れた仕上がりだ。
 鎌倉描く時に、史跡や観光地と並んで”岩”睨んでまとめてくるのは、流石に山にまつわるお話だな……って感じ。
 NSは季節が季節だけに、ハードコアな頂上アタックはあまり描かれず、その分多彩なヤマの……時にヤマから外れた楽しさを彫り込んでいる。
 街に近い低山から眺める景色も、そこに至る道程も、そして山を降りて街を抜け海へ進んでいく歩みも、鎌倉という場所、初春の頃合い、そこに集ったこの四人でしか味わえなかった面白さだ。
 Aパートとは違う座組、違う場所、違う面白さを横に並べて、そこに『違うけど同じで、面白い』と思える芯を貫通させているのは、2エピソードを連ねて魅せることになったNS、特有の面白さだと思う。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第9話より引用

 今回で言えばその”芯”は親子の間柄であり、エキセントリックにストレス解消叩き込むあおい母は、Aパートの親父さんとは全く違った温度感で、しかし同じ暖かさで愛娘とその親友を見守る。
 何もかも唐突で元気いっぱいなぶっ飛び加減と、それで八方破れかぶれにならない根っこの強さが、大変良いキャラですね。
 雪村父の寡黙な感じ、水に囲まれた渓流の涼やかな静けさとと、色んな場所に転がっていく鎌倉旅、そのエンジンたる母の元気を上手く対比した構成は、かなり好きだな。

 あ、間に煎茶を啜る雪村あおいが挟まれてるのはあんま関係ないです。
 あんまりにも良かったからこの場面……こういう”爆弾”何気なく差し込んでくるから、NSは腹筋緩めて見れないよ。
 ここがしみじみいい場面と刺さるのも、桜の季節にはまだ少し遠い、寒風に梅花が可憐に咲き誇る頃合いの肌触りをアニメに落とし込んで、丁寧に丁寧に伝わるように表現してる結果、”道楽”であるアルコールストーブで丁寧に煎れたお茶の温もりが実感もって届くからこそで。
 こういうところ強いよね。

 母のマイペースに溢れる元気、その奥にあるしなやかな気遣いを通じて、あおいは親友の源流を感じ取る。
 富士登山の挫折から……あるいは一人ぼっちの高校生活からそこに抱きとめられ、力強く進んできた物語は、頼もしい親友もまた青春に心揺れる一人の少女であると描いて、この夕景にたどり着いた。
 色んなことがこれまであって、これから新たに巡りくる春と夏にも、色んなことがあるだろう。
 その全てが実り多い日々であるように、見守り寄り添ってくれる誰かがいるからこそ、お互いしか見えてない海岸キャッキャウフフは成り立っている。
 いやマジ、雪村と倉上最強夕景相模灘でイチャイチャしすぎじゃない? 大丈夫? 法とかに触れない??
 ……山本監督がOKいうたら、なんもかんもOKなんじゃ! 親御さんも見守っとる!!

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第9話より引用

 梅の花が散り、桜に代替わりすれば頃合いは進級……あおい達を包む環境も変わっていく。
 広大な海を前に少女二人、無限の未来に思いを馳せつつ、物語は続く。
 ここらへんAパートでここなちゃんを鏡に、”将来”を漠然と、しかし確かに考えてる様子と呼応してて、日々を楽しみつつも時に深く考え込むあおいの思春期が美しく滲んでる感じで、大変良い。
 基本楽しい山歩きを明るく描きつつ、それが否応なく与える大事な陰りもしっかり捕らえて、同じ場面に滲ませているからこそ、二人が見つめる海はこんなに綺麗なのだろう。
 穏やかに、微かに春の嵐の気配を孕んで、道は続く。
 二年生のあおいは、どんな日々を過ごすのか……次回も楽しみです。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第9話より引用

 そして週に一度のお楽しみ、吉成鋼兄貴最高画廊はあおいとここなのハードコア山登り。
 毎週とんでもないクオリティで一分半の外伝仕上げてるのも凄いけど、その画風やタッチが描くものに合わせてしっかり選びぬかれてて、吉成鋼の懐にはどんだけ沢山の表現が蓄えられているのか、今更ながら恐ろしくなる。
 とにかく表現法の手数が多く、見せれるものの横幅が広すぎて、そうして広げた大風呂敷で”ヤマノススメ”本編からはみ出すものを軒並み、しっかり包んで届けてくれる。
 今回で言えば鎌倉で印象的だった”岩”の新しい顔、猪や鹿すら顔を出す厳しい山嶺を進む二人の道行が、やや観光の色合いが強かった本編を逆側から照らして、ヤマに立体感を与えている感じだ。
 ざっくりと輪郭を飛ばし、緑と岩の入り混じった雄大な景色をイマージュ豊かに切り取る画風も、ワイルド&キュートな旅路に良くあっている。
 命懸けの大冒険なのに、髪型も服も立ち居振る舞いも少女のチャーミングを残してとても可愛いのが、凄く良かったです。
 キテんなー”ひなここ”……。