乞巧節に響く悲しき叫びを、月下に聞き届ける幼子の横顔。
星のきらめく七夕祭りを舞台に、長かった2クールの一区切りとなる、綺麗でエモーショナルなわんぷり第23話である。
わんぷりチーム全員が遠い何かと近い何かを見つめて、静かに願いをかける美しい話で、とても良かったです。
予告からは悟くんのロマンティックを軸にグイグイ行くと思わされたが、それだけではないわんぷりらしい横幅で攻めてきた今回。
今まで聞けなかった遠い声を聞き、気づかなかった願いに出会い、少し戸惑いながらもワクワクと未来を探しに行くこむぎの姿も、その隣でずーっと妹に寄り添いはなしをきいてあげているいろはちゃんも、モンスターカプ厨の資質を全開にして皆と祭りを楽しむまゆちゃんも、スワンガルガルに優しく手を差し伸べられるようになったユキも、2クール分の変化を宿して、大変良かった。
悟くんの恋心をかなりダイレクトに、甘酸っぱく描いてきたのは嬉しい不意打ちだったが、残り半分を残した物語、『ここは今後グツグツ煮込むぞ!』というポイントを指し示してきた感じもあり、期待がとても高まる。
いろはちゃんが結構パッションの人なので、チームの参謀兼まとめ役として日々頑張ってくれてる悟くんの株は上がる一方で、その恋も心底応援したくなるスーパーピュアラブであった。
プリキュアごとに恋を扱うのか、触れるとしたらどのくらい踏み込むのかは違うが、このタイミングでこう描いてきたということは、わんぷりは結構恋物語を真ん中に据えてくる話と、考えて良いのだろう。
思えばいろはちゃんは初期から完成度の高い人格しているので、あらゆる存在の声を聞き届ける博愛とは、少し違う個人的な感情を向けられ、自分の中に鮮やかな恋色があるのかないのか、探る中で人間的成長を描く……てのは、結構良い手筋かも知れない。
相手を慮り思いを胸に秘める、悟くんの甘酸っぱい沈黙。
その奥にある思いを”聴く”というのは、傾聴のプリキュアであるフレンディがたどり着くべきゴールとして、かなり納得できるものだなと、今回見てて思った。
あるいは近いけど届かない、言葉にならない思いを胸の奥から引っ張り出し、ちゃんと届く形に変えて何かを大きく変えていく尊さを描くことで、コミュニケーションのプリキュアとしてお話全体を深く掘り下げていく形か。
夏祭りの燈火に照らされる美しい横顔を、ただ見るだけで幸せ……と、自分に言い聞かせる純情の切なさ。
大福兄貴も思わずヤレヤレ顔な、シャイボーイの素敵な恋が今後どう転がっていくのか、大変楽しみになる折り返しだった。
同じいろはという星に照らされるにしても、こむぎの横顔は恋とはまた違った色を見せる。
冒頭、夢現に失われたものの暗い叫びを聴くこむぎに、徹底的に優しく寄り添ういろはちゃんの”姉力”には、思わず圧倒されてしまった。
同じイヌ科の共鳴か、眩しく輝く鏡石から遠い場所で族滅の恨みを吠える大口真神の叫びを、こむぎはどうしても忘れられない。
周りの人達に手を引かれ、とても楽しい場所に赴きつつも、人間や世界の暗くて悲しい影……幼いからと遠ざけられていた世界の一面に向き合う姿勢には、幼子の普遍的な成長がしっかり滲んでいた。
こむぎはいろはとの触れ合い、それが生み出す緊密な幸せに満たされた、幸福なバブルの中に暮らしている。
しかし人の言葉と姿を得て、幸せな日々にすくすくと心身が育つと、二人きりのバブルでは収まらなくなってくる。
自分を守ってくれた柔らかな殻の外へ出て、お友達が誰もいなくなってしまう淋しい結末が世界にはあって、自分に引き寄せてそれをどう感じるか、ちゃんと考える局面も、もはや幼いだけではないこむぎにはやってくるのだ。
そういう難しい場所へ踏み出す手助けを、なかなか言葉にならない自分の今を、必死に絞り出そうと悶える隣に、ずーっといろはちゃんが膝を曲げて座ってくれているのが、ありがたく美しく素晴らしかった。
時折犬飼いろはは”姉”の概念存在になるので、その度頭を垂れおろがんでいる。(プリキュア信仰告白)
とにかく全身を大好きと仲良しで満たし、日々幸せに過ごすこむぎの幼気は、わんぷりという作品の方向性を定める、とても大事な輝きだ。
それを失うことなく(いろはちゃん達の手助けで、失わさせないよう努力しつつ)、こむぎは昨日までは考えなかった難しさに出会い、それを自分なりに咀嚼していく。
そこにあった幸せが無くなってしまうこと、誰かの幸せを人間が壊してしまえること。
幼子が安心して眠れるバブルを壊しかねない真実が、確かにそこにある事実へと物語は踏み込んできていて、しかしそんな影を見据えることは怖いばっかりじゃないよと、星瞬く七夕にこの物語は告げてくる。
隣りにいる人たちが優しく教え、手を握って一緒に考えてくれるなら、暗い影の中これからどこへ行くか、ちゃんと見つけられる。
沢山のお願いが叶い沢山の幸せを手に入れたこむぎが、自分だけのお願いを探す(それを街の人が大事に拾い上げてくれる)今回のエピソードは、こむぎの成長を通じてモニターの向こうにいる、もう一人のこむぎ達へ凄く靭やかなメッセージを発しているように、僕は感じた。
人であり犬でもある、犬飼こむぎという不思議な存在を主役に据えることで、わんぷりは初の姉妹プリキュア、児童プリキュアを作品のど真ん中で描くことに挑戦し、成功しているように思う。
見た目通りな年の子どもだったら、ド直球に描くのはちょっと難しさもある、人格という粘土が柔らかく捏ね上げられて、自分らしさを学び捕まえていく年頃の精神。
メイン視聴者層のそれにダイレクトに近い、真っ直ぐで力強い幸せと数多の学びを、幼いこむぎの小さくて大きな大冒険は、日々描いている。
今回いろはという優しい太陽に照らされて、確かに闇の果てに聞いた亡失の苦しみは、敬愛する”姉”がその特徴としている『聴く』という強さが、こむぎにも芽生えつつあることを語る。
姉妹とは血縁ではなく、敬愛と慈愛で魂の奥底を深く結び合わせた時生まれる、温かな共鳴なのだと、家族だけど同じ種族ではなく、でも不思議な力で人と獣の垣根を乗り越えたいろはとこむぎの在り方は、しっかり教えてくれる。
いろはのことが大好きで、その善さをずーっと真似っ子していることで、自分の好きを大声で叫ぶ純粋さだけでなく、他人の苦しみを分かってあげられる落ち着きと賢さが、こむぎの傍に近づいてきている手応えがあった。
この、同じ屋根の下にずーっと一緒に済んでいるから……心からの大好きで毎日寝ても覚めても繋がっているからこその、静かで温かな影響と変化も、同じ苗字を背負う姉妹を主役に据えたわんぷりだからこそ、じっくり描ける善さだと思う。
こむぎが聞き届けたニホンオオカミの声は、今はまだ夢か現実か定かではない、あやふやな領域にある。
キラリンアニマルを取り戻す度が一つの決着を見て、話の舵取りが変わっていくだろう今後、だんだんガルガル発生の裏側が描かれ、こむぎが聞いた吠え声が幻ではないのだと、顕にもなってくるだろう。
その時、今回光が届かない暗くて淋しい場所を見つめ、確かに一人きり怖くて苦しかった自分の思い出に照らし合わせて、ただ怖がるのではなくそこにある共鳴に耳を澄ました体験が、こむぎを新しい場所へと進める助けになると思う。
そういう、純粋無垢にいた幼子が自分の善さを変質させぬまま、あらたな自分へと”変身”出来るまでの冒険を描くのは、プリキュアの凄く大事なミッションだろう。
見知らぬ影に出逢ったこむぎの当惑や微かな恐れ、それに手を添えてもらってちゃんと向き合い自分なりの足場を固める様子が、今回凄く暖かく描かれていたのは、そういうものに挑む一歩目として、大変力強かった。
人間が他の生命を皆殺しにしてしまえる、極めて危うい身勝手を制御しきれない愚かしさを持っているという歴史的事実に、目を背けず向き合っていく姿勢も示してくれてたしね。
というわけで、折り返しの総まとめに相応しい穏やかさと、これまで積み上げここから進んでいく世界の見取り図を描く的確さが同居する、きわめてわんぷりらしい回でした。
満天の星空を反射し、超絶エモい絵を準備するドデカサイズの湖が唐突に現れるところとか、プリキュアのロマンティシズム全開で最高だったな……。
ニャミーの身軽さを生かした空中戦が、リリアンを信頼しきった”保護”への準備でしかなく、今のユキは拳を固く握りしめ敵を殴りつけるのではなく、正気を奪われた苦しみに手を添えることが出来るようになったのだと、描いてくれたのも素晴らしい。
こむぎとはまた別の形で、ユキもまゆと二人きり自分を守ってきた幼いバブルから抜けてきて、知らなかったことをだんだん自分に近づけれるよう、育ってきてるんだなぁ……。
縁遠い存在に理解を示す時、自分の中にある共通点をしっかり見つめて、そこを足がかりにちょっとずつ進んでいくのが大事だと、こむぎとユキそれぞれの変化を描くことで、多角的に削り出せてる印象だ。
ここら辺複数主人公だからこその立体感で、わんぷりの強みだなーって感じ。
家族が人間になった程度では全く動揺しない、猫屋敷すみれの人間力もたっぷり見せて貰い、キラリンアニマル救済ミッションを無事完遂したプリキュアチーム。
次回は謎の力を秘めた卵が登場し、話の風向きが変わるっぽいですが……さてはてどうなることやら。
次回も大変楽しみです!
・追記 『こむぎが語りかける時は、自分の言葉でいい。ワォ〜〜〜〜〜ンでいい』というメッセージを、前回既に描いているのもまー強い。
わんぷり追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2024年7月7日
ここまで犬飼いろはという卓越した”姉”に手を引かれてきたこむぎが、”吠える”という犬の本性にあるがまま『語りかけるプリキュア』という夢を見つけたの、フレンディが『聴くプリキュア』なのと合わせて、凄く良い。
聴くこと、語りかけること。
両方あってコミュニケーションだ。
なかなか言葉が見つからないこむぎの幼さに、常に膝曲げて隣り合ってるいろはであるが、相手が語りかけてくれるのをただ待つのではなく、自分の思いを外に出し気持ちの呼び水にして、対話を加速させる姿勢も、例えばまゆとの交流の中で既に見せてる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2024年7月7日
聴くことと語りかけることを犬飼姉妹で分け合う…
方向に物語は進んでいるが、しかしコミュニケーションの二側面は分断されているわけではなく、不可分に繋がって成立している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2024年7月7日
それがいろはあってのこむぎ、こむぎあってのいろはと、仲良しと大好きを接着剤に幸せを形作っている日常の描かれ方としっかり重なってるのが、テーマに体温を宿してて好き
幸せな夢が既に叶っている、満ち足りたバブルから少し身を乗り出す成長の足場に、”姉”がずっと自分の言葉を聞いてくれたから、吠えることに怯えない気持ちが育っている関係を置くのも、とても好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2024年7月7日
少し背が高い存在は、小さいやつの小さな声を、ちゃんと聞いてやれ。
優しくなってやれ。
いろはがこむぎを全身で愛してくれている満ち足りた描写が、ふたり劇中の関係で留まらず、画面の外側の人間のあるべき形へと、押し付けがましくなく伸びているところが、めっちゃ”プリキュア”で好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2024年7月7日
聞いてやれる余裕を作っていくことが、どんだけ豊かなものを作るか。
眼の前で見せられている。