菜なれ花なれ 第1話を見る。
夏のPA祭り第2弾、高崎を街をチアリーディングで熱くする少女の物語、そのスタートである。
制服が違うトンチキ人間どもが、引力に惹かれて何者かになっていくドラマの始まりを、街をステージに変えるパルクールの自由さをエンジンに、元気に告げてきた。
影をつけない一色塗りつぶしのパキッとした色彩、主人公を中心に大人数の顔をとりあえず全部見せる手際、跳躍の瞬間の高揚。
作品の強みをまず理解らせてくる、パワーのあるぶんまわしで開始してきて、大変良かった。
ワケ解んないからこそのワクワク感を、人化した猫めいてクールで自由な小父内さんが、上手く体現してたな。
『パルクール使いが話の面白さ背負うなら…それチアアニメじゃなくて、パルクールアニメじゃん!』という疑問点は、まぁまぁあるけども。
アニメが”チア”やっていく所以をどこに見出していくのか、主人公が背中を向けた部活による競技チアとの対比も含めて、今後しっかり描かなきゃならんポイントだと思う。
落下のトラウマで競技チアは出来なくなったが、翔びたいし誰かを勇気づけもしたいかなたの衝動は上手く描かれていて、ここが中心核になってチームが形成されていくのかな…という感じではある。
他人に興味をもってない、極めて自由な小父内さんがチアに染まっていくことで、その魅力を描いていく形…になるんかな?
所属する学校も異なり、それぞれの得意分野もバラバラな六人は部活というフレームを飛び出した、都市型チアユニットとして高崎で暴れまわるのだと思う。
そのアーバンな面白さを、都市型身体芸術であるパルクールの自由さ、高さ、華麗さで初手から示してきたのは、別個の競技を混ざり合わせて独自の面白さを作ろうとする手腕で、なかなか面白い。
清楚お嬢様担当が新体操修羅らしいので、そっちの要素と善さを今後どう可視化し、主人公たちのチアに混ぜ合わせていくかも気になる。
とまれ第1話は、カメラワークとやや誇張した身体表げんでもって、パルクールの魅力を存分に引き出せていた。
…だからチアアニメだって!
体育館に収まらない小父内さんの自由さは、ローカルな土の匂いを作品に取り込む聖地主義のお話づくりと、なかなか相性がいい感じもある。
あの子がぴょんぴょん街を飛び回り、山がちなド田舎っぷりをいい色合いで魅せてくれる度に、『良いところかも大崎…』と思えるので、なかなかに空気づくりがいい感じ。
今は卓越した身体能力を、誰とも繋がず暴れさせている小父内さんだけども、チアリーディングは”応援”なわけで、他人との繋がり抜きには描けない。
なので土地の人達との触れ合いなんかも交えて、彼女の人格的成長を繋ぐ大事なハブとして、メインテーマを削り出せると面白そうだ。
残りの連中もすーぐ抱きつくブラジルの褐色弾頭あり、彼女に振り回される一見気弱系あり、ガチのリハビリに汗を流す幼馴染あり、分かりやすくキャラが濃かった。
後に運命のチームとなるメインキャラだけでなく、主人公が背を向けた部活の連中もサラッとスケッチしていて、大人数をさばく手腕が初手から冴えているのは、なかなか安心できる。
能力も性格もバラバラな連中が、だからこそ力強く自分たちだけの表現を目指して前に進んでいく要素を、どうしても期待したくなる初期配置。
これを混線させず捌いて、化学反応の面白さを純度高く取り出せるかどうかは、作品の面白さの根っこに深く食い込んでくるだろう。
なので小父内さんのアンストッパブルな疾走を立ち止まらせることなく、『あー、コイツラだいたいこういう感じか…』つうのが伝わるスタートだったのは、大変良かった。
今回の第一印象が今後、チア特有の魅力を伝えチームがチームになっていく中で変化したり、深まったりするのが楽しみである。
チアにパルクールに新体操、カポエイラにヨガ。
メインキャラそれぞれが個別の”流派”で身体表現を収めてて、ある種の異種格闘技的面白さがあるのは良い。
最後の一人が担当するのが”リハビリ”なの含めて。
優れた身体能力を自由に暴れさせるだけでなく、それを取り戻そうと足掻くのも戦いなのだと、初手で示してるのは好き。
いい塩梅にクセの強い連中なので、個別話数が回ってきてその内側に踏み込んできた時、まーた独自の出汁が出てきそうでもあるが。
ワチャワチャ個性的な連中が顔つき合わせ、何かが起きそうな期待感がしっかり元気なのは、やっぱ物言わぬ小父内さんに思わず視線が集まってしまう、パルクールという身体表現の魅力を力強く、スタイリッシュに描けていたからだと思う。
なんで彼女が普通の道を歩かないのか、説明はこの第一話一切ないのだけども、それを聞きたくなる引力がちゃんとあって、出会いのドラマとシンクロしている。
このワクワクする感じは、青春という季節を舞台にするお話に絶対必要なもので、大事な勝ち筋だ。
小父内さんを追いかけて、トラウマ飛び越え高く飛べたかなたは、今度は小父内さんにチアの魅力を、伝え感染させる必要がある。
それはこのアニメがパルクールのアニメではなく、チアのアニメであるのだと、見ている僕らに納得させるドラマにもなるはずだ。
ここを明瞭に描き切り、作品がメインテーマに選んだ表現のどこに強みがあるのか、説得力をこめて削り出せるかどうかが、この魅力的な一話に続く物語の勘所だと思う。
ここら辺、自立歩行も難しい状況で不屈の闘志を燃やし、もう一度チアやるために血反吐はいてる恵深の存在が、良い仕事してくれそうな予感。
”ヴァイオレット・エヴァーガーデン”以来のリハビリアニメ…か?
2×3の六人が、制服と校風の違う学校の垣根を越えて、一つのチームになっていくグルーヴ感も、また物語を面白くしてくれそうでいい。
ここらへんは学校という箱、部活というフレームを自分たちの居場所に見定め、ガチガチの体育会やってる競技チアとの対比を、描くキャンバスにもなりそうだ。
主役たちが選んだフリーダムなチアが本物の正義で、部活でやってるチアは偽物で悪…っていう書き方になっちゃうと割と味わい最悪なので、競技ガチってる人たちなりの矜持とか良さ、強さをしっかり照らしつつ、主役が選んだチアの良さを際立たせていくような語り口を期待したい。
普通のアニメならテザービジュアルのみか、勝負どころのバロックな演出だけで使われそうな、独特の色彩。
これが世界を埋め尽くし常時動きまくるアニメーション体験は、なかなかに鮮烈で良かった。
自然豊かな群馬を舞台に、このスタイリッシュな描線が爽やかに暴れることで、妙な異化作用が生まれて不思議な感覚で楽しめたのは、舞台選択と表現手段の妙味か。
色彩鮮やかで透明度の高いデザインが、笑顔で汗を弾けさせるチアの魅力を下支えしてくれそうでもあり、今後本格的に話がチアっていく中で、その強みを加速してくれると嬉しい。
わたせせいぞうの絵が萌えナイズされて、延々動いてるみたいな不思議な気持ちよさだったな…
かなたが内面に抱えた鬱屈を、一度も表に出すことないまま小父内さんに出会い、彼女に引っ張られて実際飛んでようやく『飛べた…』と告げる。
大好きだったものを真っ直ぐ見れない辛さと、それでも諦めきれない執着を表に出さない気質が感じれたし、そこにある種のプライドがあるのだと分かって、結構主役を好きになれる話運びであった。
ここら辺身体表現を青春に選んだ少女らしい手応えでもあって、ガーガー頭で考えるよりも身体前に出して、飛んで跳ねることで突破していくフィジカル主義を感じたな。
チアのアニメなんで、それでいいと思う。
このフィジカル主義、実際に作画しまくることになるので、コストかかる作風だわな。
足を止めてグダグダ理屈をこねるより、まず肉体一つが生み出す自由な風を、視聴者に見せて届ける。
チアという身体表現を主題にするのに相応しい創作姿勢を、大変いい作画と色彩で堪能させてくれる、元気な第1話でした。
このフィジカルな空気がなぜ”チア”でなければいけないのか、説得していくのはこっから先ですが…まーいい感じにやってくれるんじゃねぇのッ! という信頼感を、ちゃんと手渡してくれる第1話でもあった。
個性豊かな六人が運命的に出会い、高く高く翔ぶ瞬間を見届けたことで何が生まれていくのか。
今後の物語にも、とても期待が高まります。
次回も楽しみ!