イマワノキワ

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となりの妖怪さん:第8話感想ツイートまとめ

 となりの妖怪さん 第8話を見る。

 妖怪人間老若男女、色んな存在の生き様を複雑に編み上げていくこのお話。
 今回はややオムニバスな筆致で、初海外と友との対話に人生を学ぶ新人猫又、妖怪だろうが甘酸っぱく難しい思春期に身を置くカッパ、長命種ゆえの哀しみを微笑みの奥に抱え込んでいた天狗、それぞれの物語がスケッチされた。
 れいんちゃんの思春期は露骨に保留にして、ジローの激重トラウマを一気に切開しに行ったので、今後それぞれどういう決着を迎えるかが楽しみである。
 生きてるなら必ず付きまとう辛いことから逃げず、作品なりの答えをちゃんと書くお話なので、重たいヒキもどっしり待てるのは強い。

 

 というわけで。ぶちおくんに惚れ込んでいる山本さんの導きで魔法の国イギリスに旅立ったり、友だち一家の重たく大事な気持ちを受け取って、自分の中にある”さみしさ”を知ったりする回である。
 ぶちおくんはむーちゃんに劣らず幼くピュアなので、山本さんが色々世話焼きたがるのはよーく分かる。可愛いし。
 彼の人生修業に付き合う形で、当たり前に魔法が一般技術になってる現代イギリスの不思議な光景が見れたのは、世界観の広がりを感じて良かった。
 そらー異形の存在が当たり前にいる世界、魔法も当然あるよなぁ…。
 魔法味の紅茶がお土産で売ってるの、いいエブリデイ・マジック描写だったな。

 家族と友人に恵まれ、人生の理不尽にあまり噛みつかれてもいないぶちおくんにとって、人間に付きまとう”さみしさ”はなかなかに理解しがたい。
 だから『ママさんたちが先に死んじゃう!』とパニックにもなるのだが、そこに思いを馳せて色々考えることで、暗い感情に飲み込まれず、より善い人生を送ることも可能になる。
 西谷家の深くて重たい部分に首突っ込んで、生きるの死ぬの残されるのの話をちゃんと聞いたことも、彼が今後望む通り強く正しく優しく生きていく、大きな助けになるのだろう。
 新米猫又の人生学び取りを、丁寧に丁寧に積み上げてくれてるのはやっぱ好きだ。
 ぶちおくんが応援したくなる若人なのが、いい仕事。

 妖怪が妖怪である以上、否応なく付きまとう寿命差は、人生に数多ある生老病死の理不尽、その一つの形だ。
 できれば無い方が嬉しいけども、どんだけ願っても消えてくれない残酷を前に、いったい人間と妖怪に何が出来るのか。
 そこに明確な正解はなくて、不条理にぶち当たった当人がそれぞれ、解答用紙に魂の血で答えを書くしか無い。
 千明に後生を託した奥さんも、ぶちおくんに未来を背負わそうとした和彦さんも、ずっと一緒に生きていきたいと思える家族だからこそ、長い命を持つ存在に残酷な願いを委ねる。
 それに身勝手で残酷だと怒りつつ、そういう部分もひっくるめて家族を愛してる千明の姿が、高潔で優しくて良かった。

 

 千明とぶちおくんがなんとかかんとか、涙を交えつつも前向きに向き合っている”さみしさ”は、ジローとむーちゃんの間ではカメラを触媒に、より激しく炸裂する。
 時を超えて記憶を保ってくれるはずのカメラが、幸福とは言えない生涯をたどった人間最後の呪いを、色々抱え込み過ぎな山神様にぶっ刺すの、エグい展開だったな…。
 ぶちおくんのロンドン紀行が地理的に世界観を広げてくれたのに対し、ジローの思い出は時間的に拡張してくれてて、ドラゴン爆撃とか神通力人命救助とか、不思議が当たり前に実在してる世界の景色が、いい具合に描かれていた。

 ずっと繰り返すように思えるのどかな田舎暮らしにも、戦争はあるし地震も起きる。
 せき止められない時の流れの中で人は死んでいくし、それでも生きていく。
 そういう宿命を飲み干す器に、飄々としているように思えるジローは実は結構ヒビ入ってて、むーちゃんの何気ない一言に封じてた記憶がフラッシュバックして、全然大丈夫じゃないのに大丈夫と言って、悪くないのに謝った。
 むーちゃんが怒るのも無理ないが、ジローだってジローなりに辛いんや…。

 

 山の守神と崇められ、確かに異能の力を持っていても、戦争や地震を止めることは出来ない。
 突然の不幸や理不尽な喪失を、この世から消すことも出来ない。
 むーちゃんを守り導く、完全無欠の大人に思えたジローが抱えた無力感を、思い出があぶり出していく回である。

 これはジローが急に頼りなく豹変したわけではなく、無理くり蓋をしていたものが必然的に飛び出してきて、新たに向き合うことを要求している状況だ。
 ジローが守ってくれたからこそ、父のいない世界でしっかり育ったむーちゃんが、ジローが無敵のカミサマではないことが解る年になってきたのも、そういう弱さを見つめる大事な足場なのだろう。
 どんなに嫌でもそこにあってしまう”さみしさ”と、どう付き合うのか考えるという意味では、ぶちおくんの旅とジローの迷いは道を同じくしている。
 むーちゃんのビンタだって、自分を頼ってくれない”さみしさ”と巧く握手できなかったから、飛び出した一発だしねぇ…。

 ジローとむーちゃんがどういう居場所にたどり着くかは、来週を見てみないと解んないけども。
 色んな人がいるからこそ哀しみと寂しさに満ちた世界を、なんとか生きていけると描いてもいるこのまったり田舎暮らし物語、重く苦しいだけで終わらせないポジティブな矜持を、ちゃんと見せてくれるだろう。

 

 ジローが自分の中に封じていた影を見せたことで、命がけで封じたオロチと同じ闇が彼の中にもあって、かつての”敵”と鏡合わせな危うさが見えてもきた。
 あの時むーちゃんと一緒に戦ったから、今泣いたり笑ったりも出来るわけで、今回も重く暗い場所を潜り抜けて、光の方へと小さく一歩、ちゃんと進めるだろう。
次回も楽しみ!