イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

TRIGUN STAMPEDE:第3話『光よ、闇を照らせ』感想

 過酷な砂漠を生き延びる人々を、平等に襲う人型の災厄。
 ナイヴスと配下の魔人が本格登場し、血しぶきとちぎれた手足が舞い飛ぶ衝撃のスタンピード、第3話である。
 悪党がいて縦断が飛び交うなりに、ペーソスと人情に満ちて”なんとかなる”感じだったノーマンズランドが、どんな地獄を抱え込んでいるか。
 ホラーテイスト濃い目に容赦なく、バキバキ叩きつけるエピソードとなった。
 『厳しい環境と運命なりに、笑って生きても行けるのだ!』と、愉快な悪党相手のドッタンバッタンで感じさせておいて、『いや、そうじゃあない』とシビアに叩きつける。
 ここまでの三話全体を活用しメリハリを付けて、ヴァッシュが背負った荷物の重さ、地獄でも笑うことしか自分に許さない半端者の覚悟と悲しさが、色濃く匂う展開である。

 リデザイン超キマってるEGマイン襲撃から始まり、それを遥かに超えるナイヴスの超常的暴力、付き従う謎めいた魔人達の圧力と、今後展開していくお話がどういう味わいか、しっかり教えてくれる描画は血腥い。
 たくさんの絶望と暴力、そこに差し込む一瞬の笑顔と希望。
 星を満たしている人間の営みから隔絶した、別種の冷たさを宿す怪物との切れない縁。
 その硬さを示すためには、これぐらい容赦なく血を流させ、絶望の荒野にキャラを投げ出さないといけない……のだろう。
 令和ヴァッシュは情けないニーちゃん感がいい感じに濃いので、卓越した身体能力と銃捌き程度では乗り越えられないガチンコの絶望に沈むと、本当に悲痛だな……。

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第3話から引用

 というわけでモネヴすっ飛ばしてまさかの一番槍、あの良く分かんねぇ檻が超かっこいい自走式工廠に生まれ変わった爆弾魔との、激しい追いかけっこが展開されていく。
 イカレ度が急激に増したこの”E・G・ザ・マイン”に高木渉ボイスはドンピシャであるが、ロステク爆薬を撒き散らす凶漢は第1話の憲兵、あるいは第2話のネブラスカ親子のようにヌルい相手ではない。
 殺し殺されも悲喜劇の一幕、人類生存を許さない砂漠に必死にしがみつく人々のオレンジ色の暮らしは、マインの襲撃で一気に、青を基調とした冷たい色を変えていく。
 その色合いの変化が、銃撃戦はあってもなんとか笑って暮らせる、極悪人にも親子の情がある人間の世界(Man's world)が、真実ヒトの理解を越えた場所(No mans land)でしかない事実を冷たく教える。
 この色こそが、この星の素顔なのか。
 今まで見てきた暖かな色合いは、プラントを搾取することでしか生存できない人間種の、浄化されるべき薄汚れた嘘なのか。
 ナイヴズの刃に絡め取られたヴァッシュの旅は、それを問うていくことになる。
 優しい怪物が、そんな事かけらも望んでいなくても……だ。

 暴走するマインに取り付き銃口を突きつけるヴァッシュは、今まで見せなかった冷えた顔色をしている。
 それが人間台風の”素顔”なのか、沢山あるヴァッシュ・ザ・スタンピードの真実の一つなのかは、序章が終わるこのタイミングでは未だ伺いしれない。
 それを知りたくて、メリルはこの後もヴァッシュを追っていくことになる。
 2話までの暖かくホコリ臭く……ヌルい展開があったればこそ、落差が効いた爆発力のある、青く冷えた殺しの極限。
 ヴァッシュは常にこれに追い立てられて生きてきたし、逃れることは出来ないし、それでもなお殺さない道を求めて、中途半端な隘路に立ち続けている。

 お前は、どっち側だ。

 人にも怪物にも問われるヴァッシュは、その答えを安易に出さないために、銃を握って人を殺さない道にしがみついている。
 本来人の生存を許さない絶界に、それでも生き延びようとプラントを利用ししがみつく人々は、己の罪を知らない。
 ヴァッシュはその身勝手を許し、ナイヴズはけして許さないから、マインの狂走を遥かに超える戦慄が、街へと襲いかかっても来る。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第3話から引用

 目深にかぶったフード、深い闇、立ち込める霧。
 この後の物語をラスボスとして支えるナイヴズの初登場は、底知れぬ奥深さを崩すことなく、大量の血と恐怖にまみれて上手く演出されていた。
 書き方が完全に人間ではなく、ホラー映画のクリーチャー扱いされてる所に、いい塩梅の大物感が出ている。
 ナイヴズは行動の理由を一切説明せず、ただ圧倒的な結果だけを街に連れてくる。
 ”人間災害”の称号は彼にこそ相応しく、当たり前の人間として小さく生きていきたいヴァッシュはその名前をなすりつけられている形だ。
 しかし強大過ぎる暴力と悪意と執着はヴァッシュの背中を常に追いかけ続け、巻き込まれる人間は二人を区別しない。
 ヴァッシュが生きている限り、兄たる魔王との切れない糸がその背中にへばり付いてくる。
 ……こうして文字にまとめると、本当に可哀想だな……。

 対話不能、理解不能、対決不可能。
 巨大で深い闇として、ナイヴズは物語の中にふわりと立ち現れ、徹底的に血を求める。
  まじでゴアゴア大殺戮の権化で、しかも新解釈でシャープに描き直された”羽根”でスタイリッシュにそれを為すもんだから、独自の不気味さと存在感がある。
 ヴァッシュは赤いコートに身を包み、しかしそれ以上の血で自分も世界も汚さないよう銃弾の使い方を考えている(あるいは半端に立ち止まっている)のに対し、ナイヴズは純白の装いを返り血で汚すことなく、生み出した殺戮の海に迷わず足を浸す。
 それ以外に贖いの洗礼はありえないのだと、白と赤のコントラストが良く語っている画作りは、極めて残酷な方向に加速していく。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第3話から引用


 家族愛に満ちた悪漢も。生きるために必死な母も区別なしに魔王は血に染め、ちっぽけな人間が必死に生活していた街を、大胆にたたっ斬る。
 今まで描かれた”惑星ノーマンズランドの、ありふれた風景”のスケール感から隔絶した、圧倒的に美しく凶悪な、ナイヴズの力。
 人間同士のドンパチでは余裕の超人演じられていたヴァッシュの銃は、兄が展開する神話の世界では全く無力だ。
 銃弾は簡単に止められ、侮蔑の視線が高いところから突き刺さる。
 埃にまみれ必死に追いすがるヴァッシュと、あれだけ血を流しつつ汚れることのないナイヴズの対比は、半端に悩み続けるものとどちらに立つか決めてしまったものの差なのかもしれない。

 ナイヴズはとうの昔、人類の生存を許さない砂漠へと星船を叩き落としたときから立ち位置を決めている。
 皆殺しにしようとしてしくじって、薄汚く地表にへばりつくクソ人間どもを、叩き潰し引きちぎる天上の高み。
 そこが彼の居城だ。
 地上の塵は届かないし、愛すればこそ殺すヒトの矛盾も、その狭間で発火してる人情の灯火も、知ったこっちゃない。

 街全てを叩き切る神の刃のスケール感は、遠くて恐ろしい”そこ”にヴァッシュが行きたくない理由を、何よりも良く語っている。
 同時にそれは鎖でもあってナイヴズの同種であるヴァッシュは、これと同じ景色を展開できる圧倒的な力を、否応なく背負ってしまっている。
 しかしヴァッシュが今回握るのはチッポケな人間用の銃であって、怪物として宿敵に拮抗しうる力ではない。
 生きるか死ぬかの砂漠を生きる人間にとっては”凶器”でしかない銃が、ヴァッシュにとっては人間の側に踏みとどまるための”お守り”……あるいは半端な場所で迷い続ける”楔”として機能しているのは、結構面白い作りだ。
 ”弾丸こそが神”である西部劇的なテイストの奥に、そういうみみっちい殺し合いを遥かに超えたスケールの宿命があって、そこに飲み込まれたくない主役のもがきが今、鋼鉄の翼になって錆びついた街を断ち切っている。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第3話から引用

 街も人も断ち切られ、プラントも奪われて砂漠に投げ出された人たちが生きる道は、果たしてあるのか。
 嵐のように全てを薙ぎ払い、一方的にこの星の真実を叩きつけて去っていった後に残ったわだちを、ヴァッシュは必死に追いかける。
 恨み言を浴びせられ、守ろうとしたものを全て切り裂かれても、泣く資格などどこにもないのだと微笑んで、東を目指す。
 その深い闇を照らすのは砂虫のかそけき光と、煤けたオヤジのタバコだけ。
 『光よ、闇を照らせ』……って言われてもさぁ!
 あんまりにも闇が濃くてデカくね容赦がねーんですけど!! という、第3話であった。

 あの激ヤバ兄貴と兄弟……というより共犯者である限り、ヴァッシュは”人間災害”になるしかないし、この大破壊と絶望は幾度も繰り返される。
 人間と怪物の間に立ち、誰の味方でもなく万人の守護者でありたいと、厳しすぎる砂漠の星に高望み。
 その結末が暗く重たく厳しいものだと、良く教えるSTAMPEDE第一章、決着でありました。
 二話までを人間の領域でドタバタ賑やかに進め、それを断ち切るナイヴズの怪物性を血飛沫で濃く際立たせる。
 ”TRIGUN STAMPEDE”がどういう物語を展開していって、ヴァッシュが何に囚われているかを良く見せる、いいスタートだったと思います。

 とにかくヴァッシュが悲惨で悲壮なので、その孤独な歩みに追いすがっていこうとするメリルの存在感も、いい感じに高まっていた。
 あとリデザインは全領域でバキバキに極まってて、出てくるキャラ出てくるキャラ張ったり効きまくりかっこよすぎなのは最高。
 エレンディラが真綾声のロリなのマジ!!!?
 これからの旅に立ちふさがる魔王とその軍勢が、どんだけ強大で凶悪なのかを街一つ生贄にしてたっぷり見せつけ、物語は東の果て……ジュライシティへ。
 次回からの新章も楽しみですね!!