イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

真夜中ぱんチ:第11話『【ご報告】失踪しました』感想ツイートまとめ

 表舞台に立とうとしても、過去の痛みが長く尾を引く。
 硬く厳しい世間の風が、あるがままの私を縛り傷つける。
 それって、人間だけの特権か?
 真夜中ぱんチ 第11話である。

 いやー…心地よい急展開にスコンクカマされて、大変気持ちよく最終回を待てるエピソードだった。
 真咲が心に抱えたグチャグチャは結構深刻なので、まー一話使って解決してくんだろうな…と胡座かいてたら、思い返せば最初から伏せられていたりぶの過去がドバンとぶちかましてきて、一ヶ月の猶予が蒸発し、闇の追手がシリアスな現実を突きつけてくる急展開。
 自分の傷だけにメソメソ言ってる場合じゃねぇ状況に、主役を投げ込むいい流れだ。

 

 状況がここまで加熱してみると、頼れる配信業ベテランだった真咲が思いの外脆い若造で、おちゃらけた顔しつつ人生の暗い側面山盛り食わされてきたヴァンパイアどもが、腹くくった大人に見えてくる。
 ”見えてくる”というか、ずっとそうだったものが表に出てきて、自分が見落としていたものを思い知らされる。
 しかしそれは唐突な不意打ちではなく、今までの物語にジワジワ滲まされてきたただの事実であって、そういう重たいものを忘れたいから皆真夜中に騒いで、気楽な人間のフリして、嘘っぱちに溺れながら必死に生き延びてきた。
 洒落にならないヤバさを、どうにか笑い飛ばして、生きるに値する夜を探してきた。

 揺れる世間に踊らされて、温泉宿でガタガタ自意識震わせている真咲のモラトリアム。
 それはここまでマヨぱんを引っ張ってきた生真面目人間が、人生の課題を突きつけられた向き合うご褒美タイムでもある。
 ここをどっしり時間を使って、”自分”ってやつを穏やかに見つけていくルートは、りぶが背負った(そして明るい笑顔の奥に隠した)吸血鬼の重たい宿命に、思い切り押しつぶされてしまう。
 まだまだ一ヶ月余裕があって、課題を乗り越えて自分が表舞台に立てば戻ってくるはずの日常は、ひどく脆くてすぐに壊れる。
 吸血鬼たちが長い人生の中、思い知ってたそういう事実を、真咲は改めて、そして初めて突きつけられる。

 

 ずっとマヨぱんのために縁の下の力持ちやってくれてた真咲が、辛い現実から一旦逃げ出し、だからこそ手に入れた強さでもう一度立ち上がる流れ自体は、予測もできたし期待もしてた。
 そういう時間があの子に必要なのは描かれてたことだし、それを許してあげる優しさがボンクラ吸血鬼共にあってくれたほうが、彼らをもっと好きになれる。
 しかし温泉のお湯と一緒に、そういう当たり前の優しさに浸ってられる余裕が時に、外側から殴りつけられぶっ壊れる事があるのは、例えば苺子が吸血鬼に”させられた”過去を見ても明らかだ。
 運命は嵐のように唐突に、残酷に、ずっと続きなんとかなるはずだったものを壊す。
 人生は洒落にならないほどシリアスなのだ。

 この残酷さは、なんだかんだまだ二十代な真咲には受け入れがたく、失踪と追跡と楽しかった日々の終わりが急に襲いかかってくる状況で、彼女はパニクる。
 配信業はド素人、なんも出来ねぇボンクラだったはずの吸血鬼たちは、自分たちの大事なものが理不尽にぶっ壊される状況を前にして腹を固め、幾度目かだろう決死の防衛戦に挑む。
 太陽の下で笑いあえて、同じ時を過ごして、昨日と同じ明日がまたやってきて。
 そういう人間が”当たり前”と信じるものが、なんも当然じゃない事実の当事者だからこそ、吸血鬼は人外の異能を宿し、厳しい夜のルールに縛られ生きている。
 それは永遠なんかじゃないからこそ、大事にしたい夢なのだ。

 

 人間が当たり前に食べる日々の糧が、吸血鬼にとっては人間らしさを演じるための嘘であり、同時に晩杯莊の家族にとっては、お気楽楽しい自分たちでいるための大事な楔だった事は、既に描かれている。
 温泉街で一人黄昏れ、洒落にならない急転直下から遠ざけられ、安全に”失踪”出来る真咲の自由は、りぶにはない。
 20年前の別れを思い出してしまったら、一緒にはいられない苦しみを一人抱えて、静かに消えていく自由をマザーは許してくれず、真咲が昔なじみに叩きつけた洒落になるパンチとは違う、人が死ぬガチな暴力で追いすがってくる。
 心が深く傷ついたら抱きしめてくれる故郷も、家族も吸血鬼にはない。

 動画を通じて社会と繋がり、ただこの刹那楽しいだけで終わらない手応えをマイノリティに手渡せる、橋渡し役としての人間。
 ここまで真咲は弱い吸血鬼に足りないものを手渡す立場にあったわけだが、今回迷って愚痴って逃げ出す子どもな側面を描かれると、強い吸血鬼に先導される弱い人間の顔を濃くしていく。
 それもまた真咲の真実なんだから、ちゃんと削り出さなきゃいけない要素なので、前半ちゃんと描いたのはとても良かった。
 ここで真咲を必要なだけうろたえさせ、情けないな素顔を暴くために、マジな状況でマジな対応ができるゆきを前回、マヨぱんに加入させたのかなーと思ったりもする。
 なんだかんだ、委員長役は大事だ。

 

 りぶに正しく指摘された通り、真咲が自分の中の真実から逃げて温泉でモラトリアムしている間に、状況はリアルでシリアスな方向へ舵を切る。
 吸血鬼にとってはいつものことで、人間にとっては唐突な一大事は、実は子どもな部分を多く残していた真咲が不在な間に、実は大人だった…大人にならざるを得ない辛さを背負った上で、必死にアホに興じていた吸血鬼たちが、出来る限りの総てを振り絞り、対応していく。
 りぶという要を欠き、マザーの定めた重たいルールが迫る中で、「慌てず騒がず、出来ることをやり抜く」という大人の対応を、ボンクラだったはずの連中は自然と、必死にやり抜いていく。
 真咲と違って、理不尽に慣れているのだ。

 このシリアスな有能さは、もちろんマヨぱんやる中で真咲に支えられ手に入れたものでもあるんだが、ボンクラがずっと忘れていたかった、吸血鬼の本分なんだろうなとも思う。
 ちょっと反抗すれば腕が吹っ飛ぶ、暴力が支配する面白くもなんともねぇヴァンパイア社会で、ヘラヘラ笑って”人間らしく”生きようとした、少数派の中の少数派。
 晩杯莊のアホどもも、追手と戦いヒロインを探すいかにもな現代伝奇なんてやりたくなくて、でも目の前にそういう”吸血鬼の当たり前”が迫ってきたら、地金を出して大人の対応をするしかない。
 そこでマジになれないやつは、殺される以外に道がないのが吸血鬼社会だからだ。

 理不尽を前に泣きじゃくり、揺れる心のまま逃げ続けるガキが、ガキのまんまでいられない場所で、りぶ達は生きてきた。
 マヨぱんの騒々しい日々はそんな現実から逃げられるモラトリアムであり、いつか醒める夢だったのだろう。
 りぶちゃんが愛の思い出を取り戻し、もう一度眠りにつくことで、真咲との目を開けてみる夢を終わらせようとするのが、吸血鬼らしいネジレでとても良いなと思う。
 真夜中に起きて、人間を演じて、嘘っぱちの中の本当を愛して、ずっとそんな時間が続けばいいと、吸血鬼は願った。
 それは叶わない。
 現実は冷たい手触りで追いついてきて、それでも逃げたくないから戦うバカが、最後の動画で勝負をかける。

 

 愛との因縁がまだ公開されていないので、りぶちゃんがなんで長い眠りに逃避したくなったのか…それで何を守りたいかは、現状見えない。
 でもあの子が真咲を本気で愛した様子を見てると、相当に激しく強く哀しいものが、あの廃病院には眠ってるんだろうなと解る。
 りぶちゃんがビシッと”大人”してくれたから、温泉街に逃避してちったぁ答えの欠片を掴めた真咲が、その愛に応えて永いモラトリアムに沈もうとしてる吸血鬼を、世間のハグレモノだろうが笑って過ごせる夢に取り戻してくれたら、最高のクライマックスだなとも思う。
 急展開に揉まれて、りぶちゃんを求める自分の中の真実が、モリッと飛び出してきたのは良かったな…。

 真咲は自分の性根とままならぬ世間に傷つけられ、素直になり方を忘れちまったガキだ。
 溢れる愛を極めて素直に、力強く突きつけてくれるりぶちゃんに甘えて、恥ずかしがって跳ね除けて、それが決定的な別れになってしまうシリアスさを、なかなか飲み込めない。
 ここら辺、はりシス時代に思い知っていたはずなのにもう一回叩きつけちゃうあたり、反省のないガキだなぁ…って感じではあるが、そういうガキが本当に大事にしなきゃいけないものを学び取り、愛のために何もかも振り捨てて突っ走るまでの物語でもある。
 そして真咲は、ただのアホなガキじゃない。
 彼女が支え導いた、おバカな吸血鬼と同じように。

 

 吸血鬼たちが遂に追いつかれてしまった人生のシリアスさを、黙って噛み締め自分なり出来ることで向き合う、シコシコ地道な生真面目さ。
 自分の中の優しさと熱さに真っ直ぐ向き合えず、ヒネた態度で誤魔化しつつも、苺子の涙に背中を押され、闇の王相手に腹ニンニクで吶喊ぶっこむ熱量。
 せっかく手に入れたい場所を、ずっと一緒にいてくれるという誓いを、家の外側からぶっ壊されようとするこの時に、ワーワーパニクってるだけのガキで終わらない逞しさは、既に示されている。
 その両方が真咲で、そういう自分を全部認められるように為るまでのお話で、そのためにはやっぱり、りぶちゃんが戻ってきてくれないと困る。

 情けなく弱い自分を認められる地盤は、誰かの愛で固めるしかない。
 それが目の前に、自分の中に確かにあるのだと確かめることで、喚き逃げるだけのガキは”大人”になっていく。
 りぶちゃんは真咲の言葉に殴りつけられて、自分が傷つけ奪うことしか出来ないガキ…邪悪な吸血鬼であることを思い出してしまったんだと思う。
 そこで大事な人から離れ、逃げて閉じようとしても、理不尽な運命と紡いだ縁は、勝手に追いかけてくる。
 温泉モラトリアムを唐突にぶち破られた真咲は、子の後自分が走るべき道を、弱い逃亡者の側…実は傷ついて脆かったりぶちゃんの立場で、一足先に走ったのだろう。

 その経験が多分、真咲を強くて優しいやつにする。
 他人のことを本人より良く解って、時に厳しく叱り、道を正して手を差し伸べられる”大人”にしていく。
 りぶちゃんが真咲にしてくれたことを、改めて手渡し返せるだろう。
 俺はそれを見届けたい。
 そうしてもう一度出逢った恋人たちが、太陽の下で輝けない怪物でも楽しく生きていけるよう変わった世界で、自分たちらしく戦っていく未来を、ちゃんと見たい。
 そういう気持ちで迎える最終回は、やっぱここまでの話全部があってこそ成り立つモンであり。
 ”真夜中ぱんチ”…マジ良いアニメだと思う。

 

 マヨぱんのボンクラどもが自分たちで企画を立て、追手の襲撃というシリアスな現実を、配信可能なバトル・エンタテインメントに”編集”しようとしてるのが、俺は凄い好きだ。
 笑えねぇ現実をどうにか切り貼り繋ぎ合わせて、流通可能な楽しさへと変えていく逞しさは、編集担当の真咲がずっと背負っていたものだ。
 人間社会へのアダプテーションは、異形である吸血鬼には難しいことだったけど、ボケカス共は真咲がシコシコ”編集”する姿を見て、洒落にならない現実をどうにか、楽しい時間に変えていく器用さを手に入れた。
 そういう工夫と努力があれば、夜の獣だって昼の側と繋がれるかもしれない希望が、クライマックスに眩しい。

 吸血鬼本来の姿でウケを取る路線は、序盤早々にNG出されて封じられた禁じ手であり、同時にそれが世間を震わせる大きなポテンシャルを持っていることも、既に示されている。
 ”編集”されたシリアスなバトルは、同時に否応なく戦うしかない現代伝奇生命体の素顔を照らしてもいて、あるがままの自分たちを世間に問いただしながら、他人を楽しませる可能性へと、吸血鬼は繋がっていける…かもしれない。
 最終決戦の舞台が出会いの廃病院であること含め、振り出しに戻ることでフィナーレへ突き進んでいく足取りが濃く、”行きて帰りし物語”の王道を堂々突っ走る、作品独自の生真面目さが最後の最後まで燃えている感じだ。

 

 吸血鬼物語につきものの悲哀を、軽妙に笑い飛ばしつつ視界の端っこ、キッチリ捉えて進んできたお話が、最後の最後にしっかり”真ん中”にピントを合わせてくるエピソードでした。
 マザーが体現する、いかにも吸血鬼風なシリアスさに追いすがれ殴りつけられながら、ここまで必死こいて守ってきた優しい嘘を、どうにか貫いて笑える結末に辿り着こうとするバカ共必死の戦いが、この話らしくて眩しかった。
 生きるためには戦うしかない定めを、望まず背負わされる吸血鬼達を家族に、ガキっぽい悩みに贅沢に浸ってきた主人公が、この輝きを浴びどう化けるのか。
 それが吸血鬼と人間の本質を問い続けてきた、このお話のフィナーレです。

 吸血鬼たちが抱えた(そして必死に隠そうとあがいた)洒落になんなさを、結局真咲が解りきれない所が、他人との間にある超えられない壁に真摯な態度で、かなり好きです。
 そういう断絶は、確かにある。
 それを認めた上で、なんぼのもんじゃいと飛び越えられるのが愛であり、それを胸のエンジンに燃やして元気に飛び跳ねてくれてたりぶちゃんは、自分の一番大事なものを眠らせようとしている。
 それで良くねーから真咲は温泉から戻ってきて、降って湧いたシリアスにパニクりつつ、自分の一番深い場所に何があるか、全力で掴み取ろうとしている。
 やっぱ愛だよ、愛。
 この話がずっと描いてきたモノが、最後に鮮明になる運びで良い。

 

 

画像は”真夜中ぱんチ”第11話より引用

 今回はクライマックスを前に真咲がいろんなモノに取り囲まれ、それを見つめる回だ。
 人間が当たり前に、希望の象徴のように身を浸してしまう夜明けは吸血鬼にとっては致死の毒で、そこに逃げ込まれてしまっては手が届かない。
 周りが見えてないガキは温泉に逃げ込んで、まったり己を癒す中で、トゲトゲ自分を傷つけると思い込んでいたものの素顔を見つめて、握手までしてしまう。
 黒い呪いとして画面から立ち上がる文字列と数字が、顔を持って対話可能な存在なんだと、なんとなく理解する。
 ここら辺のリアルへの接触と変化は、フェスとかさくらちゃんの書き方と通じる描き方だね。

 まだ確たる答えを得られないまま、しかしジワジワ仲間が許してくれたモラトリアムの中で何かを得て、降って湧いた一大事に真咲は家へと帰る。
 吸血鬼を焼く夕焼けの中ではパニックでしかなかったものが、トンネルに入って擬似的な夜が訪れた時少し落ち着いて、車窓に自分を反射する内省の色を帯びるのが、吸血鬼とともにある人間のスケッチとして良い。
 真咲が自分を見つけられるのは、やっぱり暗い真夜中なのだ。

 

 そこは光なく暗いだけではなく、配信戦の武器となるモニターが眩しく光り、実はシリアスだった愛と闘争の現実を照らしている。
 自分もそこにいるのだと、真咲は別れの手紙を握りつぶして、己の居場所を再認識する。

 まだりぶちゃんと真咲の、配信集団・真夜中ぱんチの答えは出ない。
 しかしそれが芽吹くための種まきはしっかり終わっていて、あとは愛が花を咲かせるのを見届けるだけだ。

 ずーっとりぶちゃんからの熱烈一方通行LOVEだったものに、真咲が素直に為る強さを手に入れてガッチリ双方向で繋がる瞬間、マジで楽しみなんだよな…。
 アイツが素の自分を真顔で受け止められない、ヒネてるけど根はマジ良いやつなガキだって描写は山盛りあるので、1クール通してのの成長を描くキャンバスは、やっぱ愛に素直になる勇気一択でしょうよ。
 そのための下準備、しっかりしてくれて最高でした。

 

 

 

 

 

画像は”真夜中ぱんチ”第11話より引用

 思い出した痛みのあまり、りぶちゃんが逃げたくなった20年前の愛だって、奇跡のように花の形を残していて、腐っても終わってもいない。
 忘れようとした愛を20年越し、蘇らせる吸血鬼的な夜の奇跡を、果たして散々迷って間違え続けた弱っちい主人公は、果たして掴めるのか。
 死と愛と再生が最後の課題になるの、メチャクチャ吸血鬼の文脈を踏まえたクライマックスで、フザケているようでいてありえんほど生真面目なこのアニメが、ずっと紡いできたものに欠片の嘘もない、素晴らしい最終回になると思います。

 次回も、めちゃくちゃ楽しみです。
 良いアニメだ、”真夜中ぱんチ”。