ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
王冠の主が入れ替わり、ケティル農場の立ち位置も変わる。
新たな王との良き関係を作るべく、平穏無事に政治を泳ぐ父親の、懐にぶら下がる腐った果実。
己が何者であるか、示すべく抜かれる若き鈍らは、老父の命運を削ぐ致命の刃となるのか。
そんな感じのレッツ謀略! 楽しい家族劇はあくまで前座、さっすがクヌート陛下地獄を創るのがお巧いッ!! というヴィンサガセカンド第11話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
イングランド・デンマーク両王の冠が必要とするのは、個人としての武力、王としての器量、溢れかえる敵の血、そしてすべてを支える莫大な財。
剣と金がなきゃだーれも頭と認めてくれない厳しい世間のど真ん中、楽土に続く道を真っ直ぐ見据えて踏ん張るクヌートは、直轄領接収による財政基盤の安定を企む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
イングランドから兵は引けない、重税は継いだ基盤を揺るがせる。
なら持ってる所から奪おうてのは、なかなかいい考えである。
人が結構死ぬ以外は。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
グンナルに産業基盤だけでなく防衛力調査も求めていたのは、王として握り込んだ死をひさぐ力で抵抗を磨り潰し、富を我が物をするコストを冷静に見据えた結果であろう。
これまで書かれたとおり、覇王の行軍が踏みつけにする平和は土に支えられ、汗と涙が染み込んでいる。
必死こいて開梱し、ロクでもねぇ差別にもめげず育んだ麦には、人間一人一人の霊が宿っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
その尊さを知りながら、大義のために踏みにじる覚悟はクヌート王、あの雪原でとうに済ませている。
必要ならば、悪鬼羅刹にもなる。
この苛烈な意志が父の首を飛ばし、兄に毒を盛った。
今更田舎農場一つ、そこに巣食った人間の人生ごと踏み潰して、兵隊の腹を満たし不満を減らす餌袋に変えるのに、微塵も躊躇いはないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
しかし大義名分は大切で、いかにして正当な接収をスムーズに成し遂げるか、剣と金以外の力…智慧というものが物を言う。
広大な領地と過大な責任、燃え盛る野心に相応しい広くて暗い視線で、クヌートが見据えている世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
ケティルとオルマルのハッピー親子は、当然そこを見れない。
殺伐とした中世にも確かにあっただろう、微笑ましい若さゆえの反抗と、オヤジの苦労。
そんな当たり前の身の丈が、時に罪となる。
心地よいコミカルを人生劇場の一幕と楽しませつつ、笑劇に興じるノンキの喉笛に、既に刃は迫っていると気づかない危うさで、見ているものを刺す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
このアニメらしい書き味で、大変良かった。
笑える愉快さはけして嘘じゃないんだが、全部ぶっ壊す残酷もまた、この世界の真実なのよな…。
物語は冒頭、クヌート王の戦闘訓練から始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
それは個人的な鍛錬の枠を超えて、忠誠を誓わせるべき戦士たちへのデモンストレーションでもある。
強くなければ、”男”でなければ王と認められない、シンプルで苛烈な価値観。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第11話より引用) pic.twitter.com/Uifqij0t28
後にオルマルが踊ることになる舞台を下支えしている(そして父が”鉄拳”の虚像を維持しなければいけなくなっている)ノルド的価値観に、クヌートも包囲されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
握るのも嫌だった剣をこれ見よがしにかざし、強さを誇示する。
兜の奥には嫌悪と疲弊が見え、それでも”男”を踊り切る。
王であり続け、理想の楽土を現世に引き寄せるためには、延々と弱さと優しさを隠し、社会が認める自分であり続けなければいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
マチズモの檻は家族殺しの後悔と同じく、クヌートを深く捉えているが、もはや降りることも叶わない。
弱くて良い。
そう認める強さは、あの時捨てたのだ。
剣芝居を終えた後、戦士の誉であるはずの刃をすぐさま投げ捨ててしまうところに、クヌートの変わらぬ本性が見える気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
人殺しの道具を誰よりも嫌い、それを高くかざす”ヴァイキング”を誰より軽蔑し、しかし王として誰よりも、そうあり続けなければいけない現状を、鉄面皮で飲み干す。
野蛮な戦士である自分を暗い私室の外、山積みの智慧の埒外に遠ざけつつ、王はシビアな現実と向き合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
剣も”男らしさ”も、そのための道具でしかない統治というゲーム。
異国イングランドを平らげ、新たな故地とするためには暴力装置を置き続ける必要があり、そして兵は飯を食う。
そのための銭を、何処から絞り上げるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
正式に国王として君臨する以上、空になるまでイングランド人から直接絞り上げるわけにもいかず、デンマークからの輸血が必要だ。
かといって税率を上げれば継いだばかりの玉座が揺らぎ、簒奪の意味も薄らぐ。
実力行使も視野に入れた、直轄地接収。
厄介きわまる問題を解決するべく、クヌートは剣と知恵を最大限活用する道を、今回も選ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
このクレバーな賢さの奥で何が軋んでいるかは、前回描かれた呪いの首、今回演じられた強さの芝居で、よく分かる。
個人としての弱さを見せれば、いつでも死ねる場所に王は立つ。
苦しいなど言ってはいられない
一方そんな王の重責から遠い、フツーの人々は家族劇を踊る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
俺は男だと、抜身で屹立させる刃はオヤジからの借り物であり、それでもツッパらなければ立ち行かない愚かな若さが、どうにも生々しくて笑える。
笑えるうちに、笑った方がいい。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第11話より引用) pic.twitter.com/IAnvDBzDqe
オルマルが短絡に飛びつきたがる、”男”の証明としての剣の闘争。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
クヌートが見事に演じきった強さの芝居を、誰にも認めてもらえないから殺しの道具を無駄に抜いて、道化けた仕草が加速していく。
その焦りとバカさはあらゆる若者に共通で、『よくある、よくある』と笑って済ませたい。
バカ息子の暴発を銭金握らせ、同じ食卓を囲んで丸く収めていくオヤジの知恵を、オルマルは弱さと見下すだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
かつて”蛇”たちのねぐらで、死をひさぐ商売のリアリティを間近に感じたはずなのに、剣を用いない交渉の尊さを、バカは肌身に感じられない。
それも穏やかに時がすぎれば、角が取れて…
てぇ期待を、愉快な家族劇の外側、巨大な政治と経済が血を潤滑油に回る惨劇の描画が、既に裏切っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
クヌートは既に都合良く絞れる餌袋としてケティル農場を見据えているし、状況がそういうスケールとシリアスさで回っている以上、バカがおとなになるのを待ってる時間はない。
よくある愚かさが引き起こすだろう、全く洒落にならない大破壊の予感をよそに、ケティルとレイフおじさんの接触は極めて穏やかに、実り多くすれ違っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
人間一人を引き受けて、長い時間を息子探しに費やす。
レイフおじさんの偉大さも、そろそろトルフィンには解る頃かなぁ…。
人生の歯車はここでは噛み合わず、おじさんはまたもや再開を取り逃す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
もどかしくもあるが、流れで拾ったギョロ目のトルフィンを、喧嘩っ早いが親孝行な若人として、しっかり育て上げている様子を見れた。
ホントおじさんは偉いよ…武器も握らず”人生”に勝てる人だよ…。
レイフおじさんとの対話は明るい日差しのもと、美味しいご飯を共に平らげて終わったが、新王との対面は希望に満ちた笑顔とは真逆の、深い闇の中で始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
抜いた刃は豚も切れず、恥を重ねて涙にくれる。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第11話より引用) pic.twitter.com/RfFNEbSjfL
兵の腹を満たす豚をオルマルが切れなかったのは、クヌートが何を望んで早すぎる謁見に応じたかを考えると、なかなかに意味深である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
武力を示し”男”を立てる、ノルドの通過儀礼を突破できなかったことで、ケティル農場の品定めはある意味終わった。
潰しやすい餌、引っ掛けやすいバカ。
そういう冷たい視線で自分たちが見定められていたことに、愉快なケティル一家は気づかなかっただろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
気づかない連中だからこそ、獲物に選ばれた…とも言えるか。
王と対等の食卓を囲み、剣を介さぬ交渉相手になれるチャンスは、当人が気づかぬ間に潰えたのだ。
平民視点だと微笑ましい家族劇、失敗の一幕であるものが、王の目線だと必要な獲物の品定めになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
己を証明したい若人の、個人的な挑戦と過ちは巨大な政治装置にまくりこまれて、開戦の大義を引き寄せる道具になってしまう。
その残酷さを、クヌートは良く知っている…から、的確に利用もできる。
個人の望みや幸せを、軒並みなぎ倒して顧みない残酷の中で、どうやって望む己を、望む世界を引き寄せるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
イヤダイヤダと喚くばかりでは何も敵わない現実を、ラグナルとアシェラッドの血で思い知らされた王は、当たり前の思春期にもがくツッパリ少年を、優しく見守りなどしない。
かつてイングランドで父殺しの謀略を練り上げていた場所と、似通った鈍い金色が闇を照らす部屋。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
ありふれたバカこそ使いやすいと、王国を支える知恵者が首を揃え、あざ笑うこともせず冷たく嘯く。
ケティル農場は、良い獲物だと。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第11話より引用) pic.twitter.com/FnAAM0VphB
涙の通り道に付いた傷を撫でるクヌートの仕草は、ありふれた喜劇と悲劇に泣く情を、見せれば玉座が崩れる現状を、悲しく慰撫する手付きなのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
目指すべき楽土のためには、必要な犠牲はすべて支払う。
愚かな若者も、接収に伴う血も、強くあり続ける己も、何もかも。
肥大化したエゴの取り扱いに困って、微笑ましい暴走に突き進むオルマルが、考えもしない自制と冷酷。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
それを宿すからこそクヌートは”男”と認められ、生きるものと死ぬものを分ける高慢を、王として許されている。
自分を殺し続けること以外に、権力の高みへの道は開けない。
はたして、そうなのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
オルマルの青春を包囲する、冷たい謀略の果てに…あるいはそれが剣を握ってトルフィンに迫った時に、己が在りたい己のまま未来を探す難しさと気高さが、またこのサーガに刻まれていくと思う。
剣を捨て、誰もが自由でいられる場所へ。
クヌートが選び得なかったヴィンランドへ
トルフィンが進むべき道は彼方おぼろげに示されつつ、そこにたどり着くまではもっと多くの血と涙が、道のりを舗装していくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
そこには欲と衝動だけでなく、理想を見据える高邁な視線と、己を押し殺し”男”を演じる強さと、人生の優先順位をつける賢い冷たさが、常に宿る。
あの雪原から己を削り出したクヌートの、”男”として大人としての完成度と、今まさに青春と取っ組み合いしてるオルマルの微笑ましい暴走が、笑ってらんないヤバさで光るエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
バカでい続けたら死ぬから、あのとき自分を殺した男が選んだ先が、この冷たい黄金か…。
悲しいね、やっぱ。
王の背中を押す現実の圧力はあまりに大きく、獲物に定められたケティル農場の運命は、まさに風前の灯。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
知らぬは当人ばかりなりと、おどけた芝居を何処まで続けられるのか。
平和な奴隷暮らしの終わりを告げる角笛が、遠くに響いています。
次回も、大変楽しみですね。
・追記 こういう対比の作り方、魅せ方の巧さが、群像劇としての切れ味を生んでいる感じはあるねー。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
自分が刈り取った父王の首だけを支えに孤独な覇道を歩むクヌートのあとに、オヤジたちとキャッキャしながら平和な青春に迷えるオルマルとギョロ書いたの、なかなか的確で残酷な筆運びなんだな。
優しいオヤジの腕の中、存分に間違えれる平民と、そういう当たり前が許されなかった親殺しの王。
オルマルが求めて果たせない”男”の証明を、毎日求められるクヌートの辛さを、受け止めるものは誰もいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
大人であること、残酷な世界に適応してなお夢を見る道を自分で選んだクヌートが、現実をチェス盤に野望を遊ぶプレイヤーとして、ありきたりの幸福にまどろむ凡俗とどれだけかけ離れているか。
その差は今後、平和なケティル農場がどんだけボーボー燃えるかで良く分かってくると思うが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月24日
クヌートが思い知らされ、今も取っ組み合ってる現実のややこしさを、接収計画は強引にケティル親子に教えるだろうからなぁ…。
待ち望んでいた”男”の証明は、シャレにならない対価を求めそうだねオルマルくん