イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスター ミリオンライブ!:第10話『アイドルに大切なもの』感想

 その蒼い舞台はようやくたどり着いた一つのゴールで、ここから始まる私たちのスタートライン。
 デビューを控えた最上静香が仲間の力を借りて到達した、暖かで美しい場所を描くミリアニ第10話である。

 大変良かった。
 僕はこのアニメを見て最上静香が好きになったので、父親のことアイドルのことでずーっと眉間をしかめて、苦しそうに生きている彼女が、なりたい憧れを引き寄せ届けるべき人に届けれたのが、凄く嬉しかった。
 そんな彼女の助けになってくれる人が物語の中で沢山生まれて、自分たちなり手を差し伸べ一緒に隣り合って、自分の歩みも少し前に進めれている描写があって、静香がこの話数に至ることで”みんな”が幸せになったのだと、確かに解る手応えが良かった。
 無印アニメであんなに張り詰めていた千早が、自分と似た辛さや生きにくさを抱えている後輩の顔を凄くしっかり観て、歌に呪われるのではなく歌を通じて幸せを生めるように、そのために自分が何をするべきかメチャクチャ色々考えて、決定的な手助けをしてあげられているのが良かった。
 印象的なスタートから静香第一のファンとして、”アイドル”への憧れで繋がった友達として、彼女を支えてきた未来ちゃんが父の心を動かす決定打を担当するのも、前回あこがれの人に投げつけられた悩みのタネを、自分なり本気で受け止めて本気で悩んでいた翼が苦悩する友達の姿を通じて、自分なりの答えを捕まえて静香に返そうと、珍しく体温高い踏み込み見せたのも、とても良かった。
 無印やムビマス含めて、ここまでの物語を活かした集大成感のあるお話であると同時に、デビューを控えた少女たちがより良い場所へと踏み出していける、未来への希望がワクワク湧き上がるエピソードだったのも、残り2話という話数を考えると素晴らしい。
 こんなに素敵なステージに、仲間と手を携え背中を押され、自分の足で立てる子がフィナーレに見せる最初の一歩は、とても眩しいものになるだろう。
 そう思えるのは、やっぱりいいことだ。

 

 つーわけで前回……よりもっと前から引かれていたレールに、すごく素直に乗っかっての静香回である。
 予想は稀代の裏返しであり、『こういうお話が見れたらいいな!』という願いを予測という形で人間溜め込むもんだと思うが、静香と父親の確執を真ん中に据え、そこにいろんな人達が助け舟を出していく構造は、ここまでの話数を上手く編み込んだ、有機的な構成だったと思う。
 何しろ10年、分厚い文脈がアニメの外側に広がってる中で、アニメしか見てねぇクソにわかが感じ取れるものは氷山の一角なのだろうけど、ネタのほのめかし方がいい塩梅だったので、『なんとなく』でも作品が言いたいことは、それなり以上に受け止められた感じがあった。
 ミリアニはここら辺の加減が自分的にちょうどよくて、扱う人数に比して明らかに尺が足りていない中、適度に色々くすぐりつつ、メイン三人+Pちゃんを芯に真っ直ぐな話を続けてくれた。
 悩まず正解を選び続けれる光属性の主人公として春日未来がいて、その影となる常時曇りっぱなしの最上静香がいて、二人のちょっと上の天才領域を自在に浮遊している翼がいる。
 この三角形で安定してきた物語が、作品の推進力であり解決すべき課題でもあった静香と父の問題を、どう解き放ってカタルシスを生むのか。
 第6話で紡がれた志保とのピリッとした絆、担当アイドルの輝きを誰より信じているPちゃんの活躍なども生きて、非常に良い決着だった。
 口下手な親子が、娘が選んだ”アイドル”という生き方を間近に共有した後、言葉のいらない笑顔一つで何もかも分かり会えるところまで進み出して終わるの、語らぬからこその雄弁さを積み上げた物語から汲み出せた結果で、めっちゃ良かったな……。

 俺は最上静香が好きなので、いつも苦しそうにしている彼女に優しくしてくれる人を好きになってしまうわけだが、千早先輩が親子和解の舞台建てから張り詰めた後輩への助け舟、目指すべき高みを体現する背中のデカさと、好感度荒稼ぎの獅子奮迅を見せた。
 星梨花の微笑ましい親子喧嘩、猫ちゃんに重たい感情をうっそり流し込む志保と、アイドルと家族の色々を照射しながら進む今回、千早と亡き弟の関係もまた、語らぬながら文脈に組み込まれている。
 歌うことで喪失の悲しさを癒せると、主催者が信じて”アイドル”を呼んだ舞台で自分に何が出来るのか。
 千早主導で始まったアカペラは悩める静香に答えを手渡すわけだが、あの歌は千早自身にとっても、失ってしまったものがまだ自分のそばにあるのだと、確かめるための歌であったように思う。

 如月家も弟の死を契機に父が去ったわけで、あのステージに立った皆が家族……特に父と複雑な結び目で繋がっている立場だ。
 可愛らしい親子げんかでプンスカしとる星梨花に、エレナと琴葉のダブルお姉さんが親身に向き合ってる様子とか、『オメーはまだ親父と手が届く立ち位置なんだからよ……とっとと繋がり直してこいよ!』と静香をぶん投げる志保とか、色んな人の助けを借りて、ほつれていた縁は結び直されていく。
 先輩であり既に己の成長物語を終えた”アイドル”でもある千早が、傷つき支えられ前に進んでいく自分を(この話数で)見せることはないが、彼女もまた今回展開された暖かなつながりで人生の傷を縫い止めて、恩返しのように”頼れる先輩”している。
 微笑ましく隣り合うもの、不器用に繋がり直すもの。
 もう向き合うことはなくとも、心の何処かに確かに繋がりを宿すもの。
 多彩な親子関係が”アイドル”の背後にはあって、それぞれのやり方で繋がったり離れたり、壊れかけたものを繋ぎ止めたりするのだという、関係性のグラデーションが奥行きを生んで、とても良かった。

 

 今回は(今回も)親子の物語であると同時に、アイドルの話でもある。
 物語開始時からずっと描かれていた、静香がアイドルに賭ける強い思い。
 それに見せられた未来ちゃんが友達のために、余計なおせっかいの先頭に立つのも凄く良かったし、静香の奮戦を見た翼が美希から手渡された課題への答えを掴み、その恩返しのように熱い友情見せるのも、また良かった。
 やっぱ未来ちゃんが安定した主人公力を発揮し、物語として今やるべきこと、やってほしいことを外さずまっすぐやり切ってくれるのは、お話に強い推進力と安定性を与えていると思う。
 デビュー以来静香を見てきたPちゃんが、父が『出し物』と蔑む”アイドル”の素晴らしさを気圧されつつも引っ込めず、自分が見つけた星は誰よりも本気で輝こうとしていると、真摯に伝えるのも良かった。
 Pちゃんと未来たちの熱意が最上父にちゃんと届いたからこそ、彼は娘が”アイドル”をする現場にもう一度足を運んで、あの手作りステージでは見えなかったもの……思い出せなかったものを取り戻していく。
 自分と幼い娘の思い出が、『誰かを元気にしたい』という最上静香の原点なのであり、離れ縺れたと思っていた関係は実はまっすぐに、お互いを繋げていた。
 愛する人との関係を間違えかけた男が、そういう事実に目を向け、自分と娘の真実を思い出せたのはとても良いことだし、そういうところまで静香を持っていってあげた人達の優しさも、眩しく目に映る。

 ここまで静香が歌う場面は幾度かあって、しかし父の心はそれでは動ききらなかった。
 未来が余計なおせっかいをしようと言い出し、クールにも思える翼がそれについていって、Pちゃんが自分が見てきた最上静香を伝えたことは、今回ラストに描かれる関係性の修復に、大きな助けになっただろう。
 同時に失敗しかけたオーディション以来、眉間にしわ寄せながらシコシコレッスンを重ね、出来ない自分に今回も悩みながら必死こいて頑張ってきた、静香のアイドル修行が産んだ変化かな、とも感じる。
 第2話で少女を救った仲間の手助けを、今度は自分から求めてそこから翼が生まれていく描写も、話数を重ねて育まれた信頼を素直に形にしていて、大変良かった。
 何かと内に溜め込んで潰れてしまう、面倒くさい静香の性格をしっかり描いてきたからこそ、あそこで友達に魔法をかけてと頼めるまでになった変化、それを生み出した繋がりが、心に染みた。
 ……主役の一人として尺貰った静香はこんな風に内面と関係性の変化、それに伴う救済のカタルシスを作中描ききれるわけだが、自分の物語を疾走ることをアニメで許されていない志保は、意味深に猫ちゃん握りしめてガンッガンに荷物背負ってる感じなの、適切な切り分けとは言え少し切ない。
 ここら辺は加奈ちゃん筆頭に周りの連中が手差し伸べてる感じもあるし、アニメの外側で志保を主役に削り出されている物語だとも思うので、瑕疵ってわけでもないんだが。
 重たい家庭環境や過去に受けた深い傷を匂わせつつ、『ワリーがこの子ら主役じゃねぇ……アニメの外に山程”物語”あるからぶっ飛んできな!』というサイン出してるの、桃子もそうだがニクい誘導だなぁ……。(訳あり少女の伏し目がちに、ついつい目が行ってしまうマン)

 

 というわけで最上静香がずっと求めてきた”アイドル”に、仲間が押し上げ自分が飛び立ち、眩しくたどり着くエピソードでした。
 今”アイドル”やってる静香がどんだけ眩しいかをステージを通じて父に伝えることで、失われかけていた過去の思い出、自分たちの原点を思い出して、豊かな沈黙の中笑い会えるところまでたどり着くの、大変良かった。
 弟や父を喪っているアイドルが何人かいる中、時すら飛び超えて壊れかけた愛を取り戻せる”アイドル”の力を、静香主演でまっすぐ描いたの、大変良かったです。

 こっから二話で一旦幕を下ろすミリアニですが、今回”アイドル”に何が出来るのか示したことで、フィナーレへの助走はしっかり整ったと思います。
 父との関係に答えを出した静香が、”アイドル”としてどういう成長を果たしているか含め、デビューでありゴールでもあるシアター公演がどう描かれるのか。
 次回もとても楽しみです。