イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第3話『砂糖林檎は裏切りの木』感想

 乙女心をくすぐるファンタジーの中身は、1に挫折2に涙、34がなくて5に裏切り!
 前半の厳しい銀砂糖師修行が嘘のように、欺瞞と暴力の方向に超音速でぶっ飛んでいく甘い甘い御伽噺の第3話である。

 いやー……胡散臭い立ち回りでイヤーな噛ませ犬担当かと思っていた男が、あんまりに交尾ファーストなエゴと虚栄心ブン回した跡、窃盗と計画殺人を叩きつけて他人の馬車で去っていくという、速度のある展開でした。
 とにっかくジョナスのクズカスっぷりが尋常ではなく、『い、イケメンにトロトロしててたら成功が転がり込んでくる、甘い世界じゃないんだね……イヤってほど分かったよ……』って感じではあるが、この人生砥石で魂ゴシゴシ加減は、むしろ名作劇場の本道に主役を叩き込んでる感ある。
 ”フランダースの犬”にしても”母をたずねて三千里”にしても”ロミオの青い空”にしても、試練は一切情け容赦なしで厳しいもんだからな……。
 それにしたって、直結失敗即謀略、車ごと砂糖菓子盗んだ挙げ句に狼の餌にする決断を、躊躇も葛藤もなくぶっ込めるジョナスくんの”才”……デスゲームものに出演したほうが生かせたまであるな……。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第3話より引用

  というわけで2023アニメ”このドクズがすごい!!”ランキングに颯爽己が名前を刻んだ男の話は後でするとして、今回はアンが追い求める銀砂糖菓子ってのがどんなもんなのか、その理念まで含めて具体的に描かれる回である。
 砂糖の採取から精錬、細工のデザインに細やかな飴細工の手仕事。
 仕上がった細工は大変に美しく甘いが、それを成し遂げる歩みは汗まみれ血まみれで、本当に大変である。
 『”血まみれ”が比喩でもなんでもねぇのが、このアニメの凄い所』ってのを、第3話にして教えられてしまったな……ありがたい。

 宿屋で行きあった露骨銀砂糖菓子の偉い人に、色々試される形にもなっていたけども、アンは母を慕うあまりその後追いになってしまっていて、オリジナリティがないのが問題のようだ。
 こんだけ美しいものを苦労して仕上げる芸術なので、そらーアリモノ仕上げていたら怒られるんだろうけど、母の遺稿を必死こいて形にしていく作業は遺された少女にとって、ある種の祈りでもあると思う。
 そんな貴い思いを残した上で、他でもないアン自身が今必死に銀砂糖に向き合い、時分の手で作り上げている細工の意味と独自性を、どこに見出すのか。
 職人として芸術家として、結構真摯な悩みをあのお兄さんは浮き彫りにしてくれた。
 あの人も駆けつけ一杯抜刀斬撃、相当に治安悪い立ち回りしててビビったけども、それを遥かに上回る逸材がいたからなぁ……。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第3話より引用

 そして求める”アンだけの銀砂糖細工”のヒントは、運命が導いた出逢いの中にこそある。
 砂糖菓子と一緒にプライドを砕かれ、布団に包まれ流す涙を不器用に慰めにくる、彼女の妖精。
 シャルの過去を知るほどに、彼の心を凍りつかせてしまった人間の愚かさを思い知らされ、それを溶かせるような魔法を生み出したいと願う。
 そんな気持ちは、母のコピーではない”今のアン”だけが持っている、特別な宝物だ。

 『この顔面凶器、生まれた時からキラキラおめめの女の子を狂わせてきたんだな……』と納得の過去開陳だったけども、わざわざそれをアンに見せるあたり、シャルも態度ほどには主を憎からず思っておるわけだな。
 つーかその細い指で髪の毛に触り、泣いてる女の子に『キミは必ずキレイになるよ……』と伝え、時分の柔らかい部分まで見せておいて手を伸ばし返されると跳ね除けて身を躱すの、あんまりにズルい男過ぎて吹き出した。
 お前飯塚晴子デザインの超イケメンだからって、許されざることは世の中にあるど!

 宿での立ち回りを見ていると、妖精差別の根深い湿り気がよーく解って、妖精と人間が分け隔てなく暮らすアンの善良さが、どんだけこの世界でゃ異常なのかも解ってくる。
 あの『奴隷人間扱いするのはアンタの勝手だけど、世間様の前ではそういうのやめておけな……』な空気、公民権運動のドキュメンタリーみたいでめっちゃピリピリ来たな……。
 現代日本って”外部”の倫理観から見てれば、意思疎通可能なヒューマノイドを対等に扱うのは当然に思えるんだけども、差別の”内部”にある人にとっては人間以下として扱うことが社会的/倫理的/経済的インフラになってて、当たり前の人生を支える土台になって動かない感じ、生臭くて凄くいい。
 それは抽象的な”悪いこと”通り越して、人死が出て羽根もがれる、フィジカルな暴力だしね。
 じっくり時間をかけて熟成された差別意識は、世間の事な~んも知らない女の子が考えるほど甘いものではなく、年経ることなく辛さだけを溜め込んできたシャルが思い知らされたものは、簡単には解けないのだろう。
 それでも寂しい瞳をした彼女の妖精に、少しでも笑って欲しいと願って銀砂糖をこねる時、特別で大切な何かが間違いなくアンの指に宿る。
 こういう形で、ロマンスとキャリアメイクとファンタジックな世界観がつながってくるのは面白いなー。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第3話より引用

 んで、その全部に全速力で無邪気な悪意ぶっかけてくるのが、スーパードクズジョナスくんってわけよ!!
 いやー凄い……最初っからハメる予定ではなく、好意と性欲自体はフツーにあった上で袖にされたから銀砂糖盗んで、親切装って時間つぶしてミスリルに疑惑をなすりつけて、馬車と青果物盗んだ挙げ句狼けしかけてぶっ殺しにかかる所まで、一気に殺意ゲージが吹き上がる所が凄い。
 メチャクチャ憎んで手の込んだ謀略で溜飲を下げよう! とかじゃなくて、”気分”でここまで持って行けて特に悪びれた様子がないのが、生粋の極悪で感動すらする。
 頼むから死んでくれ……生きてちゃいけないタイプのゴミカスだよアンタ……。
 実際に血を浴びる仕事は自分を慕ってる奴隷にやらせて、キレイなまんま立ち去っていくのほんと凄いよなぁ……カスの煮こごりかよコイツ。

 これがジョナス特有の最悪なのか、妖精と銀砂糖に関わってるとこういうレベルのゴミが自動生成されてくるのか、今後を見ないとなんとも言えないところですが。
 少なくともお母さんの遺志を継ぎ、夢に向かって健気に頑張ってる女の子がブッこまれて良い災難ではないので、なんとか乗り越えて欲しいものです。
 世界観と話から甘ったるさを抜くためには、情け容赦のない試練が必要とはいえ……あんまり一人一瞬に凝縮させすぎだろ!
 いやー、爆発力あって最高の展開ではあるんですがね……ライバルが今年最悪のドクズだって分かったことで、アンを迫りくる危機(具体的には、血に飢えた狼の群れ。シャルが歴戦の凄腕じゃなきゃ間違いなくひき肉になってる)から護る妖精騎士の存在意義も、グーンと跳ね上がるしね。
 こんなヤバ案件がポップアップしてくるなら、そらー伝説の戦士妖精を初手で確保するのは”正解”だわ。

 『まったく血なまぐせーな、お砂糖とロマンスで彩られたジュブナイルファンタジーわよう!!』と、歓喜と共に思わず吠えるエピソードでした。
 想像を絶する治安の悪さだけでなく、銀砂糖細工がどういう苦労のもとに生み出され、それがどれだけ美しくて脆いか分かったのは、作品が主題とするものが良く見える描写で、とても良かったです。
 フリルとシュレク・ダールだけではなく、ドス黒い悪意と真っ赤な血にも彩られている乙女の奮戦は、一体どこに進んでいくのか。
 次回も大変楽しみです。
 地獄みてーなクソ差別世界だけど、負けるなアンちゃん!!