イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

天穂のサクナヒメ:第13話『天穂のサクナヒメ』感想ツイートまとめ

 地を揺らし呪いを振りまく悪神を討つべく、武神と豊穣神の裔が征く。
 一本丸々最終決戦、万感の天穂のサクナヒメ最終回である。

 原作のエッセンスを見事に乗りこなし、描くべきものを的確に描き続けた安定感ある話運びは最終回でも健在で、祭りに見送られての旅立ちから危険な旅路、邪悪なる神威との激闘と父母との再会、帰り来て豊かに実る稲穂と、最後に見たいもの、全部見れた。
 父母を死に奪われたことで荒れてたサクナが、数奇な旅を経て手に入れたもの全部を使うことで生死の境を越え、父母と直接言葉をかわし、二人がいなくても生きていける自分を確かめ現世に戻っていくフィナーレが、やるべきこと全部やってて良かった。

 

 この満足感とスピード感でしっかり終わらせきるためには、サクナを早めに超物わかりの良いご立派人間にまとめて、ダメダメな村人のメンタルケアとか、農作業と防人業務の兼務とか、カミとして大人としての成長とか、色々やってく造りにもするわなぁ…と、描かれたものを見届けて強く納得した。
 最後まで我が強く帰属意識が弱かったきんたとの、W悪童体制だったら絶対こんな爽やかな読後感になっていなかったと思うので、主役を村の厄介事全てその身に背負うスーパーご立派人にしたのは、大変良かったなぁと思う。
 普段死ぬほど頑張っているからこそ、時折襲い来る耐え難い辛さに泣きわめく姿は心に響いた。

 最初はワガママと無能を人間の形に煮詰めたようなダメダメっぷりだった村人でも、いい感じの個別エピソードを経て絆で繋がり、そういう苦境を支えてくれた。
 それでもなお、カミとヒトの間にどうしても生まれてしまう溝をガッチリ埋めるべく、対等なライバルにして親友たるココロワの存在感が後半大きく、時折ネッチョリ湿っていたのも大満足。
 原作よりかなりフォーカスされているらしいけども、関係性の描写という意味でも、主人公を多角的に描き支える意味でも、凄く良い仕事を果たしてくれたと思います。

 あと爺が戻ってきたので、最高の最終回でした。
 ご都合主義と呼わば呼べ、父母の方は帰ってこんからなー…。

 

 お話の方は一話まるまる最終決戦、壮行会めいた爽やかさの宿る旅立ちから険しい旅路、羽衣も武具もすべての力を出し切る最終決戦に、腹に残ったかつての因縁が絶望の第二形態を打ち払う決着と、見たいもの全部見せてくれる造りで大満足。
 オオミズチの腹に残った星魂剣の切っ先が決め手になる展開は、ヤマタノオロチの尾を切ったスサノオの十拳剣、その切っ先が都牟刈に当たって欠けた逸話を面白く変奏しており、ゲームメディアに蘇ったスサノオの裔であるサクナの神話を完結させるのに、とても良いエピソードだったと思います。
 欠けていた爺の身体を取り戻すことで、奇跡の復活を自分的に飲み込める手がかりにもなってくれたし。

 羽衣を生かした3次元アクションを頑張ってくれていたのも、このアニメの良いところでしたが、最終回は村人との絆もフル回転、出せるもの全部出し尽くしての全力全開という手応えがあり、凄く見応えがありました。
 人間同士のドラマの熱量、農耕描写のどっしりした手応えと合わせて、バトルの迫力は作品の大きな魅力だったので、オオミズチという強敵を前に出せる技全部出しきって決着するよう、殺陣をしっかり組み立ててくれたのはありがたかったです。
 戦闘前口上が武を司るものとして、一人前の大人として、極めて流麗で適切だったのも、サクナの成長を感じ取れてよかったな。
 やっぱ古代の戦士は、詩が上手いと嬉しい。

 

 

 

画像は”天穂のサクナヒメ”第13話より引用

 そして見てくれよ、最後の最後のスーパーサクココ祭りッ!
 武力、知力、人間力
 あまりにもご立派なおひいさまにしっかり並び立てる、対等な親友として戦場に付き従い、英雄を惑わす精神攻撃ではネッチョリ湿った甘さで狂わしてくる。
 全てが終わった大団円、その最初に出会い抱きつく相手ももちろんココロワで、頭から尻尾まで関係性ギッシリ、大変満足度の高い最終話でした。
 …父母が蘇る幻より、ココロワの胸に甘える方が”刺さる”の、サクナからの感情のデカさを最後に確認できて大変良かったです。

 

 この物語は凄く古典的な、死によって父母を奪われた幼子が艱難辛苦に負けず成長を果たし、自立した大人になったればこそ失われたものを取り戻すという構造で、背骨を支えていると思います。
 追放された島で土に手を汚し、人と交わり、武具を手にとって戦う中で、サクナは父母が何を果たしてきたかを身を持って知り、その生き様に近づいていく。
 それはヒトがカミになりえ、ヒトあってこそカミが成り立つ、日本古来の関係性を強く投射されたものでもありました。

 貴人が口にするべきではない泥だらけの握り飯を、勇壮な決意とともに腹に収め、戦う力に変えていく。
 その逞しさに、泣きじゃくる子どもの影はもはやなかった。
 しかしサクナが父母の思い出を投げ捨て、今回の最終決戦に立ったかといえばそれは真逆で、天界で泣きじゃくっていた頃…子どもである自分に溺れていた時には見えなかった父母の真実を、島の暮らし、新しく家族になっていく他人との関わりの中で掴み取ればこそ、サクナは大悪神に立ち向かえる装備を整え、武芸を鍛えられた。

 

 石丸を巡る顛末を通じ、許す心を自分のものにしたからこそ、父母の仇であるオオミズチにも私的な憎しみではなく、守護神であり住人でもある己の公的な責務として、決死の戦いに挑むことが出来た。
 私心と公責が交わる、やるべきでありやり遂げたい自分最後の課題として、最後の障害を超えていける強さ。
 それをサクナが掴み取った事実を、しっかり刻み込む最終決戦で、大変良かったです。

 理不尽な死が襲いかかり、何もかもを奪われるしかない世の摂理。
 石丸が飲み込まれ同化してしまった下向きの重力を、父母が残した切っ先がオオミズチの腹を裂き、そこに閉じ込められていた魂を開放しあるべき場所へ戻す形で、待ち望んでいた再会を果たせた決着は、見事に跳ね除けている。
 自分たちを殺す怪物に立ち向かうためには、自分たちも怪物になるしかないという乱世のニヒリズムを、主人公の戦い、ここまでの物語全部が、ちゃんと否定した形で昇華したのは、凄く収まりが良い決着でした。
 親超えの物語としても、ベストなラストだったなー。

 なんの役にも立たぬ穀潰しと思われていたかいまるが、最後の最後冥界と現世の境界を越え、サクナを導く仕事を担当したのも、個人的に納得のある収め方で良かった。
 ヒトならざるもののの声を聞くシャーマンだからこそ、ヒトの声をなかなか聞けない異質な巫を、共同体の中幼子として養護できていたことが、最後の最後に効いてくるのは良い。
 OPEDぶち抜きのエンドロールと合わせて、描いてきたもの全部をやりきっての最終回という感じで、大満足でありました。
 やっぱ終わり切るお話は良いな、本当に。

 

 というわけで天穂のサクナヒメアニメ全13話、無事完走いたしました。
 大変面白かったです、ありがとう。

 傑作との噂だけ聞いてて実物を知らなかった作品と、アニメを縁にして出会えたのがまずありがたいことなんですが、自分みたいな初心のモノにも作品の善さがしっかり伝わるよう、物語の形を整えてくれたのだなぁと見ていて分かる仕上がりが、非常に嬉しかったです。
 キャラの背負った属性を考えれば、もうちょいだらしなくてもおかしくないサクナに、ダメ人間集う共同体の要として早めに背筋を伸ばさせ、農業にバトルに獅子奮迅の大奮戦。
 早い段階でメチャクチャ尊敬できる主役にしてくれて、とても見やすかった。

 キャラの個別エピも本筋も、奇はてらわずあくまでまっすぐ王道、しかし定型に怠けるでなく作品独自の手触りを、毎回しっかり彫り込んでくれて大変良かったです。
 追放された貴種が苦境に真実の己を見出していく物語としても、食って働いて生きる”今”に邁進することで失われた過去を取り戻していくお話としても、記紀神話や中世霊異譚をポップに変奏などしつつ、どっしりした骨のある物語で大変良かったです。
 …いや、唐突にUFO出てきてビックリさせられたりもしたけど、強い美術に下支えされた土の匂いのする物語は、噛めば噛むほど味が出てきて、本当に素晴らしかった。

 

 バトルと農業という二本柱の両方を、アニメでどう表現するか心を配ってくれた結果、村での日常と宿命の戦い、静と動の両輪がお互いを補い合うような作りになっていて、心地よいリズムが生まれていました。
 石丸の話をどっしりやることで、戦いの虚しさとそこに宿る意味をちゃんと掘り下げ、舞台となってる末世の厳しさに、エグみを出しすぎず向き合い、自分たちらしい…そして文化的背景に選んだ日本古来の価値観に沿った結論を絞り出せていたのも、とても良かった。
 あそこで八百万の御霊宿る神道的世界観と、許しによって負の螺旋から抜け出していく仏教的価値観が重なり合って、真実日本的な精神風土が削り出されてました。

 過大なワンオペ氏神稼業に必死で向き合い、異郷で他人と家族になる日々を通じて、奪われていた父母の思い出、自分自身の尊い魂を取り戻していくサクナの旅は、彼女が健気で懸命だからこそ応援したくなり、見ごたえもありました。
 ここに対等なカミとして並び立つココロワの存在感を、色んな角度から後半ググッと増してくれたおかげで、主人公が物語の全部を背負わず、むしろ抱えきれない何かを物語に預けて取り戻していく、双方向の成長物語になっていたかなぁと感じます。
 やっぱヒトとカミの間には越えられない一線があって、だからこそ保たれる尊さもあって、それを守ったままサクナ個人の物語を語りきるのに、ココロワは大事だったね。

 

 ”飯”という極めて身近な題材を話しの真ん中に据えることで、カミとヒトの関係だとか、無常なる末世での救済とか、結構分かりにくいはずのものが食べやすくなっていたのも、ポップなエンタメで精神文化を扱う中、見事な手つきだったと思います。
 スサノオの末裔というにはあんまりにも人が良すぎる、荒ぶらぬサクナが主役だったからこそ、色々デコボコした問題を抱えた村の連中、その外側で暮らす隣人の心にも深く分け入って、稲穂のごとくすくすくと絆が育まれる物語が、スタンダードだからこその力強さで伸びていった。
 やっぱこのベタ足の強さを、最後までやりきったの本当に偉かったと思います。

 父母を理不尽に奪われ、本来の自分を見失っていた子どもが、蛮地で一人厄介事に向き合う中で、未だ残る繋がりを確かめ、誰かを守る力を付け、果たすべき責務を己の問題と引き受ける。
 ”大人”になる。
 そういう極めてベーシックな物語に、真正面から向き合い書ききってくれた堂々の話運び、大変心地よく、楽しかったです。
 そういう話を描く時生まれそうな予定調和のわざとらしさもなく、サクナたちを包む世界をときに美しく、ときに無慈悲に描いてくれて、毎週見応え満載でした。

 

 とても面白い物語、ありがとうございました。
 お疲れ様、ありがとう!
 面白かったです!!