イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第11話『希望の目盛り』感想

 滅びに向かう世界に希望を求め、天に上った王女と地に舞い降りた少年の物語もついに最終回!
 アトランドに迫るインチキ兵器と亡霊の狂気を、正義と勇気はせき止められるのか!! という、大雪海のカイナ第11話である。
 まー話としては激ヤバ人間ハンダーギルをぶっ倒して、戦争止めて希望の未来にレディーゴーするだけなんだが、そのハンディな手触りがこのお話らしくてよかった。
 あくまで飯食って眠って自分の足で進む一人間の視点で、同じく等身大に生きてる人間と触れ合いながらたどり着いた最終決戦は、剣の魔力に魅入られた哀れな王の暴走あり、危機一髪の大逆転あり、当世英雄オリノガ隊長の超狙撃あり、幕引きに相応しい力強さだった。
 決戦の派手さだけで終わらず、”建設者”を破壊の道具に貶めてしまったハンダーギルと冒険の相棒だったロステクでそれを打倒するカイナくんの対比とか、何より大事な地図を人一人の命救うべく投げ出せるリリハの強さとか、このアニメらしいじんわり染みるメッセージも濃かった。
 無意味な戦争を止めるべく始まった冒険の物語が、その歩みを通じて人が生きる導きを手に入れて、戦争を止めて終わる。
 そしてその先に続く新たな冒険は……10月に新作映画だってよ!!
 TVシリーズの範疇でしっかり終わりつつ、謎めいた世界のさらなる秘密へ踏み込んでいく期待も膨らみ、大変良い旅の終わり……そして新たな始まりでした。

 

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第11話から引用

 儚く散った大雪海の奇跡がもたらした雨を受けて、”建設者”の視界は滲む。
 ハンダーギルは安全な鋼鉄の子宮から這い出し、危険な現実に身を置かざるを得なくなり……これが後のオリノガ隊長殊勲首につながっていく。
 権力と暴力に囚われ、国民を顧みず一人で大暴れしてるハンダーギルだけが戦争継続を望んで、こいつさえぶっ飛ばせば厭戦ムードに包まれた要塞本国、無法の船投げにドン引きの前線兵士ともに、戦いをやめる状況を整えた上で、ヒロイックな一撃の下準備をしていく話運びは結構好き。
 オリノガ隊長は国民・国土こそが戦争の継続主体だと考え、その喉笛に一撃入れて戦況を逆転させるべく一騎駆け敢行したわけだけど、バルギアはハンダーギルと”建設者”の個人的暴力が国家レベルに拡大した、きわめて歪な国だった。
 なのでその首を落として戦争の息の根を止めるべく、敵を前に剣を収めて再度の一騎駆けという、かなり政治を考えた立ち回りなんよな。
 この手筋が通じるのは交渉相手であるアメロテがオリノガと共通の価値観を持っていて対話可能だったこと、実力と意志を示し兜を外させる機会があったこと、カイナたちの事前潜入が人心工作として効いてたこと……など、複数の要因が絡み合っての綱渡りではある。
 しかしまー戦意をくじくことこそが勝利の要諦である以上、敵味方の区別なく破壊を撒き散らすたった一人の呪いを撃ち抜けば、闘いが収まる状況ではあるわな。
 アメロテ様が兜を外し剣を収めたがってる人だって描写は積んできたし、ここで剣を納める選択肢が通るのには納得がある。

 名前の通りおそらくは惑星開拓マシーンだったろう”建設者”とシンクロし、無軌道な暴力装置と化したハンダーギルを、オリノガは武器の奴隷だと喝破する。
 例えば扉を壊して人を助けるためにだって剣は使えるし、全てを解決するはずの古の知恵を燃やしてでも、助けなければいけない命は目の前にある。
 リリハが選び投げ捨てるものと、ハンダーギルが囚われているものは明瞭な対比を為して、殺し合いとかやってる場合じゃないけど殺し合いになってる極限状況で、武器を手放す意味を削り出していく。
 ここで地図を燃やしちゃうのは、形ある希望にしがみつくより無形の尊厳を追い続けた結果、勝利への道を拓いていく手応えがあって好きだ。
 ハンダーギル個人の妄執ではなく、それを取り除いて開けるの未来を見据えていた、リリハらしい選択だと思う。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第11話から引用

 ついに上陸を果たした”建設者”に怯むことなく、王女は弾丸を打ち込み悪意を己に引き寄せる。
 リスクを承知で前線に立ち、ギリギリで士気を意地してきた王様を優先的に殺せば戦争には勝てるはずなんだが、ハンダーギルはそういう理性的打算で暴れてないからな……。
 亡霊になってしまった自分がもう掴み取れない輝きを、この土壇場でも輝かせる人間に牙を向くだけの、半ば自動的な悪霊になってしまっている。
 肥大したエゴと一体化した”建設者”を恐れない存在は、『この世界はもう終わるばかりで、俺たちは死ぬのを永らえてるだけだ』という諦観に飲み込まれたハンダーギルにとって、絶対に否定しなければいけない”悪”なのだろう。
 ここら辺の乾いて湿った妄執の描き方は、檜山修之の好演と噛み合ってとても良かった。

 んでカイナくんとリリハが歩んできた冒険は、そういう諦めをこそ踏破する旅路だったはずで。
 命の危機をすんでのところで回避し、飯を食って虹を出して前に進んできたのは、戦争に飲み込まれようとする故国を、滅びるしかない世界を諦めたくないからだ。
 だから少年は巨大な暴力を前に両手を広げて、ここまでの道を切り開いてくれた相棒のリミッターを外す。
 『いや……やりすぎだろ……』と思わずつぶやく神話級ロステクビームであるが、相手が東亜重工謹製激ヤバマシーン持ち出してきたから、こうするしかねぇんだよッ!
 この戦争、独裁者ハンダーギルを獲る闘いであると同時にバルギアの士気を砕く広告戦でもあるので、ど派手に花火を打ち上げて決着を宣言できたのは、これ以上血が流れ怨恨が溜まるのを回避するためには、大事な手筋だったと思うね。
 なんの奇跡も背負ってない、滅びゆく世界から地上に降りてきた素朴な青年が実は、古き魔法と新たな希望を受け継いだ賢者の末裔だったってオチは、古い英雄譚をしっかりなぞって自分のものにしてきた、このアニメらしい決着だと思います。
 やっぱ叙事詩の最後には、世界を揺るがすド級の一撃がぶっ刺さらないとなッ!

 あ、結局カイナくんには人命を奪わせず、アトランド救国の戦士であるオリノガ隊長に亡霊を殺させたのは、とても良かったです。
 敵の返り血と味方の傷に取り囲まれ、その呪いを分かりつつ剣を構える生き方を選んだ男が、万丈この一手と選んだ一騎駆け。
 ハンダーギルが”国”を顧みない怪物だったから失敗に終わった……と見せかけて、その実アメロテと剣を交え心を交わし、本国必死の奮戦がキルゾーンまで引っ張り出した独裁者を、見事に射抜く。
 国を守るべく死ぬほど頑張った男の魂と、彼をここに連れてくるために死んでった兵士たちの血に報いる決着で、凄く良かったと思います。
 カイナくんが”殺す”現実を引き受けるのも、またちょっと違う感じあるしなー……オリノガ隊長で良かった。

 

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第11話から引用

 かくして戦いは終わり、英雄も民草も新たな未来へと進みだしていく。
 色んな要素が詰め込まれたエピローグであるけども、それが必然として受け止められる描写はしっかりここまでの物語にあって、一個一個が感慨深かった。
 個人的にはリリハに暴力的に奪われてしまった過去の自分を重ねていたアメロテ様が、めっちゃキテる夕日の中人間としての顔をようやく抱きしめてもらえたところと、見事に再会を果たしたリリハと天膜のジジババが特に良い。
 下界の戦乱を収めリソース確保の道を付けたことで、枯れていくばかりだったはずの天膜の人々の命脈が繋がり、文化が伝わっていくのもいいよね。
 かつては剣を構えて後を追おうとしていた(そして届かなかった)バルギアの連中が、カイナくんたちの帰還に混ざっているのも好きだ。

 あとなんだかんだ人がたくさん死んでいるので、恨みっこなしで手を携えつつも弔慰を忘れず、ちゃんと埋葬する場面入れてたのも好き。
 生きることと死ぬことをけして大げさに振りかぶるのではなく、少年等身大の旅路の中でしっかり描いてきた話が、そういう儀礼をちゃんと書くことは、敵味方手を携えて新たな船を作り、命の水を分け合う描写と表裏一体だと思う。
 エピローグに描かれた全部が今まで描いてきたものと繋がって、腑に落ちる感覚が強いのは良い最終回だな、と思う。
 色んなことがあっていろんな景色を見た旅が、全部意味のあるものだったと思えるのはありがたい。

 

 

 

 かくして新たに見据える先に、待ち構える希望の大軌道樹。
 今度の旅はどんな者になるか、分からないけど良いものだろう。
 世界設定の謎とか甘酸っぱい恋時の行方とか、色々描くべきものを映画に残しつつも、国を救うべく空に旅立った王女様と、夢を抱いて地上に降りてきた少年の物語は一旦ここで幕である。
 凄く面白く、良いアニメでした。

 

 つーわけで”大雪海のカイナ”TVシリーズ、無事完結とあいなりました。
 めっちゃ良かったです。
 旅と冒険を話しの真ん中に据えて、作り込んだ世界を毎回歩きまわって新たな絶景と危機に出会い、勇気と知恵と絆で乗り越えていく手応えには、とてもワクワクさせてもらいました。
 ポリピクの気合が全開になった美術が毎回元気で、新しい局面にたどり着くたびに息を呑む景色を体験できるのが、作中カイナくん達が出会っている驚きと見てる側をシンクロさせてくれて、一緒に旅している気分になれました。
 大雪海という異郷の文化、それが形になった建物や物品をたっぷりと作り込んで、贅沢にサラリと軽く描いていく筆も好きだったし、異質な風景の中でも共通な人の心を、その強さと弱さ、尊さと醜さ両面から削り出していたのも、凄く良かった。
 国と国がぶつかり合う大きな流れを背景にしつつも、食べて飲んで出す当たり前の人間の営みを大事に話を進めて、そういう人間が旅すればこそ出会える発見や変化を刻みながら、話を進めてくれた。

 そんな旅の中で持ち前の善良や勇気を損なうことなく育み、真っ直ぐに希望の未来へ進みだしていくカイナくんとリリハのキャラ造形も、シンプルに力強くて良かったです。
 彼らに立ちはだかるハンダーギルの、武器の呪いと老いた諦観に飲み込まれた亡霊っぷりも説得力があって、悪役に存在感と独特の匂いがあるお話は、やっぱりいいなと思いました。
 カイナくんとリリハ、若い英雄二人の旅を真ん中に据えつつも、色んな人が必死に生きてる世界の群像劇として、好きになれるキャラ多めで展開してくれたのも良かったです。
 あと終盤ついに戦の幕が開き、””建設者”が顔出した時のヤリすぎ&待ってました感と、それを最後の最後で赤く貫くカイナビームの気持ちよさな……やっぱロステクを巡る話は、あんぐらいぶっ飛ばしてくれると気持ちがええわい。

 好きになれる所がたくさんある、とても良いアニメでした。
 この心地よい読後感から、また新たな冒険で新たな景色を、新たな秘密と成長を描いてくれる映画が続くのは、大変ありがたいことです。
 10月を楽しみに待ちつつ、今は『ありがとうございました』と『お疲れ様』を。
 素晴らしい勇気と冒険の物語でした、ありがとう!!