イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

君は放課後インソムニア:第8話『集まり星 プレアデス星団』感想

 楽しく準備を積み重ね、遂に観測回本番!
 身も世もないほどの土砂降りで中止!!
 逆境全部俺のせい、流れる雫は雨か涙か、中見丸太の青春ど真ん中を追う君ソムアニメ第8話である。
 前回死への不安を遂に言葉にした伊咲ちゃんのように、丸ちゃんが眠れない理由の核が豪雨に現れて見えてきて、その健気な切実さにジジイも貰い泣きしてしまった。
 やっぱよー……雨降るのも世の中うまく行かないのも、なんもかんも自分のせいってガキが思っちゃうような状況、すっげぇ良くないよな……。

 小さな失敗すらゲラゲラ笑えるような楽しい時間をしっかり書いたことで、それがぶっ飛んでしまう衝撃もズドンとこちらを打ち抜いたが、そんな辛さにようやく泣けた、泣きじゃくる姿を誰かに晒し抱きとめてもらえた、集まり星達のありがたみも強い。
 温かみと緊張感のある停留所のシーンは演出マジ冴えていたし、そこを白丸先輩のチャーミングでスパっとぶった切って笑いと日常に帰還していく手付きも、鮮やかで良かった。
 キャラの根っこが見えるまで8話、家庭事情の決定的なところはまだ不鮮明と、昨今流行りの足取りを思えばゆったりした作劇だけども、だからこそゆっくりと煮出されるものの味わい、それらが混ざりあって生まれる静かな熱量を強く感じることが出来て、独自の作風と面白さを改めて確かめられた。
 花火のように一瞬咲いて散るものも、集って輝く六連も、どちらも同じ昴星。
 寝れない夜を過ごす同志のために天文台の扉を開き、何かを始めた丸ちゃんの物語全体を見守り抱きしめるような、素晴らしい中盤のクライマックスでした。

 

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第8話より引用

 というわけで前半は、輝きに満ちた青春スケッチである。
 ああ……ひたすらに眩しい……。
 その光の中で、マッズいジュースがマズイからこそ笑いの種になるような、穏やかで優しいサークルが丸ちゃんを取り込み手伝ってくれている様子が描かれる。
 シャイでチャーミングな『うす……』を先輩に手渡しつつ、野球帽の奥に紅潮した頬を隠すかなみちゃんの青春は、なつよりも篤く躍動している。
 伊咲ちゃん経由で増えた友達、ずっと自分の側にいてくれた受川くんと、今の丸ちゃんはけして一人ではない。
 みんな勝手に、しかし優しく丸ちゃんの企画に乗っかり、手助けし、自分たちなり楽しみながら共に過ごしている。
 自分を取り囲む当たり前の幸せに、ずいずい踏み込んでいけばいいだけなのに、陰気にうつむいて眠れぬまま足踏みする何かが、彼の心の中にある。

 夢の中思い出す母の手と、それを断ち切る家庭内ノイズ。
 丸ちゃんの不眠が個人史の傷から発していて、彼に憧れその事情を知る受川くんは、サイズの合わない靴をカニちゃんのようには笑えない。
 多分それはネタにしちゃいけない柔らかさで、高校生というのはそういうものを無自覚に踏みつけにしてしまう年頃で、カニちゃんの態度はマズいジュースで笑える幸せと、いつでも裏腹なのだろう。
 そういう悪気のなさを解っているから、受川くんは凄くソフトに話題を変えて、丸ちゃんが靴を買い替えなかった理由を……心のかさぶたをこれ以上引っ剥がさせない。
 やっぱなぁ……受川太鳳あまりにも”人物”過ぎる……。

 丸ちゃんの過去トークになった瞬間、耳ダンボになる伊咲ちゃんがあんまりにも可愛いけども、丸ちゃんが伊咲ちゃんの心音を抱きとめたいと願うように、彼女の心にも中見丸太は特別な角度で突き刺さっている。
 前回は伊咲ちゃんが心から安眠できるよう、無骨な真心を真っ直ぐ突き出す丸ちゃんの姿が描かれたけども、今回は伊咲ちゃんのターンだ。
 お互いを特別に思い、時間と気持ちを共有し、その苦しみを少しでも減らしてあげたいと願う。
 人間として当たり前で、でもあまりにも希少で大事な心が荒天に、星のように瞬いていく。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第8話より引用

 だからってこんな、赤ちゃんみてーな無防備な笑い方ようやくできるようになった丸ちゃん、雨の中で一人泣かせていいわけねーだろッ!!!!!
 ずーっと『ちゃんとしなきゃ』に呪われてる、生真面目すぎて硬さで自分の魂を傷つける生き方を見てきたし、観測会に向けてどんだけ楽しく準備してきたかも知ってたから、この雨丸ちゃんにとってどんだけ辛いかも、少しは分かる気がする。
 身の上に降りかかる全ての理不尽を、かけっこの早い自分をぶっ壊すものを、全部自分で引き受けてなんとか制御可能なものなんだと信じることで、丸ちゃんは大切な人と突然引き裂かれた痛みを、どうにか受け止め……きれず、眠れぬ夜を過ごしているのだと思う。
 そうやって自分なり何かをしていると、何かが出来るのだと信じられる手応えが天文部の活動にはあったはずで、だからこそそれが駄目になっちゃったように感じられるこの豪雨は、丸ちゃんを揺れ動かす。

 そういうガキがよー……一人駆け出し泣くのを我慢できねぇ女が、追いすがって傘を差し出すわけよ!
 結局横殴りの雨にずぶ濡れになるわけだが、ここで伊咲ちゃんが差し出した傘は丸ちゃんの心にこそ突き出されている。
 丸ちゃんと二人、天文部として色んな場所に行って空を見上げた思い出を裏切らないために、今中見丸太を一人にはしておけないと走り出す足は、真心と恋心の両輪で回っている。
 そうなるために必要なものをとても丁寧に、このアニメはずっと積み上げてきたし、その焦らない筆致自体が彼らの思いと行いに、かなり特別な手触りをしっかり付与もしている。
 こうなるしか無いし、こうなって欲しい。
 そう思える一瞬が、ドラマの中にしっかり編み上げられるのは嬉しいことだ。

 

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第8話より引用

 街を流れる豪雨と濁流の音が、高なる心音と重なっていく。
 音響の力を活かしつつ、暗転にも似た雨空の暗さ、遠く冷たい距離感から始まって若い男女の間合いが縮まり、すっと差し出した二人だけのラジオが優しい灯火を手渡す。
 嵐が押し流した星空観測会を、携帯電話の暖かな光で小さく作り出す演出が最高に『青春と星のアニメ』してて、マジで切れ味鋭いシーンだと思う。
 真夜中に眠れぬ二人が、暗い闇に取り囲まれつつも光を探す物語は、彼ら自身がお互いの星だったと気づき、告げる所まで温度を上げてきた。
 爽やかな友情が終焉(おわ)って、本気のロマンスが開始(はじま)っちまう高揚と寂しさが、吐き出される感情と混ざりあって異様な感触を生み出す、見事な見せ場でした。

 丸ちゃんはずっと義に篤く仁に満ちたアツい男で、明るく前向きだからこそ理解されない伊咲ちゃんの辛さを、自分に引き寄せどうにかしようと、たくさん藻掻いてくれていた。
 それが彼女の救いであり、中見丸太の高なる心臓に幾度も助けられてきた恩義を、伊咲ちゃんは二人だけのラジオ(これも、丸ちゃんが伊咲ちゃんのために自分なり考えて、不器用で特別な形で手渡してくれた優しさの一つだ)で返していく。
 ここでどん底に沈みかけた丸ちゃんを引っ張り上げるのが、彼自身がかつて差し出した優しさとか愛とか、とにかく人間が人間の形を保つためにいっとう大事なもの全部であること、曲伊咲がそれをこそ返してあげたいと思える人なのが、俺は凄く好きだ。

 明るい人気者と、陰気なガリ勉。
 眠れぬ二人の奇妙な足取りは、お互い様の助け合いと、間近に触れ合う熱い体温の入り混じった公平なもので、形のない怖いものに包囲されながららも押しつぶされないように、必死に生きていく戦友の歩幅だ。
 それを解っているから伊咲ちゃんは、泣きそうな丸ちゃんをみて泣きそうな顔をするし、せっかく準備した観測会が台無しになった”今”を記録して、その辛さとか痛みとかも全部無駄じゃないのだと、彼に伝えようとする。
 そういう暖かな歩み寄りの象徴として、コミュニケーション・ツールである携帯電話を用いた二人だけのラジオが、この嵐の中もう一度(今度は伊咲ちゃんをスターターとして)動き出すのが、凄く良い。
 今の高校生の肌感をしっかり残しつつ、どれだけ時代が流れても古びない普遍的な柔らかさと熱が特別に宿る、良い道具選びだと思う。

 

 丸ちゃんはこの重たい失敗と、それをも受け止めてくれる特別な誰かの隣で、ようやく泣く。
 上手く行ってると楽しく思っているときほど、理不尽に大切なものを押し流していく嵐に傷ついて、かけっこの早い自分を切り捨てて眠れなくなって、それでも誰かのために歩み出せる。
 そういう自分を硬く保ってきた殻を緩めて、ずっと心に溜まってきた雫を絞り出す事ができる。
 それは地上の星を片手に握って、彼に近づいてくれた女の子が、あまりに素敵で特別だからだ。
 そしてそんな気持ちも、またお互い様だ。

 二人きりのバス停、あまりにも特別なシチュエーション。
 『やるしか今しかないッ!!!』と外野も大興奮であるが、キスに至るまでの永遠を、そこで火花を散らす感情を、どっしり伝えてくる落ち着きはやはりこのアニメの強みだ。
 ゆっくり丁寧に、まどろっこしく胡乱なくらいに時間を使って、一人の高校生が、彼と同じでぜんぜん違う女の子が抱え、共に背負い進んでいくものを描く。
 そういうやり方を選んだ意味が、この停留所に閉じ込められた空気の質感をそのまま、見ているものに伝える最高の演出を可能にしている。
 いやー、凄いよこの臨場感というか没入感というか生っぽさは……。
 それもこれも、お話やそこで生きる人達を好きになれるチャーミングな見せ方を、堅実に誠実に積み上げてくれたからこそで、『このアニメ見ててよかったな……』と幾度目か思う。

 

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第8話より引用

 そういう感慨は、恋の導火線をユカイにぶった斬る白丸先輩の乱入で、いい具合に最高潮だッ!
 『まだその頃合いではないッ!』という”天意”を代行する形なんだけども、ここでこの仕事ができるのは白丸先輩だけだし、たっぷり青春の爆鳴気を溜め込んだドキドキ時空を日常に引き戻すべく、笑いと緩急を最大限活かして話を持ってってくれたのも、大変良い。
 丸ちゃんが明るくて楽しい場所に帰ってこれたのだと告げるように、カニちゃんの忍者ギャグがここで再演されるの、かなり好きな使い方だ。
 こういう風に、人生に迷ったガキが戻ってくれる場所を作るべく、自腹きって”打ち上げ”やりにいった倉敷先生は、マジで立派。
 七尾市の地域資料に、しっかり刻んでおこう。

 優しい協力者たちがワイワイ騒ぐ中、丸ちゃんは背負い過ぎな重たさではなく日常に溶け込める質感で、しっかりと頭を下げる。
 背負い込みすぎ、真面目すぎな彼をいのいち受け入れる言葉を、受川くんが発してくれるのは彼のファンとしてはありがたい。
 そういう喧騒が知らない決定的な一歩目を、天文部の二人が進み出していることに白丸先輩は気づいていて、エビのキッスで釘を刺す。
 ここの受川くんのツッコミも、柔らかなユーモアがしっかり宿ってて大変良い。

 

 何気ないことで笑えて、眠れぬほどの荷物を誰かに預けて、てんで勝手に歩調を合わせて。
 そういう場所に丸ちゃんはもう進み出していて、何もかもが自分を追い込むように思えたとしても、また帰ってこれる。
 そういう手応えを強く感じられる、嵐の観測会中止でした。
 大きなイベントとして話を牽引してきたネタを、荒天でぶっ飛ばす展開がむしろ必然であったかのように、横殴りの風がようやく、なにかと抱え過ぎな少年の涙を絞った。
 言えないからこそ辛いことを、特別に言える相手がいてくれること。
 その相手として選ばれる人品を、主役たちがしっかり備えていること。
 このアニメの中で瞬いてる、眩しい光を確認する回になった。

 伊咲ちゃんの前で泣けたこと、お互いの心音が特別なのだと伝えあえたことで、二人の関係もまた少し、決定的に変わっていくでしょう。
 そうやって一つ一つの光が繋がって、かけがえない星座になっていく様子を見届けさせてくれるアニメは、やっぱり良いもんだなと思います。
 次回も、とっても楽しみです。