イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

【推しの子】:第21話『カイホウ』感想

 開放、解法、快方、介抱。
 様々な読み方が出来るサブタイトルで始まる、アニメ【推しの子】二期新章である。

 執念の捜査が実りたどり着いた、アイ殺害の真実に至る糸口。
 復讐の奈落に堕ちる辛さに溺れかけていたアクアにとって、追うべき相手がすでに死んでいるという結論はあまりに魅力的で、母から引き継いだ執念の星が瞳から消えていく。
 この休息が打ち破られるべき”嘘”でしかない気配は、画面の端々から漂っているが、それにしたって2.5次元舞台編でも濃厚に、アクアが生きる辛さは描かれてきたわけで、母という呪いを下ろしたアクアの柔らかな表情は、かなちゃんじゃなくとも良いと感じる。

 そもそもアイとの親子関係にしたって、生前の推しであり出産を助ける医師であり、成人として未成年者を助けるポジションから、良いタイミングで死んで【推しの子】になったという、極めて捻れた背景もあるしな……。
 何も出来ない赤ん坊が母に愛されて生きる力を得ていくという、スタンダードな親子関係からズレたところから始まり、スキャンダルの爆弾を抱えて多重の嘘で守りながら続けてきた平穏も、ストーカー殺人という形で最悪に終わった。
 アイとの絆を示す瞳の星は、多重に捻れたその関係から逃れられない呪縛でもあり、それが瞳に宿る限りアイの子ども達は絆を失わず、自由に自分の足で進んでいくことも出来ない。
 いざ母の背中を追わなくて良くなって、初めてアクアはアイから開放され、自由になりたい自分を見つけたのだろう。

 

 その不安定な魂がどこいくかは、今後展開される高千穂PV地獄変で見えてくるだろうけど、並走するルビィちゃんとB小町の成り上がり大作戦は、大変可愛くおバカであった。
 やっぱMEMちょお姉さんに世知辛いツッコミを受けつつ、小娘二人がワーワーギャーギャー無邪気にやってる姿は、大変健康にいい。
 2・5次元舞台編がクリエーターの意地と仕事の辛さ、若手役者のバチバチな競り合いをシリアスに描き続ける、結構息苦しい作りだったので、B小町が醸し出すアットホームでチャーミングな空気は、大変ありがたかった。

 まぁその合間に、闘病生活のトラウマを今も引きずるルビィ=さりなの影、母から引き継いだ星の瞳の輝きも、ガッツリ描かれるわけだが。
 復讐鬼として設定されたアクアが闇の中のかすかな光を追い、遂に息苦しいレールから開放される流れに乗ったところで、一見全身くまなく光の存在、骨の髄までノンキで平和に見えるルビィちゃんが、ずっと背負っている影が色濃く描かれたのは良かった。

 アイが生み出す影を全部、アクアが背負ってくれているからこそ進める、光に満ちた道。
 前世からのドルオタ根性を全開にして、アイドル街道突っ走ってるルビィだが、兄と同じ陰りを否応なく、母の死骸から浴びている。
 兄が復讐の暗い道から降りるのと裏腹に、天真爛漫元気少女の奥に秘められていた闇が、運命の地・宮崎で炸裂しそうな気配もムンムンあるが……さてどうなるか。
 間違いなく三期確定なスーパーヒットコンテンツを、どう次に繋いで終わらせるかも含めて、なかなか続きが楽しみである。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第21話より引用

 本気で良いものを作ろうと頑張ってる連中の、汗と涙を身近に感じて手を貸してしまえるアクアにとって、芸能界を踏み台に使って復讐を果たす生き方は、かなり辛かったんだと思う。
 自分が復讐の道具に貶める舞台には、色んな人の人生が深く食い込んでいて、それでもアイの真実にたどり着くための糸口は、そこにしかない。
 姫川さんが差し出した『すでに両親は死に、復讐するべき相手はいない』という真実は、そんな罪悪感から彼を開放してくれる、安楽な解決策だ。
 ずっと欲しかったものだからこそ、しがみついて浮かび上がる。
 ……あるいはそれは救いに見えて罠で、光に近づいているように見えて影に沈んでいるだけなのかもしれないが。

 稽古中……というか舞台が始まってからもずっと、むっつり本音を見せきらずプロの仕事を果たしてきた姫川さんが、降って湧いた異母弟を前に初めて笑うのも、彼が背負ってきた荷物を感じさせ面白い。
 かなちゃんやあかねちゃんやメルトくんが、役者根性を燃え上がらせ人生賭けて挑んできた熱さから、姫川さんは無縁のまま千秋楽まで駆け抜けた。
 そういうスタイルでも”東京ブレイド”と取っ組み合えてしまう才能と経験で、自分を守ってきた男がようやく、顔を上げて素顔で笑える救いが、アクアが差し出した鑑定結果にはある。
 急に兄貴よ弟よと、汗臭く呼び合うわけじゃないけども、奇妙な共鳴が確かにある家族再会の場面は、大変良かった。

 

 母への執着、あるいは母から受け継いだ特別なきらめきを象徴化する、アクアの瞳の中の星。
 それはアクア自身の執念がたどり着かせた”答え”と、復讐に突き進む中生まれてしまった縁に解きほぐされて、朝日の中に消えていく。
 かなちゃんがダイレクトに通話でギャンギャン言って、あかねちゃんがアプリ越しアクアの邪魔しないようにメッセージ送ってるのが、Wヒロインの個性出てて面白いけども。

 アクアは他人の苦労や痛みがちゃんと見えてしまう人で、だからこそ差し出した手を色んな人と繋いで、その縁を手繰って今回の”答え”までたどり着けた。
 自分が誰に支えられてここまでこれたのか、薄暗い顔で何もかも利用するエゴイストのフリをしながら、ちゃんと分かっている。
 だからかなちゃんとあかねちゃんの言葉を受け取った後に、光の方へ一歩踏み出して星を壊したんだと思う。
 本当はずっと、そうしたかったのだろう。
 ここら辺感情演技を巡る地獄絵図を通じて、アイへの愛に呪われている苦痛を描いておいたのが、良く聞いてる感じあるね。

 

 

 

画像は”【推しの子】”第21話より引用

 というわけで物語の力点は双子の片割れに移り、MEMちょ姐さんの配信者成り上がり講座などを受けつつ、太陽少女の暗い影が掘り下げられていく。
 ひっっさびさにB小町の最高かわいい顔が見れて、今回は本当に素晴らしかったけども、コメディ描写が冴えるほどルビィちゃんの抱えた闇が濃くなって、「あ、アクアの妹アイの娘だねやっぱ……」という気持ちも強くなる。
 望めるならずーっと三人でキャッキャ楽しいアイドル生活続けて欲しいけども、どす黒い復讐譚であり芸能界の闇を追うスキャンダルでもあるこのお話、光のターンはなかなか続いてくれない。
 同時に重たい荷物を下ろしているときのイキイキした可愛げが、影に飲み込まれず幸せになって欲しいと、キャラへの愛着を太くする助けにもなってんだけど。
 ここら辺のメリハリは、やっぱ巧いし強い作品だ。

 騒々しくも楽しいルームツアーの”陽”に対して、誰にも明かせないルビィの自室に満ちた”陰”は濃い。
 同時に壁中に貼られたアイの偶像は、病床で自分を支えてくれた憧れの眩しさと、母として間近に愛を受け取った輝きに満ちている。
 時に混じり合い、時に跳ね除け合う光と影。
 ”東京ブレイド”においてはかなちゃんとあかねちゃん、それぞれの演技スタイルで描かれていた対立と相補が、ここではルビィちゃんが身にまとった明るい外装と、その奥にある暗い輝きとして削り出されている。

 

 このシーンにおいて、少女は主に鏡の中で喋る。
 そこには転生前、奇妙に家族が映らない闘病生活での苦しみと微かな救いが写っていて、高校生になったルビィが未だ、ベットに縛り付けられた幼子のままであることを示唆している。
 転生前既に”大人”だったアクア=ゴローに対し、自由に動く身体も母の愛情もステージでの輝きも、望むものを何も得れないまま病魔に殺されたさりな=ルビィは、精神年齢が幼い。
 「子どもである私を、大人は守ってほしい。傷つけないで欲しい」という願いは、アクアが同年代の”子ども”と交際し、ともすれば性交渉を持つ可能性が見えた時に見せた、強い嫌悪感にも滲んでいる。

 ゴローせんせとモニターの中のアイ以外、だれも助けてくれなかった苦しい時間から、転生を果たしてなお、ルビィは幼年期の檻から出れていない。
 アイから受け取った無上の愛、その悲惨な死が母と二人で満たされていた時代に、未だ彼女を閉じ込めてもいる。
 この複雑な距離感を内側に閉じ込めて、無垢で無邪気なアイドル候補生を演じている”嘘”も、ルビィという少女の”本当”である……てのが、なかなかに複雑なキャラ造形である。
 アクアやかなちゃんとはまた別の形で、親との関係に失敗した、普通のやり方では大人になりきれない子どもとして描かれてて、つくづくアダルトチルドレンを巡る物語なんだなーって感じ。

 

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第21話より引用

 MEMちょ先生の指導の元、B小町はバズ街道を邁進するべく新作MVに取り掛かり、星と重荷を下ろした”普通”な瞳で、アクアもその旅に隣り合う。
 むっつり身勝手な妄想を燃え上がらせるかなちゃんも、ミヤコお母さん相手にはワガママクソガキになるルビィちゃんも大変かわいいが、燃え尽き症候群に陥った大御所をやる気にさせ、万全の体制で挑むMV撮影にはやけに暗い影が伸びる。
 いやまぁ、お兄ちゃんがようやっと復讐から解き放たれて、他人の頑張りを心から応援できる素のアクアとして幸せを掴めそうなタイミングだからこそ、デカい一発狙ってるっていうサスペンスの定石は、良く分かるんだが……。
 舞台裏から板の上まで、余す所なくトラブルづくしだった”東京ブレイド”が幕を閉じ、一息ついたタイミングだからこそ、大きめの爆弾を仕込む。
 こういう緩急とタイミングが巧くないと、サスペンスは引っ張れないよね……。

 ルビィちゃんのビデオメッセージが大御所を焚き付け、ゴミ片付けて制作に向き合うシーケンスは、【推しの子】アニメらしいアバンギャルドな表現を活かしつつ、母から受け継いだ瞳の星が人をどう感動させ前に進めるか、上手く描いていた。
 ここでルビィの星が奇跡を起こす様子は、復讐から開放されてそれを失ったアクアの未来が、輝きに欠けた凡庸さに埋もれていく可能性を照らしていて、上手い対比だと感じる。
 クリエーター讃歌の側面を強く持つ2.5次元舞台編を引き継いで、心の奥底から湧き上がる感動が何かを生み出し、それがまた誰かに届いて新たな想像に繋がっていく様子には、特別な表現がしっかり選ばれている。

 

 呪いのように魂を縛り、逃げられない苦痛に苛まれながら突き進んでいく、何かに心を動かされ何かを生み出す道。
 どれだけ現実が世知辛く救いもない事実で満たされていても、そこにかすかな輝きを……愛といえる嘘を作り出していく、クリエーターの努力と才能。
 それが連鎖して人を繋げていく様子も含めて、一見生臭く悲観的な現実を飲み干しているように見えるこの作品は、創造性への祈りを話しの真ん中に据え、それだけは裏切らず話を進めているように思う。

 無論それを貫く厳しさやら、クリエイティビティに呪われた人たちの悪戦苦闘やら、譲れぬこだわりがあればこそ生まれる正面衝突なんかも、しっかり掘り下げてはいるのだが。
 「その根本において人間は夢/嘘を必要とするし、それを与えられる特別な星に見初められたものは、自分の内側から発する輝きを通じて誰かと繋がっていける」という、極めてポジティブな祈りが根本にあって、人が死んだり騙されたりする”現実的”な話をやっていると感じる。
 このリアリズムとロマンティシズムの同居……というより、創造性幻想の優越を上手いバランスで描けているからこそ、独自の魅力が出てる作品なのかなぁと思ったりもする。

 

 

 というわけで長かった復讐譚の一休み、お兄ちゃんにカメラ寄せてた二期がルビィちゃん主役に切り替わるまでの、合間のお話でした。
 母との絆の象徴、他人を魅了する特別な輝き、諦めることを許されない呪いの結晶。
 極めて重要な象徴として扱われた瞳の中の星の意味を、一旦アクアから奪うことで鮮明に描き直す回で、大変良かったです。

 その輝きで大御所を動かし、手に入れたオリジナルの新曲。
 ここにどんな創造性乗っけてB小町をバズらせていくか……という、華やかなサクセスストーリーの奥底で、暗く流れる前世の因縁。
 そろそろ幕引きが見えてきた、【推しの子】二期。
 どう終わらせどう継いでいくかの手際も含め、次回も大変楽しみです。