鬼滅の刃 柱稽古編 第1話を見る。
令和アニメブームの先陣を切り、ハイクオイティ&ビッグバジェットでアニメ村の外側まで場外ホームランぶっ飛ばす路線のハシリとなった国民的アニメが、待ってましたのTVシリーズ。
まぁ言うたかてラストバトル前の修行編なので、話数自体は控えめだよッ! でも映画館に乗っける関係上、第1話は一時間スペシャルだよッ!! という回である。
このシニカルな書き口から解るように、原作完結を間に挟みあまりにデカく広い場所へと羽ばたいてしまった鬼滅アニメとの距離感は、自分的になかなか難しいトコにはまり込んでしまった感じもある。
なんだかんだ好きなので、見て感想を書く。
話としては刀鍛冶の里編のアフターケアをしつつ、鬼の定めを乗り越えた禰豆子の特異性を確認し、最終決戦に必要な戦闘力の底上げを痣やら柱稽古やらで話していく流れ。
日本国民の結構な割合を巻き込んで、長いアニメに付き合った視聴者を鬼殺隊の”身内”にしている空気を反映してか、あるいは長尺持たせるためか、ファンサービス的なキャラ描写が多めの、心地よく緩い雰囲気が全体に漂う。
とはいえスパイス効かせるところはちゃんとしてて、冒頭の風&蛇二本柱の集団戦は、炭治郎にフォーカスしているとなかなか描かれることのない味わいのバトルで良かった。
あとアニメの無限城、何回見ても最高すぎ…おぞましき美麗の奈落。
物語の行く末を知って、あるいはアニメになって改めて見てみると、富岡と善逸のヤバ人間っぷりが改めて凄くてビビらされる。
荒っぽい言動と不穏な雰囲気に包まれてはいるものの、『悲願達成への兆しも見えてきて、最終決戦頑張るぞ! お館様の枕に、無惨の首を備えるぞ! 鬼殺隊ファイオー!』つう空気に満ちてるあの場所で、何も言わず退室できる富岡の面の皮は本当に凄い。
ゴロッパチな実弥さんがかーなりマトモなツッコミ入れてるのに、自分の抱えているものも身内に曝け出さず、クールな面で鬼殺隊最強戦力やれているの、ある種の才能だと思う。
そうなる事情もあるんだが、それは隊員全員にあるしな…。
まぁしょうがねぇ、それがお前だ冨岡義勇…(Love)。
デレデレしてたと思ったら即キレる、善逸のオンとオフしかない扇風機っぷりもまた健在で。
里編にて金髪一本見えなかった気配の消しっぷりで、久々に登場したかと思うとフルスロットルで善逸してたんで、落差にクラクラしたが、まーあのドロドロネバネバが彼らしさでもあるので、そういうモノをたっぷり吸い込む、新クール第1話であった。
尺が長かったのが幸いしてか、全体的に原作っぽいトボケが良く効いたエピソードになっていて、どんどんそういう事やってる場合じゃなくなっていく最終決戦直前、『鬼殺隊最後の夏休み』って感じがどっかにあったな…。
すれ違ったりぶつかったり、笑いあったり怒ったり。
人間として当たり前のものを当然持っている沢山の人達が、人類の宿敵ぶっ殺すために死物狂い、個人の幸せ投げ捨てて使命と狂熱に身を投げていく、怖さと痛さみたいなものは、アニメ独特の語り口を通じてより強くなってくかなー、という印象だ。
やっぱ放送を待つ間に、作品との間にいかんともしがたい”間”が空いてしまっているのは否めなく、原作一気読みしている時は『ウォォォオオ!』で読み切れた歪さを一歩引いたところから、否応なく観察してしまってる手応えはある。
一心不乱の集団特攻に向けて、全力で突っ走る国家非公認カルトって顔、かなりあるからなぁ鬼殺隊…。
その歪みも込みで、なんだかんだ好きなのだが。
謎めいた権力の中枢として、微笑み以外の表情を浮かべなかった産屋敷周辺の人達が、伏せて死にかけたりその悲しみに涙したり、個人的な感謝や悲痛を表に出してる様子からも、クライマックスは近いのだなぁと感じさせられる。
鬼との壮絶な戦いの凄みを上げるべく、底知れぬ感じと命知らずのヤバさを強調して、炭治郎の戦いを牽引してきた無貌の権力装置(とその家族)が人間の顔を描かれるのは、個人としての死、物語としての完結が見えてきたこのタイミングだけであり、そういう意味では首切られてから悲しい過去を回想して”人間”に戻る鬼と、表裏一体の鬼殺しなんだなぁ、などと思う。
あまね様の描き方が良いだけに、なおさら。
今回長めの尺に色んなキャラが刻んだ、喜怒哀楽様々な人間の顔を、柱稽古で力を蓄えた後の総力戦は軒並み飲み込んでいく。
炭治郎が善逸に感謝した、土壇場で命を繋ぐ絆として大きな意味を持つモノも、何の意味もなく理不尽に踏み潰されていくモノも、日常の中では等しく幸せに微笑ましく、確かにそこにある。
そういう小さな泡沫を、全てすり潰した存在だけが鬼になるわけで、人が人であるまま鬼を殺す理不尽を成し遂げるためには、命程度は捨てなければ叶わないのかもなぁ…などと、奇妙な哀切がコミカルな場面に匂った。
これは鬼殺隊の物語が、ちゃんと終わった後の地点から読み返すからこそ、感じる痛みなのかもしれない。
言葉を喋り人を愛し、光を克服し血を求めない。
鬼が鬼たる定めを越えた禰豆子の覚醒、それを奇瑞と見た産屋敷の珠世へのアプローチと、物語のルールが書き換わっている事を示す描写も多かった。
『オメー後付け設定だろ』と、作中人物にツッコまれているパワーブースターたる、”痣”のねじ込みもそうか。
いかにも週間少年漫画誌っぽいライブ感のネタを、ややメタ領域に突っ込んでるセリフで角取って無理くり押し込んでくるパワー勝負、めっちゃ”鬼滅”って感じで好きだな…。
ご都合っちゃぁご都合なんだが、それを握って展開する物語の腕力でぶっ飛ばされて、飲み込まされちゃう気持ちよさはやっぱ、名作にしかないのだ。
鬼殺しをアイデンティティにする組織が、鬼の助力を請うってのは歴史がひっくり返る大転換点で、珠世を誘う鎹鴉がめっちゃ”鴉柱”って感じの、異様なオーラと存在感を放っていたのも宜なるかな。
本来なら産屋敷本人が担当するべき役割を、話の展開上果たせない無理を、速水奨さんのナイスボイスでゴリ押ししきった感じがあって、大変良かった。
ぶっちゃけこの第一話で顔見せたどのキャラよりも、あの鴉強そうだったからな…。
柱稽古も始まって、作中宣されたように最終決戦は近い。
全世界を巻き込んだ怪物に育っちゃったこのアニメが、そのフィナーレをどう作っていくかも含め、今後が大変楽しみです!!
・追記 つくづくマゾっぽい好みだなと思うが、こんな陰惨な話ある程度のマゾヒズムを抱えてなきゃ見届けらんねーよな、とも感じる。
あ、ファンサービスの極地たるコソコソ話、俺が大好きな伊之助→しのぶへの不在なる母を見上げる視線が濃厚に漂ってて、大変良かったです。
しのぶだって姉を奪われた穴を、似合わぬクールお姉さんを必死こいて演じる中なんとか大人/柱/姉/母やってる立場でしかないんだが、その強がりと癒やしが確かに、母の記憶すら定かではなく、だからこそ母を瞼の奥に求め続けてる獣面の少年に温もりを与えていた事実は、何度噛み締めても豊かな滋味と、微かで確かな苦みがある。
しのぶ本来の気質は炎属性だと思うんだが、姉を継いで可憐で儚い”蝶”になってしまったこと、母乞う獣が伸ばした手がそこに届ききらなかったことは、痛くて好きだ。