イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

UniteUp!:第12話『繋がらないと』感想

 独特のリズムと画角で、”アイドル”を切り取ってきたアニメもついに最終話。
 ほぼ1話丸々合同ライブに使い、ハイクオリティなステージングを全力でぶん回してくるフィナーレとなりました。
 ライブと楽曲の質は前から折り紙付きだったので、最後に一切出し惜しみなしの全力投球がぶっ飛んできて、大変良い感じでした。
 反面ドラマとしては大きなうねりがなく、明良くんが真実主人公となる一瞬を付け足して終わっていきましたが、個人的にはそれさえ描ければOKと思っていたポイントを的確に抑えたので、良い終わり方だな、と思いました。
 こういう終わり方をした以上、明良くんが自分だけのアイドル像を見つけてそこに進み出すまでで、12話使ったアニメになったわけだ。
 贅沢だが、けして間違いではなかったと思う。

 

 

 

 

画像は”UniteUp!”第12話より引用

 センス良く無言で開演前のアイドル達を切り取りつつ、物語は一瞬限りのAnela復活、クライマックスを騒がせた疑惑の解消を果たして、最高のステージを切り取っていく。
 ここまで見てきた、私人としてのアイドルがほぼ描かれず、作中アリーナに足を運んだファンたちと同じ視点で、必死に夢を演じるエンターテイナーたちを見届ける構図だ。
 膝の怪我をおしてステージに上る楓雅さんにしても、世界の雑音を塞ぐイヤフォンを外す明良くんにしても、一見アイドルの素顔を切り取っているように思えるカットはバキバキに絵になっていて、作者ががファンに届けたいリアリティを精密に慎重に選んで創られている。
 『私生活に密着』と銘打ちつつ、見せれるもの、見せたいものを見せて親近感を共犯するドキュメンタリーの手口だが、僕はこの描き方が好きだ。
 シンプルに画としての仕上がりがすごく良いし、巧妙に組み上げられた嘘っぱちを本気で演じきることで初めて生まれるモノに乗っかって、アイドルは”アイドル”として流通するのだと常々思っているので。
 それは例えば第6話で内側に内側に入り込んだカメラでもって、逆境の中ライブが形になるまでを追いかけたカメラとは大きく異なっている。

 今回明良くん以外のキャラクターは常時プロであり、見せたいと願い見せるべきでもある人間としての虚像≒アイドルとしての実像以外のものを、観客には届けない。
 Anelaが一瞬の奇跡を演じ、大毅くんが夢を継ぐものとしてマイクを受け取り混乱を謝罪する場面は、前回(なぜか)野球大会で惑い躍動し見つめた心の素直で私的な表明ではなく、事務所全体の命運と、Anela引退からこのステージ、そこから続く未来を大きく背負った、一種の公的デモンストレーションだ。
 こういうオフィシャルな茶番を必死で演じなければ動かない世論というものがあり、生まれない熱量というものがあり、それのみを原動力にしてアイドルという虚像が形をなすのならば、全霊を賭して必要な場を整え、十全な脚本を描き、幾度もリハーサルを繰り返して必要な高みへと、パフォーマンスを引っ張り上げていく。

 その虚飾性(に裏打ちされた揺るがぬ完成度)は、いつでも生身の危うさに揺らされているもので、それに翼をへし折られてAnelaは地に落ちたわけだが、アイドル的身体がどうなろうが夢は続く。
 続いてしまうと知っているから大毅くんも頑なに苦しみ、仲間に暴言投げつけもしたわけだが、そんな彼がこれからもアイドルを続けるために必要な儀礼を、僕らは今回目撃することになる。
 それを必要とする場の空気、市場のロジックからsMiLeaが逃げていないと示す上で、この隙のない最終回は大変良い感じだ。

 ステージ演出としてはゴージャスなスケール感、暗闇の活かし方とそこから生まれる興奮が印象的なライティング、バキバキに決まったカメラワークと、大変パワフルだった。
 譜割りを担当するアイドルだけがピンで浮かび上がり、高速で切り替わっていくスポットライトの演出は、今まで(時に頼りなく、芯がないとも感じる)生身のアイドルが、特別なステージの上で特別な偶像になっているのだと、強く感じられた。
 誰かの心を動かすために精妙に計算され、神経を研ぎ澄まして捏造される幸福な嘘を浴びたくて、プロのアイドルコンテンツを睨んでいる部分が自分にはあるので、ラストステージが全領域でしっかり磨き上げられていたのは、とても良かった。
 ここまでの物語で僕が感じ取った、各ユニットの”らしさ”もステージに心地よく踊っていて、迫力と説得力があったと思う。

 

 

 

画像は”UniteUp!”第12話より引用

 先輩たちがバキバキに仕上げたスキのないプロっぷりで、舞台裏の素顔を一切抜かれないのに対し、PROTOSTARは初舞台を前にした緊張を、アイドル何も知らない等身大のスタートラインからたどり着いた到達点を、あえて切り抜かれる。
 ほかメンバーに比べ頑是無く濁りのない、真っ直ぐな交流を積み上げてきたPROTOSTARの描線は、ここに至って思い返せばデビュー前のお互いよく知らない硬さから、脚前に出せない未熟さから一歩ずつ進み出し、この晴れに舞台に堂々立つまでの共犯者として、視聴者を巻き込むレトリックだったのかもしれない。
 素直に応援できる喜びと情熱と、等身大の屈折をそれぞれに抱えて、出会えた奇跡を翼にかえて高く翔ぼうとする雛鳥。
 ドタバタと楽しい日々の中で、叙情的で美しい背景の中で、12話分積み上がったものは……正直ところどころ設計意図が組めずギクシャクする部分もあるけど、やっぱりここでの感慨を最大化する、良い起爆剤だ。

 全員を平等に照らすライティングが眩しく際立たせる、少し幼い王子様たちの晴れ舞台を。
 その中でも作品全体のセンターとして選ばれ、そうなるべき理由を後半(やや不格好な作劇に背中を押される形で)掘り下げた明良くんが、この本番で手に入れる実感を。
 僕らは精妙に計算された生っぽさに片足を、リアルアイドルの手応えを二次元に見事に落とし込む手腕にもう片方を置いて、しっかり受け取っていく。
 それが現実の単なるトレースなのか、それよりもっとリアルなフィクションとして再構築されたものなのか、判別し切る知見は僕にはないけれども、栄光に満ちたデビューにファンが送ってくれた手作りのハートマークを切り取った絵は、素晴らしい仕上がりでこのライブが何を観客に届け、演者が何を受け取ったかを可視化してくれる。
 こういう問答無用の殴りつけ方は、やっぱ好きだな。

 CDデビューサプライズにしても、舞台裏で明良くんが見せる幼く甘い表情、センターの重責を背負って引き締まる顔を切り取るカメラにしても。
 PROTOSTARがステージに上るまでの揺れないプロっぽさは、意識して主役ユニットの出番で緩められて、”等身大のリアル”ってのが画面にはみ出してくる。
 それはあるがままを切り取った生の記録ではなく、巧妙な設計図を背景に作り上げられた虚像であり、同時に生身の血肉と12話分の物語を背負ってもいる。
 そうやって作り込んだ嘘と突然の現実が、誰かが見せたいと願った夢とあるがままのほころびが、結びついて炸裂するから表現は面白いのだと、僕は思っている。
 今回デビューを果たすPROTOSTARが、先輩たちが必死に演じるプロとしてのステージを支えきれない事実込みで、彼らのときだけ画角が変わり、あるいは今まで見させてもらった『清瀬明良が”アイドル”になるまでの軌跡』に調子が戻っていくのは、ただ完成度が高いだけじゃ面白くもなんともない、ライブパフォーマンスの醍醐味を作品に織り込んで終わる上で、とても大事なのだろう。

 そしてそのほころびも、だれかが想像し設計し製造し、誰かの夢に為るようにきらびやかに削り出されて、必要だと製作者が判断するだけの生っぽい危うさを背負って、見ているものに届く。
 その仮想性は二次元・三次元関係なく、綺麗な夢を捏造(つく)る時につきまとうものなのだと思う。
 作りものである以上完璧など望みようがなくて、色んな事情や思わぬアクシデントに揺さぶられ、記号表象がもつ本質的な伝わらなさに阻害され、描きたかったものがそのまま伝わることも、幸せな一瞬が永遠に為ることもない。
 それでも誰かはどこかで綺麗な夢を見たくて、誰かの紡ぐ夢に手を振り、足を運び、それを見届けようとする。
 ライブに熱狂する作中のファンも、それに答えようとするアイドル達も、そのさまを1クールのアニメとして必死に走った製作者も、これを一つのプロモーションとして芸能生活を続けていく演者さんたちも。
 その輝きに、一瞬触れさせてもらった僕も、危うくて美しい夢を見ようとした。
 それ自体が、結構熱くて面白いことだなぁと思える最終回になったのは、僕は凄く良かったと思う。

 

 

画像は”UniteUp!”第12話より引用

 ユルクてあざといエピローグでクライマックスの熱気を心地よく冷ましつつ、主人公たちは作品全体を、かなりダイレクトに総括していく。
 俺はテーマは直言してもらったほうが納得行くタイプなので、ここで明良くんが『この物語は、結局なんだったのか』を直接言葉にしていく手付きは、結構好きだ。
 ヒーロになり損なってあの部室でくすぶっていた男の子が、本物のヒーローになる一歩を踏み出すまでの物語。
 清瀬明良という少年にとって、目指すべき”アイドル”とは何なのか、見つけるまでの物語。
 三人いるPROTOSTARで、一人だけが喋りつづけるこの終わり方それ自体が、自分たちが何を積み上げた(あるいは、何を積み上げようとしたか)を真っ直ぐ語っている。

 

 独特のセンスで切り取られる東京の日常スケッチの中に、新進気鋭の事務所の後押しを受けたPROTOSTARは、自然と潜り込んでいる。
 特別で個人的な絵空事が、リアリティのある情景に溶け込んでいる心地よい違和感を、この作品だけが描き得る唯一の真実として届けるのには、正直色々問題もあるだろう。
 明良くんを白紙でスタートさせるために、完全に自分がタッチしてない小デブの暴走としてKIKUNOYUを動かしたことは、配信時代から支えてくれているファンと主役が上手く繋がらず、ひいてはアイドルとその消費者がどんな距離感で、思いで繋がっているのか、不鮮明にもしていた。
 男性アイドルモノに必要な段取りを時に追いかけ過ぎ、時に大胆に蹴っ飛ばしすぎ、必要なパーツが足りない(と、僕には思われる)まま大きめの波を乗り越えていったり。
 あるいはエピソードの順番が整理しきれておらず、特定のユニット(具体的にはJAXX/JAXX)の存在感やキャラ性が把握しきれないまま、作中の描写が上滑りしたり。
 まぁ、色々あった。

 しかしこの最終話、プロとしてsMiLeaのアイドル達が作り上げる空間の肌触りと臨場感を分厚く感じ取り、真っ直ぐに幼い主人公が”アイドル”に出会い、自分なりのアイドル像を見つけるまでの……アマチュアがプロの扉を開けるまでのお話だったと語ったことで、作品の真芯がどこにあるかと、それがしっかり果たされたかは、自分の中で納得がいった。
 清瀬明良が長いアイドル道を進んでいく上で、その始まりを微細に捉えた物語であったとするのなら、周囲の人々や環境の描写も含めて、とても良かったと思う。
 サブキャラの掘り下げがなまじっかいい塩梅だったので脇目もふるが、あの前代未聞の第一話を思い返せば確かに、このお話は明良くんのために存在していて、その繊細な感性にふれる様々なモノを、一個一個丁寧に描いていくマニアックなお話だったと、納得も出来る。
 『ヒーロー=アイドル』という結論を揺るがない作品の真実として、最後におっ立てるのであればもう半歩、周到にそのテーマ性を打ち立てるロジックが事前に整えられていた方が良かったとは思うが、しかしたどり着いた場所に嘘はなかった。
 明良くんが何を失い、くすぶり、出会い、見つけ、取り戻していったかは、実際このアニメかなり独自の筆跡で、自分なり刻んできたしね。

 周囲の人達が明良くんの引き立て役として、使い潰された感じがしないのはこの作品のチャーミングな所で、群像劇……というには個別の削り出しが甘い感じはあるが、主役を入れ替えてのエピソードにはそれぞれ個別の熱とドラマが、しっかり宿っていたように思う。
 僕は明良くんを好きになれたからそう感じるのかもしれないけど、明良くんに影響を与えつつそれぞれのアイドルが、それぞれの嘘を本物にするべく必死にあがいて、色々悩んでいる様子は、非常に独特かつ美麗なセンスで風景を切り取るセンスに助けられて、独自の切れ味を有していた。
 そんな心地よい雰囲気を胸いっぱい吸い込める時間として、このアニメを一番楽しんでいた感じはあるな……。

 

 ぶっちゃけ相当ヘンテコで独特な手付きでもって”アイドル”を掘り下げ、時にその歩調に戸惑ったりもしましたが、たいへん楽しいアニメでした。
 俺は好きだなぁ……不格好にほつれてる所も、異様に尖ってセンスで切りつけてくる部分も、デカいプロジェクトに必要なオーダーを果たすべくねじ込んでる要素も、そういうところからはみ出して生き生き作中をキャラが生きてる場面も、全部このアニメにしか出来ない、チャーミングな全部だ。
 こうして1クールブン積み上がった物語が、叩いてくれた扉を大きく開けて、UniteUP! プロジェクトが大きく飛躍してくれると、一瞬だけその足取りと歩調を合わせて踊ったアニオタとしては、何より嬉しい限りです。
 今後の発展を祈りつつ、今はお疲れ様を。
 ありがとうございました!