イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

SPY×FAMILY:第23話『揺るがぬ軌道』感想

 超本格地下テニス武闘伝、フィオナくんの夢が終わる第23話である。
 トンチキテニスを制し、スパイの本領発揮で暗号を手に入れ、騎虎の勢いで格の違いを理解らすッ! ……と息巻いたところで、相手はさらなる規格外。
 運命と偶然が<黄昏>の妻に選んだ女が、よりにもよって世界最強の”暴”の持ち主だったフィオナくんの健気な不運を、たっぷり堪能できる回である。
 去り際とおまけのオチまでコミカルに風通しよく、時折一家に波紋を投げかけて新たな物語を生み出す仕事もしっかり果たして、やっぱいいキャラだなぁフィオナくん……。

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第23話より引用

 相手の妨害をすべて受け流し、華麗な技で圧倒し、思わぬアクシデントも見事に乗りこなして、憧れの先輩と勝利のハイタッチ。
 まさにフィオナ・フロストこの世の春だが、当のロイドさんは氷の仮面の奥、激しく渦巻く情熱には全く気づかず、あくまで任務遂行のためのパートナーとして、<夜帳>を見ている。
 超次元テニスでの無双にしても、華麗なスパイテクニックにしても、常識はずれの超人が無双するこの作品らしい気持ちよさに満ちているのだが、帰り道フィオナくんにかかる夕日は、そんな派手な活躍より欲しい物があると、良く語っている。

 前半の異様なアッパーテンション(をどっしり下支えする、圧倒的な作画力)に、東西平和を守るための崇高な任務……を隠れ蓑に、恋した人と特別な時間を過ごす喜びが醒めて、現実に戻る静けさの対比。
 トバリー夫人という”嘘”を引っ剥がして、自分が”フィオナ・フォージャー”ではない現実を噛みしめる<夜帳>の表情は、ペアを組んでの大立ち回りが派手で楽しいほど、しみじみと寂しい。
 この帰路の描線が、すごくいい回だったなぁ、と思う。
 超ハイテンションな暴走キャラであるフィオナくんが、その実不憫可愛い所がたいへん良い。

 

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第22話より引用

 というわけで、”東”の極秘新兵器発射実験みたいなサーブを受け止めきれず、負けを認めた<夜帳>は泣きダッシュで去るのであった。不憫可愛い……。
 あんだけ地下テニスで無双キメた実力者を、たった一球(+放たれぬままボールを寸断した”本気”)で粉砕するの、物語内ポジションとしても、付与された”暴”の総量としても不公平だよなぁ……って感じ。
 おまけに打った側はラケットへし折れて、こういうあざとい表情するしさぁ……。
 フィオナくんが<黄昏>の時間専有してたのを埋めるように、今回ヨルさんのあざといカット多かったな……。
 それより何より、任務の仮面外して”ロイド・フォージャー”になった<黄昏>が、フィオナくんはけして隣会えない安らぎの真ん中に家族を据え付けている様子こそが、嫉妬に狂えないくらい理性的な彼女に、一番刺さるのだろうけど。
 読者にも親しみ深い、作中最凶のインチキ……眠り姫の”暴”でプライドを粉砕され、あくまでコミカルに退場していくフィオナくんは、必要十分なだけ立つ鳥跡を濁す。

 

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第23話より引用

 極めて平和なはずの、家族をかき乱す恋する道化は去り、答えの出ないアンニュイがしっとり、フォージャー家に降り注ぐ。
 ここのヨルさんとか、ヴィジュアルの強さだけで完全にヒロイン力担保しきってて、ズルい女だよ全く……。
 原作からして”強い”コマだったが、しっかりその破壊力をアニメに落とし込み、色と動きと音を乗せて活用してくる手腕は、このアニメ強いなー、と思う。
 色んな解放がある”アニメ化”の、一番真っ直ぐで一番大変な突破法を選んで勝ってる……つうか。

 かくして騒がしくも楽しかった<夜帳>編も幕を閉じ、しかし激震の余韻が少し残る。
 嘘だらけのはずなのに、気づけば譲れぬ本当が宿ってしまっている夫妻の夜は、どんな風に更けていくのか。
 次回も楽しみです。