イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

私の百合はお仕事です!:第11話『ブルーメ・デア・リーベ』感想

 ブルーメ選挙集計と時を同じくして、女と女魂のぶつかり稽古も遂に決着ゥゥ!!
 よくよく考えるとな~んも終わってない、情欲と業に塗れた舞台裏をひた隠しに、今日も乙女の園は百合色満開ッ!
 清く正しくヤバいギャルと、重く暗くヤバいメガネの運命がひとまずの落着点を見つける、わたゆりアニメ第11話である。

 ロザリオ交換の感動的な姉妹の契で、なんもかんも解決するのはお話の中だけ。
 ネトついた恋心も歪な独占欲も、正しさの奥に隠れた湿った情熱も、なにも落ち着きどころを見つけていないけども、ひとまずはこの距離感で始めよう。
 残り一話でこの運び、最後の最後までがっぷり獣臭いお話で、大変いい感じだ。
 純加はなんで果乃子が泣くのを止めたいのか、自分の心のメカニズムに全く無自覚だし、果乃子もけして維持できない現状、維持なんてしたくない本心にも、背中を向けてみないふり。
 お互いに票を贈り合い、嘘っ子姉妹としても因縁幼馴染としても新たな関係性に漕ぎ出しているように見える陽芽と美月も、未解決の爆薬が山程詰まっとるからなぁ……。
 でもあんだけ不定形の賞賛を求めてきた陽芽が、自分を勝たせるのではなく不器用お姉様にキャスト票を投じられたのは、不自由な鎖が解けてきてる感じがあって、嬉しい描写だった。
 まぁそういう前向きな変化が、永遠の停滞に微睡んでいたい果乃子の精神を、ガッコンガッコン揺らすんだけどな……。
 このアマ『他人なんてみーんな私の引き立て役だよ~~』みてぇな顔しておいて、情を寄せた相手には重さ込めて”特別”手渡すし、かつてのトラウマもあって生きづらい親友のサポートは熱心に頑張るしで、狂う要素しかねぇのが罪作りだよね!

 

 

 

画像は”私の百合はお仕事です!”第11話より引用

 というわけで今回のお話のは女と女のガチンコ吉羊寺オクタゴン、地獄の定点観測所ことビルの階段からお送りします!
 陽芽と美月の関係性が客から見えないけど建物内部のスタッフルームで進展したのに対し、純加と果乃子の間柄は屋外なんだけど無骨で息苦しい、この奇妙な空間で転がり続けてきた。
 お互い恋の相手ではない(はず)のに、特別な傷をさらけ出して抱きしめられる、シンプルなラベルを付けられない関係こそが私たちの今なのだと、二人が選び取る/押し流される瞬間を切り取るのに、やっぱりここの美術はとてもいい仕事をしている。
 ここまでは冷静な定位置に据えられてきたカメラも、果乃子が自分の中の真実を吐露し、それに純加が揺らされる決着の瞬間に、ダイナミックに動き回ってその心を追いかけていく。

 絶対言っちゃいけないはずの本当を思わず告げる果乃子も、その涙を止めたいと願う純加も、大事なものはそれぞれ別にある……はずだ。
 果乃子は陽芽との関係と感情、そこで担保される特別な自分に狭く閉じこもり、純加は皆が幸せでいられる恋のない公平なリーベを求めている。
 私と公、二人の視線は真逆にすれ違っているはずなのに、果乃子はずっとそのまま抱え続けているはずの重荷をうっかり預け、純加は涙ながらにそれを抱きしめる。
 抱かれている果乃子が、抱擁に一切手を伸ばしていないのに跳ね除けないのが最悪すぎて最高。
 『陽芽ちゃんだけだから……』と、キモい純情に自分を縛り付けてると思いきや、自分に全霊傾けてないてくれる相手にちょっと絆されて、そのぬくもりを感じれる距離を維持しつつ、コミュニケーションのチャンネルは一方的に閉じるというね……。
 『先輩は助けてくれる人ですよね!?』といい、野獣の凶暴な孤独を原理に生きてると思いきや、甘ったれた人間味がじわじわ滲む所がやっぱええわ、このメガネ。

 

 果乃子に近づき魅入られる中で、純加の恋へのトラウマは軽癒/変質していって、当初の強硬な姿勢は解けつつある。
 それが伝えられぬ恋の辛さを間近に知ったからか、はたまた純加自身も見えない怪物が彼女の中に潜んでいて、それを自由にするためには恋への道がリーベに残ったほうが良いからか、明瞭な描線はみあたらない。
 何もかもが不定形のまま、自分の気持ちよりも果乃子の辛さのほうが良く見えてしまって、誰かを不自由に傷つける正しさよりも近くで見守れる嘘の方を選べる所が、純加生粋の善良さ……であり、そこにつけ込む嗅覚が、間宮果乃子はなかなか鋭い。
 ”そこ”にいたほうが矛盾まみれの苦しい関係に溺れず泳げて、便利に好意を使い潰せるポジションへ、スルッと滑り込める狡猾さが果乃子にはある。
 その邪悪さが世間と軋んで爆発寸前だった所を、同じ悪党である陽芽に救われてしまって今の状況だと考えると、他人の救世主になるのはなかなかに難しい。
 『皆さんアニメにもなった”Pet”って漫画がございましてぇ……』といいながら、三宅乱丈先生の傑作を思わず差し出したくもなるが、辛いコトばかりの世界で唯一生きていく理由は、光に満ちた呪いであり痛みを振りまく祈りともなりうるわけだ。
 あるいはその二つは、背中合わせにべっとり癒着して、もう引き剥がせないのかもしれない。

 果乃子は陽芽への捻れた恋情にズタズタにされながら静止した永遠を求め続けて、否応なく変化していく人間の定めにも、本当は報われ救われたい自分の気持ちにも裏切られる。
 外面で覆い隠さなければ軽蔑も排除も引き寄せる、激ヤバ真実をポンポン純加に投げ渡すのは、それを純加なら裏切らず受け止めてくれるという計算と同じくらい、心に赤い血が滲む本当を、誰かに預けて楽になりたいからだ。
 激ヤバ超キモ執着人間の、そういう甘っちょろい可愛げを間近に受け取ると、リーベの平穏を壊す敵ではなく救うべき弱者、あるいは……と受け取ってしまうのが、ギャル先輩の危ういチョロさである。
 そこが良いんだけどねー……自分が正しくないかもしれない可能性をしっかり見つめて、まず己を正せる眼の良さは、思い込んだら一直線の百合色イノシシ共にはない強さよ。

 かけがえない仲間であるはずの美月が、バッキンバッキンに陽芽LOVEな恋情人間だと気づけない迂闊さに背中を刺されつつ、純加は正しさと優しさを天秤にかけて後者を選ぶ。
 『感情質量がデケェ女を至近距離に置けばな……恋の重力が何もかもを飲み込んでいくんだよ! 学校で何習ってんだ! あと鏡見ろ鏡ッ!!』って感じであるけども、無事ブルーメに就任した純加は、終わることのない平穏を就任の祈りに差し出す。
 劇的瞬間を華やかに彩るクロイツ授与に、クソ観客どもも『キマシタワー!』と大興奮だけども、綺麗にパッケージした姉妹契約の奥には秘密が繋ぐ共犯関係があり、すれ違ったままの相互依存があり、しっとりと熱を持った感情が横たわってもいる。
 バックヤードのドンロドンロが、表舞台にはみ出してこないからこそ成り立ってる、異形の演劇的接客業態で踊る嘘っぱちには、飾りでしかないはずの純情が確かに、どこかにあって欲しいという、二人の祈りが熱を加えている。
 その視線が、絡み合いつつも全く別のところを見ているのがま~、なかなか大変なんだけども。

 

 『恋愛絶対禁止!』とキーキー喚き、自分自身女にゃ惚れねえッ恋は理解らねぇ!! とぶっこいてた関係上、純加はリーベというフィクションをテコに使い、共犯関係を手玉に取った捻れた距離感でしか、果乃子と繋がれない。
 果乃子自身、世界で唯一大事な陽芽との繋がりを邪魔する”悪い人”に、自分の心臓を預けている捻れ方を飲み込めていないので、利害と秘密で繋がるんだよと形整えてくれたほうが、ロザリオを受け取りやすいのだろう。
 思い返せば牧歌的ですらあった、前半で陽芽と美月が演じた外面と本音のダンスは、後半の主役においては一見キレイな着地点を見つけたようでいて、現在地はメチャクチャに捻じくれてるし、そこに至るまでの経緯も内心もヌトヌトだしで、まったく整理はついていない。

 ここでひとまずアニメの幕が下りはじめるのもなかなかスゲーなと思うが、クッソ面倒くさい矛盾に挟まれ抱え込み、自分が本当は何を望んでいるのか、何が一番大事なのかなんて絶対に分からない、クソめんどくせぇ女達の青春を追いかけてきたアニメとしては、この決着だからこそ良いかな、と思ったりもする。
 こういう落とし所がひとまずのゴールとして用意されているからこそ、あえて臭みを消さずむしろ強化するようにゴリゴリと、百合ジビエの野趣を食わせる作り方を選んだ……とも言えるか。
 世間一般で言われる、あるいは登場人物たちが認識しているほど白黒はっきりは分けられない外面と本音を主題とし、それが踊る舞台としてなんもかんも嘘っぱちなのに舞台裏の人生が色濃く滲み出してくるリーベを選んだ、このお話。
 好きじゃないのに抱き合い、誰にも預けられないはずの本当と秘密を預けて、捻じくれたまま美しい泥の中に進んでいくスタートラインが、純加と果乃子ひとまずのゴールとなった。
 こっから先は獣道、己の中に潜む数多の獣と素手で取っ組み合いし、外野からの致死性の一撃を交わしたり受け止めたり食らったりしながら、行くべき場所を探していく度になる。
 ……描かれた二人の過去を思うと、ずっとそういうワイルドサイドを進んできたってのが、正しい表現かもね。

 

 というわけで後1話を残し、ギャルとメガネの第一章はひとまずの決着となりました。
 果乃子が『親友その1』の仮面の奥に秘めていた、湿って粘ついた情念とエゴを上手く着火剤に生かして、恋を否定する少女の胸の奥にあるものとか、そんな二人が選び取った距離感とか、大変いい感じに描いてくれました。
 二つの青春がひとまずの落ち着きどころを見つけて、新たな幕が上がるまでの、一瞬の平穏。
 それを描く最終回、どんな華やぎを見届けられるのか。
 次回も楽しみですね。