灰色と星空の入り混じった丸ちゃんの青春は、遂に修学旅行本番へ!
放課後インソムニア、第5話である。
1話に分かりやすく丸ちゃんが眠れなくなった理由と、今眠れる意味がギュギュッと濃縮されていて、彼の苦悩や喜びに見ている側が心を寄せやすくなるお話だった。
他の連中が無邪気にはしゃぐ場面で、極めて生真面目にテントを立て食事を作り……だからこそノイズがひどくて眠れない。
『そらークマも濃くなるわ……』という、生っぽい苦しみから凄く綺麗な場所に丸ちゃんを導いてくれるのは、もちろん伊咲ちゃんである。
『もう”アガ”ってるって丸ちゃん! 青春麻雀初手で大三元天和W役満だって!!』と、思わずツッコんだビッカビカの真夜中浜辺、最高でした。
お互いの存在が、不安を抱えた日々の輝きであり導きでもある。
”星”をテーマにしている意味を、見ている側が新たに捕まえる回でもあったなぁ。





というわけでAパート、スーパー曇天丸ちゃん祭りである。
伊咲ちゃんは凄く肩の力を抜いてナチュラルに、友達との時間を楽しそうに過ごしている中、丸ちゃんは延々ノイズの多い時間をなんとかやり過ごし、周囲の無神経に精神削られて、苦しい時間をやり過ごしている。
父の弁当を作り、テントを立て、カレーを作り。
『ちゃんとしたい』と常に口にしている丸ちゃんは、周りの人たちが放棄した『生きる』という基本タスクを極めて生真面目に拾い上げて、だからこそ眠れなくなってしまう。
答えはみんな知っている、周回遅れのあるあるゲームに乗っかれない自分、普通ではない自分に囚われて、賢明な頑張りが持ってるはずの意味と価値が、なかなか見えなくなっている。
先生がなんかフいて来た時『丸ちゃんは甘えても怠けてもいねーよ! ふざけんなよ!!』と、思わず生っぽいリアクションしちゃったもんな……。
伊咲ちゃんと隣りにいるときは、メチャクチャ世界がキラキラして丸ちゃんの苦悩が見えにくくなるので、ここで彼が何にとらわれているのか、もう一度見せてくれたのは良かった。
イヤ良くねぇけどさ……この子が思う存分、日向の中を真っ直ぐ突き進める世界じゃなきゃ”嘘”だろーがマジ!!
丸ちゃんは自分の中の理想像と、現実の自分(と思い込み、思わされているもの)のギャップに挟み込まれ、押しつぶされた結果不眠症になっている。
それはあるべき自分の理想像、『ちゃんとしている』という言葉の意味が、めちゃくちゃ高いからこそだ。
そこに追いつくように常時己を律し、やるべきことを果たしているのに、ノリが悪いの怠けているの、他人は自分を見てくれない。
その最たるものが、酒飲んでソファで寝ている親父なんだろう。
丸ちゃんがなまじしっかりしている分、破綻すらしない家という檻では眠れず、同年代の当たり前と自分を比べて、また苦しむ。
丸ちゃんが三白眼の奥に秘めてるアツさ、真面目さを知っているからこそ、こういう陥穽にハマるのも納得な、生っぽい曇り空であった。
あー……誰かこの素敵で苦しい少年が、思う存分自由に駆け出せるような広い砂浜に誘い出してくれる、最高のヒロインはいないかな~~~~~。





いたぁ!!
闇夜目覚めてみれば晴れ渡った夜空、約束を頼りに追う足跡、その先には君。
か、完璧過ぎる……許されて良いのかこんなコト……。
Aパートタメた分、情け容赦のない理想の青春乱撃(アオハルラッシュ)くらって、ボコボコにされつつ大満足でした。
やっぱキメ所の絵が幻想的だけど現実でもあって、とても素敵なものが二人の前に広がっているのだと教えてくれる馬力があるの、凄く良い。
こういう魔法が用意されてなきゃ、やっぱ”嘘”なんですよ……ああいう息苦しい、生々しい苦悩をディープに彫り込んだのならばッ!!
倉敷先生はゴッキュゴッキュと周りを潰して、平然と飲み続けただけなんだけども、結果としてそれが妨害者を制し、深夜の天体観測を楽しめる時間を守ってくれる。
そういう小さな奇跡に見守られて、丸ちゃん達はとても素敵な場所に二人でたどり着いて、思い出を抱えて前に進んでいくことが出来る。
Aパートの曇天が丸ちゃんの現実なのと同じくらい、この夢のような景色もまた今彼の前にしっかりあって、その手応えを笑顔で噛みしめるから、彼は生きていける。
笑える。
その瑞々しい味わいを、たっぷり教えてくれる天地満色の星空である。




丸ちゃんが伊咲ちゃんとの時間に、失われてしまった母との日々を求めていることなども理解らされつつ、眠れぬ二人が穏やかに安らげる時間は、美しくも熱く過ぎ去っていく。
昼間は全く自分の話が出来ない、聞いてくれない状況だったからこそ、伊咲ちゃんにはムッツリ顔に秘めているものを全部さらけ出して、心の荷物を軽く出来てる特別さがビシバシ来るぜ……。
辛さを共有できないことが丸ちゃんを更に追い込んでいると思うので、偶然隠しておきたい秘密を共有できた仲間がいてくれること、伊咲ちゃんと約束を重ね叶えていくことが、彼にとってどれだけ特別な導きであり、救いなのか。
その特別さは伊咲ちゃんにとっても同じで、楽しく過ぎる昼間が終わった後、名状しがたい不安に急き立てられて眠れぬ暗さを、不眠闘争の同志には率直に預ける。
その心音が、一番安らぐのだと。
間違いなく二人の間にあるのは麗しき恋の若木なんだけども、ただただ思春期に素敵な人と出会ったというだけではなく、そうなる以前の互助性というか、お互いを命綱にしてなんとかフラつく青春歩いている感じが、独特で面白い。
朝日に照らされる砂浜、伊咲ちゃんの枕として差し出された丸ちゃんの二の腕、布団代わりにかけられた手のひら……今、二人が生きている息吹がしっかり宿る。
”眠る”という人間の基本的機能がぶっ壊れちゃって、それでもどうにか生きていきたいと願って奮戦している二人がどんな風に、ギリギリ生きているのか。
その答えが、劇的な一瞬に強く焼き付いているのが好きだ。




朝ぼらけの砂浜、丸ちゃんは夜でも星でもない美しいものを、写真に収めようとシャッターを切る。
満天の星空に劣らぬほど綺麗な朝の風景は、彼らが共にいることで夜以外の場所もまた、美しい居場所になってくれる希望を眩しく照らしている。
情景の圧倒的パワーがすんごい力こぶでもって、『いいか! お前らがハラハラ見守っている二人の出会いも青春も、なーんも間違いじゃねぇ! こんなに美しいものが正しくないなんて、あっちゃいけないからな!』と見ている側ぶん殴ってくるの、やっぱ好みの作風だわ。
しかしラスト、過去形で語られる世界の回転速度とそれに抗う疾走の詩には、不定形の不安が微かに、確かに混じってもいる。
波にかき消される、二人の足跡とか書かないでくださいよマジでッ!!
いややっぱさぁ……香るよね、伊咲ちゃん周辺に”死”が。
丸ちゃんの心音を聞いて、生きている証明を他人から受け取ることで安眠できるってことは、自分の中に生存の手応えをあんま感じられない事情が、あるって話じゃないのと怯えるぜ。
杞憂であることを願うが、残酷な高速回転をする現世がもしこの素敵な女の子を……その手を取り足跡を追うことでようやく笑えている少年を、弾き飛ばすことになったら、俺は耐えられないよ……。
そんな微かな不穏をはらみつつ、丸ちゃんを包囲するノイズとそこから救い出す光、両方を描き切るエピソードでした。
大変良かったです。
この特別な思い出をカメラに収め、天文部の二人はどんな夏に進みだしていくのか。
次回も大変楽しみです。